押しちゃうスイッチ
試着室を出ると、二人の幼馴染みは寝転がっていた。
「いつまでくんずほぐれつしてるんだヨォ☆」
「ふ、流石に待ちくたびれてしまうところなのさ」
二人は、そう言いながらやおら立ち上がる。
「まあまあ、二人とも――ほら見てください。私のおさげの毛先が、桜色のグラデーションになってますよ!?」
「姉ちゃんのグラデおさげ、太ねぎみたいだよな」
「ええそうです。私は太ねぎ――って蒼司。今私の太もも太いって言いましたたあぁぁ!??」
「言ってないぞ」
俺たちのパーティは着替えが完了した。
簡潔にいえば、みんなの衣装と職業はこんな感じである。
俺は赤メッシュで黒装束のサムライ。
姉ちゃんは冬セーラー服の幽霊。
ツキ姉はスク水白衣ローブの錬金術師。
アズ姉はギャル制服風魔法剣士。
うおおおお! テンションが上がる!
パーティ結成である。
それに――。
「現実では、できなかったような衣装! これは心踊るぜ」
「そーくん、実際に踊るのさ!」
「そだねぃ、踊ろうよぉ☆」
「えぇ……仕方ありませんね。ミラーボールと巨大スピーカーでも出しますか」
――ぽいんっ!
戸惑う姉ちゃんだが、場を整えてくれた。
中空には煌びやかに光る球。
重低音を響かせる巨大スピーカー。
「まるでダンスホールに来たみたいだぜ」
まあ、そんなアダルトな空間に行ったことはないが。
なんにせよ俺たちは踊る――!
ズンチャ♬
ズンチャ♬
『……準備完了でしょうカ ゲームを始める前ニ 同意文書ヲ お読みくださイ』
俺たちが踊っていると、そのようなデスゲーム風音声が辺りに響く。
そのアナウンスと共に――地面から謎の台が迫り上がって現れる!
「!?」「!?」「!?」
「うゆ!? なんですかコレは」
驚愕する俺たち。
謎の台の上には、赤いスイッチボタンが付いていた。
そのボタンには『同意する』と書かれている。
なんだ?
――なんかヤバい予感がする。
その直後、俺たちの眼前に立体的な文体が現れる。
【同意文書及び利用規約】
とある。
なるほど、先ほどのあのボタンは、それを読んだ後に押す同意スイッチということか。
まあ、ざっと目を通してみよう。
同意文を読もうとした矢先――!
「ふっふっふ。赤いボタンというのは、押してみたくなりますね!」
姉ちゃんは何やら発言をする。
そしてその声はより大きくなる!
「このような、いかにも押してくださいというスイッチに遭遇した時、みんなどう思いますか?」
「いや押さんが」
「押さないのさ」
「アズもだょ☆」
「えぇ……みんな肝心なところで自制が効いていますね。この世界はゲームですよ? いわば架空、それに何かあっても私にはチートおっぱいがありますからね」
姉ちゃんは、いつにも増して調子に乗っている。
先ほど踊りはしなかったが、俺たちとは別の方向性でテンションが高まっているのかもしれない。
「私はこの世界の創生神です。なんでもできてなんでもやれます! ならば、必然的に指先が押してみたいという欲求に駆られてしまいますね。しまいますよね? ならアレです。押してみましょう!!」
姉ちゃんは高揚しており、謎理論を展開する。
案の定、案の定だ。
「ポチッとです」
次の瞬間――姉ちゃんは、赤いスイッチ。
利用規約なんてなんのその。
目を通さずに同意ボタンを押していた。
『同意 サレマシタ』
『ゲームスタート シマス』
直後、デスゲーム風音声はそのように言った。
読んでくれて感謝です!
もしよかったら応援よろしくお願いします
次話はガチャを回します
またみてね




