表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

適材適所におさまったその後の話

作者: 猫宮蒼



 ここ最近たっぷり稼がせてもらったホンロンは上機嫌だった。

 魔王領で回収したアイテムは飛ぶように売れたしその値段もウッハウハである。

 ついでに倒した魔物の素材も出せば出すだけ売れた。


 そんなご機嫌な気分で拠点へと戻ってみれば、ランイェンが椅子に座って雑誌を読んでいるところだった。

 珍しい。兵法書などを読んでいるのはよく見たが、ちらっと見たところ冒険者ギルドが発行している雑誌のようだった。


「ようランイェン、何読んでるんだ?」


 その問いにすぐに答えは返ってこなかった。少しの沈黙。その間にもページは捲られていく。

 そろそろ返事してくれないとこっちも次の行動に出るしかないかなー、と思っていたホンロンに読み終わったであろう雑誌をランイェンが突き出した。とりあえず受け取る。


「はー、最近有名になってきた冒険者特集か……ふーん、あ」

「読むといい」


 それだけ言うとランイェンはすっと立ち上がって部屋を出て行ってしまった。


「読めってか……」

 あんまこういうの興味ないんだけどな……とはいえ、勧めた以上は何かあるのだろう。そう思ってホンロンは椅子に座ってページを捲り始めた。

 ホンロンも思えば以前雑誌のインタビューなるものを受けたな、なんてどこか懐かしい気持ちになりながらもページをパラパラと捲っていけば、ランイェンが読んでいただろうページへと辿り着いた。




 今回の突撃冒険者では最近メキメキと頭角を現し、先日なんとアラーヴィヤ村に訪れたトレントたちの集団を退け村を救った冒険者たちを紹介します。


 そんな一文から始まった突撃冒険者のコーナーには、ホンロンが直接会ったことはないが名前だけは知っている冒険者たちの名が載っていた。


 今回記事になった冒険者の名は――


 ロックス。

 リミュア。

 ジョゼ。

 セイン。


 ブラックのかつての仲間たちだ。セインはブラックが抜けた後に入ったであろうことから彼についてはよく知らないが、ロックスとリミュア、そしてジョゼについてはホンロンもブラックから話を聞いている。

 向上心や好奇心、向学心のある人たちだった。どこか懐かしそうに目を細めて語るブラックの事を思い出す。

 初級の回復魔法と補助魔法くらいしか使えなかった自分の事なんて場合によっては見捨ててもいいはずなのに、いざとなったらロックスはよく身体を張ってでも守ろうとしていた。

 あの時はせめて回復魔法だけでも中級のやつを覚えることができていたら……とそうブラックが語っていたのは覚えている。


 この手の雑誌に取り上げられる冒険者は大体何らかの功績を出した奴だ。

 ホンロンたちも魔王領からいくつかの財宝だとかを持ち帰った時にインタビューされた。自分が勇者の子孫であるという部分を上手く隠したことは記憶に新しい。

 自分の先祖に勇者がいただけで、自分は勇者ではない。勇者と呼ばれるような御大層な人間でもない事はホンロン自身一番理解していた。



 さて、ロックスたちは一体何をしてインタビューを受ける事になったのやら……と思いながらもホンロンは雑誌の記事に視線を落とした。



 どうやら彼らはちょっとした依頼をいくつかこなし訪れたアラーヴィヤ村に数日滞在し、そこで事件に見舞われたらしい。

 アラーヴィヤ村といえば、希少な薬草や果物を生産している小さな村だ。アルバダ荒野の手前に位置している小さな村。土地が豊かというわけでもないので生産量は低い。

 だがしかしそこでしか育たない物を育てて生計を立てている。そんな村だった。


 なんでもロックスたちは手紙を届ける依頼を受け、わざわざ辺境と呼ばれるアラーヴィヤ村へ行ったようだ。ホンロンたちが魔王領からあれこれ持ち出して世界中に今最も熱い場所、それは魔王領! みたいな事になったとはいえ、やはりあの土地は行く人間を選ぶ。生半可な造りの船ではあっという間に沈没するし、実力が不足していればあっという間に魔物にやられる。ある程度倒して数が減ったはずだが、それでも未だ根絶やしにできそうな気がしない程度にはいるのだ。

