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一章 見えぬ依頼人

蔵で執筆をしていると

夜が入ってきた



「空様、お客様がお見えです」


「お客さん?」


「えぇ、神主にお願いがあると」



私はそれに返事をし

境内にあるベンチへと向かった


そこに居たのはメガネをかけた女性だ

20代後半ぐらいだろうか



「お待たせいたしました

何かございましたでしょうか?」



彼女はびっくりした様子で

こちらを見た



「あの…お願いがあるんです

厄祓いをして貰えませんか?」


「申し訳ございません。

3年前に神主だった

祖父が他界しまして

今は厄祓いはしていないんです」



祖父はハッキリとは見えないものの

妖や霊の気配は感じる人だった



「そうだったんですか…

分かりました」



彼女は立ち上がろうとしたが

バランスを崩しよろけた

私は咄嗟にその体を支え

もう一度ベンチへ座らせた



「すみません、ありがとうございます」


「よければお話だけでも

お聞かせいただけませんか?」


「実は…」




彼女はそう言い言葉を続けた

話を聞くとどうやら

家の中に何かがいるらしい

足音が頻繁に鳴り響き

夜寝ていると何かが体の上に

乗っかっているような感覚があるそうだ

ここ数日は首を絞められたと

彼女は話し始めた



彼女は話が終わると

私に名刺を置いて

帰って行った



ベンチの後ろにいた桔花と常海に

彼女を追い様子を見て来るよう伝えると

2人は走り出した



名刺を見ると彼女の名前は

柏木紗奈さんと言うらしい



「何か気になるのですか?」


夜は私の顔を覗き込みそう尋ねてきた


「あの人から妖の匂いがした」


「悪さをしているのは

妖かもしれないと言う事ですね」


「そうじゃなきゃいいんだけどね」



私達は蔵へ戻り

桔花と常海の帰りを待った



1時間程で2人は戻って来た



「空様!妖がいました!」


桔花は私へ抱きつき

常海もそれに続いた


「犬の様な妖です」


「犬?とりあえずありがとう、2人とも」


「「お安い御用です!!」」



2人はまた外に飛び出て行った

神社の裏山にでも遊びに行ったのだろう



「昔飼っていた犬でしょうかね?」



水蘭は何か考え込み様にし

そう呟いた



「幽霊とかならわかるけど

妖怪になる事もあるの?」


「なくは無い話ですよ

あまりに大きな未練があったりすると

妖になる事もあります」


「ただしたったの数年とかでは。

無理でしょうね」


「10年以上はかかりますよ!」



夜に続き水蘭と水蓮が

そう言った


私は何故かとても気になった

見える私だからこそ出来ることがある


妖祓いだ

私の小遣い稼ぎの副業




そして次の日

名刺に書かれていた電話番号に

電話をかけ紗奈さんの自宅へ

行くことになった





「わざわざありがとうございます」


「いえ、こちらこそいきなり

お電話して申し訳ございません」




紗奈さんは笑顔で頭を横に振り

お茶を出してくれた

もしかすると何かお手伝いが出来るかも

しれないと彼女に伝えると

ほっとした顔をした




「いつ頃から音を聞く様になったんですか?」


「半年ぐらい前ですかね…

最初は犬の足音の様で

懐かしい気持ちになったんです」


「以前犬を飼ってた事が?」


「はい、小さい頃なんですが

私の両親が盲導犬の訓練士をしていたんです」


「そうだったんですね」




飼っていた犬説が濃厚になった

ただどうやってその妖と

話をするかが問題だ

紗奈さんに私妖怪が見えるんですなんて

言えるはずもない


そんな事を考えていると

ガシャンと音がした

紗奈さんがコップを落とした様だ



「大丈夫ですか?」


「すみません!大丈夫です!」


「新聞紙か何かください

割れたコップ片付けます」


「ありがとうございます」



渡された新聞紙にコップを包み

紗奈さんに渡した

夜は溢れたお茶を拭くのを

手伝っている



その時どこからか声が聞こえた


私と夜は目を合わした

ただ何を言っているのか

ハッキリとは聞こえないのだ



とりあえずコップを片付け

紗奈さんと話を続けた



「家中どこでもその音は聞こえるんですか?」


「はい、でも私は一階のここで

普段は仕事をしているので

二階から足音が聞こえる事が多いですね」



彼女は在宅の仕事をしているらしく

