おばおぶアルコール飲んでばぶばぶ!
俺たちが、から揚げやタルタルご飯を食べていると。
『皆さま。さらに気分を昂らせるために、乾杯してみてはいかがでしょうか?』
エアコンのこんこちゃんが、よき提案をする。
「そ、そんな。いづるちゃんの四十九日に乾杯だなんて……」
(いいんですよ? 叔母さん。私が許可します! ――ていうかいいんです!」
段々と声が大きくなる姉ちゃん。
「え、ええ……!? いづるちゃんの声!?」
戸惑う叔母さんだが姉ちゃんは、さらに畳みかける!
「一時でも私の死でみんなを悲しませてしまったのだとしたら、挽回させてください。私の大切な人たちには、笑顔でいてほしいんです!」
おお、姉ちゃんの啖呵。
カッコ良さげなポエムが発動する!
「さぁ――乾杯しましょう、みんなの好みは把握しています! 大盤振る舞いなのですよ!?」
――ぽいんっ!
すると、テーブルの上には飲み物が召喚される。
「叔母さんにはビールです!」
「は、はい! ――って大ジョッキじゃない!!」
「いつきにはドクダミペッパー!」
「! 独特の匂いが、知的好奇心を唆るのさ」
「あずさにはシチリア硬水塩レモン!」
「! 素材の味が活きてるんだよぬぇ」
「そして、われわれ桜日姉弟は麦茶です!」
麦茶かあ、コーラがよかったな。
「こんこちゃんにも何かあげましょう……!」
――ぽいんっ!
「室外機に、ソーラーパネルを召喚しましたよ!?」
『! ありがたき幸せ』
「さてです――ふえぇ、蒼司ぃ。天井に張り付くのは疲れましたよぉ。喉も乾きましたし、乾杯したいので部屋に降り立ってもいいですか?」
姉ちゃんにそう言われ、俺は叔母さんの方を見る。
「泡がきめ細かいわよぉ! 嬉れたん!!」
叔母さんは、乾杯の前にひと足早くビールの泡を堪能し、少し出来上がってるようだ。
グビッグビッ。
あいや、もう飲んでいる。
「ぷっはぁー。生ジョッキは良いわね! 生! 私の好きな言葉わよ!」
もう叔母さんは駄目だった。
まあでも、これなら姉ちゃんの姿を見ても大丈夫だろうか。
「……姉ちゃん。降りて来ていいぞ」
「はい」
スカート抑えながら、ゆっくりとお尻から部屋に降り立つ姉ちゃん。
「えへへ……蒼司の隣です。さあ、乾杯を――」
「お、お姉ちゃん……?」
叔母さんは、姉ちゃんを見つめそのような事を言う。
「へぁ? どうしたんですか叔母さ――」
「あさひお姉ちゃん!!」
姉ちゃんに抱きつく叔母さん。
あさひ。母さんの名前だ。
「ひんひんひ〜いいんんん! あひんあひん!」
「あわわ、ゆうひ叔母さん泣いちゃいましたよ。にしても変な泣き方ですね……」
「ぶえぇぇぇん! あひんあひん! えんえんひい〜いいんん!! お姉ちゃん、お姉ちゃんんん! 会いたかったよぉ……!」
(――どうやら叔母さんは酔いのためか私の事を、自らの姉。つまり私達のお母さんと勘違いしているようです。ふふっ、そんなに似てますかねぇ)
姉ちゃんは小声でそう言う。
うーん、母さんと姉ちゃんが似てる?
面影はあるけどそこまではないかも。
もしかしたら若い頃の、学生時の母さんは姉ちゃんに似ていたのかもしれない。
そういえば、母さんの学生時の写真って見たことないな。
叔母さんなら持ってるかもしれない。
幼児退行が治ったら今度見せてもらおう。
姉ちゃんは、その叔母さんを撫でている。
柔らかな手、嬉しそうに叔母さんを撫でる仕草は、母性を感じられた。
「あう、あう。えうー、お姉ちゃん好きぃ……! ばぶばぶ!」
言葉使いも、こころなしか幼くなる叔母さん。
これが、アラフォーの姿……?
「……アズはさ、思うんだけど。お酒で酔っぱらってるというより、ゆうちゃんセンセ赤ちゃん返りしてない? 大丈夫なの?」
「ふむ。幼児退行現象なら、軽微であれば寝れば治る……かもしれないのさ」
「! 寝れば治るんですね? 普段は美人な叔母さんがこんな感じになってるのは新鮮です。イタズラしたくなっちゃいますね……にへへへ」
「だー、あぅー! ばぶばぶ!」
その普段は美人な叔母さんは、現在このような感じだ。
大丈夫なのだろうか。
ふと見れば、指をわきわきさせながら悪い顔になる姉。
「ふひひ、オムツを用意しましょうか?」
姉ちゃんは何を言ってるのだろうか? ブレーキをかけておこう。
「……姉ちゃん?」
「おっと、失敬です。ライトに行きましょう、はーいゆうちゃん。から揚げを食べますよー?
「! から揚げ大好物! ばぶばぶ!」
「はーい背徳の味をディップディップしましょうねー」
姉ちゃんはから揚げをタルタルソースにどっぷりと絡ませる。
「はいとくー! でぃっぷでぃっぷ! もぐもぐ……おいしーい。タルタルすきぃ……! ばぶばぶ!」
はたから見れば幼児退行した叔母を、あやして食事を食べさせている姪。
心温まる光景ではある……のかな? そうかもしれない。
「あうー。かんぱいしたい! 就寝前の一杯わよ!」
「あはは……叔母さん、お酒は手放さないんですね。なんにせよ、です」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
なんだかんだあったが、みんなで食べて飲む時間が訪れたのだった。
「ばぶぅーーあうあうーー!!!」
グビッグビッ!
グビッグビッ!
ビールを飲み干す叔母さん……いや、アラフォーの赤ちゃん。と言うべきだろうか。
「まだまだジョッキ生はありますよっ!」
――ぽいんっ!
ゴトッ、ゴトッ!
たくさんの生ジョッキが召喚されていく!
程なくして叔母さんは、それらを飲んでおねむに。
「むにゃむにゃ……もう少しあさひお姉ちゃんといたいのにー」
「ゆうちゃん、おやすみしますか?」
姉ちゃんの申し出に叔母さんは渋々うなずく。
俺のベッドへモゾモゾと入り込むと、まもなく寝息を立てはじめていた。
「すやぁ……すやぁ……」
「女神のような寝顔だにぇ」
「幼児退行していたとは思えないのさ」
「ふふっ、疲れていたんですね。ゆっくり休んでください」
叔母さんを撫でる姉ちゃん。
その目は慈愛に満ちている。
やはり俺の姉はすごい。
俺も幼児退行して姉ちゃんに甘えたい。
そんな衝動に駆られるのである。
「さて、明日もありますし天気予報とか見ますか」
『かしこまりました。チャンネルを切り替えましょう』
こんこちゃんによってテレビ画面が切り替わっていく、その時。
「ん、なんですか今のは。さっきの画面見せてください」
『はい』
姉ちゃんが気にしたのは、ゲーム画面。
――今日の昼からそのままにしていたキャラクリ画面だった。
「! ゲーム機が動いてるじゃないですか。電気代がもったいないですよ蒼司? まったくもうです……ってコレ……」
そのゲーム画面には、エディット中のキャラクターが映し出される。
黒セーラーで前髪クロスで黒髪おさげのキャラクター。
「もしかして私、ですか?」
そうだ。
姉ちゃんを模したキャラクターを作っていたのだった。
それを本人に知られてしまった形である――。
読んでくれてありがとお…
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