 魔王領にたどり着くことができた複数の冒険者たちがそれぞれ手を組んで現在あの大陸の探索が進められている。


 正直他にも未踏の地はいくつも存在している。魔王領と呼ばれる大陸だって魔王城があるあたりだとか、その周辺だとかは大体把握されるようになってきたけれど、それでもまだまだどこに何があるかわからない状態だ。

 ホンロンのご先祖様である勇者が残した手記にもそこら辺詳しくは書かれていない。


 ともあれ。

 ロックスたちが滞在したアラーヴィヤ村のその先に広がるアルバダ荒野の先も未開の地であった。

 どこまでも果てしなく続くような荒野。その先に何があるのだろう、と果てを探しにいった冒険者たちもかつてはいたが、その多くは帰らぬ人となっている。魔物にやられたか、はたまた思った以上に広大で途中で水も食料も尽きて戻るに戻れず倒れたか。


 そのアラーヴィヤ村で畑を荒らす魔物が出ると聞いて、ロックスたちはその魔物退治を請け負ったそうだ。魔物自体はそう強くもなく、ただ数が多かっただけで苦戦はしなかった。けれども数の多さからこれで全部とも限らない、と思った彼らは数日村に滞在することにしたようだ。

 その間に村でできそうな手伝いをしたりして、気付けばすっかり馴染んでいたのだとか。


 記事には宿屋の女将さんの代わりに屋根の修理をしようとしてトンカチで指を打ち付けた事を暴露されたロックスが、

「バッカわざわざバラすなよ!」

 と抗議しているシーンもあった。


 他にも鶏の世話をしたり畑を手伝ったり怪我人の治療をしたりとロックス一行はたった数日とはいえすっかり村に馴染んでいたようだ。

 その数日で畑に更に魔物がやってくる様子もなかったため、そろそろ立ち去ろうかという時に事件は起きた。


 アルバダ荒野のその向こうから、黒い大きな影が近づいてきたことに気付いたのだ。


 遠目で見たそれは最初何だかわからなかった。

 気付いた時にはどうしようもなかった。


 それはトレントの大群であった。


 トレントというのは基本的に森の中で生まれる魔物だ。砂漠だとか荒野だとかで生まれる事はない。森の中で生まれ、そうして森の木々に擬態して人を襲う。時として森から別の場所へ移動することもあるようだが、アルバダ荒野を進むトレントがいるという事はつまり、アルバダ荒野のその向こうには森があるという事だ。


 これは大きな発見だった。

 一体何があってトレントが大量発生したかはわからないが、それでも荒野の向こうには森があるのだ。まだ誰も辿り着いた事がなかったとしても。


 こうして記事を読むだけのホンロンからすれば、荒野の向こうか……とちょっと冒険心が疼いたりするが、当時のロックスたちからすれば絶望的だっただろう。


 トレントとは木の魔物だが、実のところ火の魔法が必ずしも弱点というわけではない。

 年老いたトレントはよく燃えるけれど、生まれたばかりの年若いトレントであればあまり燃えない。

 これは枯れ木はよく燃えるが生木は内部に水分があるため燃えにくいのと同じようなものと考えていいだろう。


 ロックスの仲間には魔法使いのジョゼがいるとはいえ、優に百を超える数のトレントたちを一網打尽で倒せるほどの魔法が使えるわけでもない。

 年老いたトレントなら一体燃えたら周囲にも燃え移って勝手に倒されてくれそうだけれど、年若いトレントたちはすぐ燃えるわけではない。燃えたとしても燃えなかったとしても、圧倒的数で行進してくるだけで脅威だ。仮に燃えてもそのまま移動する事をやめず突っ込んでこられたら。


 もしそうなればアラーヴィヤ村が大惨事。

 小さな畑が燃えてしまうかもしれなかった。


 あまりの数にロックスたちだけでは打つ手がないと判断し少しでも足止めをするべくロックスとセインが、村人たちの避難をさせるためにリミュアとジョゼが分かれて行動する……はずであった。少なくとも当初の予定ではそうだったらしい。


「いやぁ、あの時は驚きましたね。とても深刻な顔でロックスが言うんですよ。セイン、俺と一緒に死んでくれって。一瞬新手のプロポーズかと思いましたよあっはっは」


 当時の状況を乗り越えた後だからこうして記事で笑い話にしているが、ロックスからすればかなり悩んだらしい言葉であったようだ。


 たった二人で百を超える数のトレントの足止めをするのだ。どう考えても圧倒的な数の暴力に屈するのが目に見えている。それでも少しでも時間を稼いで村の人たちを逃がそうという、苦渋の決断だったのだろう。


