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あ、『サンタさん』じゃねェの。珍しいね、こんな時期に姿を現すなんて。


アァ?「向こうでは『クリスマス』じゃからのう」って…そのわざとらしいジジイ口調どうにかなんねェの?


ンで、やっぱプレゼント用の仕入れかい?こんな店で手に入るモンを欲しがるガキとか、ぜってぇロクな大人になんねぇだろ。


はいはい、『ペンギンのぬいぐるみ』に、『繝翫ル繧ォのフィギュア(お菓子付き!)』、『びっくり箱』、『Mr.ミスターの楽しい楽しさ』…オイオイ、『文房具』とか正気か?いや、あるけどさァ…


ほら、サービスだ。包装しといたよ。とっとと持って行きな。


…おい、お代はもう貰ったよ。なのにその手に持ってる『プレゼントボックス』はなんだい。アタシは良い子じゃないんだがね。


「噂に聞く話も聞いてみたいのう」?…アンタになに話しゃ良いんだよ…


あーもう、はい、分かった、分かったから。あァそうだよ。ここは三味線堂、ただの雑貨屋さ。ちょいと店主がお喋りなだけのね。




それは昔々に始まった。


それは一人の爺さんだった。


それは生まれたときから爺さんだった。


生まれたときから家を持ち、暖炉の側の安楽椅子に腰掛け、グロギを飲む髭を蓄えた爺さんだった。


何不自由ない生活。穏やかでゆっくりと流れる時間に身を委ねながら、爺さんはたった一つの不満を募らせていた。


暇だ。爺さんは暇だった。暇すぎてどうにかなりそうだった!


世界中のあらゆる娯楽はとうにやり尽くしたし、艱難辛苦も酸いも甘いも生まれる前に味わった。金も時間も余裕もある。だが何かに情熱を傾けるほどの若さは持っていなかった。


漫然と過ぎ去るだけの日々に爺さんは飽いていた。


あくび混じりに一眠り…しようとして突然、その考えが電流のように走った。


誰かに贈り物をしよう!


こりゃあ良い考えだと自分で自分の膝を打った。贈り物を考える手間も贈り届ける手間も最高の暇潰しになる!


最高の暇潰しのためには最高の物を贈りたい。頭を捻って、うんうん唸って、家中の物をひっくり返した。


『葉の枝』も違う、『雪が降る』も違う、『暖炉でぬくぬく暖まる猫』も違う。色んな物を手に取っては仕舞うのを繰り返して、ふとベッドの方を見やると『片っぽの靴下』が掛けられていた。そのときの爺さんが一番大切にしていた物さ。一目見てピンと来た。これを贈ろう。


せっかくこれを贈るのなら、世界一良い子に贈りたい。『トナカイ』に『ソリ』をひかせて、空を駆ける。遠く遠くへシャンシャンと『鈴』を鳴らして行く。世界一良い子の家は、赤い屋根の小さな家だった。


壁を通り抜けても『魔法の鍵』を使っても良いが、変わったやり方のが面白い。もくもくと煙る煙突にズポッと身を通して、家にお邪魔する。煤だらけになった髭をちょちょいと直しながら、子供部屋を探し出し、枕元に『片っぽの靴下』を置く。中から溢れる『金貨』を散らばらないようまとめて、爺さんは家を出た。朝起きて驚き喜ぶ子供の顔を想像しながら。


一仕事終えた爺さんが飲んだ酒は一等美味かった。こりゃ良いもんだ。またやろう。


だが、そう毎日やるもんでもねェとも思った。これはたまの楽しみにするくらいがちょうど良い。やるとしたら…そう、一年に一回くらい。


そうと決めて来年を心待ちにしながら安楽椅子で体を揺らしたその三日後、一通の手紙が爺さんの元に届いた。


「心やさしい方へ

金貨いっぱいの靴下をくださり、ありがとうございます。あなたのおかげで弟と妹をお腹いっぱい食べさせることができました。お礼になるかわかりませんが、弟と妹といっしょに編んだ帽子を贈らせていただきます。喜んでくださればさいわいです。

赤い屋根の家の子供より」


赤い帽子が同封されたその手紙は、何より『心』が籠っていた。


贈って良かった!『心』からそう思った。


来年は別の子に贈ろうと思っていたが、こんな嬉しいこと言われちゃ次贈らないわけにはいかねェ。


でも別の子に贈るプレゼントを考えてみたい気もしたから、贈るのを一人増やすことにした。世界で二番目に良い子さ。


そうして一人増えて、手紙が来て、嬉しくなって、また一人増やして…この子にはこれをあげたい、あの子にはあれをあげたい。贈り物がどんどん増えていく。


その日も次はどの子に何をあげるか頭を悩ませていた日だった。そのときにゃちょいとネタ切れの気配が漂ってたから、気分転換に外へと出て…家の前に立つポストに首を傾げた。贈り物の日の前なのに手紙が来たのさ。はて、と思いつつ手紙を開くと、こんなことが書いてあった。


「サンタさんへ、サッカーボールがほしいです」


爺さんは、そのとき初めて『サンタさん』になった。


すでに全世界の良い子にプレゼントを届けるようになっていた『サンタさん』は、暇潰しに始めたとは思えないほど大忙しだ。364日、子供たちのために贈り物を準備して、『クリスマス』には届けに行く。


休む暇すらねェってのに、最高に楽しい毎日だった。飽いていた頃からは考えられないほど充実した日々を、今も送ってるんだとさ。


めでたし、めでたし。




これで満足かい?そりゃどうも。道楽もほどほどにな。『メリークリスマス』、『サンタさん』。

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