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いろとりどりの曼荼羅

 

 過去にタイムリープする。

 そのために姉ちゃんは、再び自らのチートおっぱいと対話していた。


 曰く。

 問題なく現在の記憶を保ったまま特異点となり、さかのぼる事が可能との談。


「ええまあ、チートさんと対話した結果。なんとかなると思います」

 胸に手を当てながら、そのように言う姉ちゃん。


「時空跳躍座標(ちょうやくざひょう)? とか詳しい事はよくわかりませんが、転位する上での細かな調整は、自動でやってくれるようです。あとは跳ぶ日付けですけれど、いつにしますかね」


 座標も自動とは、流石は全知全能のチートおっぱいだ。

 頼りになるぜ。


 さりとて日付け、か。

 ――俺は思う。

 それならば、あの日しかないだろう。


「7月19日、終業式の日だ。今度は姉ちゃんを一人にさせない。保健室でもどこでも乗り込んで寄り添ってやるぜ!」


「あば、あばばばばばばば。何言っちゃってるんですかねぇ!! この弟さんはあぁぁ(その気持ちが嬉しいんですぉぉおお!!)」


「まったく、この姉弟はやれやれなのさ」

「じゃあさ、夏休みに備えての買い出しとかはアズ達に任せるんだぞ?」


「はい。買い出しお願いしますね? それでは、時空跳躍といきましょう!」


 ――ぽいんんっ!!


 これまでとはひと味違った、荘厳(そうごん)な雰囲気の魔法陣が数個現れる。

 コォォォォ……!

 コォォォォ……!


「ふぉ、より高位な感じの音が鳴ってますよ? それでは願います。私たちを今年の7月19日にタイムリープさせてください!」


 コォォォォ……!


 ……あれ?

「んん? 何も起こりませんね」

 姉ちゃんが言うように何も起こらない。

 不発だろうか。


 みょんみょんみょんみょん……。

 ふと姉ちゃんの胸から、音が響いた。

「あ、まだゲームをインストール中なんでしたね」


 なーお。

 不意に猫用扉が開く。

「あ、きゃわたんなモニカが入ってきましたね」


 ピンポーーーン。

 唐突(とうとつ)にインターホンが鳴る。

「ふえぇ? こんな深夜に誰ですかぁ?」


 備え付けられたインターホンの画面を見てみると。


『夜分遅くにすまない。少年、私だ。逢然(あいぜん)天南(モナ)だ! 君の願いに応え、心霊現象を解決しに来たぞ!!』


 いざタイムリープしようという時に、色んなことが立て続けに起こる。


 来訪者は美少女僧侶、天南さんか。

 変な時に変な人が来てしまった。

 思い返せば夕方、彼女に電話した気がする。


「蒼司ぃ? 深夜にあの美少女僧侶さんを呼んでいるとか、どういう事なんですか!?」


「いやまあ、俺が呼んだのは確かだけど。浮遊する仏像の件で――」


 ピンポピンポピンポピンポーーーン。

『少年んん! 私が来たからにはもう安心だ!! 浮遊する仏像の怪異、除霊してみせようじゃないか!! ハッハッハッハ!!』


 天南さんは高笑いしながらインターホンを鳴らし続けていた。

 怖い。


「ああもぅ。(わずら)わしいですし近所迷惑ですから、あの人もこの部屋に召喚しますね」


 ――ぽいんっ。


 すると部屋に、天南さんが現れる!


「……!? 瞬間、移動? 私は瞬間移動してまったぞ!? なんと珍妙(ちんみょう)な出来事だろうか!!」


 いきなり転位させられたにもかかわらず、この発言である。

 すごい胆力(たんりょく)だ。


「それになんだこの部屋は? 色とりどりの曼荼羅(まんだら)が浮かび上がっている! なんと面妖(めんよう)な!!」


「あのですねぇ。曼荼羅ではありません、魔法陣ですよ!? 私たちは今、タイムリープするところなんです。美少女僧侶さんはちょっと黙っていてください」


 ぽいんっ!


 天南さんの口元(くちもと)に、バッテンマークが現れる。

「! もが、もがもがもが」


 チートを使って天南さんを強制的に黙らせた……。


 コォォォォ……!

 コォォォォ……!

 部屋には、荘厳な魔法陣の音が響いている。


「にしてもこの魔法陣。コォコォ言ってるだけだにぇ。全然チート発動しないんだぞ?」


「ふむ、負荷(ふか)がかかっているのかもしれないのさ。恐らくは……ソフトというよりハード的な問題かな」

 ツキ姉は姉ちゃんを見る。


 つまりは姉ちゃんに負荷があるという事だろうか。

 無理を、しているのだろうか?

 そう思った矢先――。


 ぽいんっ! ぽいんっ!

 突如として姉ちゃんの胸の辺りから魔法陣が出る!


「はわ、想定外です!? 何もしてませんよ!?」


 何もしてないのに魔法陣が出る?