 ホンロンからすればトレント程度の魔物ならまぁ……一度に百体を相手にするのは流石に厳しいかもしれないが、やってやれなくもないだろう。間合い内に入っているならどうとでもなる。とはいえ、ホンロンの基準で考えてはいけない。それは自分でもよく理解していた。


 苦渋の決断とはいえ、他に手があるでもない。リミュアもジョゼも仲間を犠牲にするとわかっていて頷けるはずもなかったようだが、しかしではどうするのか、という話になる。それにあまりもたもたしていたら何もしないままトレントたちの行進に巻き込まれるのが明らかだった。


 村の人たちを逃がすにしても、どこへ、という問題もある。だが、そんなのは後から考えれば済む話だ。逃げた結果、村がダメになって畑も育てている動物たちも何もかもを失っても、命だけは残る。だが、それだけだ。


「――そこでふと思い出したんです。かつての仲間――ブラックの事を」


 ロックスたちのかつてのパーティは、というか今もだが基本的にロックスだけが前衛である。

 だからこそロックスが先陣切って魔物の注意を引き付けて戦う。それを後ろからリミュアが弓で、ジョゼが魔法で援護するのが主な戦いだ。

 以前はブラックが補助魔法を使っていたし、時として回復魔法も使用していた。とはいえ、ブラックの使えるそれらの魔法はどれもが初級。いざという時あまり役に立っていない事の方が多かった。


 だが、ブラックはその代わりといってはなんだが色々な事に気付いて彼らをサポートしていた。

 遺跡の中の罠などもなんだかんだブラックが真っ先に気付いたり解除することも多かったらしい。


 ん、まぁ確かにあいつそういうの気付くよなぁ。とホンロンは納得した。あと野宿する時に野外で作る料理とかも手際よく限られた材料でそれなりに美味く作る。

 正直ブラックはプリーストではなく盗賊シーフだとかでもやっていけるのではないか? とホンロンは思っているくらいだ。



 かつて、まだブラックがロックスたちと共に活動していた時、色々な状況が重なって魔物の群れに囲まれた事があった、と雑誌のロックスは語っている。

 魔物はどうにか倒したものの直後ロックスは倒れてしまったのだとか。

 その日はうだるような暑い日で、更には魔物との激しい戦闘。倒しきるまで持ちこたえたのは半ば意地もあったようだ。

 咄嗟に水分をとジョゼが水の魔法をロックスにぶちまけたが、どうにもくらくらするのは治らない。

 そんな時、ブラックが荷物の中から何かを取り出してロックスの口の中へと放り込んだ。

 小指の爪程度の大きさに削られたそれは、岩塩だった。


 水分だけ補給すればいいってものじゃない、と言われ、でもだからって塩分の摂りすぎもダメだぞとも。


 それ以来ロックスは自分の荷物に塩を多めに持つ事にしていた。

 野宿する時、料理を作るにしても調味料としてあっても困らない物であったから、という理由もあった。


 そしてリミュアもまた自分の荷物に塩を忍ばせていた。

 彼女は極度の虫嫌いである。野宿の際は虫除けなどに余念がないが、宿に泊まる時まで部屋の中で虫除けの香を焚くわけにもいかない。綺麗な宿ならともかく時として安いだけのオンボロ宿などは、油断していると虫が入り込んで来る。

 そんな時リミュアは何度もブラックに助けられた。咄嗟に手近な物を投げつけて仕留められればいいが、手近な物が無い時、また、手近に物はあれども投げつけてはいけないような物であった場合、そんな時リミュアは無力だった。部屋の中で弓矢で虫を狙うわけにもいかない。最悪部屋が壊れる。


 虫が出た時用の何かを常に持っておくわけにもいかず、ロックスが自分用に買ってあった塩をたまたま虫相手にぶちまけてから、リミュアもまた自分用に塩を常備するようになったのである。

 どこか適当なところで砂だとか砂利だとかを袋に詰めて虫が出た時にそれを投げつける、というのも考えたが砂や土の中に小さな虫の卵がないとも限らない。知らずそれを持ち運ぶと考えるだけで駄目だった。

 それに部屋の中に砂利がぶちまけられる宿の人の身にもなってみろ。自分がその立場だったら困ったお客さんだなぁと思うついでにぼろくとも心を込めて綺麗に掃除した部屋がそんなことになったら流石に悲しい。


