五章 Yesマンは損をする
自宅で朝食を食べていると
インターホンがなった
「こんな朝早くから誰だろう?」
「私が出てきます
空様はお食事の続きを」
そう言い空は玄関へ向かった
私は朝食を引き続き食べていると
見覚えしかない女が入って来た
「お邪魔するよ、空
食事中に申し訳ないわね」
そう言ったのは霧島咲子だ
私の幼馴染であり
祓い屋の末裔
以前数年ぶりに再会した女だ
「何?こんな朝っぱらから」
「空にお願いがあって来た」
「お願い?」
私は朝食を食べ終わり箸をおいた
「ちょっと空について来て欲しい所があるの」
「どこ?」
「妖協会館」
「妖協会館って確か…」
「祓い屋が会合をする会館よ」
「そんなところに何で私が?」
「貴方、金崎一派を知ってるわよね?」
「あぁ金崎って言ったら
有名な腕のある祓い屋でしょ?」
名前だけは聞いたことがある
金崎一派は祓い屋の中でも有名な一派で
金崎の本家の人間は
相当腕があると耳にした事がある
「そう、今日の会合に金崎の本家の
息子が来るのよ」
「それと私に何の関係があるわけ?」
「会合に金崎が来ると言う事は
余程手強い妖が出たということ
金崎の一派には絶対に渡せない
お願い空、今回の妖を祓えれば
霧島の名をもっとあげられる。
お願いします。力を貸してください」
咲子はそう言い私に土下座をした
「分かった分かった。
まぁこの前手伝ってもらったし
行くからそういうのやめてよ」
「本当!?ありがとう空!!」
「霧島様、どうぞ」
夜が入って来て
お茶をテーブルへと置いた
「貴方もついて来ていいわよ!」
「私ですか?」
夜の言葉に咲子は頷いた
「ですが妖協会館はとても強い結界が
張られているとお聞きしますので
私は中へは入れないかと」
「貴方ほどのその完璧な人へ化けられる
妖力があれば結界は最も簡単に通れるはずよ
空の用心棒として一緒に来なさい」
夜は私の方を見た
私はそれに頷いて応えた
「それではお供させていただきます」
「その会合何時からなの?」
「14時からよ
外に車を待たしているから、用意して」
「はいはい」
私の言葉を聞き
咲子はクスクスと笑った
そしてお茶を飲んでいる
「何このお茶!!
すごく美味しい!
貴方これどこで買っているの?」
「近くの商店街のお茶屋さんで
購入している物です。
宜しければおひとつ持って行かれますか?」
「いいの!?」
そんな話をしている2人を差し置いて
私は自室へ向かい用意をした
3人で車に乗り
移動している途中
隣に座っていた咲子が話を始めた
「空、会館に着いたら
出来る限り私から離れないでね」
「分かった」
「知ってると思うけど
祓い屋は変わり者が多いから」
「咲子も含めね」
「降ろすわよ?」
「降ろして困るのはあんたでしょ?」
「そうだった…
とりあえず私から離れないで」
「分かった分かった」
そんな会話をしているうちに
会館へと到着した
うちの神社と同じぐらい階段を
登った先に大きな会館がある
階段の途中で咲子が足を止めた
「貴方…夜だったかしら?
