エアコンのこんこちゃんは赤く染まる
前回のあらすじ。
エアコンが、喋りだした――。
『総員、祝福せよ!』
「わぉ、エアコンが祝えって言ってるんだぞ?」
「素晴らしいチートだぁ、いづるくん!」
「あわ……あわ、想定外です……!」
エアコンが喋りだすという事態に、幼馴染みたちは即座に順応し、姉ちゃんは慌てふためく。
『おっと挨拶がまだでしたね。私に人格を与えてくださり、ありがとうございます。桜日いづる様――いえ、この部屋の主人様とお呼びすべきでしょうか』
エアコンは、姉ちゃんを主人と認めているようだ。
しかし、この部屋は姉ちゃんと俺の部屋でもある……つまりは。
「俺もご主人様……ってコト!?」
『は? 愚弟はお呼びではありませんが?』
うぅ……。
エアコンは俺に辛辣だ――が。
「! エアコンさん、蒼司をあまり邪険に扱わないでください。私の大切な弟なのですから」
姉ちゃんが助け舟を出してくれた。
『承知致しました。主人様の眷属である私は、その意向に従うのです。愚弟……ではなく弟君、主人様に感謝するのです』
「ふふ、言われなくとも姉ちゃんには感謝しているぜ。俺は姉ちゃんが好きだからな!!」
『え? キモ……ではなく正直な弟君ですね。主人様もあわあわしていますよ』
「あわ……あわ……!! そういえば、エアコンさんは女性っぽい感じがしますね? ……そうです! 名前を付けましょう!」
『!!』
姉ちゃんらしい、かわいい発案である。エアコンも驚いているようだ。
「えっと。えあこちゃん、あこんちゃん……うーんそうですね……あ! CONーKOちゃん! こんこちゃんで、どうですか!?」
『く、そのような……悪くないですね。流石は主人様』
エアコンは、ほんのり赤くなった。
照れているようだぜ、このエアコンは。
いや、こんこちゃん。か。
『では! 主人様から授かった眷属特典のこの魔力で、新たなるエアコンとしての真価を魅せましょう』
こんこちゃんが高らかに宣言する!
するとどうだろうか――今までの彼女? とは違い、瞬時に室温が快適な温度となる。
「凄い。我のタブレット腕時計のデータによると、瞬く間に室温が20℃になったのさ!」
「アズはね、もうちょい冷えてもいいけどねぃ」
『皆様方が風邪をひかないように、この私。こんこが室温と風量を調節いたしましょう』
「ふぉ、並のエアコンではありませんね? みんな、こんこちゃんを祝福しましょう。拍手です!」
お、おう。
パチパチパチパチ……。
祝福されて、こんこちゃんは真っ赤になっている。
朱色のエアコンは、中々にホラーな気がしないでもない。
『わ、私には他にも特殊能力があります。それは、この八畳以内なら電磁波を駆使してこのような事が出来るのです!!』
いきなりエアコンのリモコンがカタカタと動く!
「わお、エアコンのリモコンが動いてるんだぞ」
『ふふ、あずさ様。それどころではありませんよ』
スウッ!
エアコンのリモコンは浮き上がった。
「! なんと。これならば仮にリモコンを紛失しても、すぐに発見出来るのさ」
『そう、いつき様の考えは的を得ていますね。リモコン紛失防止機能とお呼びください。更には、他のリモコンにも対応しているのです』
すると、テレビのリモコンも浮き上がり、くるくると回転している。
今日、弥勒菩薩半跏思惟像が浮かび上がって回転するという、似たような光景を見かけたなぁ……。
なんか、こんこちゃんは姉ちゃんを彷彿させるような言動だ。
眷属というのもうなずけてきた。
リモコンで電源が入るテレビ。
それを見れば、地域チャンネルが映る。
「ん、地元の中継なのさ」
「あ、名物のアラフォーレポーターさんだぬぇ」
『みっ皆さんこんばんは! と、突如として! 花火大会が行われているとの情報が番組に寄せられ! 実際に取材してみると、ハンパではない大輪の花火が上がっています!! この機会に私の婚活成就も祈っておきましょおお!!!』
テレビには、姉ちゃんが作り出した花火。
ドーン! ドーン! ドドーン!!
『イケメン! 年収一千万! 身長2m! お願いお願いお祈りします! お頼み申します!』
「レポーターさん高望みしすぎだにぇ」
「あやや、コレ生ですか。まだ花火が上がり続けていたんですね。時間制限でも設けておくべきだったでしょうか……」
そう、姉ちゃんの言うように花火の映像だったが――。
『花火だけではありません! 驚くべきは次に映す映像! 怪奇現象を捉えた、視聴者投稿の一部始終をご覧ください!』
レポーターの実況から、映像が切り替わる。
スマホで撮影したものと思われる映像。
それには四人の若い男女と思わしき連中が、浜辺でテントの前でわちゃわちゃとしていた。
薄暗いのと画質が鮮明ではないのでわかり辛かったが、コレは――数十分前の俺たちだ。
なんせそのうちの一人は浮いているシルエット。
見間違えのないくらいに姉ちゃんである。
「あれ? コレ、私たちではありませんか?」
「まさにそうなのさ」
「ほんとだにぇ」
各々リアクションをする。
その時だった。
――ぽいんっ!