 だが塩は。

 塩なら最悪ぶちまけてもまだ許される気がした。不注意で袋が開いてしまって……という言い訳もまだ事故で済む。じゃりじゃりするのはそうだけど、塩ならまだ砂利だとか土よりは綺麗なものだ。掃除する時にも砂や土に比べれば落ちやすいというのもある。



 更にジョゼもまた自分の荷物に塩を入れていた。


 特に御大層な理由があったわけではない。

 ただ、遠い異国の地だと塩って魔除けの効果があると言われてるらしいよ、というブラックの言葉によるものだった。塩でどう魔を退けるのだ、と思っていたのもあってちょっと調べてみようと思ったのが塩を所持する発端だった。もし自分たちが知らない何らかの魔法道具のような効果があるのなら、それらの力を効率的に引き出せたら、街や村の魔除けの改良などもできるのではないか。魔除けの効果があまりない魔物にも効果を発揮できるものであったとしたら。突然魔物に襲われて危険な目に遭う人たちが減るかもしれない。


 そんなわけで、ジョゼは研究資料用として塩を忍ばせていたのである。


 そして同時に彼らはかつて立ち寄ったとある村での出来事を思い出していた。


 たまたま村の子供が出来心で悪戯をしようとしていた場面に出くわした時の事だ。

 子供は畑に塩を撒こうとしていた。ほんのちょっとパラパラ、程度ならまだしも結構がっつり目にやらかそうとしていた。それがどういう事になるかを知らないで。


 ブラックはそこで滾々と塩害について説き、子供は自分がやろうとしていた悪戯がとんでもない事になるところだったと知って未遂で改心した。げんこつ一発で済むレベルじゃない。最悪村から家族諸共追い出されかねないとなれば、そりゃあ改心もしようというものだ。


「活路はある」


 そう言いながらロックスが、リミュアが、ジョゼがそれぞれ自分たちの荷物から塩を取り出した時、セインだけが取り残された――かに思われたが。

 彼もまた塩を常備していた。野宿の時に身体を洗うのは中々難しいが、それでもあまりにも汚れが目立つようになると放置するわけにもいかない。

 ジョゼが魔法で穴を掘ってそこにお湯を入れて順番に身体を洗う事があったのだが、ロックスから聞かされたブラックの話の中の一つをセインもまた覚えていたのだ。


 お湯に塩を入れると身体が温まるというエピソードを。時と場合によってブラックは重曹を使う事もあったが、基本は塩だった。

 そう言われてへぇそうなんですね、と試した結果なんちゃって温泉効果にセインはいたく感激したのだ。何せ末端冷え性で年がら年中指先が冷たかったもので。もっと早くにこの知識、知りたかった……!


 塩の種類によって何となく効果の大小があるような気がして、様々な塩を試すべくセインもまた荷物に塩があったわけだ。


 村の中でやろうものなら小さな畑は駄目になるだろう。だがここはアルバダ荒野。ろくに植物も育っていないようなところだ。ここなら。ここでなら。

 この塩を使ってあのトレントどもをどうにかできるのではないか……!?


 かくして、塩ソムリエか何かか? と思われる一行は起死回生の一手に賭ける事にしたのである。


 トレントたちが年老いているか若いかの区別はつかない。だが、若ければ火の魔法はあまり効果がない。かろうじて燃えたとしてもそのままこちらに突っ込まれればこっちも危険である事にかわりはない、が。


 塩水をあいつらにくれてやれば、弱体化は可能なのではないか。


 仲間たちは素早く自分たちの持っている塩の量を確認した。


 お前らそれで行商できるんじゃね? と言われるくらい塩があった。具体的な量は伏せさせていただく。一番持っていたのはセインである。色んな塩で効果が違うのかどうか、を試すために塩ソムリエと名乗っても許されるくらい持っていた。むしろそれだけ持っててよく平然と活動出来たな? と仲間もちょっと驚いたほどだ。


 作戦はいたって単純シンプルだった。

 まず風の魔法をロックスが使い、塩をトレントたちにぶちまける。直後ジョゼが水の魔法をトレントたちに満遍なく発動させる。攻撃するつもりではないので、威力についてはこの際考えない。とにかく塩水をぶちまける事が優先される。

