失踪者
会話内に出てくる過労死した職員は「水音」の主人公
「ねぇ、聞いた?職員が1人行方不明になっているらしい。」
「へー」
病院のアシスタント業は業務の割に給与が低く募集をかけても中々人が集まらない。
最近1人過労死したがその補填もまだだ。
「何時から?」
私は15:30に更衣室で10秒チャージな軽食中をしているところに話しかけて来たのだが同僚はアルツハイマー患者から大便を投げつけられて着替え中だった、私の昼食がカレーでなくて良かった。
「1週間前くらいからかな?風呂場で溺死した患者のフォローした翌日から無断欠勤して居るみたい。」
「「「風呂場で溺死。」」」
その場にいた数名が食い付いた。
風呂場での心肺停止で救急搬送される話は珍しい話ではない、1週間前なら患者に心当たりがあった。
別の患者対応をしていたので関わらなかったがその場にいたから…となるとあの時訴える様な目で此方を見ていた職員が居なくなったのか。
ずずずずず…
貴重な軽食タイムが終わる。
「そんなに問題ある患者には見えなかったけど。」
「見た目はね。」
着替えを終えた同僚は眉を寄せている。
患者は中年男性で湯船に足だけ天に向けた状態で沈んでいた、犬◯家スタイルと言えば伝わるだろうか。
妻が発見して救急搬送となったようだ。
救急車の中で何があったか分からないがERに到着した時には心肺停止で大量のアドレナリンを運んだりや心臓マッサージに同僚が加わっていたようだ。
心臓マッサージを行う際の『兎と亀』の歌声は確かに聞いた気がする。
「結果死亡退院だったんだよね。」
「そう。」
同僚の見ている方向を目で追う。
それは誰かのロッカーのようだった。
ロッカーの下辺りが水で濡れている。
「死亡退院処理で口腔内清掃したら大量の髪の毛がでてきたのよ。気管塞ぐ程の量じゃないんだけどね。」
「風呂の水に含まれていたんじゃん。」
髪の毛云々は治療に影響しないならうちらは関係ない、でも感染症にちょっと影響するかな?
「家族にない長さだったらしい。」
死亡退院した男の家族は皆髪の毛が短いそうだ。
何故だろう先ほどから同僚が見ている閉じられた誰かのロッカーの中から水が溢れでているのは気の所為じゃない。
そういえば居なくなった職員はこのあたりで何時も着替えていたことを思い出した…
誰かの髪の毛が水と一緒にロッカーからでてきている。
「総務課!合鍵使って貰う。」
慌てて、同じフロアにある総務課に飛び込みロッカーから水がでている話をすると総務課役職者立ち会いでロッカーを開けることになった。
結論から言うと失踪した職員はいなかった。
何処から湧き出たか分からないが水浸しのロッカーの中に長い髪の毛が出てきた。
私も話をしていた同僚も失踪した職員もショートヘアなので誰の髪の毛かは不明なままで未だに失踪した職員は見つかっていない。
怖かったから栄養科で背中に塩を撒いてもらった。
1週間前のあの日、尻にガラス瓶入れたら直腸内部で瓶が割れたという老人男性(80)の対応に追われていたため心肺停止患者に関われなかった。
もし、参加していたら私もこうなっていたのだろうか…