北の魔女
また一か月くらい空いてしまいました。
まあぼちぼち書いていきますので、暇なときに読んでください。
北の山で金が取れるらしい。
その噂を聞いてひと儲けしようという人びとが、ここ最果ての町ノルンに集まっていた。
しかし、北の山には大きな問題があった。
「北の山には魔女がいて、山の中に入った者を呪うのだ」
ノルンの古老はそう語った。
実際山の中に入ろうとした者があったが、途中で霧に包まれて気が付くとふもとまで戻されてしまっていたという。
そのうえ、ほんの少し迷ったと思っていたら実は何日も経っていたのだ。
「やはり魔女が邪魔しているのだろう」
皆がそう思っていた。
そんなある日、一人の若者がノルンにやってきた。
この山の噂に興味を持ち、それでは自分が山に登ってやろうと思ったのだった。
「北の魔女の話は本当なのか、まずはこの目で確かめないとな」
若者は朝早くに山へ向かって歩いて行った。
山の中に入ると霧が出てきた。
霧は段々と濃くなり、もう鼻先も見えない。
これでは何もできないし、何かが襲ってきても逃げることもできない。
さすがに若者が不安に思いだしたその時、ふと誰かの声が聞こえた気がした。
声の方に歩いていくと、ゆっくりと霧が晴れてゆき、気が付くとそこは家の中だった。
「山の中にいたはずなのに、どうしてこんなところに・・・」
不思議に思っているところで後ろから声をかけられた。
「ねえ、遊んでよ」
あまりに予想外だったので心臓が飛び出るほど驚いた。
そこに女の子が立っていた。
女の子は本を持ってくると、
「ねえ、本を読んで」
とせがんだ。
ひょっとしてこの子が魔女なのだろうかと思い聞いてみたが、女の子は
「魔女ってなあに?」
と言うのだった。
しかしこの女の子からは只者ではない気配を感じる。
そしてここで女の子の言うことを聞かないとどうなるかわからない気がした。
仕方なくという感じで、女の子が望むとおり本を読み聞かせたり人形で遊んだりと世話することになった。
しばらく女の子の遊びにつき合って、どうやらうちとけてきたと思われた時、
「あら、遊んでもらっていたの。よかったわね」
不意に背後から声がした。
驚いて振り向くと、青い髪の女性が立っていた。
「この子と遊んでくれていたのね。ありがとう」
その女性は女の子を抱き上げながらこちらに話しかけてきた。
「さて、最近人間たちが騒がしいのですが何をしているのです?」
「この山で金が取れると思って来ているんだ」
「人間は欲が深いですね。いつまでもうろうろされるのも面倒ですし、そろそろ引っ越した方が良さそうですね」
町の方を更地にしてもいいけど後が大変そうだしね、とつぶやく彼女を見て顔がひきつった。
そんな時、そっと脚に重みがかかった。
見ると女の子がしがみついている。
「まあ、その人が気に入ったのね」
女性はにこやかに
「じゃあ、あなたにこの子をあげますわ」
と言った。
「それではよろしくね」
「おい待て、あげるって・・・」
言い終わる前に彼女は消えてしまった。
それだけでなく山も消えていた。
女の子だけが残っていた。
北の山がなくなったので町は大騒ぎだった。
若者は混乱がひどくなる前に女の子を連れて町を離れた。
「北の魔女がどんなものか見てやろうと思ったら、子供をあげるってどういうことだよ」
若者が女の子を見るとニコニコと笑っていた。
それを見ているとなんだか気持ちが軽くなった。
「まあいいか。さてどうするかな」
魔法使いなら育て方がわかるだろうか。
「そういえば南の国に魔女がいると聞いたなあ」
若者はしゃがんで女の子に、
「北の魔女の娘さんよ、南の魔女のところに遊びに行こうか」
と語りかけると、
「うん」
女の子ははじけるような笑顔で答えるのだった。
そして二人は南に向かって歩き始めた。