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二章 物にも情はある

3日前



「今年は海行こうよ〜」




そう言いながら

人の家で寝転んでいるのは

中村愛美、私の親友だ

愛美は私が妖を見えるという事を

知っている数少ない人の一人




「まだ冬なのにもう夏の話?」



こんな寒い中よく海の話が出来るなと

私は呆れた顔をした



「だって去年行けなかったから!

ほら、妖怪達も海行きたいかもよ!?」


「海に行って喜ぶのは

二人ぐらいしかいないよ」



水蘭と水蓮のことだ

あの二人はきっと海に連れて行ったら

喜んで泳ぎに行くだろうと

想像してしまった




「あれ?そういえば

ソファー買い替えたの?」



愛美は今自分が寝転んでいる

ソファーを見てそう言って来た

今頃かよと私は心で呟いた



「臨時収入が入ったから買い替えた

誰かさんが前にアイスこぼしたからね」


「あれはごめんって〜」



愛美はソファーの上で

土下座をしている

それを見て私はクスクスと笑った



臨時収入とは

あの後紗奈さんが御礼だと

謝礼を渡しに来た

それを素直に受け取った次第だ


中を見てびっくりするぐらい

大金が入っていたのはまた別の話だけど…




「そういえばね

お客さんに古本屋をやってる人がいて

その人今困ってるみたいなんだよね」


「困ってる?」


「うん、夜になると

お店に誰もいないはずなのに

人の争う声が聞こえるんだって

その声が聞こえた次の日の朝には

店の本が心なしか散らかってるって

空見に行ってあげてくれない?」


「見に行くだけなら別にいいけど」


「古本屋ですから本に魂が宿っている物も

多いでしょうね」



夜がお菓子と飲み物を持って

入って来た



「そうなの?」



愛美は体を起こし

目を輝かせながら夜に聞いた

さすが好奇心旺盛だ…



「ええ、古い物には

持ち主の情が移っているものです

骨董品屋や中古品屋などで

目がある物は買うなと

聞いた事がありませんか?」


「え〜ないよ!買ったらダメなの?」


「目がある物は情が移りやすい為

魂が宿りやすいと言われています

愛美さんも目がプリントされているような

古着には気をつけてくださいね」


「へぇ〜って服もダメなの!?

私買った事あったかな…」



愛美は真剣な顔をして考え込んでいる

この子は本当に表情がコロコロ変わる子だ

見ていて本当に面白い



「たとえ持ってても

何も起こってないんだから大丈夫だよ」


「そうか…そうだよね!

あぁそれでいつ行く?

明々後日なら私休みだから

一緒に行けるよ!」


「明々後日ね、じゃあその日に行こう」




そして今その例の古本屋の前にいる



店に入る前からわかる

妙な気配が漂っていると

それに夜も気づいている



愛美に続いて中に入ると

店の外観とはそぐわない

若い男の人がいた




「愛美ちゃん!」


「優斗くん連れてきたよ!」



男の人は私たちの方を見て頭を下げた



「初めまして、桜井優斗です」


「愛美の友人の望月空です

こっちは私の仕事仲間です」



夜は彼に頭を下げた



「優斗くん、空に話してあげて!」


「立ち話でごめんなさい

2週間前ぐらいから

夜になると喧嘩するような声が

店内から聞こえるんです。

最初は外で酔っ払いが喧嘩してるのかと

思ってたんですけど

外を見ても誰もいなくて

その日から朝店に来ると

本が落ちていたり

誰かがいた形跡があって…

それをたまたま服を買いに行った時に

愛美ちゃんに話したら

解決できる人がいるから

紹介すると言われて…」


「なるほど…

ここの店は元々優斗さんが?」


「いえ、元々は祖父が!

去年祖父が亡くなって

俺が継いだんです!

