話の進まない赤頭巾ちゃん
「ねえ、どうしておばあちゃまの耳はそんなに大きいの?」
「それはね、お前の声をよく聞く為だよ」
「じゃあ生まれた時から大きかったわけじゃないの?」
「ああ、そうだよ。お前が生まれたから大きくなったんだよ」
「何をしたら耳が大きくなるの?」
「何もしないよ」
「何もしないのに大きくなったの?」
「お前の声を聞きたい聞きたいと願い続けていたら、耳が大きくなったんだよ」
「願うだけで大きくなったの?」
「そうだよ」
「他の要因はないの?」
「ないよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「特別なことは何もなかったんだよ。お前が生まれたこと以外はね」
「じゃあお母さんは? お母さんの耳はどうして大きくならないの?」
「お母さんは願わなかったんだよ」
「なんで?」
「その必要がなかったからさ」
「私の声が聞きたくなかったの?」
「そうじゃないんだよ。お母さんはお家でいつも一緒にいるから、耳が小さくてもよく聞こえるんだよ」
「おばあちゃまは遠くに離れているから、声が聞こえなかったの?」
「そうだよ。お前の声を聞きたいと思っても、遠くて聞こえないんだよ」
「じゃあ、耳が大きくなったら聞こえるようになったの? 私が森の向こうのお家でお話してることも、全部聞こえてるの?」
「そこまでは聞こえないんだよ」
「大きくても、やっぱり聞こえないの?」
「やっぱり聞こえないんだよ」
「じゃあ、意味がなかったの?」
「意味がなかったんだよ」
「ふーん」
「そろそろ目にいってもいいかい」
「待っておばあちゃま、おばあちゃまの願いは、私の声が聞きたい、なんでしょ? 耳を大きくして欲しいなんて願ってないんでしょ?」
「そうだねえ」
「なのに、耳は大きくなったけど、私の声はやっぱり聞こえなかった。そうよね?」
「そういうことだねえ」
「それじゃ、話が違うじゃない。私、文句言ってくる」
「待つんだよ、お前、誰に文句を言う気だい」
「誰って、願いをかなえた妖精か何かよ」
「そんなもの、どこにいるかもわからないよ。おやめよ。済んだことは仕方ないさ」
「泣き寝入りしちゃダメよ。今からでも遅くないわ。地獄耳を手に入れるのよ」
「赤頭巾や」
「なあに?」
「お前、話を引き伸ばそうとしてないかい」
「ところでおばあちゃん、耳が大きくなっちゃった、という一発芸をする芸人、何て名前だったかしら」
「マギー伸司だね」
「そうだったわね。彼は今何をしているのかしら」
「ところで赤頭巾や、おばあちゃんの目は大きいだろう?」
「待っておばあちゃま。司郎のほうも見ないのよね」
「マギー一派の話はどうでもいいんだよ」
「でも」
「あたしの目が大きいのはね、」
「あら、おばあちゃまの目はそんなに大きくないわ」
「よく見るんだよ、赤頭巾や。こんなに大きな目をした人間はいないよ」
「いいえ普通よ普通。最近は珍しくないわ。都会へ行けばきっとたくさんいるわよ」
「うそおっしゃい。とても人間の目じゃないよ」
「いるわよ。いるいる。気にすることないわ。それに、目が大きい方が魅力的よ」
「こんなに大きいのはお前をよく見るためなんだよ」
「聞いてないってば。それはありがたいけど、そんなことよりマギーの話をしましょう」
「あとほら、鼻も尖っているだろう」
「近い近い近い」
「そして口が」
「あ、こんな時間。私帰るから。楽しかったわ。じゃあね」
「あ、これ待つんだよ赤頭巾や」
バタン
「助けてください! 誰か! あ、猟師さん、ちょうど良かった! 撃っちゃって、早く! ねえ早く!」
「赤頭巾ちゃんじゃないか。落ち着きなさい。ずいぶん慌てて家から飛び出して。どうしたんだい」
「オオカミよ! おばあちゃまの家にオオカミが……あ、ほら出てきた! 早く撃って!」
「あ、これはどうも奥さん。お久しぶりです」
「はぁ!? ちょっとよく見てよ、人間の振りしたオオカミよ!」
「あらあら、すみませんねえ、お騒がせして。何か孫が寝ぼけたみたいで」
「いやいや、このくらいの年の子にはよくあることですから」
「ちょっと! どこが人間なのよ、あんたの目、節穴なんじゃないの!?」
「こら、自分のおばあちゃんに何てこと言うんだ」
「すみませんねえ、口の悪い子で」
「なっ……あんた、あの大きな耳が見えないの?」
「大きな耳? ああ確かにちょっと大きいかな。奥さん、どうかしましたか」
「あらいやだ。猟師さん、これは、この子の声をよく聞く為ですのよ」
「ああなるほど。そらぁそうでしょうなあ」
「はぁ? なんで納得すんのよ。あの目は? 鼻は? あれが人間だってんなら動物園は廃業だわ」
「ばか言っちゃいかん。あの目はお前を良く見る為に決まってるだろう。鼻だってお前の匂いが嗅ぎたいからさ、ねえ奥さん」
「あらよくおわかりで。その通りですのよ」
「……え? 何言ってるの?」
「おじさん、何かおかしなことでも言ったかい、赤頭巾ちゃん」
「そうだよ、赤頭巾や。猟師さんは何も変なことを言ってないよ」
「……あれ? そういえば深い帽子で顔が隠れてるからわからなかったけど……」
「どうかしたかね?」
「猟師さん……その耳……鼻も……口も……なんで……そんなに大きい……の……?」
「ああ……これかい? これはね……」