 まさか、チートおっぱいの暴走!?


 ぽいんっ! ぽいんっ! ぽいんっ!

 ぽいんっ! ぽいんっ! ぽいんっ!


 アホみたいな効果音と共に、姉ちゃんの胸から魔法陣が無数に出現する!

 それに(ともな)い、セーラー服の胸元が炸裂する!!


「ひえぇ!?」

 だが姉ちゃんの尊厳(そんげん)はブラによって守られた! 凄いぞブラジャー!!


 ぽいんっ! ぽいんっ! ぽいんっ!


「はわわ……!」

 おっぱいの辺りを押さえながら、あわてふためく姉ちゃん。


 そういえばその谷間に、サタニック・オンラインと俺のスマホが挟まってるのがわかる。

 やはりそこでダウンロードしていたのか。

 確認ヨシ!


 だが魔法陣は出続けてるし、これはいずれヤバイぞ。

 応援しなければ! 頑張れブラジャー!!


「頑張れブラジャー!!」

「ちょ! 何を応援してるんですか!? あと谷間を凝視(ぎょうし)しないでくださいい!!?」


 無理だろ。魔法陣が出るたびにたゆんたゆん揺れているのだ。

「無理だろ。魔法陣が出るたびにたゆんたゆん揺れているのだ」


「ひぃぃん。おこたんですよ!!?」


 あ、姉ちゃんちょっと怒ってる。

 調子に乗りすぎてしまったか。

 ぽいんっ! と音がした次の瞬間、俺の目の前が暗くなった。


 !?

「そーちゃんの目元に黒線が入ったよぉ!?」

「目線バーとは粋だね」

『愚弟は、まさに指名手配犯のようです』

「もが、もがもが」

 なーお。


「やらしーのはだめですよ! 今は!」

 姉ちゃんの仕業だった。

 ん、今は? うん……?


 それはさておくとしておいて、素直に謝ろう。


「――ごめんな姉ちゃん、ちょっとハイになっちまった」


「まったくです。今のうちに服を再生します」

 ぽいんっ。


 どうやら姉ちゃんは服を再構成しているようだ。

 その直後だった。


(もうです。もうーー! ウチの弟はバカです)

 どういうわけか、ふと声が聞こえた。


(バカやってる時も好きですけど、今はバカやってないで、お姉ちゃんのそばにいてくださいよぉ……力の奔流(ほんりゅう)に意識が持ってかれちゃいそうなんです……!)


 姉ちゃんの心の声?

 それが、俺の頭に響く。


(助けて、蒼司ぃ……!)


 !!

 姉ちゃんは。

 平気そうに見えて、いっぱいいっぱいだったのか。

 やっぱり色んな意味で無理をしていたんだな。


 そりゃあ、そうだ。

 異世界から還ってきたばかりで。


 チートを得たり透明だったり。

 色々不安で寂しさとか。

 そんな中でも還って来れた嬉しさとか。


 色んな感情がまぜこぜになって、結果テンパっちゃってチートも暴走しちゃったのかもしれない。


 色々抱えて――しょうがない姉ちゃんだ。

 でも俺を、(ふる)い立たせてくれる。

 俺に、踏み出させる勇気をくれる。


 なら、俺に出来る事は。

 ――姉ちゃんを、安心させる事だ。


「姉ちゃん、手ぇ出して」


「ふぇ?」


「手、出して。握っててやるから――いや、俺が握りたいんだ!」


「そ、蒼司ぃ……! ありがとぉ……!!!」


 ぎゅう。

 少しの涙声とともに、そのような感触――!

 温かで細い指が、俺の手に絡みつく。


「あ。でも、アレですね。蒼司カッコ良さげな事言ってますけど、目線バーが入ってますから、しまりませんね。ふふ」


「あのさぁ、姉ちゃんがしたんだけどぉぉ!?」


『ふふ、無様な姿がお似合いですよ。愚弟』


 こんこちゃんは俺を(あお)る。

 だがそれは、優しい声色(こわいろ)だった。


 コォォォォ!!!!


 ! 見えないが、音でなんとなくわかる。

 魔法陣が効力を持ったようだ。


「ワオ、チート発動しそうなんだぞ?」

「ふむ。姉弟の絆で、魔法陣が安定化したという事だろうか」


 なーお。

『凄い光です。私のソーラーパネルも喜んでいます』

「もが、もがもが」

「もう飲めないわよZzz……」


 俺と姉ちゃん。

 幼馴染みのツキ姉とアズ姉に。

 モニカにこんこちゃんに天南さんに叔母さん。


 いつものメンバー以外にも、何人かいる状況だけれどまあいい。


 さぁ、タイムリープだ。

 俺たちは、光に包まれるのであった――!!


読んでくれて感謝です!

もしよかったら応援よろしくお願いします


はてさてタイムリープは成功するのか!?

続きはまた明日

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