まなつのそらに
――何処までも、澄んだ空だった。
俺は仰向けで、
眼前には、青い空が目の前に広がっていた。
いうなれば。
――真夏の空――
不思議な空間だ。
夏である事はわかるが、無音の世界だった。
セミの鳴き声ひとつない。
体力ゲージを見ると0だった。
俺たちは、死んだ……のか?
起き上がると今度は、ひまわり畑が目に映る。
周りを見渡せば姉ちゃんたちが倒れている。
駆け寄ろうとした、が動けなかった。
このひまわり畑に。
ギター音が響きはじめたからだ。
何者かが居る――俺は警戒する。
「〜♬」
麦わら帽子に白いワンピースの、謎のお姉さんがいた。
鼻歌交じりにギターを奏でてている。
一つ付け加えるならば、おっぱいが大きい。
「あっは、起きた? 桜日蒼司くん」
お姉さんが、俺の名を指す。
なぜ俺の名を知っている?
麦わら帽子と前髪で、目元は見えない。
「あなたたち、すごいんじゃんね」
「……すごい。なんの事、ですか、お姉さん」
不思議なお姉さんだった。
俺はこのお姉さんと、少し会話してみようと。
そう思った、それは。
はじめて会う感じがしないからだ。
「えっとね? 私が間違えて序盤に配置しちゃった魔孔ザリガニ、そのうちの一体を倒すなんて、感服感服ってワケ。てへっ」
うぉっ。
テヘペロ的な仕草をするお姉さん。
キッツ一歩手前だろうか、その事は口には出さなかった。
そんな事より、聞きたい事が山ほどある。
「あんた、姉ちゃんたちに何をした、ここはどこだ、何者なんだ」
俺はお姉さんを少し睨む。
「わお、質問が多いね、いいね若いね。じゃあ順を追って説明するね」
……悪意、らしきものはなさそうだ。
このお姉さん。
どちらかといえば、感じるのは俺に対する興味……?
「彼女たちはね、魔孔ザリガニ群の泡ブレスから貴方を守ったの。守りきれてなかったけどね」
「俺を、守ろうとした……? ったく過保護な姉ちゃんたちだ」
「あっは、愛されてるんだから悪態つかないの。素直じゃない弟くんだなぁ」
「……そりゃどうも」
「体力がゼロになると強制的にログアウトできるけどね。まあ、ここからが本題――私は貴方と話したかったの」
「……俺と?」
「そう、あっと。この場所の説明もするね? この場所は、天つ御空――生と死の境界線だよ」
俺は血の気が引く。
ゲームだと思っていた世界は、マジで死ぬ事もあるのか?
いやでもさっきログアウトって――。
「あっは信じた? ゴメン冗談冗談。そんな怖い顔しないで? ゲーム設定上の話。体力が切れてもログアウトするだけだし、ログアウトしたらちゃんと現実世界に帰れるよ」
……冗談かそうでないのか、判断がつかない。
飄々としているこのお姉さんはなんなんだ。
それに、この世界についてやけに詳しい。
「でもね? チートはいただけないから、ちょーっと没収させてもらったよ。笑っちゃうよね、ガチャを提供したら自らそれをやって費やしたんだから」
あはは、くすくすっと笑うお姉さん。
その言い草。
ガチャを回すことによっておっぱいptを消費してしまう仕様。
その結果実際のおっぱいが削られるのは、この人の策略だったのか?
だがそんな事が出来るなんて――。
「何者なんだ、あんた」
「あはぁ。自己紹介、しようか」
お姉さんは笑うと、自らの喉元を押さえた。
『これで 満足かナ? 桜日蒼司クン』
――!
デスゲーム風音声。
「私は貴方のお姉ちゃん、桜日いづるから分離して自由になった存在。チートおっぱいの魔王因子、魔王像幻影」
!
思考が追いつかない、だが。
「言い換えれば、この世界に顕現した魔王。でもまだまだ完全じゃない。だから全人類のおっぱいをゲームという形で吸収させてもらうの――それが私の、力の源なのだから」
……少しわかってはきた。
「つまり、チートおっぱいが姉ちゃんから分離して、この世界を支配しようとしているのか?」
「わお、ご明察ぅ。当たらずとも遠からずと言ったところだねぇ」
いわば、チートおっぱいの擬人化。
そのような存在なのだろう。
だが自身が言うように、まだ完全体ではないらしい。
「さて、状況説明と自己紹介はこのくらいにしとこうかな? ちょっと相談なんだけど。私、魔王だけれど明確な名前がないの」
「なるほど、それは不便だな」
「そうそう、困るよね? ただの魔王でもいいんだけど。それじゃ味気ないでしょう? 私の名前を、貴方に付けて欲しいの、桜日蒼司くん」
は? 俺が!?
名前だと? 急に言われても、なあ。
俺はお姉さんを見る。
まあ別にいいが。
年齢不詳のお姉さんから、名前を付けてとお願いされて断る少年がいるだろうか?
いやいまい。俺は思案し、お姉さんを観察する。
麦わら帽子のお姉さん。
メカクレ白髪のお姉さん。
白いワンピースのお姉さん。
おっぱいがデカいお姉さん。
印象から感じるのは驚きの白さということだ。
その素肌も白い。
そもそも姉ちゃんから分離したから、姉ちゃんの因子も持ってるのか?
それに、いずれ魔王となる存在? だよな?
ああもう! わかんねー!
俺は考えがまとまらないまま、無意識のうちに次の言葉を口にしていた。
「……白亜の、姉魔王――ハクア?」
「! いいね、それ。じゃあ私は今から【白亜の姉魔王・ハクア】そう名乗ろうかな」
「う、うう……蒼司……」
姉ちゃんの声。
意識が戻ろうとしている?
「姉ちゃん!」
俺は倒れている姉ちゃんへと駆け寄る。
「うーん麗しい姉弟愛、嫉妬しちゃうな」
ニタニタ笑うお姉さん。
いや【白亜の姉魔王・ハクア】
「さて……用事は済んだし、貴方たちは、強制送還させてもらうね?」
お姉さんがなにやら胸の谷間から、光り輝くカードを取り出す。
「管理者権限カード! 発動するよー!」
「なにっ、管理者権限カード、だと!?」
「そう、管理者。これからは私が真なるGMとなって、この『世界的おっぱいサマー』を管理させてもらうから」
そのカードが輝きを増して光る!
『イツキ さん が、ログアウトしましタ』
『アズサ さん が、ログアウトしましタ』
ツキ姉とアズ姉は、消失した。
「くっ、あんた何を――」
「大丈夫、彼女たちを現実に跳ばしただけだから。それより、その娘。桜日いづるちゃん」
お姉さんは、姉ちゃんを見る。
そして俺に視線を移す。
「蒼司くん。お姉ちゃんを、いづるちゃんを、ちゃんと守ってあげてね」
は?
なにか意味深なことを言うと、お姉さん。
白亜の姉魔王・ハクアは俺たち姉弟を跳ばした。
読んでくれてありがとう
次回は帰宅回です




