三章 頼る事も時には大事
私はあまりの暇を持て余し
リビングでゴロゴロしていた
「空様、お手紙です」
夜に渡された数枚の手紙を受け取ると
請求書とお店のチラシばかりだ
その中に一枚だけ茶封筒に入った
手紙があった
私は封を開け中を確認した
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望月空様
突然のお手紙失礼致します。
私は日和市で呉服屋を営んでおります
松井勝と申します。
この度望月様にご依頼をしたく
手紙を書いた次第です。
簡単に申し上げますと
私の自宅にある蔵を開けていただきたいのです
代々悪い妖が住んでいるとかで
開けてはならぬと言い伝えられています
この度自宅をリフォームする際に
蔵を潰してしまおうと思っているのですが
万が一本当に何か悪い物が居ると
困るので望月様に依頼をお願いしたいのです。
どうかよろしくお願い致します。
もちろん御礼はしっかりさせていただきます。
またご宿泊の準備も
こちらでさせていただきます。
松井勝
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私は隣に座っていた空に
この手紙を見せた
「ご依頼ですか、お受けするのですか?」
「まぁ締め切りも終わって
しばらく暇だし行ってみるかな〜って」
「もちろんお供させていただきます」
私は起き上がりその手紙を片手に
蔵へ向かった
「みんな〜久々の遠征いくよ」
「旅行ですか?」
「どこまで行くんですか?」
「僕も行きたいです!」
水蓮に続き桔花と常海が
ワクワクした様子でそう言ってきた
「いうて隣の県だよ
水蘭、この子達のことよろしくね」
「承知いたしました。
ご依頼ですか?」
「うん、これ」
水蘭に手紙を見せていると
白と盃、お鈴も蔵へ帰ってきた
依頼の話を3人にもし
明日行くこととなった
-翌日ー
手紙にあった住所を頼りに来ると
すぐに見つかった
「いらっしゃいませ」
「あの、松井様でしょうか?」
「えぇ、そうですが…
もしかして望月様ですか?」
「はい、この度はご依頼の手紙
ありがとうございます」
「お待ちしておりました。
わざわざ御足労おかけして
申し訳ございません」
店から自宅の方へ通された
「こちらのお部屋お使いください。」
「ありがとうございます。
蔵ってあちらの事ですか?」
開けたままの襖から外が見え
庭の端にある蔵を指差した
「そうです。手紙にも書いたように
代々あの蔵は開けるなと言われていたので
中に何があるのか
というか使っているのかも
わからないのです」
「そうですか…
こちらは代々呉服屋を?」
「はい、私で48代目になります」
「それは凄いですね!」
そう言うと
松井さんは嬉しそうな顔した
「この時代わざわざ足を運んで
呉服屋に来る方は減りましたが
それでもうちの着物がいいと
言っていただける限りは
続けていきたい物です。
本日はえー…5名様のご宿泊で
よろしかったですか?」
「申し遅れました
空様のお仕事を手伝っております
犬飼と申します」
「鈴島です」
「白金でございます」
「三盃だ」
「すみません、大勢で来てしまって…」
「いえいえ!
久々の客人ですから
今晩の夕食は豪勢にしなくては!」
松井はそう言い
笑い声を上げた
少し会話をした後
蔵は好きに見てくださいと言って
店に戻って言った
「凄く人柄の良い人ですね」
夜のその言葉に私はそうだねと言い
さっそく蔵を見に行くことにした
蔵を前にしてわかるのは
何かが中にいると言うことだけだ
無闇に扉を開ける事は出来ないので
水蘭に蔵の二階の窓から
中を見てもらった
「窓からは姿が確認出来ませんね」
「そうか、普通に考えて
とんでもない月日この蔵に
閉じ込められてるって事だよね…」
「陣を張り扉をあげてみるしか
ありませんかね?」
お鈴がそう言ったが
生憎私は陣を描いたことがない
「もう開けて出てきたところを
退治すれば良くないか?」
私は盃の頭を叩いた
「もし取り逃したらどうすんのよ!」
その時蔵の中から
物が落ちる音が聞こえた
いや、中で暴れているんだ…
「相当怒っているみたいですよ」
白は呆れたように呟いた
「空様、これは祓い屋に協力を
求めた方がいいのでは?」
夜の言葉に私は顔を歪めた
「咲子の事言ってんの?」
「えぇ、霧島様でしたら
空様のお願いを聞いてくださると…」
「私があの女に頭を下げれと?
