ジャガ義妹 ~ジャガーバルト家の義妹~
初投稿です。趣味で書いているものを3話分一纏めにして投稿してみました。
side:ラルフ・ジャガーバルト
「ゴブリン共が森の外に?」
「あぁ、知らせておこうと思ってな」
家にかつての冒険者仲間でギルドマスターをしているニックがやってきて、そんな情報を伝えられた。
知らせてくれたのは銀の盾のメンバー、今も精力的に俺の友人を探してくれている。その銀の盾が森の外へ出てくるゴブリンやグレイウルフを見かけたらしい。
ゴブリンはともかく、グレイウルフは森の浅い場所には滅多に居ない。奥まで行けばグレイウルフの他にグレイベアなんかも居るが…いや、なぜモンスターが森の外まで…。
「情報感謝するよ、ギルドの方針は?」
「とりあえず森の外に出てくるモンスターは、階級に合った冒険者に任せている。銀の盾の5人に森で調査をしてもらおうと思ってるところだ」
「なるほどな…、俺からの指名依頼にしてやってくれ」
「太っ腹だな領主様よ、報酬が増えて喜ぶだろうぜあいつら」
「本当なら俺も混ざりたいんだがな、足手纏いになりかねん」
「そうだな…。膝の怪我の具合はどうなんだ?」
「日常生活を送る分には全く問題ないさ。戦闘も雑魚相手なら大丈夫だが…、長引くと厳しいな」
昔…人助けをした際に怪我を負った事がある。完治する事は無く、膝の怪我とはもう20年の付き合いだ。
当時冒険者だった俺は、叙爵する機会を与えられて貴族となり、領地も頂ける事となった。
貴族になりたての20歳という若造だったが、自分の思う良い領地を作ってきたつもりだ。かつてのメンバーも街で俺を支えてくれている、妻のミリア、ニックにフランク…今はフランソワか。
この領地に、今までにない危機が訪れているのかもしれない…。
「ともかく、新しい情報が入ったら…いや、定期的に知らせてくれ。もしもの時は俺も出る」
「了解した、そうならないように皆には頑張ってもらうとするよ」
「そうだな、頼む」
一線から退いてもう20年経つが、なんとも嫌な予感がする。杞憂であればいいんだが…。
☆
「今日も報告に来てもらってすまんな」
「情報はさほど変わってないがな」
ニックから森の外へ出てくるゴブリン等のモンスターの知らせを聞いて翌日、領内にいる冒険者から聞いた情報を持ってきてもらった。昨日の今日でそれほど新しい情報は無かったが…。
纏めてもらった書類に目を通し終わった時だった。
ズン………。
現役の冒険者だった頃、時折感じることがあったプレッシャー。それを街の…家の中で感じた…。明らかに異常事態だ。
「…感じたか?」
「あぁ、久しぶりにな。中級ダンジョンのボスと相対した時がこんな感じじゃなかったか?」
「そうだな…、同感だ」
思わず2人で立ち上がっていた。俺は窓際へ行き、プレッシャーを感じた方向…森の方を見た。今の所目に映る範囲に異常は───
「…あれは銀の盾の2人? トールとスキップだったか、あとの3人は…」
見覚えのある2人が森から街へ走って来ている。状況を推測するなら、異常事態を知らせに2人が街へ戻ってきているのだろう。あとの3人は…足止めか?