俺、元々本が好きで

この店が大好きだったので

今は俺1人で店を切り盛りして

上の家に住んでます」


「なるほど」


「解決できそう?」



愛美はそう尋ねてきた

とりあえず夜に来てみないと

わからない為

優斗さんに店の鍵を貸してもらい

一応安全のために

数日間優斗さんにはどこか違うところで

寝泊まりしてもらう事になった




その夜

私は夜と白を連れ本屋へ尋ねると

鍵を開ける前から声が聞こえている



ドアを開けると1人の妖は

こちらを見たがもう1人の妖は

暴れている

そのせいか店内は本が散らばり

酷い状態だ



白が暴れている方の

妖へ近づき止めようとするが

我を失っており動きが止まらない



「どこだ!どこに隠した!!」


「隠してなどいない!落ち着くのだ!」



もう1人の妖がそう答えた

白は妖力をその妖に当て

眠らせた



「あの…」



もう1人の妖が声をかけてきた



「私は人間だけど別に

害は与える気ない」



そう言うとその妖は安心したような

顔をした

私達は2階へ上がる

階段へ座った




「私は(まなぶ)と申します。

さっきいたのは百合江と」


「何であんなに暴れてるんだ?」


「私にもわからないのです。

ただずっと何かの本を探していて…」


「本、ですか…」



夜がそう言うと学は頷いた



「少し前からずっとあの様子なんです。

朝方になるまで暴れて…」


「もしかしてお前が本を直していたのか?」


「はい、あんな状態じゃ

店主様が驚いてしまうので

私に強い妖力があれば

すぐに綺麗にできるのですがね…」


「学殿、その百合江というものが

探している本に何か覚えはないのですか?」



白がそう尋ねると

学は考え込んだ



「というかお前もあの女も

本の付喪神なのか?」


「はい、私は110年前に執筆され

売られていた本です」


「じゃああの女は何の本の付喪神?」


「確か…色物語…だったかと」


「知ってる?」



私が夜と白へ聞くと

2人とも頭を傾げた



「とりあえず明日調べておくよ

まずは本を直そう」


「お手数おかけいたします」



私達は学の指示通りに本を

棚へと戻した

百合江は朝が来るまで目覚める事なく

いつのまにか姿がなかった



次の日

店へ来た優斗へ色物語という本の

詳細を聞いた



「色物語…あぁ確かこの棚に…

これです!相当古いもので

ボロボロですけど」



私はその本を受け取り

中を見たが

全くというほど読めない…

私は優斗さんに頼み

その本を数日間借りる事にした

買おうと思ったが

とんでもない値段だったので借りたのだ…




蔵に着き百合江が出てこないよう

私は表紙にお札をつけた



「お鈴〜」



私がそう呼ぶと

お鈴は何処からか現れた



「主人様何か御用でしょうか?」


「この本読んでみてくれる?

多分お鈴なら読めると思うから」


「かしこまりました」



お鈴はそういうと蔵の階段に腰掛け

本を読み始めた

水蓮も気になったのか

お鈴の隣に座り

本を覗き込んでいる



私は執筆の仕事に戻ることにした



あれから3時間後くらいだった時

白が蔵へ入ってきた



「主人様、酒井様がお見えですよ」



私はゲッと顔をして

家のリビングへと向かった



「締切まであと4日ですけど

間に合いそうですか!?」


「多分…いや、間に合わせます」



私は正座をし彼女の向かいに座った



「早く続きが読みたいと

読者の皆さんお待ちなんですよ?!」


「分かってます…」


「今じゃ妖怪を題材にした小説の中では

代表作なんですから

もっと自覚を持ってください!

発売を遅らせるなんてできないんですからね」


「分かってます…

締め切りまでには必ず終わらせるので

今日のところはお許しを…」



私は土下座をし誤った



「無理はしないでくださいよ

それではまた4日後にきますね」



酒井は厳しい事を言うが

根本的に優しい人だ




私はテーブルに置かれている

麦茶を一気飲みし

蔵へ戻った




「主人様読み終わりました」


「早っ!!」



お鈴は読み終わったと

私のデスクへその本を置いた



「面白い本だった?」


「今で言う恋愛小説というものですね

よくある話でした」


「そう、なんかヒントあった?」


「ヒントというかこの本

上巻なので下巻を読まない限りは何とも

言えませんね」


「なるほどね〜」


「それではないですか?」



いきなり横にいた

夜が口を開いた



「何が?」


「百合江さんが探している本って

もしかして下巻なのでは?」


「確かに…ありえるかも。

明日優斗さんに聞いてみようか」



そうして翌日も優斗さんの

店へ尋ねた



「優斗さん、昨日お借りした本の

下巻ってありますか?」


「下巻ならちょっと前に売れて

しまいましたよ!

あの値段を現金一括で払って行ったから

よく覚えてます!

下巻をずっと探していたみたいで」


「そのお客さん誰かわからないですよね?」


「流石に誰かは

でも確か都大の教授だって言ってましたよ」


「ありがとうございます!

もう少しこの本お借りお借りしてもいいですか?」


「はい、どうぞ!」



私と夜は蔵へ帰り

盃と白とお鈴を呼び出した




「どうした?急ぎの用か?」


「みんなに頼みがある!

この本の下巻を探し回って!」


「はあ?!」



盃はデカい声でそう言った



「その買っていった男から

返してもらうか

打ってもらった方が早いだろ!」


「教授ともあろう人

きっと手放すことはないでしょう」



盃の問いに夜がそう返した



「お願い…私も執筆終わったら

探すの手伝うから!

締め切り迫ってて

頼れるのはあんた達しかいないの!」


「主人様のお願いとあれば

引き受けましょう」


「そうですね、隣町の方は私が

探してみます」



お鈴に続き

白がそう言った



盃「仕方ねえな…

褒美はたんまり貰うからな」


「酒なんていくらでも買ってあげるから!

