32の日のAUG
姉ちゃんは、ゲーム世界を構築する腹づもりらしい。
「ふふっ、世界構築を発揮する時です。えっと、そのためにですね? 参考にするのでゲームソフトを貸してください」
そう言われ、サタニック・オンラインをパッケージに入れて渡す。
すると驚くべきことに、姉ちゃんは服の中にゲームソフトを入れた。
そして更にモゾモゾと、ゲームソフトを。
おっぱいの谷間に、挟んでいるようだ。
「これでよし、ですが。うーん何か足りませんね……」
「え? 足りないって何、姉ちゃん」
「えっとですねえ、チートおっぱいさんと対話してるんですけど、他のゲームの要素も取り入れたいと言っています」
えぇ……。
姉ちゃんはおっぱいと対話している……らしい。
にわかには信じがたいが、そう言うのならばそうなのだろう。
チートおっぱいには意思でもあるのか?
ますます不思議である。
とはいえ他のゲームも取り入れたい、か。
「じゃあこれは? ソシャゲの要素も足そうぜ」
俺はスマホを姉ちゃんに渡す。
テキトーにやってるソシャゲが、いくつかインストールされているのだ。
だいたい微課金だけど。
「ソーシャルゲーム、ですか。いいかもしれませんね! ですが蒼司、課金は程々にですよ?」
謎の注意。
こういうところはまるで母さんみたいだ。
しかし俺の課金は、姉ちゃんからのお小遣いの一部や、叔母さんからの臨時収入を使うくらい。
倹約家と言えるのではないだろうか。
そう考えていると、先ほどと同じように俺のスマホも服の中に入れる姉ちゃん。
そしてそれを挟む仕草。
「ん、チートさんも満足してるようです」
ほう、チートおっぱいのお眼鏡にかなったのか。
はてさて、どのようなゲーム世界が作られるのだろうか。
楽しみである。
「さて、インストール開始です」
みょんみょんみょんみょん……。
「! はわわ……音が鳴ってます!?」
「変な音だにぇ」
「いづるくんのおっぱいの辺りからなのさ」
何の音だろうか?
「あ。あまり聞かないでください、コレはアレです……ゲームをインストールしてる音ですぉ」
みょんみょんみょんみょん……。
みょんみょんみょんみょん……。
ゲームをインストールする効果音のようだ。
姉ちゃんのおっぱいの辺りから、その音が響く。
「すやぁ……すやぁ……」
急に皆無言になったので、インストール音の他には叔母さんの寝息が聞こえるほどである。
みょんみょんみょんみょん……。
みょんみょんみょんみょん……。
妙な間が、俺たちを包む――。
「!? わぁぁぁ! 12時過ぎてます!?」
が、姉ちゃんは時計に気付いたのか。
その騒がしい声で俺たちは我に帰る。
時計を見れば12時を回り、日付は9月1日になっていた。
「はわわです。いつのまにか、こんな時間でしたとは……!」
「なにを慌てているんだ? 姉ちゃん、学生にとってはまだまだ浅い時間だぜ?」
「あのですね宿題ですよ、宿題! 夏休み明け登校初日にコレが出来ていないとあらば、真面目系で通っている私の沽券に関わります!!」
「明日学校だよにぇ。アズは思ったんだけどさぁ。一度死んじゃった人間が浮いて登校して来るとか、ある意味ホラーだよぬぇ」
「とはいえもう宿題などをしている時間はない。どうするのさ、いづるくん」
「どうもこうも。チートを使用します!」
姉ちゃん胸の辺りから、勢いよく魔法陣が飛び出した。
――ぽいんっ!
俺たちは光に包まれる。
この光にも慣れてきた。
「今出したチートは、今までのチートとは違います……禁断の術を使ってしまいました。私は咎人かもしれません……」
「とがにん? 忍者って事なんだよ?」
「! 確かに。響きが忍者っぽいですね、私はとが忍! ニンニン!」
忍者ポーズをする姉ちゃん。
可愛い。
しかし禁断の術とは、なんなのだろうか。
「いづるくん。一見なんともなさそうだが、なにをしたのさ?」
「ふっふっふ、日付を見てみてください。これで宿題をする時間が確保できたというものです」
ドヤ顔する姉ちゃんだ。
しかし日付を確認しようにも俺のスマホは、姉ちゃんのおっぱいに挟まれているので手出しができない。
「――タブレットを出すのさ」
察したツキ姉がタブレットを出してくれる。
それで日付を確認するとしよう。
どれどれ……?
8月32日――?
うん? なんか変じゃね?
間を置いて、はたと気づく。
8月が、1日増えていたので俺は驚くのである。
「夏休み増えとる!」
「素晴らしいチートだ、いづるくん!」
「8月32日とか、ゲームのバグみたいだにぇ」
驚く俺たちだが、当の姉ちゃんは考え込んでいた。
「……さて、宿題もそうですが。今懸念なのは、先ほどあずさが言っていたように、世間的には私が死んでいるという事実です」
あ、なるほど。
その事を思案していたのか。
「葬式もしたから、学園生はづっちが亡くなったと思ってるよにぇ」
「いかな異世界帰りで、実際にはピンピンしているとしても、戸籍上はいづるくんは完全に死んでいるのさ」
「ふにゅう……どうしましょうか? 全校生徒や街の人たちに、記憶改竄でもかけるしかないですかね? やはり私は咎人です……」
姉ちゃんは、何やら洗脳を示唆する物騒な事を言っている気がする。
それとは別に、俺に天啓が舞い降りてきた。
――夏休みを、増やすよりも。
夏休みをもう一回送ればいいのではないだろうか?
だって1日増えたんだぜ?
「……姉ちゃん、そのチートおっぱい。1日増やせるトンチキを起こせるなら、時間を遡る事も可能なのか?」
「うえぇ? あのですねぇ、姉の胸をタイムマシンかなんかみたいに言わないでくださぉ――」
「タイムマシン? ――それだ!」
「ふえ?」
人々に記憶改竄なんかかけなくてもいい、神の如き一手があった。
俺はそのひらめきを口にする。
「なぁ、姉ちゃん。タイムリープしようぜ!?」
「ふえっ?」
「時間を遡れば洗脳じみた事もしないで済むし、何より夏休みをもう一度送る事ができる! 宿題もできるぞ!?」
「! そ、それは。良い考えかもしれませんが……」
「Re夏休み? 良いよにぇ」
「そーくん! いづるくん! 素晴らしい案なのさ」
便乗する幼馴染みたち。
「あ、あのですね? 時間というのは不可逆なんです。増やすのはギリギリセーフかもしれませんが、アレです! 仮に遡ったら、タイムパラなんとかが起きてしまうかも……?」
なんだかんだ姉ちゃんは迷ってるようだ。
あと一押し説得してみよう。
「姉ちゃんのチートおっぱい。それが、人類洗脳マシーンと、夢のようなタイムマシンになるの。どっちが良い? 俺は姉ちゃんに、夢のような存在でいてほしい――!」
「!! あわはわ、夢ですかぁ!? てっててって、照れてしまいますぉぉ――うんうん。タイムマシンが、タイムマシンが良いですね!!」
ふはは。
我が姉ながらチョロいぜ。
「ねぇねぇ? マシンとマシーンどう違うんだよ?」
アズ姉のどうでもいい疑問はさておき、今後の方針が決まった。
俺たちはタイムリープによって、夏休みをもう一度過ごすのだ。
ようこそ、夏休み。
さよなら、二学期。
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