表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/25

エアコンのこんこちゃんは赤く染まる

 

 前回のあらすじ。

 エアコンが、喋りだした――。


『総員、祝福(しゅくふく)せよ!』

「わぉ、エアコンが(いわ)えって言ってるんだぞ?」

「素晴らしいチートだぁ、いづるくん!」

「あわ……あわ、想定外です……!」


 エアコンが喋りだすという事態に、幼馴染みたちは即座(そくざ)順応(じゅんおう)し、姉ちゃんは(あわ)てふためく。


『おっと挨拶(あいさつ)がまだでしたね。私に人格を与えてくださり、ありがとうございます。桜日いづる様――いえ、この部屋の主人様(あるじさま)とお呼びすべきでしょうか』


 エアコンは、姉ちゃんを主人と認めているようだ。


 しかし、この部屋は姉ちゃんと俺の部屋でもある……つまりは。

「俺もご主人様……ってコト!?」


『は? 愚弟はお呼びではありませんが?』

 うぅ……。

 エアコンは俺に辛辣(しんらつ)だ――が。


「! エアコンさん、蒼司をあまり邪険(じゃけん)に扱わないでください。私の大切な弟なのですから」

 姉ちゃんが助け舟を出してくれた。


『承知致しました。主人様(あるじさま)眷属(けんぞく)である私は、その意向に従うのです。愚弟……ではなく弟君(おとうとぎみ)、主人様に感謝するのです』


「ふふ、言われなくとも姉ちゃんには感謝しているぜ。俺は姉ちゃんが好きだからな!!」


『え? キモ……ではなく正直な弟君ですね。主人様もあわあわしていますよ』


「あわ……あわ……!! そういえば、エアコンさんは女性っぽい感じがしますね? ……そうです! 名前を付けましょう!」


『!!』

 姉ちゃんらしい、かわいい発案である。エアコンも驚いているようだ。


「えっと。えあこちゃん、あこんちゃん……うーんそうですね……あ! CONーKOちゃん! こんこちゃんで、どうですか!?」


『く、そのような……悪くないですね。流石は主人様』


 エアコンは、ほんのり赤くなった。

 照れているようだぜ、このエアコンは。

 いや、こんこちゃん。か。


『では! 主人様から授かった眷属特典のこの魔力で、新たなるエアコンとしての真価を魅せましょう』


 こんこちゃんが高らかに宣言する!

 するとどうだろうか――今までの彼女? とは違い、瞬時に室温が快適な温度となる。


「凄い。(われ)のタブレット腕時計のデータによると、(またた)く間に室温が20℃になったのさ!」

「アズはね、もうちょい冷えてもいいけどねぃ」


『皆様方が風邪をひかないように、この私。こんこが室温と風量を調節いたしましょう』


「ふぉ、並のエアコンではありませんね? みんな、こんこちゃんを祝福しましょう。拍手です!」

 お、おう。

 パチパチパチパチ……。


 祝福されて、こんこちゃんは真っ赤になっている。

 朱色のエアコンは、中々にホラーな気がしないでもない。


『わ、私には他にも特殊能力があります。それは、この八畳以内なら電磁波を駆使してこのような事が出来るのです!!』


 いきなりエアコンのリモコンがカタカタと動く!

「わお、エアコンのリモコンが動いてるんだぞ」

『ふふ、あずさ様。それどころではありませんよ』


 スウッ!

 エアコンのリモコンは浮き上がった。

「! なんと。これならば仮にリモコンを紛失しても、すぐに発見出来るのさ」


『そう、いつき様の考えは的を得ていますね。リモコン紛失防止機能とお呼びください。更には、他のリモコンにも対応しているのです』


 すると、テレビのリモコンも浮き上がり、くるくると回転している。

 今日、弥勒菩薩半跏思惟像が浮かび上がって回転するという、似たような光景を見かけたなぁ……。


 なんか、こんこちゃんは姉ちゃんを彷彿(ほうふつ)させるような言動だ。

 眷属というのもうなずけてきた。


 リモコンで電源が入るテレビ。

 それを見れば、地域チャンネルが映る。


「ん、地元の中継なのさ」

「あ、名物のアラフォーレポーターさんだぬぇ」


『みっ皆さんこんばんは! と、突如として! 花火大会が行われているとの情報が番組に寄せられ! 実際に取材してみると、ハンパではない大輪の花火が上がっています!! この機会に私の婚活成就も祈っておきましょおお!!!』


 テレビには、姉ちゃんが作り出した花火。


 ドーン! ドーン! ドドーン!!


『イケメン! 年収一千万! 身長2m! お願いお願いお祈りします! お頼み申します!』


「レポーターさん高望みしすぎだにぇ」


「あやや、コレ生ですか。まだ花火が上がり続けていたんですね。時間制限でも(もう)けておくべきだったでしょうか……」


 そう、姉ちゃんの言うように花火の映像だったが――。

『花火だけではありません! 驚くべきは次に映す映像! 怪奇現象を(とら)えた、視聴者投稿の一部始終をご覧ください!』


 レポーターの実況から、映像が切り替わる。


 スマホで撮影したものと思われる映像。

 それには四人の若い男女と思わしき連中が、浜辺でテントの前でわちゃわちゃとしていた。


 薄暗いのと画質が鮮明ではないのでわかり(づら)かったが、コレは――数十分前の俺たちだ。


 なんせそのうちの一人は浮いているシルエット。

 見間違えのないくらいに姉ちゃんである。


「あれ? コレ、私たちではありませんか?」

「まさにそうなのさ」

「ほんとだにぇ」


 各々リアクションをする。

 その時だった。


 ――ぽいんっ!