「ニック! 街の入り口へ向かうぞ、行きながら説明する!」
「分かった!」
剣を持ち、3階から駆け降りながら先ほど見た事をニックに伝えた。銀の盾がこの辺のモンスターに後れを取るとは思えねぇ。不測の事態で二手に分かれている可能性の方が高いだろう。
考えを纏めながら街の入り口へ向かったが、さすがに走ると膝にきやがる…。
「ラルフ、無理すんなよ?」
「今は無理する時なんだよ」
何事もなければ笑い話にして休めばいい、そうでないなら…。
「ラルフさん! ギルマス!」
「緊急か? トール、スキップ、何があった」
「ぜぇぜぇっ、初級ダンジョンからっ、モンスターが出てきやがった!」
「は…? ダ、ダンジョンからモンスターが…?」
「雑魚だから倒すのは問題ない、魔石とアイテムのドロップも確認した! 今は残った3人が対応してるが溢れ出てくる方が多い!」
ニックは今まで聞いた事のない現象に驚いている。『ダンジョンのモンスターは外へは出てこない』なんて、冒険者をやっていたら誰でも知っている。昔、お偉い学者様がダンジョンからモンスターを連れ出そうとあれこれ試したが、結局外へ出てくる事も無く連れ出す事も出来なかった。詳しい手段なんて知らねぇがな。
その現象を俺は聞いた事があった。聞いた事だけ───
………
「ではそちらの世界にはダンジョンは無いのか」
「そうですね、創作の…物語の中だけです。洞窟ならありますけど、モンスターも危険な罠も宝箱もありません。虫や動物はいますけどね」
「それはこちらも同じだな、ダンジョンと洞窟は別物だ」
「なるほど。地球で読まれる物語の中には、ダンジョンの事を書かれた物は結構あるんですよ。ダンジョンの主になって自由に中を作り変えてみたり、ダンジョンからモンスターが溢れ出してきて危機に陥ったり──」
「がはは! 想像力豊かな者が多いのだな! しかしまぁ、実際に溢れ出したりしたら恐ろしいな…」
「ですね…。物語の中では氾濫、『スタンピード』なんて呼ばれます。ここではそもそもダンジョンからモンスターが出られないから大丈夫でしょうけど。まぁ大体そういう物語の──」
………
「…スタンピード」
「え?」
「いや…、ひとまず救助に向かえる者を集めてくれ。雑魚とはいえ3人で群れと戦うのは厳しい、数を減らしながら街まで避難してもらおう」
「分かった。2人は仲間の所へ戻ってくれるか? 応援を送る」
「「はい!」」
「2人ともよく知らせてくれた、感謝する。無事に戻ってきてくれ、全員でな?」
「「はい!!」」
俺はニックと共にギルドへ向かった。
☆
ランクが★3以上の冒険者に応援へ行ってもらい、その間に『拡声』の魔道具を使い、住民へ荷物をまとめておくよう話をした。避難する、もしくは街を捨てて逃げ出す用意を、と。
初級ダンジョンのモンスターなら問題はないが、あのダンジョンは全10階層だ。1つの階層が100匹前後、仮に全部出てくれば1,000匹になる。あとボスもだな…、出てくるか? 今はまだ分からん。
ともかく俺を含めて住民全員が経験したことのない現象を目の当たりにして混乱している。街の裏門、森とは逆の方向に逃げ出せるように準備だけはしておくべきだろう。
他にも方々指示をだしたところで、
「父様!」
娘のシェリルが街で警邏をしている兵士を集めてやってきた。
「シェリル、お前は王都へ向かっ「お断りします!」…まぁ予想通りな反応だな。いいのか?」
「はい! 王都へは他の者を行かせてください」
「…分かった、馬の扱いの長けたやつを向かわせてくれ。雑魚とはいえ森の前を横切っていく事になる、気をつけてな」
「ラルフ! 大変だ、あの中にハイオークが混じってやがる!」
「なんだと!? 中級ダンジョンにいるハズのモンスターがなぜいやがる!」
「他にもウルフの赤と黒もだ、どうする?」
(グレイウルフならともかく、レッドウルフとブラックウルフの機動力はまずい…、馬じゃ追いつかれちまう。赤も黒もこの辺や初級ダンジョンにはいないはずなのにどうなってる…)
「王都への救援は裏門から遠回りで行ってくれるか? 十分に注意してくれ」
「分かりました!」
兵士の男が返事をして厩へ向かっていった。
本当は街の中で指示を出すのが普通なんだろうが…性に合わねぇな。俺は俺の仕事をするか、街の未来を繋ぐ戦いを。
☆
街の外へ出ると、森からうじゃうじゃとゴブリン共が出てきているのが見えた。オークの姿も確認した。
最接近しているのはレッドウルフとブラックウルフか、さすがに早い。数が少ないのは幸いだな。
銀の盾のメンバーがウルフ共のちょっかいを捌きながら街へ向かってきている。全員無事でほっとした。
まずはこいつらを片付けてからだな。