テレビでは、俺たちがワープする瞬間が映されていた。
『……おわかりいただけたでしょうか? 謎の変な音と共に、若い男女が! テントごと、こつぜんと消えてしまったのです!!』
蒼白な顔で恐怖を煽るアラフォーレポーター。
『なんと! そのうちの一人は浮いているように見えます、恐ろしいですね。夏の夜のホラーといったところでしょうか? では映像をもう一度……!』
――ぽいんっ!
うん、コレは見返してみても俺たちの映像だ。
間違いない。
『ひぃ怖いぃぃ……! 私彼氏募集中です、私彼氏募集中です! では映像をもう一度……!!』
「もういいです……テレビを切ります……」
姉ちゃんはリモコンでテレビを切る。
その電源が落ちたテレビを見つめる俺たち。
みんな、呆然としているのがわかる。
見る人が見れば、あの映像は俺たちだと勘付くはずだ。
例えば――叔母さんや、小久保先輩とか。
「……なぁ、みんな。俺に考えがあるんだが」
俺は、ある提案をしていた。
◇◆◇
地元のローカルテレビ局に、テントごとワープする瞬間を捉えられた。
そんな俺たちは――。
――宴を催していた。
そう。
俺の提案、それは名付けるならば【現実逃避】
あの日、姉ちゃんが亡くなった日。
あの時買い溜めしたスナック菓子に炭酸飲料、カップラーメンなどを今! 全解放して現実逃避する!
ちょうど小腹もすいてきたのだ。
加えて、今日は8月末日。
残りの夏休みは残り数時間しかない。
「さぁ、全力で現実逃避をするずぉぉぉ!?」
「「「おおおぉぉーー!!!」」」
俺の音頭に、姉ちゃんたちもノッてくれている。
「助太刀しますよ? 蒼司っ!!」
――ぽいんっ!
姉ちゃんは胸の辺りから魔法陣を出す!
その魔法陣からは、大皿のから揚げが出現した。
ジューシーな匂いが食欲をそそる!
レモンとパセリの彩りも良い。旨そうだ。
よし!
まずは炭酸飲料を空けて乾杯しようとした、その時――!
ガチャ!
「帰ったわよおぉぉーー」
!?
階下の玄関からの声。
叔母さんが、帰ってきた。
「あっつ! 暑い暑いわよ! クッソ教務主任のおばさんめえぇぇ! 小言が多いったらありゃしない! ビール飲まなきゃあやってらんないわよおおぉぉ!? 現実ぅぅ逃避ぃぃーー!!」
階下からは、そのような独り言と冷蔵庫を開ける音。
おそらくビールを取り出したのではなかろうか。
「うし、よし! 乾杯わよ。私ぃぃ!!」
一人で乾杯している……ゆうひ叔母さんも、結構心がギリギリのようだ。
「……くっはあぁぁーー!! キンキンに冷えたビールぅぅ!! コレよコレ、仕事帰りの一杯わよ!!」
ひとり酒で絶叫する叔母さんだが。
ビールの美味しさが伝わってくるようだ。
「! そういえば……なにか揚げ物の匂いがするわね。蒼司くんん? 二階ぃぃー?」
!! 叔母さんは俺を探そうとしている!?
「ヤバイ。叔母さんが二階に上がって来るかもしれん」
「ふえ? 別にやましいコトしてないじゃないですか」
確かに、俺たちは飲んで食って騒ごうとしていただけだが。
「あの人の性格なら蘇って浮遊している姉ちゃんを見たら、どうなる? パニックで失神してしまうかもしれん……!」
「あう! 言われてみればそんな気がしますね!」
「ゆうちゃんセンセ面白いからぬぇ」
「成り行きに任せてみても良いかもしれないのさ」
幼馴染み達はテキトーな事を言っている。
「蒼司くーん?」
そうこうしているうちに、階段を登る気配がした。
ヤバい。叔母さんが来る!
『主人様たち、お困りのようですね』
エアコンのこんこちゃんが発言する。
『私に妙案があります。とある条件と不確定要素がありますが、次に私が言う事を実行に移してください。それは――』
! エアコンのこんこちゃんの考え。
なるほど、それは良い案だ。
コンコン。
部屋のドアがノックされる。
「蒼司くんん? 私に付き合いなさいよぉぉ〜」
ガチャ……!
そして、叔母さんがドアを開けた。
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次話はタルタルソースです
またみてね




