髪の先⇒グラデーション!
着替えて外へ出てみると、ツキ姉とアズ姉も着替えを済ませていた。
それぞれ風貌が変わっている。
「ややっ、その黒ずくめの姿。似合っているぞ、そーくん! 我も見てくれ! 銀髪で! 眼帯で! 片眼鏡で! ヘテロクロミアなのさ!!」
ツキ姉は身長が高く、顔がいい。
素材はいいが、それを属性で覆い隠している。
言うなれば、ステーキの上にチーズハンバーグを乗せているような所業――属性盛り盛りである。
そのコーデは身体のラインがわかるスク水的なボディスーツ、豪奢なローブとさらに上に、白衣をマントのように羽織っている。
「ヘテロ? クロレラ? いつきさぁ、ソレなんだかよくわからない単語なんだゾ☆ それはそうと、そーちゃん黒ずくめでカッコいいゾ☆」
アズ姉も寄ってきた。
アズ姉の語尾はカタカナになり、さらには☆マークが付きはじめた。
なにその機能。
ツキ姉は、ずずいっとアズ姉に相対する。
「この眼はヘテロクロミアさ。まあ無知蒙昧なあずさには、オッドアイと言えば分かりやすいかな」
「あーそれならわかるよ。でも片メカクレでそこに眼帯もしててさらにオッドアイとか意味なくなくない? 無意味なオッドアイだヨ☆ 無意味ムイミー☆」
ツキ姉とアズ姉は軽口を叩き合っていた。
この二人は、俺と姉ちゃん――桜日姉弟と知り合う前から幼馴染みで、腐れ縁。
より遠慮がない感じだ。
「そんな事よりそーちゃん! 見て見て! ヘソ出しだヨォ☆」
アズ姉のコーデ。
夏服の学生風シャツを、下乳の辺りで結ぶようなヘソ出し。
チェックのスカートの上には青いジャージを巻いていて、白いルーズソックスとローファーが輝く。
髪色は緑色となり、サイドテールでオサレな赤縁メガネをしていた。
にしても緑髪にメガネ、か。
なるほど、ツキ姉とは別ベクトルで独創的だ。
だが二人とも、その姿からはどのような職業かわからない。
なので俺は尋ねてみることにした。
「んで、二人の職業はなんなの?」
「ふ、我は【錬金術師】なのさ」
「アズは【魔法剣士】だヨ☆」
なるほどね。
このゲームの戦闘はまだ、どのようなものかまだ不明だ。
だが、職業から推測するに――。
ツキ姉はバフやデバフが出来るサポーターな後衛。
アズ姉は臨機応変に動けるアタッカーな中衛とみた。
一方、俺は。
個性を演出するために、地黒の髪色にワンポイントで毛先に赤グラデーションを入れてみた。
それ以外は基本的に黒装束である。
手には指抜きグローブ。
履いているボンテージパンツには、脚と脚の間に垂れている謎のベルト。
だが特筆すべきはここからである。
開いた胸元、高く立った襟、長い裾。
そう――俺が着ているのはコート!
キャラクリ出来る世界とあらば。
男子ならば、黒衣のコートは外せないだろう?
もう一度全身を見る。所々にあしらえられたベルトの意匠がイカすぜ。
そのコートの裾を、ちょいちょいと引っ張られた。
「蒼司ぃ。私はどうすればいいんですか? アバターに着替えるとか、よくわかりませんよぉ」
見れば姉ちゃんは冬セーラー服のままだ。
そして涙目になっている。
あぁもう。
そのような顔。そして声を聞くと、いてもたってもいられなくなる。
そういう顔をもっと見たい。
だが。
俺はその手をとり、タッチパネルの操作を補助する。
「キャラクリだよキャラクリエイト。まあ姉ちゃんはセーラー服に黒スト似合うし、それを探してみよう。まずは職業を選ぼうか」
「ふーむ……あっ! 蒼司? 髪にメッシュ入ってるじゃないですか! 赤色メッシュとか不良になってしまったんですか!?」
「メッシュではない、グラデーションだ」
俺は顔に手を当て、カッコいいポーズをキメる。
ビシィ!
