その力、夏の異能センス
『ズワイ、ズワイ』
「! このカニ、なにか喋って主張していますね! ザリガニがカニになるという原理はよくわかりませんが」
「ふむ、解説が必要のようだね」
ツキ姉が解説する――。
「甲殻類が悠久の時を経て、効率化を求め、カニのような姿へと収斂進化する――カーシニゼーションの一つと考えられているのさ」
「はぇ、なんですかその設定」
「明確な弱点があるんだよにぇ☆ 変わらず炎属性が弱点な事と、横歩きしかできない事だょ☆」
「それを見越してか横からの攻撃を想定していて、側部の装甲は硬いのさ。だけれども」
俺は幼馴染み二人の発言に乗る!
「斜め横からの攻撃は安地で、てきめんなんだぜ!」
「アンチってなんですか? 蒼司、反抗勢力ですか?」
姉ちゃんはゲーム用語には疎い。
「安地は、安全地帯って事だぜ!」
モンスターはプログラムされた行動パターンを持つ。
それによって各々に安全地帯が設定されている。
俺は全モンスターのそれを、ある程度把握していた。
それはなぜか。
姉ちゃんが死んでいた時に、惰性でサタニック・オンラインをやり倒していたからである。
その事が、実を結ぶかもしれない。
俺はその安全地帯と思われる、魔孔ザリガニの斜め懐に潜り込み、攻撃を――。
その時、驚くべき事が起こった。
『ズワイ、ズワイ』
!?
前進できない筈の魔孔ザリガニが、前歩きをし始めたのである。
そして、前後左右対応される!
ガキィン!!
くっ、カタナを弾かれた。
「前に動いた!? これじゃあ隙が無いんだよにぇ☆」
「へぁ!? カニって前に歩けるのですか!??」
姉ちゃんの疑問。
それの解説をするためだろうか、更にずずいっとツキ姉が前線に出てくる。
「エビから進化したといわれるカイカムリ、ヤドカリの一種であるタラバガニなどは、前方に歩行できるのが確認されているのさ。これもひとつの、カーシニゼーションといえるだろう」
「いつきいつき、それって最早カニなんだよぉ☆?」
『!! ……タラバ、タラバ』
「! 何か主張していますね! さっきはズワイ、ズワイとか言ってたくせにですよ。このカニ」
おそらくは、だが『世界的おっぱいサマー』となった事が原因だろうか?
モンスター共はサタニック・オンライン準拠の枠を超え、進化を遂げている!
ふはは。
恐るべきゲーム世界だ、やりごたえがあるかもしれない。
とはいえ魔孔ザリガニは前後左右動けるようになり、俊敏なモンスターと化した。
近距離ではハサミを回転させて叩きつける、中距離では口腔から泡ブレスを放射拡散したりする。
かろうじて躱すのがやっとだ。
苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
さっきは序盤モンスターと侮ったが、それは大いに間違いだった。
序盤から恐るべきモンスターである。
このままではジリ貧で全滅……? そんな文字が頭をよぎる。
全滅するくらいなら逃亡した方がいい。
ならば戦略的に撤退するべき。
よし逃げるぞみんな、そう思った矢先――。
「ねぇ、蒼司」
俺の近くにいるのだろうか。
透明化している姉ちゃんが語りかけてきた。
「私、さっきから考えていたんです。カーシニゼーション? によって甲殻類がカニになる……て事はですよ? エビ炒飯もそのうちカニ炒飯になってしまうという事ですか!?」
姉ちゃんはこんな時に何を言っているのだろうか。
しかし――そうか、そういう考え方もあるのか。
「……別にいいくない? 俺カニ好きだし」
「えくありません! 逆に考えてみてください――例えば、卵ふんわりなカニ玉が、エビ玉になってしまうという事ですよ!?」
「!! ――確かに、それは由々しき事態だ」
「そうです、そうですよね、そうなんですよね? 許せません!! 魔孔ザリガニさんに恨みはありませんが、倒させてもらいます! はあぁぁっ! スキル発動!」
スキルの切り替えだろうか、姉ちゃんの透明化は解かれている。
その指先が発光する!
「ふっふっふ。私は水属性をできうる限り強化しているんです、更にはそれと相性が良さそうな【水芸師☆3スキル・超水圧砲】もたまたまゲットしています」
何その水芸スキル、宴会用かな?
「蒼司。水ゲージ溜めるための、なにか飲み物をください」
あ、水分補給はアナログなのね、えーと飲み物飲み物と。
俺はアイテムボックスから【☆2回復・麦茶】を使用する。
カラン。
すると、コップと氷が入った麦茶が出てきた。
それを姉ちゃんに渡すと、姉ちゃんは一気飲みを敢行する!
「ぷっはあー。充填した気分です! では、超水圧砲準備しますよ!!」
迫る魔孔ザリガニ――!
それを引きつけ、指先を構える姉ちゃん!
カッコいい!
「超・水圧砲、発射!!」
ビシュウウウ!!
姉ちゃんの指先からほとばしる水流!
麦茶で構成された超水圧砲が、魔孔ザリガニにクリーンヒットする!
「もっといきますよ!! もっと!!」
水圧が更に増す!
多段ヒット!
多段ヒット!
多段ヒット!
「んんんん! スラッシュ!!」
ザンッ!!
姉ちゃんはビームのような超水圧砲を鋭利にしならせる事で、魔孔ザリガニを真っ二つにした。
麦茶ビームソードといったところだろうか。
それにしてもエグい……。
辺りには魔孔ザリガニの体液と、麦茶の雨が降る。
「ねぇ、もうずっち一人でいいくない☆」
「フ、我らには説明と解説の役目があるのさ」
弱点でもない水属性で魔孔ザリガニを圧倒した。
姉ちゃんのステータスは、かなり強化されていると考えられる。
加えてゲットしたスキルの組み合わせなど、我が姉ながらその発想と戦闘センスには目を見張るものがある。
姉ちゃんの厨二時代を思い出す。
何はともあれ勝利だ。
「えっへん! ビクトリーですよっ!」
姉ちゃんは高らかに勝利宣言をする。
読んでくれて感謝です
あとちょっとで2章が終わります