嫌だね〜夜、忘れたの?
あの女がお前達に何をしたか!」
霧島咲子
私の幼馴染みたいな者だ
祖父と霧島の家の人が
仲が良く、昔は良く顔を合わせていた
霧島家は代々祓い屋をしていたが
長い間妖力を持った子供に
恵まれなかったらしい
そんな中生まれた咲子は
決して強くはなかったが
妖力を持って生まれた
風の噂で聞いた話だが
今は祓い屋としてそれなりに
名をあげているらしい
「主人様、時には人の為
頭を下げるのも悪くはないものですよ」
「それに私たちはあの時のことは
少しも気にしていませんから。
主人様がいてくれたおかげで
私たちには何の害もありませんでした」
白に続きお鈴はそう言った
それでも私はあの女には頼りたくなかった
「水蘭、一瞬だけ
窓を開けて私が中に入ったら
すぐに窓を閉めて」
「空様!」
珍しく夜が大声をあげた
「白、私を2階まであげて」
「承知いたしました」
そう言い白は妖の姿に戻り
私を2階まで乗せて行った
水蘭の掛け声に合わせ
私は窓から中へ入った
中は目眩がするほど
強い妖気が漂っている
2階の部屋の壁に
お札や魔除けの類のものが貼られ
居心地の良いものではない
私は1階へと足を進めた
2階と違い窓がない為真っ暗だ
私はケータイのライトを付けた
おかしな事にこんなに妖気が漂っているのに
妖の姿は見えない
その時後から音が聞こえた
振り返ると木箱からガタガタと動いている
私はその木箱に近づいた
「酷いなこれは…」
思わず言葉が出てしまった
その木箱には無数の
お札がびっしりと貼られている
木箱は劣化からなのか何箇所か
亀裂が入っていて
そこから妖気が漏れているようだ
私は蔵のドアをあげた
今のあの状態なら危険には
及ばないだろうという判断だ
ドアから出ると皆が驚いた顔をして
こちらをみた
「空様…」
「空様お怪我は!?」
夜に続き
水蘭がそう尋ねてきた
私は大丈夫だと言い
一旦部屋へ戻った
蔵の感じは水蓮、桔花、常海に頼んだ
「これは私の仮説だけど
昔蔵に妖を封印した
間違えてあの箱を開けられては困るから
蔵の立ち入りを禁止したんだと思う
ただあの封印も長くは持たないだろう
中で動いてるせいか
無数の亀裂が入ってた
それに中はお札や魔除けの類のものばかりだ
何があるかわからないから
お前達は入るな」
「んで?どうすんだ?」
「仕方ないけど咲子のところに行くよ…
封印は専門外なんでね
ここからなら霧島の家も近い
みんなはあの子達と一緒に
ここに残ってくれ
夜は私と来てもらう」
私は話を終え
立ち上がり空と外へ出た
霧島の家に向かう道中
夜は口を開かない
先程のことを怒っているのだろう
「夜、怒ってるの?」
「空様はいつも危険すぎるんです…
空様にもしもの事があれば」
「自分たちも消えるって?」
私は夜の言葉を遮った
蔵にいる妖たちとは
契約の札という物で契約をしている
契約の札とは
妖気をかけたお札に
妖と主人の血を垂らして完成する
札が破れれば契約は無くなるが
この札は水などにも強く
何をしても破れない
唯一破れるのは主人の意思で
破く時と主人の命が尽きた時
簡単に言うと
一度契約してしまえば
主人が必要ないと思うか
主人が死ぬまで共にいるという訳だ
ただ妖自らに何かがあり
妖力を失い消えてしまう時には
札が燃えて消えてしまうらしい
「そんな事を言っているんじゃありません!
