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四章 懐かしの友人

「原稿しっかりと受け取りました

しばらくはゆっくり過ごしてくださいね

それでは失礼します」



酒井に原稿を渡し

暇になったので久々に裏山へ

行こうと思い

桔花と常海を連れ山を登っていた



上に着くと街を一望できる

私は子供の頃からこの景色が大好きだ



「空様!あれなんですか?」



常海が木を指差してそう言った

その木を見ると木の葉の色が青白く

まばらに変わっていた



「これ…コウキ…コウキいるのか?!」



私は立ち上がり声を上げた



すると風が吹き目の前に

竹笠を冠った男が現れた



「空、久しいな

また大きくなった」

 


「コウキ!いつこっちに戻ったの!?」


「昨晩だ」


「何で会いにきてくれなかったの!」


「数日はここら辺にいる予定だから

そのうち会えるだろうと思ってな」



そうしてみんなで蔵へ戻ると

コウキを知っている妖達は

再会に喜んだ



コウキは各地を旅し

その旅先で木に幸福になる

力を授けて歩く妖だ

普通の人には木の葉の色が

変わっているのは見えないが

その木に触ると幸せな事が起きると

言われている



コウキと初めて出会ったのは

6歳の頃だった

それから数年おきに近くに来ると

私の元へ寄ってくれるようになった

最後に会ったのは16の頃だっただろうか



「コウキ、いい地は見つかったのか?」



盃はコウキに酒を注ぎながら

そう尋ねた



「どこも良い土地だ

でもどこに行ったってこの神社の

敷地が一番居心地がいい」


「そう言ってもらえると

私も嬉しいものです」



お鈴が嬉しそうに微笑んだ



「次はどこら辺に行くの?」


「ここから北の方へ向かう予定だ」


「そう」



コウキは自分の妖力がなくなるまで

旅をするらしい



「今日はここに泊まって行ってよ

この子達も楽しんでるみたいだし」



子供たちはコウキのする話に

興味津々だ

色んな所を旅している分

きっと色んなものを目にしているのだろう

旅の話を楽しそうに聞く

子供達が可愛くて私は微笑んだ



夜、蔵を出て自宅のリビングへ戻った

パソコンで仕事をしていると

夜がコーヒーを持ってきた



「ありがとう」


「嬉しそうですね」


「そりゃ久々にコウキに会えたからね」


「空様の初恋のお相手ですもんね」


「いつの話してんだよ!」



そうコウキは私が初めて

好きになった人…妖か…

幼い頃の初恋の相手だ



子供の頃はコウキを引き止めようと

何度もしたが一度たりとも

コウキは揺らがなかった


ただ2つ約束をしてくれた

近くに来たらここへ寄る事

そして妖力がなくなり旅が出来なくなったら

私と契約をする事


でもきっと私の命が尽きるまで

あの妖力は無くならないだろうから

2つ目の約束は実質なしだ



「人と妖、流れる時間の違いが

たまに寂しくなる」



夜は真っ直ぐな目で私を見た



「きっと他の妖にとっては

ついこの間コウキが来たようなものだけど

人間からしたら9年は長い月日だよ

死ぬまでに後何回コウキに会えるか…」



私はそう言いコーヒーを口にした



「私はだからこそ方時も離れず

空様のお側にいるんです。

確かに少し前まで空様は

文字も書けない幼子でした。

空様と共に過ごせる時間を

少しでも多くしたい

そう思って毎日大事に過ごしています」



私はその言葉に微笑み

パソコンに目を戻した



次の日コウキは近くの山を周ると言うので

着いて行った





一方その頃蔵では



「お前は相変わらず拗ねてんのか?」


「別に拗ねてなんかいません」



盃の問いに答える夜

今この蔵にいるのは

盃、夜、水蘭だ



「そんなんならお前も

着いていけばよかっただろ?」


「久々の再会を邪魔するわけには

いかないじゃないですか…」


「そんなんだから空様に

気づいてもらえないのですよ?」


「気づいてもらうも私は妖ですから…」


「そんな事関係ないだろ!

今も昔も妖と一緒になって

子を成した奴なんかいっぱいいるぞ?」


「それはそうですけど…

空様には普通の幸せを

手に入れて欲しいのです」


「水蘭、こいつはダメだ

拗らせてやがる」



その言葉に落ち込む夜と

クスクスと笑う水蘭だった





近くの山についた空は

木に力を授けるコウキを見ていた




「いつここを出るの?」


「明後日には出発する」


「そっか…次は何年後に会えるだろうね」


「それはわからない

だがまた必ずここには戻ってくるさ」


「私がおばあちゃんになる前には来てよね」


「それはあとどのぐらいの月日だ?」


「40年ぐらい?」


「それまでには会えるだろう」



そう言ってコウキは笑った



「こうして空と話していると

初めて会った時を思い出す」




ー19年前ー



その日空は神社の裏山を歩いていた

すると山頂の木に寄りかかり

座っている男を見つけた



「お兄ちゃん大丈夫?」



そう話しかけると男は

竹笠をあげ空の方を見た



「お前私が見えるのか?」


「あっ…お兄ちゃん妖なんだ…」


「そうだ、私の名はコウキ

お前名はなんて言う」


「空だよ」


「空かいい名だな

空、この木に触れてみろ」


「木?分かった」



空はコウキが寄りかかっている木に触れた



「これでお前にも幸せが訪れる」


「幸せ?」


「あぁ私は木にまじないをかけるんだ

その木に触れたものには幸せが訪れる」


「お兄ちゃんすごい妖なんだね!」


「凄くはないさ

生まれた時からそうする事が使命だからな」


「お兄ちゃんずっとここにいるの?