 荒野を移動してきたのだ。多分、向こうもそれなりの長旅でお疲れだろう。そこに大量の水だ。さぞよく吸い込んでくれるだろう。


 二人の魔法を発動させる前にセインが補助魔法で二人の魔力制御の精度を上げた事もあって、思っていた以上に広範囲に塩水は振りまかれた。

 雨のように降り注ぐ水。トレントたちはそれらを恵みの雨だと勘違いした事だろう。だがしかし、異変はすぐに訪れた。

 目に見えて動きが鈍っていくトレントたちの大群。

 すかさずリミュアが弓で各個撃破と洒落込んでいく。補助魔法で素早さを挙げたロックスが突っ込んでいって、何体かのトレントを切り捨てついでにリミュアの放った矢を回収して戻り、矢を渡しまた敵陣へと突っ込んでいく。


 動きが回復されつつあったトレントに、再び塩水の洗礼を食らわせて、攻撃に戻る。

 それを何度か繰り返して――そうして、トレントたちの大群を倒すことに成功したのだ。


 かくして、ロックスたちはどう考えても滅亡するはずだった村を救う事に成功したのである。


「かつての仲間との絆が俺たちを救ってくれました!」

 とかいい感じに〆ているが、ホンロンはちょっと理解が追い付かなかった。


 いや、凄いとは思うよ?

 実際百を超える数の魔物だ。それをたった四人で倒すとなると、本当に相当の実力がなければ難しいわけだし。でもこれどう考えても塩の力だよな? と思える。

 いや、塩を持つきっかけになってるの確かにブラックなんだけど。というか直接会ったことのないセインまで影響されてるのはどういう事なんだろう……?

 考えたところでわけのわからない深淵を覗くだけだと判断したホンロンは考えるのをやめた。


 雑誌のインタビューは終わりを迎えているらしく、最後にかつての仲間についてというのを聞かれていた。


 それに対してロックスは、

「あいつは俺にとって目標みたいなやつなんです。確かにブラックは回復魔法や補助魔法は初級しか使えなかった。今の俺はきっとあいつと戦ったら簡単に勝てるかもしれない。でも、力だけが全てじゃないと教えてくれたのがブラックなんです。今回の窮地をどうにかできたのだってそうなんですから! 今は離れてしまったけれど、それでもあいつは俺の、俺たちの仲間ですよ。いつか再会した時に、胸を張れるような冒険者になれればいいなと思っています!」


 と、とても綺麗に纏めていた。

 その次のコメントはリミュアだった。


「いつか、というか、その、近いうちに私とロックス結婚しようかって話になってるんだけど。

 その時は是非式に来てほしいし何ならスピーチもしてほしいなって思っています。もっというなら子供が生まれたら名付け親になってほしい」


 いや、気が早い気が早い! と危うくホンロンは声に出して突っ込むところだった。

 とんでもなく好かれている。


 そしてジョゼ。

「私、両親いないんだけど。もし結婚する事があったらその時は父親代わりにバージンロード一緒に歩いてほしいと思ってる。お父さんみたいな存在」


 ちなみにブラックとジョゼの年齢は親子ほど離れているわけではない。精々兄と妹くらいだろうか。


 そして唯一ブラックと直接面識のないセインはというと。


「今まで、あまり人間関係に恵まれてこなかったのですが。ブラックさんが抜けたおかげで、というとちょっとどうかと思うんですが、彼らと出会えたのはブラックさんのおかげなのでしょう。彼らと出会えてよかった。彼らから聞くブラックさんの話もそう思わせてくれるものばかりでした。

 正直個人的に色々とお話したいなと思う人なので、いつか、会う機会があればいいなと思っています」


 一見すると社交辞令なんだろうな、と思えるが恐らく本心だろうなこれ……とホンロンは察した。


 ホンロンがブラックの噂を聞いたのは、とある冒険者が仲間と別れたという普段であればいつもの事だな、と思うようなものからだった。ただ、その冒険者たちはお互いの仲に亀裂が入ったとかでもなく、お互いの実力に不満を持つようになったとかでもなく、別れたくないけど別れるしかない、みたいな状況だったらしい――と聞いて少しだけ興味を持ったのが切っ掛けだった。


 その時にお別れを告げられたプリーストは回復魔法も補助魔法も初級しか覚えていないと聞いて、まぁ、能力が低いと確かにな……と思ったのもそうだ。だが、その時に別れを告げた冒険者がプリーストに最上級の浄化能力があるけど使い道がないと叫んでいたという部分で。