私にとって空様は
何よりも大切な存在なんです!
だから無謀な事はしないでください…
お願いですから…」
夜は悲しい顔をしてそう伝えてきた
今にも泣きそうな顔を
私は左手で触れた
「ごめん、意地悪言った
分かったからそんな顔すんな」
夜は私の左手に触れ
頬を擦った
こっちまで照れてくる…
夜はニコッと笑い行きましょうかと
言ってきた
そうこうしているうちに
気づけば霧島邸の前だ
インターホンを押すと
女が出てきた
「どちら様でしょうか?」
「望月といいです。
咲子はいらっしゃいますか?」
「咲子様のご友人ですか?」
「遥神社の望月といえばわかるはずです」
「遥神社…茂様のお孫様ですね?」
「はい」
「中へ上がってください。
今咲子様お呼びいたしますので」
私達は客間に通され
待っていると数年ぶりに見た
見覚えのある女が入ってきた
「本当に空じゃない?
わざわざ来るなんて余程の事?」
「本当は頼りたくなかったんだけど
生憎祓い屋の知り合いは
あんたしか居なくてね」
咲子はクスっと笑い座った
「それで何を手伝って欲しいの?」
「とある蔵に封印されてる妖を
見つけたんだけど
封印してる木箱が劣化して
妖気が漏れてるんだ。
依頼主はその蔵を壊したいらしいし
封印をし直すにも私だけでは出来ないから
咲子にお願いしにきた」
「なるほどね、まぁ再会を祝して
手伝ってあげるわ、案内して」
相変わらずの上から目線に
少し苛立ちを覚えながら
蔵の前へと戻った
「相変わらずうじゃうじゃと
妖飼ってるのね」
「悪うございましたね」
「まぁとりあえず中見せてよ」
私は咲子と共に中へ入り
木箱の前にたった
「これ…」
「やっぱりおかしいと思う?」
私は最初に見た時から違和感を感じていた
この中にいるのは本当に妖なのかと…
封印の札が健在なのに
こんなにも中で動けているのも
可笑しいし蔵中に札などが
こんなにもあるにもかかわらず
これ程の妖気に満ちている事も
可笑しいとは思っていた
「これ人だわ…
いや、元は人間だった妖ね…」
「それで私は何をすればいい?」
「この妖気だから
もう一度封印するのは私には無理よ
だから開けて出てきたら
空が祓って。
貴方なら出来るでしょう?」
「了解」
「もう日が暮れるから
力も強くなるわよ
油断しないでね」
「はいはい」
咲子はゆっくりとお札を剥がし
封印を解いた
「いくわよ!」
蓋を開けると
真っ黒なものに覆われた子供の様な
妖が出てきた
「悪いけど消えてね」
私はそう言い掌をその妖へ向け
妖力を流すと眩しい光に包まれた
光が収まると体が消えかけてる
男の子が立っていた
「ありがとう、お姉さん」
その子は微笑みながらそう伝えてきた
「何でこんなところに閉じ込められてたんだ?」
私はしゃがんでその子に聞いた
「僕の家で不幸が続いてね
それが僕が生まれた後からだったから
僕が悪い妖に取り憑かれてるって
みんなが言い始めたの…
それであの箱に入れられた
僕妖になんか取り憑かれてないのに…
でも良かった。
これで母様のところに行ける
ありがとう…本当にありがとう…」
そう言いその子は消えて行った
私達は蔵を出た
「咲子ありがとう、助かった」
「どういたしまして
っと言っても私はほとんど
何にもしてないけど」
「素人が封印を解くなんて
何が起こるかわかんないだろ?」
「まぁそれはそうだけど…
空も勉強してみたら?封印の」
「私はいいや〜またなんかあったら
頼らせて貰うわ。
御礼は後日家に送るよ」
「いらないわ、とりあえず私は
これでおいとまするわね」
「うん、じゃあまた」
咲子は手を振り帰って行った
「うわぁっ!!」
盃の声が聞こえた方へ行くと
蔵の木箱を覗き込んでいる
「おい、空!ミイラだ!ミイラ!」
「私は見たくない!」
「ちょっと見てみろって!」