以前は外で仕事をしていたから

足音が気にならなかっただけなのかもと

話を続けた



「早く出ていけ」 



またどこからか声が聞こえて来た

先程とは違いハッキリ

そう声が聞こえた

リビングのドアの外にある廊下を

見ると桔花から聞いた通りの

犬の様な妖がそこにいた



「あの何かありましたか?」



紗奈さんは不思議そうな顔をして

私を見ていた

私はヤバいと思い

いいえ…と笑顔を浮かべて言い

紗奈さんに目線を戻した




その日は話だけをしてそのまま

帰宅する事にした

紗奈さんはいつでもいらしてくださいと

優しく言ってくれた




私は蔵に戻ると

妖怪たちはみな帰って来ていた

夜同様、盃や白は

人間に化けれる為

日中は何処かに行っている事が多い

その他の水蘭たちも

人間の形にはなれるが

まだ完璧とはいかない様だ

水蘭、水蓮は顔に鱗やヒレ耳が残るし

桔花と常海は耳と尻尾を隠せない




夜たちによれば

完璧に人間の姿に化けれると

普通の人間にも見えるようになるそうだ



私たちは今日あった話を

妖たちへした



「空様に何もなくて安心しましたけど

話を聞く限りでは

害がある妖かはまだ判断できませんね」



水蘭は考え込みながらそう言った

それに続き白も口を開いた



「主人様や夜を襲わないということは

その紗奈という人間に執着している

理由が何かあると思うのですが…」


「さっさと退治しちまえよ」


「本当に悪い妖か分からないのに

主人様がそんな事するわけないでしょう」



お鈴の言葉を聞き

私は盃の頭を叩いた

盃は面倒くせーと言いながら

酒を煽った



「私たちが見た時はずっと紗奈を追いかけて

歩いていたんです、ねえ?常海」


「うん、何かを心配してるみたいでした」


「そう、とりあえずあの妖と話してみないと

分からないね」


「空様また日を改めて訪ねてみましょう」



夜の言葉に頷き

私は執筆に戻った



次の日私たちが訪ねる前に

紗奈さんから電話がかかって来た



二階から聞こえる足音が気になり

二階に向かおうとした時

階段を踏み外し落下したそうだ

検査のため数日入院する事になったと

言われたので

夜を連れお見舞いへと向かった

病室に入ると紗奈さんは

嬉しそうに私の名前を呼んだ

来る途中で買った見舞いの洋菓子を

渡すととても喜んでくれた



「大丈夫ですか?」


「はい!検査の為に入院してるだけなので

ご心配おかけしました」


「やっぱり音が気になりますか?」


「はい…あの空さん

本当は何かうちの家にいるのが

見えているんですよね?」


「え?」


「空さんには

私には見えない

何か見えているような気がして…

こんなに親切にしてくれるし…


「見えないというと嘘になるんですけど

それが悪い物なのかが分からなくて…」



私は俯きながらそう言った

すると紗奈さんは引き出しから

自分の鞄をとり

家の鍵を私へ渡して来た



「じゃあ確かめに行ってみてください

出会って間もないけど

空さんが信用できる人って事は

わかります。だから見て来てください」



私は鍵を受け取り

紗奈さんの自宅へと向かった



中へ入るとすぐに妖は姿を現した



「何をしに来た。紗奈はいない、帰れ」


「わかってるよ

紗奈さんに頼まれてここに来たからな

お前はなんでここにいる?」


「答える義務はない」


「紗奈さんがお前の存在に困ってる」



夜がそう言うと

その妖は少し驚いた顔でこちらを向いた



「紗奈さんはお前の存在が怖くて

私のところに厄祓いの依頼をしに来た

生憎私は厄祓いの技法なんてしらない

でも…お前が悪い妖なら

消す事はできる」


「私を消すと言うなら

私がお前を消すだけだ!!」



そう言うとその妖は

私に向かって来た

それを夜が前に出て妖を止めた




「空様には指一本触れさせない」


「お前…人間じゃないな…」


「ええ、私は貴方と同じ妖」



夜はその妖は投げ飛ばした



「お前名前は?」


「私は…コノハ

紗奈に害は与えていない!」


「コノハ、紗奈さんは寝てる時に

お前に首を絞められたと言っている」


「首など締めていない!

ただ紗奈の隣で寝ていただけだ!」


「なぜそんなにも紗奈さんに執着してるんだ?」



そう聞くとコノハは

今までの威嚇を無くし

暗い顔をした



「紗奈を守りたいから…

紗奈に恩返しをしたかったから」


「恩返し?