みんなありがとう」


「私はネットの方で探してみます」


「お願いします」



それから私は執筆し

盃、お鈴、白は遠くまで

足を運び本を探してくれていた

夜もネットで探したが

見つからなかったらしい



4日後、私は何とか

締め切りに間に合い一息ついた



お鈴「ここ周辺の街にはありませんでした」


白「よほど希少な本のようですね」



その時蔵のドアが開き

盃が入ってきた



「あったぞ」


「やっぱ無理か〜ってあった!?」


「ほれ」



盃は私に向けて本を投げた

確かに下巻のようだ



「盃ー!!大好きよー!!」



盃に抱きつくと盃は

暑いから離れろと少し照れた顔をしている



「空様、離れてください。

あとはその教授を見つけるだけですね」



夜は少しムスッとした顔をしてそう言った



「教授は私が見つけておいた!

今時のネットはすごいね〜

すぐ見つかったわ」



私はケータイの画面を

みんなへ見せた



SNSに色物語の写真を

投稿したものだ

すぐにその教授のアカウントを

見つけることができた事が幸いだ



翌日都大へアポを取り

講義後の夕方に尋ねることになった

夜と共に教授室に入ると

本の山だった



「初めまして、いきなりもう訳ございません」


「いえ、私に何のご用でしょうか?」


「あの遥市の古本屋で色物語という

本をご購入しませんでしたか?」


「あぁ、しましたよ!

ずっと探していたもので

迷わず買ってしまって」


「あのその本なんですけど

彼の祖母が間違えて売ってしまったもので

ずっと探していたんです…」


「祖母が曽祖母からプレゼントされた物

らしく纏めて本を売った際に

いつの間にか紛れてしまったらしくて」


「あの…私が持っている物と

交換して頂けないでしょうか?」


「貴方も色物語を?」


「祖父がコレクターだった物で…

どうかお願いします…」


「そういう事でしたら

いいですよ。

ちょうど今ここにあるので

そちらと交換しましょう」



私は心の中でガッツポーズをした



「ありがとうございます」


「ありがとうございます。

祖母も喜びます!」


「わざわざ来てくれたということは

とても大切な本なのですね。

本好きに悪い人は居ませんからね」



教授はにこやかな顔でそう言った

私達は大学を後にし

一度蔵に戻り閉店後の店へと足を運んだ



店に入ると学が心配そうにこちらを見ている



「大丈夫、きっとこれで

百合江も元に戻るよ」



私が本からお札を剥がすと

すぐに百合江の姿が現れた


数日間札のせいで出てこれなかったからか

妖力が弱まりその場に座り込んでいる



「百合江、貴方の探している本はこれだね?」



百合江に本を渡すと

百合江は目を見開き

その本を抱きしめた



「あぁ…菊雄さん…菊雄さん…」


「百合江、きっとこの物達は

苦労してそれを取り戻してくれたのだよ」



学がそういうと百合江は

私を見て頭を下げた



「ありがとう…ありがとうございます…

私の大事な物なのです…」


「その本は付喪神になれなかったのかい?」



私はその本を教授に渡してもらった時に

気づいた

この本には妖力がないと…



「はい…」


「じゃあ菊雄というのは?」



夜がそう尋ねた



「本を所持していた主人様の名です。

ずっと転々としていた私を

菊雄だけは長く愛してくださいました…

私は菊雄が亡くなりここに来ました

この本は私の片割れであり

菊雄が愛した本なのです…だから…」



百合江は涙を流しながら

そう語った



「そうか…

貴方の大事なものが戻って良かった」


「本当にありがとうございます。

なんとお礼をしたらいいか…」


「お礼なんていらないよ

でもどんなに辛くても

人間を困らせたらいけないよ」


「はい…店主に貴方から誤って

おいてください…

それと学…迷惑かけてすまなかった…」


「私は大丈夫だ。気にするな。」



私たちが帰るとき

2人は深深く頭を下げていた



その日の開店後

店に行き経緯を優斗さんへ話した



「じゃあこの本はセットで売らなきゃですね!」


「きっとこれで夜音に気にせず

眠れるよ」


「今回はありがとうございました!

これ、少しですけど貰ってください!」



優斗は封筒を差し出してきた



「有り難く頂きます」


「あとこれも良ければ!

駅前のセントラルホテルのバイキングの

無料券です!」



私はお礼を言いその場を後にした



帰り道で夜がつぶやいた



「物にも人を愛する心があるんですね」


「人だって物だって

自分を愛してくれた人は

特別なんだよ、きっと」


「私は獅子が付喪神にならなくて

良かったと思ってますけどね」


「何で?」


「きっと空様を取り合う羽目になりましたから」



空はその言葉に照れた


そして数日後空は今回頑張った

4人を連れバイキングに行ったのだった

盃への褒美はこれでいいだろう(笑)


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