「昔はミイラを薬にしていたらしいですよ」
お鈴はそう言い木箱をチラッと見た
妖たちは物珍しそうにし
皆木箱を覗き込んでいる
私は見たくなかったのに
桔花と常海に引っ張られ見てしまった…
店を閉めた松井さんがやってきて
話をする為部屋へ戻った
「祓い終えましたので
蔵は解体して大丈夫ですよ」
「そうですか、この度は本当に
ありがとうございます。
それで本当に居たんですか?」
「はい。でも彼は元々人間でした。
昔この家で不幸が続いたらしく
彼は妖に取り憑かれていると言われ
あんなに小さく狭い木箱に
閉じ込められて封印されたそうです」
「なんと…」
「蔵にある木箱ごとどこかに埋めるか
お寺に引き取ってもらってください」
「わかりました。
本当にご苦労様でした。
今お食事の準備を致しますので!」
そうしてすぐにとんでもなく豪勢な
食事が出てきた
「うわーお…」
「沢山ご用意しておりますので
遠慮なさらずお食べください」
「ありがとうございます、松井様」
夜がそう言い
私達はご飯を食べ始めた
どれも美味しい物ばかりだ
盃はたらふく酒まで呑んでいる
松井さんが居なくなった後
他の妖達にも食べされた
ある程度食べ終わった時
松井さんがデザートのアイスを
持ってきてくれた
「先ほどの話なんですが
昔曽祖父に聞いた事があります。
曽祖父もまたお祖父様に聞いた
話らしいのですが
昔この近辺で結核が流行り
松井家もその結核のせいで
次々と不幸が続いた事が
あったそうです。
あの時代結核は
不治の病と言われていたでしょう?」
「はい、それは聞いた事があります。
今ほど医療が発達していなかったので
ほとんどの方が亡くなったと」
「どうもあの時代結核と気づかずに
亡くなって行った方も大勢いたそうで
次々と亡くなっていく物ですから
妖が災いを呼び込んだんだと
言われる事も少なくはなかったそうです。
きっと蔵にいた子もそうだったんだと
思います。
松井家の人間として
申し訳なく思ってしまって…」
「松井さんが悪い訳ではないので
気を病まないでください。
その時代ではきっとそうするしか
なかったんだと思います
時代が変われば人の心も変わるのと同じで
今の世の中で同じ様な事が起きても
妖を疑う者はほとんどいないでしょうから」
松井さんはお礼を良い
部屋から出て行った
私達はデザートを食べ終え
風呂に入った後部屋に戻ると
布団がひかれていた
「望月様は隣の部屋にお布団ご準備しており」
「ありがとうございます…」
お手伝いさんがそう言い
部屋から出て行った
あぁ…一応女と男で分けてくれたのかと
理解し私は隣の部屋に行き
布団へ入った
広い部屋のど真ん中に敷かれた布団
落ち着かない…
目を瞑り寝ようとすると
先ほど見たミイラが頭に浮かび
眠れない…
いや、普段色んな妖見てるんだから
今更ミイラなんか怖くは…
私は枕を片手に隣の部屋へと
向かい一番手前にあった
夜の布団へ入った
「ん?空様?どうかなさりました?」
「目瞑ったらミイラが思い浮かんで寝れない…」
「そうですか…怖くない…
何も怖くありませんよ…」
夜は私の頭を撫でた後
背中をポンポンと一定の間隔で叩いた
まるで赤ちゃんを寝かしつける様に
でもそれがなんだか安心し
私はすぐに眠りについた
そして夢を見た
これは子供の頃の記憶だ…
「空様、どうしたのですか?」
「森に行ったらでかい妖怪がいて怖かった…」
「空様、怖くない…何も怖くありませんよ」
夜は私を抱き上げ背中をポンポンと叩いた
あぁこの人は昔から何も変わらない
「空様には私がついておりますから
安心してください」
「ずっと?私が大人になっても
夜ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんです。
空様が私を必要ないと思うまで
ずっと一緒ですよ」