 まさかの自分が探し求めていた人材であった事を知ったのである。


 もし、あの頃にロックスたちがホンロンくらい強ければ。

 ブラックと別れる必要なんてなかったに違いない。

 トレントの大群を倒すという快挙を成し遂げたとはいえ、それでも単純な実力ではホンロンたちの方が上だろう。だが、あと何年かすれば彼らはきっと大化けする。そう思わせる何かがあった。いや、もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれない。


 ともあれ、ホンロンがブラックと出会う事になったきっかけは間違いなくロックスだ。


 とはいえ、ブラックの所へすぐさま行くという事にはならなかった。ホンロンたちにはホンロンたちの事情があったので。どうにかそれらを一段落させて冒険者協会に問い合わせて、ブラックのいる場所を聞いて大急ぎで向かったのである。

 運が悪ければブラックは別の冒険者と組んでいる事になったかもしれないし、冒険者を辞めて故郷にでも引っ込んでいたかもしれない。けれども、どうにかブラックを仲間にする事ができた。

 いずれ魔王領に行くのは決めていたが、ブラックがいない場合は最悪生きて帰れなかった可能性もあったのだがホンロンはこうして今日も生きている。


 そういう意味ではロックスはホンロンにとって間接的であるが命の恩人のようなものであるのかもしれない。


 数ページに渡るインタビューが終わり、ホンロンは特に他のページに興味を持つでもなく雑誌を閉じた。


「ん? そういやアラーヴィヤ村って確か……」

 ふと、何かが引っかかる。聞いた覚えはある。いや、希少な薬草だとかを育てているという点で知ってはいるけれど、そういう意味ではない。比較的最近聞いた気がする。どこだったかな……と記憶をたどっているところに、軽い足音が聞こえてきた。


「あれ、帰ってきてたんですかリーダー」


 ブラックだった。

 あっ、とそこでホンロンは思い出す。


「ブラック」

「なんですか?」

「お前故郷どこって言ってたっけ?」

「え? アラーヴィヤ村ですけどどうかしたんですか?」

「あー、いや、ちょっとド忘れしただけだ」

「そうですか。まぁド田舎もド田舎ですからね。忘れるのはよくある事です」


 ちら、とホンロンは手にしていた雑誌に視線を落とす。


「お前の故郷って前の仲間知ってるのか?」

「いいえ? 特に話す必要もなかったので言ってませんよ」

「マジか」


 それを聞いて、ホンロンは思わず笑っていた。


 だって知らないのに、あいつら、かつての仲間の故郷を救ったのだから!


「ふ、ははっ、なぁブラック」

「はいはい、どうしました」

「ロックスっていったか、あいつらすげぇなぁ!」


 突然そう言ったホンロンに。

 ブラックはきょとんとした顔を一瞬。しかし次には――


「当然でしょう。ロックスたちはきっといつか、勇者と呼ばれるようなそんな存在になりますよ」


 ふふん、と胸を張って言うのだ。


 ホンロンがどうしてそんな事を言い出したのか、なんて聞く必要はないとばかりに。

 何を聞かれたとしても、何を言われたとしても。

 ブラックにとってロックスたちは共にいる道から分かたれたし、例え向こうがそう思っていなかったとしても。


 ブラックにとってロックスたちは最高の仲間であるのだから。

ざっくり補足


前作でロックスたちとブラックが出会った時点での彼らの実力

アリアハン出発したあたり


お別れする事になったあたり

ロックス ピラミッド攻略可能程度のレベル

ブラック アリアハン


別れてしばらく経ったあと

ロックス ダーマ神殿

ブラック レーベの村


今回のロックスたち

バラモス城手前


ホンロンたちの実力

どのシリーズでもいいけど大体FFの中盤から終盤にかけて


前作で綺麗さっぱり消滅したはずの魔王はもしかしたら四魔貴族的なやつかもしれないし、未開の地が一杯あるのでもしかしたらそのうちバラモス通り越してゾーマ的なのが出るかもしれないし、出ないかもしれない。

例えに出る作品が統一されてないのは仕様です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 村人を救えたこと自体はいい話なのですが、 土壌が塩水をたっぷり含んでいて地下水にも影響があるだろうことを思うと、 この地域は以後不毛の地になるのだろうか…とか思ってしまいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