うちの家に来る?

他にも妖が居るんだよ!」


「私は旅をして歩くのだ

だから明日にはまた別のところへ行く

それでも今日はお言葉に甘えて

泊まらせてもらおう」



その後もう少しだけ木に力を授けるといい

その光景を空は釘付けになり見ていた

コウキが舞いを踊り

木の葉が揺れる光景が

とても綺麗だったのだ



その後コウキは空の自宅の蔵へと来た

当初蔵へいた盃、お鈴、夜と

挨拶を交わしコウキの旅の話で

盛り上がった



翌日の早朝

蔵で寝てしまった空は

蔵のドアが開く音で起きた


蔵を見渡すとコウキの姿がなく

空は外に出てた

階段を降りているコウキを見つけ

空は声をかけた



「もう行くの?」



その声にコウキは振り返った

コウキは頷き言葉を続けた


「すまない、起こしてしまったか?」



空は首を横へ振った



「どうも人との別れは得意ではなくてな

声をかけずに申し訳ない」


「また会える?」


「それはわからない」


「コウキずっとここにいてよ

私と契約しよう?」


「ずっといる事は出来ないんだ

旅をしながら

人に幸せを届ける

それが私の使命だから」



コウキは階段を数段登り

空に合わせて体を屈めると

竹笠を外し空の頭を撫でた



「約束しよう。

またここらにきたら必ず

空に会いに来る

それと、もし私に力がなくなり

旅が出来なくなった時は

私と契約をしてくれ。約束だ」



コウキはそう言うと

空に小指を差し出した

それを見た空は自分の小指を絡め

ゆびきりをした



「絶対だよ?約束だよ?」


「あぁ…約束だ。

次に会うときまで元気でいるのだぞ」


「うん、コウキも元気でね…」



コウキは頷くと竹笠を被り

階段を降って行った



空は寂しくなり階段に座り込み

涙を流した



「空様!ここにいらっしゃいまし…

空様?どうしました?」



空がいない事に気づき

夜が探しにきたのだ

泣いている空を見て夜は少し動揺した



「コウキ行っちゃった…」


「そうでしたか…」



夜は空の隣へ座り

空を自分の膝へ乗せた



「きっとまたいつか会えますよ」



空の背中をポンポンと叩き

夜はそのまま空を抱き上げ

自室へと向かい寝かしつけたのだった





これが私とコウキが初めて会った時の話だ




「前にコウキ言ってたよね?

人と別れるのは得意じゃないって」


「あぁ。旅をしていると色々な別れがある

再度そこに訪れれば

木を大事に育てていた家の主人が

この世を去っていたり

夕暮れになると赤子を大事に抱え

2人で木を見にきていた母子が

次に見たときには悲しい顔をした

母親だけになっていたり

それは人だけではない

森がなくなり大きな建物が建っていたり

立派だった木が伐採されていたり

私は他の者より多くの別れを経験してきた」


「旅も楽しいだけじゃないんだね」


「そうだな。でも空の所は変わらない

いつ来てもあいつら妖がいて

空がいる。

強いといえば会う度に

お前が大きくなっている事ぐらいだ」


「流石にもう大きくならないけどね(笑)

老けては行くけど」



それを聞きコウキはクスッと笑った



「私にとってあの神社は

所謂実家というものだ

ここら辺に来ると帰ってきたと思うよ」


「私が生きてる限りはあそこに

帰ってきてよ」


「あぁ。でもきっと空がこの世を去ったとしても私はあそこに帰るだろうな」



コウキはそう言うと舞を始めた

いつ見ても目を奪われる

それぐらい神秘的な光景だ



次の日もコウキと近くの山へ行き

夜はみんなで食べて飲んで

語り明かした



そうしてすぐにコウキの出発の日が来た

あの頃と変わらず

コウキは早朝に出ていく




「何回言っても声かけないで行くんだから」



境内を歩いていたコウキに

私はそう言った



「声をかけなくとも

お前は見送りに来てくれるからな

今回も世話になった

また会うときまで元気でな」


「うん、コウキが実家に帰ってくるのを

のんびりと待ってるわ」


「そうしてくれ、それでは…行ってきます」


「行ってらっしゃい」



私はそう言って笑顔で送り出した

あの頃と違って泣く事はないし

恋心もない

ただ家族を送り出すのと同じで

寂しさだけは変わらずにある




そんなやり取りを陰から見ていた

夜に気づかない空であった







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