「? 似たようなもんですよ! 前髪が赤ねぎみたくなってるじゃあないですか。黒髪に産んでくれたお母さんに申し訳ない気持ちでいっぱいです、蒼司が不良になってしまいましたぁぁ〜〜!!」
そんなやりとりしつつも職業を探す。
「ねーいつき、この姉弟距離近くなぁい?」
「ふ、我もそう思う。だが桜日姉弟はこれが普通というか自然な事なのだろうさ」
うーむ姉ちゃんの職業か、ピンとこないな。
「ええと私の職業職業と……バイト先で考えますと、カレー屋スタッフとか、スーパーの店員とかですかね?」
「うーん【商人】はあるけど、どちらかといえばウエイトレスや販売員とかだからな。姉ちゃんは俺的には【村娘B】といったイメージなんだよな」
「ふふっ。なんですか? それ」
姉ちゃんが笑う。
そういう顔ももっと見たい。
「あ、蒼司のその格好はスタイリッシュですね。【剣士】みたいな感じですけれども」
「ん、俺の職業は【サムライ】だ」
そういえば、今は素手だ。
刀がないぞ。
どうやって武器をゲットするのだろう。
「へぇ、サムラァイですか。ま、まあ似合ってますしカッコいいですけれども……)
「え、なんか言った? 途中からよく聞き取れなかった」
「ななななんでもありませんぉ!!!」
ふーんそっか。
さて姉ちゃんの職業職業っと……ふと思いつく。
「職業だけどさ。幽霊、とかいいんじゃないか? 一覧で見かけた気がする」
――幽霊。
それというのも四十九日からこっち、姉ちゃんの幽霊騒ぎでバタバタしていたからか、幽霊がしっくりきていた。
「コーデを探したら、ストッキングに冬用セーラー服もありますね。至れり尽くせりです――あ、【幽霊】ありました。詳細も載ってますよ? なになに……?」
【幽霊】
初期体力は低めだが、移動速度が速い職業。
特殊攻撃力は比較的高く、逆に物理攻撃は苦手。
ガチャで固有のスキルをゲットすれば、相手の攻撃など無力化できる可能性も秘める。
運用によってはタンクも可能。
弱点も多いが、トリッキーな動きが期待できる。
「……とあります。ガチャやタンクの意味がよくわかりませんが【幽霊】いいかもしれませんね? コレに決めました!」
姉ちゃんは生えてきた試着室に入った。
すると、すぐさま衣擦れの音が聞こえてくる!
ほうほう……。
セーラー服からセーラー服に着替えているのか。
しばらく待っていると。
ヌッ。
カーテンから指抜きグローブをした手が出てきた。
手招きしている。
「蒼司ぃ、ちょっと来てくださいぃ」
中に入ると姉ちゃんは既に着替えを済ませていた。
姉ちゃんのコーデはこの世界仕様の冬セーラー服、ストッキングを履いた脚が眩しい。
姉ちゃんは浮いているため。
そして靴を履いていないため時折、つま先や足の裏が見えたりする。
素晴らしい、素晴らしいぞ。
そして俺は最近、膕という言葉を覚えた。
ひざ裏の、くぼみの事である。
時折見える姉ちゃんの膕は、まさに神の領域と言えよう。
「ひかがみ! ひかがみ! 姉ちゃんは神!!」
「何を言ってるんですか? 蒼司。まあ私は神ですけれども、ふふん」
ちょっと脱線したが姉ちゃんのコーデの続きだ。
長めの黒いカーディガン。
それを冬セーラー服の上から着ていて、袖はちょっとダボダボである。
ふと、その袖をまくる。
「えへへぇ、蒼司とお揃いの指抜きグローブですよ? ……なんだか懐かしいです」
……姉ちゃんには訳あって厨二病の時期が存在した。
ここでは割愛するが、その時の姉ちゃんは自己流厨二コーデで俺相手に、くるくる回っていた事を思い出す。
「あとですねぇ。蒼司を呼んだのは私も、蒼司みたいに髪の先にグラデーション? してみたいと思いました」
「なんだ、姉ちゃんも興味あるんじゃんね」
「あう、えぅ。お母さんごめんなさいです……みんな髪色いじってますし、ゲーム世界ですし、この機会にちょっと染めてみたい欲求には勝てませんでした」
俺はやり方を教える――。
狭い試着室で、姉弟の時間が図らずも訪れた。
そうだ。
姉ちゃんが還ってきてくれたんだ。
少しづつ、こういった時間を取り戻していこう。
姉ちゃんのおさげ。
その毛先が、桜色に色づいていく。
暖かなグラデーション。
「綺麗だぞ、姉ちゃん」
「は、はい。ありがとうです……蒼司」
姉ちゃんの頬も、少し紅く色づいていた。
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