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羅針盤なき航路Ⅱ ―戦火の証言者たち―

作者:智有 英土
 昭和十六年十二月、真珠湾攻撃。日本は歓喜に包まれ、新聞は「連戦連勝」と躍り、街は祝祭のような熱気に覆われた。だが霞が関の一室では、若き研究員たちが冷徹な数字を睨んでいた。石油、輸送船、港湾荷役。油田を奪っても運ぶ船が沈めば戦力は立ち枯れる――彼らの海図には、補給線の空白が広がっていた。

 公式発表は「順調」と書き立てるが、現場の数字は沈黙の悲鳴を上げていた。輸送船は行方不明、港には油が滞り、庶民の暮らしには配給の減少と物価の上昇が忍び込む。それでも街は幻影に酔い、精神論に傾いていった。

 やがて訪れたミッドウェー、ガダルカナル。敗北は覆えず、「一億玉砕」の言葉が空気を支配した。新聞は玉砕を「栄誉」と讃えるが、机上の数字は全滅を記していた。

 昭和二十年三月十日、東京大空襲。街は一夜にして炎の海と化し、数十万が犠牲となった。人々はようやく「勝利の戦」ではなく「死に耐える戦」であることを知る。八月、広島・長崎に原子爆弾。さらにソ連参戦。もはや幻影は一片も残らなかった。

 そして八月十五日、玉音放送。人々は「堪え難きを堪え…」の言葉に耳を傾け、敗北の現実を悟った。

 戦後、東京裁判で「悪役」は決まり、日本は新秩序へと組み込まれた。だが研究員たちの手元には、開戦前からの「敗北必至のシナリオ」と、不都合な真実の記録が残っていた。止められなかった悔恨と共に、彼らは信じる。――この記録こそ未来の羅針盤になる、と。

 本作は、幻影と沈黙の中で「真実を見てしまった者たち」の物語である。
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