コノハ、お前は紗奈さんの両親が

育てていた盲導犬だね?」


「ああ…そうだ

紗奈が7歳の頃まで私はこの家で育った

紗奈には沢山可愛がってもらった

盲導犬のテストで上手くいかなかった日も

紗奈は優しくしてくれた…」


「なぜ今になって」



私よりも先に夜が口を開いた



「紗奈を守りたかったから…」


「何から守りたいだ?」


「お前達気づかなかったのか?

紗奈はもうあまり目が見えていない…」



それを聞き私はえ?と声が漏れた

今思うと思い当たる節がいくつかあった

最初に声をかけた時異常に驚いていたのも

立ち上がる際にふらついたのも

コップを落としたのも

きっとそのせいなのだろう



「私はここを去った後

盲導犬として他の家に行ったが

すぐに病にかかって死んだ

主人が目が見えないのは分かっていたが

主人は目が見えない恐怖やストレスで

どんどん人が変わっていった

あまりいい扱いはされなかった

そんなこともあってきっと病にかかったんだ

私はその時に思った

紗奈のところへ帰りたいと

紗奈にもう一度だけでいいから

撫でて欲しいと

死んだ後気がつけば

この姿になっていた

最初は戸惑ったが紗奈を見つける為

何年も彷徨っていた」


「それで半年前にやっと見つけたのか…」



私の言葉にコノハは頷いた



「紗奈を見つけこの家に来ると

紗奈は悲しい顔をしていた

その理由が病で目が見えなくなって行くと

知って私は紗奈を守りたかったんだ

だから頼む…私を消さないでくれ

紗奈に被害は加えない

約束する」


「紗奈さんにお前の事を伝えてもいいか?」


「紗奈がそれで安心するなら

それでも嫌だと言えば

私を消してくれ

もう未練などない」


「分かった…」


「それにしても不思議だ

人間のお前と言葉を交わしているとは」


「私にとっては日常茶飯事だよ

それじゃあ私たちは紗奈さんの元へ帰る」


「あぁ2人とも襲って悪かった」




私はニコっと笑いかけ

その場を後にし病院へ向かった



病室に入り

紗奈さんに鍵を返却した



「どうでしたか?」


「悪い物ではありませんでした

むしろとても優しい子でした」


「優しい?」


「紗奈さんのご両親は盲導犬の訓練士だったと

言っていましたよね?」


「はい」


「コノハという犬がいたのでは?」


「コノハ…いました!

私がすごく可愛がっていた子です!

まさかコノハが?」



私は頷き言葉を続けた



「コノハは紗奈さんを守りたかったと

紗奈さん…もうほとんど

目が見えていないんですね」


「なんでそれを…

コノハがそう言っていたんですか?」


「はい、コノハは紗奈さんの家を出た後

すぐに亡くなったそうです」


「それは両親に聞きました

悲しくて泣いたのを今でも覚えています」


「死ぬ前に紗奈さんに

撫でて欲しかったと言っていました

コノハは紗奈さんの事が

大好きだったんですね」



紗奈さんは涙を流し始めた



「コノハ…」


「私にはあんなに優しい子を

退治する事は出来ません」


「コノハならいいんです

ありがとうございました

本当にありがとうございました」



紗奈さんは泣きながら何度も

ありがとうございましたと言った

私たちは紗奈さんを慰め

その場を後にした




家に戻り夕食を食べていると

夜が口を開いた




「コノハは辛くないのでしょうか

どんなに自分を思ってもらえていても

紗奈さんには見てもらえないのに…」


「それでもコノハは

紗奈さんといたいんだよ

紗奈さんだって本当はコノハの姿を

見たいはずだ」


「もし空様が

私の事が見えなくなってしまったら

きっと私は自分から姿を消します」


「どうだろうね〜

きっと夜は私が見えなくなっても

私の隣にいるよ」



私は笑いながらそう言い

白米を口に入れた




昔は妖を見える事に

恐怖を覚えた事もある

でも妖と関わるようになってからは

見えなくなる事に恐怖を覚えた



祖父は小さい頃妖が見えていたらしい

でも歳を重ねるに連れ見えなくなって行ったと

話していた




祖父は仕事で忙しい人だった

両親のいない

私にとっての家族は妖たちだった

友達が居なかったわけではない

でもいつも変わり者というレッテルを

貼られた


私が心を許せる相手の殆どが妖だった

だからその妖がいつか見えなくなるという事が

何よりも怖かったんだ



でもある時夜に言われた

その強い妖力は死ぬまで

衰える事はないでしょうと

私はその言葉に救われたんだ



見えると言う事は

決して悪い事ではない

私はそう思って毎日を過ごしている


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