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六章 喧嘩するほど何とかって言うでしょ

朝起きて食事を済ませた後

私は蔵へと向かった




「みんなおはよう」



そう言うと確実おはようございますと

返答をしてきた



私はデスクの椅子に腰を下ろした

久々に卓上の整理でもしようとした時

デスクの上を見て息を呑んだ



「ねぇ…誰…これ割ったの!!」



私は大声を出した

私の目に入ったのは

割れた硝子ペンだ



「この硝子ペン私が大事にしてる物だって

みんな知ってるでしょ!?

誰が割ったの!?」



私は一人一人顔を見て行った

盃と目が合い睨んだ



「俺じゃない!俺は知らないぞ

お前の机には触らないからな

昨日蔵にいたのは…」



盃がそう言い白の方を見た



「白がやったの?」



白は黙ったまま目を逸らした



「うんとかすんとか言いなよ!!」


「空様落ち着いてください

きっと白も悪気があったわけでは…」



水蘭は私の肩を摩り

宥めてきた




「もういい…白の顔なんて見たくない…」



立ち上がり私は割れた硝子ペンを手に

蔵から出て自宅へ戻った

そして自室のドアを乱暴に閉め

割れた硝子ペンをデスクへ置き

布団に潜った



ドアの音を聞いてか夜が部屋へ来たが

返答しなかった




ー蔵ー




夜は蔵へ入ろうとすると

白が出てきて走って何処かへ行ってしまった




「空様何かあったのですか?」


「あぁ。それは…」



盃は苦い顔をし酒を煽った



「主人様の大切な硝子ペンを

どうやら白が壊してしまったらしくて

主人様が珍しく怒ったのです…

きっと主人様はすごくショックを

受けていることでしょう」



お鈴の言葉に夜は目を見開いた



「あの硝子ペンですか?

青と紫色の!?」


「えぇ、そうです」


「それはさすがの空様でも怒りになられます…」


「あの硝子ペン、何方かからの

贈り物なのですか?」



水蘭の問いを聞き

夜は椅子へと腰を下ろした



「あの硝子ペンは

まだ空様が10歳ぐらいの時でしょうか

茂様が遠方に出張なさった際に

買ってこられた物で

空様がずっと大切に使っている物なんです」


「白の奴も素直に謝ればいいのによ…」


「白はきっと空様に

怒られるのが怖かったのでしょう…」


「これは困りましたね…」



夜は頭を抱えた

こんな時に空を慰める方法が

妖達にはわからないのだ





ー自宅ー



私は今だに布団に潜ったままだった

もう随分と時間が経っただろう



「今日はもうこのままいよう…」



私はそう呟いた

枕元にあったスマホを取り

写真のフォルダを開いた

一番上の古いものから

スライドしてみていく



祖父との写真をみて私は涙を流した



私にとっての唯一の肉親の家族

普段は忙しい人で

ずっと一緒にいたわけではないが

思い出も沢山ある


何せ私を育ててくれた人なのだから…





ー15年前ー



空がリビングで絵を描いていた

夜がその姿を見守っている



「ただいま」



ドアが開く音と共に声が聞こえてきた



「茂様がおかえりになられたみたいですね」



空は笑顔で頷いた

茂がリビングへ入ってきたのを見て

空は茂へ駆け寄った



「おじいちゃんおかえりなさい!」


「空、ただいま

いい子にしてたか?」


「うん!」


「夜、空の子守りありがとう」


「茂様おかえりなさいませ。

空様はとてもいい子にしておりましたよ」


「そうか!空!ちゃんとお留守番出来て

偉かったな!

そんな空にお土産買ってきたぞ!」



そう言い茂は

床に腰を落とし

袋から箱を取り出し空に差し出した

空はそれを開け目を輝かせた



「おじいちゃんこれ貰ってもいいの!?」


「もちろん!空の為に買ってきたんだから!

夜にはこれを」


「茂様、私の分までありがとうございます」



茂は夜に硝子玉のついた

ネックレスを渡した



「これはお鈴で盃にはこれを

あと白にはこれを渡しておいてくれ」



お鈴には硝子玉のヘアゴム

盃には硝子のお猪口

白には硝子のピアスだ



「必ず渡しておきます」


「頼んだよ

空、そのペン使って何か書いてみてくれ」


「えぇー使うの勿体無いよ!」


「物は使わないほうが勿体無いんだぞ?」



茂はそう言い空の頭を撫でた




そして年月は流れ

空はこの硝子ペンで書いた

小説で賞を獲ったのだった

空にとって大事な思い出の詰まった

物なのだ




翌日私は部屋から出て

リビングで朝食を取っていた




「空様、あの…」



夜は大丈夫かと聞こうとして

言葉を詰まらせた



「硝子ペンの事?