やはり貴方相当強い妖力の持ち主なのね」
「どういうこと?」
「結界を通り抜けたからです。
でも居心地のいい物ではないですけどね」
「余程腕のいい祓い屋じゃない限り
貴方が妖だと気づく者はいないから
安心しなさい。
それにもしもの時は私がなんとかするわ
今回は私が連れて来たのだから」
「それは心強いです」
「まぁ私がどうにかする前に
貴方の主人がどうにかすると思うけど」
咲子は私を見て笑い
「さぁ行くわよ」と言って
足を進めた
会館の中はとても綺麗だ
勝手に和風なんだろうと思っていたら
意外と洋館のような建物だ
会合の会場に向かい
廊下を歩いていると
中年の男が咲子へ話しかけた
「おぉ霧島じゃないか」
「お久しぶりです、大神さん」
「何だ今日はお仲間も一緒か?」
「えぇ、腕のある者なので
甘く見ないように」
「君たち名は?」
「望月です」
「犬飼と申します」
「私は大神だ
以後お見知り置きを」
大神という男は
頭を下げ会場とは別方向に歩いて行った
「咲子の知り合い?」
私は小声で咲子にそう尋ねた
「知り合いというか
霧島家の敵対一家よ」
「祓い屋も平和じゃないんだね〜」
「そりゃそうよ、競争社会ですから」
そうして会場である
広間に入ると思っている以上に
人で溢れていた
「祓い屋ってこんなにいるの?…」
「今回の会合は各地から集められてるからね
普段の会合はここまでいないわ」
「それほど祓いたい妖ってこと?」
「私も詳しい話は知らないのよ」
その時会場が騒がしくなった
1人の男が入って来たのを
騒いでるようだ
「あれがさっき話した
金崎の本家の息子よ」
「見るからに変人」
「つい何年か前に当主になって
チヤホヤされてるのよ
本当腹立たしいわ」
そんな会話をしていると
1人の老夫が話を始めた
きっと祓い屋のお偉いなのだろう
「今日は集まってもらってありがとう
早速だが本題に入らせてもらう
先日依頼で皐月町の
黄泉寺の敷地にある竹林に行ってきた。
その依頼の内容は
黄泉寺の僧侶からの物で
結界を張っている敷地で
連日動物の死骸が相次いで見つかり
ついには僧侶の奥様が竹林に入り
正気を抜かれた姿で戻ってきて
寝込んでいるという物だった
僧侶は妖の仕業だと踏み
私の元へ依頼の手紙を送ってきたそうだ
それでその竹林へ訪れてみたが
妖の姿は見つからなかった
だが僧侶の奥様から微かに
妖気を感じた事から
妖の仕業で間違い無いと思う
そこで僧侶に話を聞いたところ
私がくる前日に
不審な人物が竹林へ入っていくのを
見た者がいると聞いた
そこでもう一度竹林を調べたところ
封印の陣が微かだが残っていた
もしこの中にあの竹林へ行き
妖を封印した者がいれば
今名乗り出てくれ」
その言葉を聞き周りがざわめき始めた
「あんたじゃないでしょうね?」
「私なわけないでしょ!」
「てか何であのおじさん
あんなにその妖に固執してるの?」
「さあ?昔逃した妖とかなんじゃない?」
そんな会話を咲子とコソコソしていると
老夫は声を上げた
「いないという事でいいのだな?
その妖は結界を通れる事から
余程力のある妖だと思われる
力の弱い者の封印では
扱えきれず困るのはお前達だぞ?
今すぐに封印したその妖を
私へ渡せ!!」
老夫は怒ったように
声を張りそう言った
「少しよろしいですか?」
「金崎の坊ちゃん…どうぞ」
「こういうのはどうですか?
ここにいる皆で名乗り出ない祓い屋を
見つけるという宝探しをするのは」
「ですがどうやって」
金崎は老夫の問いにすぐに答えた
「それほどの妖力がある者でしたら
封印壺からまだ多少なり
妖気が溢れているでしょう
その妖気を辿り探せばいいのです」
「この場に封印壺を持ってきていない場合
それでは無理なのでは」
「いえ、持ってきている事でしょう
なんせここは祓い屋が
自分の事を一番自慢出来る場ですから」
そうして彼が言う宝探しが始まった
一度皆広間から出され
見つけた者は広間へ来るよう伝えられた
私達は広間を出て2階の窓辺に
寄りかかった
「あの金崎って男好かないな〜」
「私も大っ嫌い。
てか夜、ごめんなさい
もしかすると
貴方を巻き込んでしまうかもしれない
妖力の金崎なら
貴方が妖だと気づくかも」
「その時はその時です。
それで探すのですか?」
夜の問いに咲子は
私と夜の肩に手を置いた
「探すしかないでしょ!?
見つけたら霧島の名は爆上がりよ!!」
「どう探すの?
あの人の量から本当に探せるわけ?」
「妖気が漏れてると言ったけど
正直普段妖と関わっている者ばかりで
妖気の匂いで選別なんて私には無理だわ
でも空なら可能かも。
貴方ほどの妖力があれば匂いや
感覚で見分けがつけられると思う。
本当空に来てもらってよかった〜」
咲子はそう言って1人で
テンションを上げニコニコしている
「とりあえず会館内を回ってみましょうか」
「そうね、行きましょう」
そうして私達は最上階の
3階から各部屋を周り始めた
3階、2階と周ったが
全く咲子が言っていたような
匂いや感覚の異変はなかった
1階に降り私は咲子にぼやいた
「本当に私ならわかるわけ?