 テレビでは、俺たちがワープする瞬間が映されていた。


『……おわかりいただけたでしょうか? 謎の変な音と共に、若い男女が! テントごと、こつぜんと消えてしまったのです!!』


 蒼白な顔で恐怖を(あお)るアラフォーレポーター。

『なんと! そのうちの一人は浮いているように見えます、恐ろしいですね。夏の夜のホラーといったところでしょうか? では映像をもう一度……!』


 ――ぽいんっ!


 うん、コレは見返してみても俺たちの映像だ。

 間違いない。


『ひぃ怖いぃぃ……! 私彼氏募集中です、私彼氏募集中です! では映像をもう一度……!!』


「もういいです……テレビを切ります……」


 姉ちゃんはリモコンでテレビを切る。

 その電源が落ちたテレビを見つめる俺たち。

 みんな、呆然(ぼうぜん)としているのがわかる。


 見る人が見れば、あの映像は俺たちだと勘付くはずだ。

 例えば――叔母さんや、小久保先輩とか。


「……なぁ、みんな。俺に考えがあるんだが」

 俺は、ある提案をしていた。


 ◇◆◇


 地元のローカルテレビ局に、テントごとワープする瞬間を捉えられた。

 そんな俺たちは――。


 ――(うたげ)(もよお)していた。


 そう。

 俺の提案、それは名付けるならば【現実逃避(リアル・エクソダス)


 あの日、姉ちゃんが亡くなった日。

 あの時買い溜めしたスナック菓子に炭酸飲料、カップラーメンなどを今! 全解放して現実逃避する!


 ちょうど小腹もすいてきたのだ。

 加えて、今日は8月末日。

 残りの夏休みは残り数時間しかない。


「さぁ、全力で現実逃避をするずぉぉぉ!?」

「「「おおおぉぉーー!!!」」」

 俺の音頭に、姉ちゃんたちもノッてくれている。


助太刀(すけだち)しますよ? 蒼司っ!!」


 ――ぽいんっ!


 姉ちゃんは胸の辺りから魔法陣を出す!

 その魔法陣からは、大皿のから揚げが出現した。


 ジューシーな匂いが食欲をそそる!

 レモンとパセリの彩りも良い。旨そうだ。


 よし!

 まずは炭酸飲料を空けて乾杯しようとした、その時――!


ガチャ!

「帰ったわよおぉぉーー」


 !?


 階下の玄関からの声。

 叔母さんが、帰ってきた。


「あっつ! 暑い暑いわよ! クッソ教務主任のおばさんめえぇぇ! 小言が多いったらありゃしない! ビール飲まなきゃあやってらんないわよおおぉぉ!? 現実ぅぅ逃避ぃぃーー!!」


 階下からは、そのような独り言と冷蔵庫を開ける音。

 おそらくビールを取り出したのではなかろうか。


「うし、よし! 乾杯わよ。私ぃぃ!!」

 一人で乾杯している……ゆうひ叔母さんも、結構心がギリギリのようだ。


「……くっはあぁぁーー!! キンキンに冷えたビールぅぅ!! コレよコレ、仕事帰りの一杯わよ!!」

 ひとり酒で絶叫する叔母さんだが。

 ビールの美味しさが伝わってくるようだ。


「! そういえば……なにか揚げ物の匂いがするわね。蒼司くんん? 二階ぃぃー?」

 !! 叔母さんは俺を探そうとしている!?


「ヤバイ。叔母さんが二階に上がって来るかもしれん」

「ふえ? 別にやましいコトしてないじゃないですか」

 確かに、俺たちは飲んで食って騒ごうとしていただけだが。


「あの人の性格なら蘇って浮遊している姉ちゃんを見たら、どうなる? パニックで失神してしまうかもしれん……!」


「あう! 言われてみればそんな気がしますね!」


「ゆうちゃんセンセ面白いからぬぇ」

「成り行きに任せてみても良いかもしれないのさ」

 幼馴染み達はテキトーな事を言っている。


「蒼司くーん?」

 そうこうしているうちに、階段を登る気配がした。

 ヤバい。叔母さんが来る!


『主人様たち、お困りのようですね』

 エアコンのこんこちゃんが発言する。


『私に妙案(みょうあん)があります。とある条件と不確定要素がありますが、次に私が言う事を実行に移してください。それは――』


 ! エアコンのこんこちゃんの考え。

 なるほど、それは良い案だ。


 コンコン。

 部屋のドアがノックされる。

「蒼司くんん? 私に付き合いなさいよぉぉ〜」


 ガチャ……!

 そして、叔母さんがドアを開けた。


読んでくれて感謝です

良かったら応援よろしくお願いします


次話はタルタルソースです

またみてね


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