まぁ物はいつか壊れる物だし

仕方ないよ

それが硝子なら尚更」



私は笑顔を浮かべそう言ったが

夜には強がっているとすぐにわかった




朝食を食べ終わり

リビングでパソコンを開いていると

珍しく盃が縁側から入ってきた




「おはよう」


「おう、おはよう

なぁ空…昨夜白の奴戻って来てねえんだ」


「ただ帰りづらかっただけでしょ?

そのうち帰ってくるよ」



そう軽く言ったが

盃は顰めた顔をしている



「そうだといいんだが…

まだ怒ってるか?」



私はパソコンの手を止め

盃の方を見た



「壊れた事には怒ってない

でも正直に謝らなかった事には

怒ってる」



「私これから酒井と

打ち合わせあるから行くね」



そう言葉を続け

その場を後にした




それから数日経ったが

白はまだ戻って来ていない



前ほど空も蔵へ訪れなくなっていた



空が出かけた隙に

妖達は蔵へ集まった




「白はどこにいるんでしょう」



お鈴は頭を抱えている



「空様が怒るのも無理がないですが

白が戻ってこない事には

仲直りも出来ませんよ」


「あいつが普段行きそうなところ

行ってみたんだがどこにもいなかった」



夜に続き盃まで

頭を抱えた



「白は飛べる妖ですから

どこかの山にでも籠っているのかも

しれませんね」



妖達は揃いも揃ってため息を吐いた



白が戻ってこなくなり

今日で1週間だ



流石に空も心配だった



「心配なら呼び出せばいいじゃないですか?」



あまりに浮かない顔をしている

私に夜はそう言った



「白から謝罪を聞くまでは許す気ないもん」


「頑固なんですから…」



夜はやれやれと頭を振り

買い物へと出て行った



私は肌身離さず持ち歩いている

鞄から手帳を取り出した

中には妖達との契約の札が貼られている


空はあるページに手を添えた



「我の元へと参れ」



すると空の前に桔花と常海が現れた



「お呼びですか!?空様!」



二人は嬉しそうにそう言った



「悪いんだけど

白を探して来てくれない?

見つけても声は掛けなくていい

それと他の妖には内密で」


「承知いたしました!」



そう言い二人は出て行った



夜になり縁側でコーヒーを飲んでいると

桔花と常海が走って来た




「空様!見つけましたよ!」


「お約束通り、声は掛けていません!」


「どこにいた?」



その問いに桔花が答えた



「隣町の工場?なんかダンボールが

沢山あるところです!」


「住所わかる?」


「住所はわからないけど

地図で言うとここです!」



常海はポケットから

地図を出し空へ見せた

赤い丸がつけられているところは

どうやら宅配会社らしい




「二人ともありがとう

ほら、飴あげる」



空が鞄から飴を二つとり差し出すと

二人は大喜びをして蔵へと帰って行った



翌日例の宅配会社へ

一人で様子を見に行こうとした所を

夜に見つかり

家前言い合いをしていた



「たまには一人で出かけたっていいでしょ!」


「もしも何かあったらどうするのですか!

私も一緒に行きます!」


「過保護!私もう25歳なんだけど!?」


「私からしたらまだまだ子供ですね。

どこに行くかぐらい教えてください!」


「どこだっていいでしょ?!」



そんなくだらない言い合いをしていると

「主人様」と後ろから声がした

空が振り向くと

そこにいたのは白だ



「白…」


「白、今までどこにいたのですか?」


「これ…」



そう言い白は私に箱を差し出した

箱を受け取り開けると

中には紫色の硝子ペンが入っていた



「主人様…ごめんなさい。

わざとじゃないんです…

羽根の手入れを蔵でしている時に

羽根がデスクに当たってしまって…」


「そう。これを買う為に宅配の仕事してたの?」


「何故それを?」


「私には何でもお見通しなんだよ」


「やはり私の主人様ですね

契約札を破かれたらどうしようと

不安でした」



白はそう言い涙を流した

私は白を抱きしめた



「そんな事するわけないじゃん…

顔も見たくないなんて言ってごめん

これありがとう。大事に使う」



体を離すと

白は涙を拭いた

私は白に笑いかけこう言った



「おかえりなさい」




後日割れた硝子ペンの硝子を

指輪へと作り直してもらった





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