過剰評価してない?」
「悔しいけど空なら分かるはずよ
そんな妖力の強い妖と普段一緒に
いるんだから」
そんな会話をしながら1階の廊下を
歩いている時
私と夜は同時に足を止めた
「どうしたの?」
咲子は不思議そうな顔し
私たちに近づいた
「今すれ違った人」
「えぇ、多分彼で間違いありません」
私達は顔を見合わせ
すれ違った男性を走って追いかけた
男性は階段下にある裏口のドアを開け
座っていた
私は彼に近づいた
「貴方ですね、妖を捕まえたのは」
私の声に体をビクッとさせ
彼は振り返った
「な、何のことです」
「この人に隠しても無駄ですよ?
この人私が知っている人の中で
誰よりも妖力が強いので」
咲子は私を指差しそう言った
「ですから俺じゃ…」
「封印壺お持ちじゃないですか」
「お前いつの間に!?」
夜はいつの間にか
彼の着物の袖にあった封印壺を持っていた
「空様、これ…」
夜の手にある封印壺を見ると
大きくヒビ割れ
壺の中から妖気は感じられなかった
壺の中にはいない
ということは…
「咲子…これヤバいんじゃ…」
「貴方どこに妖を放したの!?」
男は少し沈黙してから口を開いた
「会館に入る前だ…」
「もしかすると
まだこの敷地内に居るってこと?」
「そうなるわね…
空行くわよ!」
その時外から何かが建物を叩くような
音がした
私達は外に出ると
すぐにその妖の姿を目にした
「でっか!!」
思わず私は口から言葉が出てしまった
それぐらい大きな妖だ
うちで言うと白ぐらいの大きさだろうか
「私前にも言ったけど
封印とか出来ないよ!?
何手伝えばいい?」
そう言うと咲子は木の棒で
陣を描き始めた
「私がこの陣におびき寄せるから
空と夜は陣に出来る限りの
妖力をかけて!」
「了解!」
「承知いたしました」
咲子は陣の真ん中に封印壺を置いた
私と夜は膝を付きしゃがみ
陣に手のひらを置いた
そしてお互い陣に妖力を送る
咲子が妖を何とか誘き出し
陣の中に妖が入った
「あとちょっとだから
頑張って妖力を送って
そいつを縛ってて!!」
咲子はそう言い
封印の印を結び何やら呪文を言っている
私には正直ちんぷんかんだ…
そうしてるうちに妖は
封印壺へ吸い込まれ
咲子は蓋に札を張った
「もういいよ、2人ともありがとう」
私は地面にペタンと座り込んだ
「疲れた…」
「大丈夫ですか、空様!」
夜は私の肩に手を回し支えた
「お疲れ様!」
「お見事です」
そう言い拍手をしながら金崎が現れた
「金崎…」
咲子は顔を歪めた
「そちらは霧島さんのお連れですか?」
「えぇ、何か問題でも?」
咲子がそう答えると
金崎は私達の方へ近づいてきた
「とてつもない妖力…
それに妖を手名付けるとは
余程才能がおありで。
どうです、うちの一派に入りませんか?」
夜の事がバレている
咲子が言っていた通り
相当腕のある者なんだろう
「失礼ですが私の友人ですので
勧誘は辞めて頂けますか?」
「これは失礼。
お名前だけお聞きしても?」
「望月空です」
名前を答えると金城は驚いた顔を
一瞬みせた
「あぁ…貴方が…どうりで妖力が強いわけだ…」
「え?」
「いえ、こちらの話です。
またお会いした時にでも
ゆっくりお話でもしましょう」
金城はそう言って会館へ入って行った
私達も広間に向かい
老夫へ封印壺を手渡し
何があったかを話した
老夫は大層喜んでいた
会合が無事に終わり
霧島の車で送ってもらった
家について夕食を食べた後
お風呂にも入らずに私は眠りについた
余程疲れていたのだろう
ー金城邸ー
「お母様、今日面白い者に会えましたよ」
「大雅、本日はお疲れ様。
どんな方に出逢いましたの?」
「お母様が言っていた半妖の子ですよ」
大雅はニヤリと笑った