「こっちだ! 街の中に向かえ、まずは回復しろ! 赤と黒は俺らに任せろ!」
「助かります!」
ニックと俺でウルフ共を引き付け、スキル『ソニックスラッシュ』で真っ二つにしていく。この辺りが相手でもまだ大丈夫だな…。
俺と同じくブランクのあるニックも問題なさそうだ。倒したレッドウルフ、ブラックウルフはどちらもアイテムと魔石をドロップして消えた。…こいつ等もダンジョンのモンスターなのか。
厄介なウルフ2種を倒し、★3以上の冒険者にその場を任せて、一旦街の中に戻り銀の盾に話を聞いた。
「よく戻ってきてくれた。早速で悪いが、何があったんだ? あれらは全部初級ダンジョンから出てきたのか? 別の…中級以上のダンジョンを見つけたなんて事は?」
「分かりません。初級ダンジョン付近にいたんですが、何か…プレッシャーを感じました。ダンジョンからモンスターが出てきたのを目撃したので、対応しながら街へ戻ったんです。少なくとも俺達は他のダンジョンを見つけたなんて事はないです。あと地上のモンスターも混ざってます、数は少ないですが」
「そう…か、分かった。戻ってきて早々すまないが、回復が済んだらまた出てくれるか? 教会に街中のポーションを持ってきてもらっている」
「分かりました。行ってきます!」
「頼んだ」
銀の盾の背中を見送った所で、ニックが声をかけてきた。
「…どう見る?」
「さぁな…、さっぱり分からん事だけは分かった。少なくとも初級ダンジョンにいるモンスターは1,000匹前後だろう。やれる事をやるだけだ」
「ふははは! 変わらねぇな領主様よ!」
「当然よ、さすが私の旦那様だわ」
「ミリア、お前も出るのか?」
「当然でしょう? あなたを支えるのは私の役目だわ。それに、ユートさんが帰ってきた時に街が酷いことになってたら悲しむでしょう?」
「がっはっは! そうだな、大変だったんだぞと言ってやらねぇとな!」
ランクの低い冒険者達には、3人以上で行動する事、格上を相手にしないで★3以上の冒険者や俺達に任せる事など指示を出した。
欲を言えば、元メンバーのミュリアルがここに居ればよかったんだがな…、言ってもしょうがねぇ事だ。
「あたしもいるわよん? 先に行って蹴散らしてくるわねん!」
「中級クラスも混じってる! 気をつけろよ!」
フランク…フランソワが先陣を切ってモンスターへ向かっていった。
☆
もう3時間は経ったか…、森へ近づき過ぎないように交代しながら戦い続け、一面魔石とドロップがゴロゴロ落ちている。
これだけの数のモンスターと戦い続けた経験など、現役の時にも無かった。皆疲労が顔に出ている。
「おんどりゃああぁぁぁ!!」
一人だけまだ元気いっぱいだったな…、あいつの体力はどうなってんだ。
フランソワが最前線でモンスターを蹴散らし、銀の盾のやつらがあちこちフォローに回っている。パーティー名の通り守る事が得意なチームか、ミランダの加入でバランスが良くなってるな。
シェリルは兵士と連携がよく取れている。一応は国に所属する兵士だからな、頼もしい娘だ。雑魚以外のモンスターもいるし、これだけ倒せばレベルも上がってるんじゃねぇか?
ニックと俺は全体を見ながら危険度高めのモンスターを優先的に倒している。ミリアも魔術による遠距離攻撃で本来ここらに居ないはずのオークを優先で倒し、雑魚の固まっている所を範囲魔術で掃除している。
戦線を上げては足元をさっさと片付け、けが人が出れば教会まで下がらせ治療している。幸いまだ死者は出ていないが、長い闘いにより集中力が切れて怪我をする者が増えてきている。まずい流れだ…。
なのに住民はまだ誰も街から離れていっていない。戦闘系のジョブを持っていない住民も、何か出来る事をやろうと教会に居たり、アイテムをかき集めてきていたりする。戦闘には関わらせなかったが。
それにしても、倒したモンスターは既に1,000匹を余裕で越えている。どころかその倍は倒しているはずだ。なのに森の方からはまだゴブリン共が出てきていやがる…。初級ダンジョンのボス、ゴブリンロードも出てきている。
アレを倒せば好転するか?と思ったが、倒したところで状況に変化は起こらず、さっき5匹目のゴブリンロードを倒したところだ。なんでダンジョンボスがこんなペースで湧いて…。
「ラルフ! オークロードだ!」
「っ!」
中級ダンジョンのボスじゃねぇか…、初級ダンジョンが中級ダンジョンに変わったか…? そんな前例は聞いた事がねぇ…。あいつを倒せば今度こそ何か変化が起こるか…?
考えるよりまず動く事だ! 下手すりゃ死者が出る!
「フランクと銀の盾は周りを頼む! 俺達でオークロードを叩いてくる!」
「フランソワよ! あたしは行かなくていいの!?」
「ここを頼む。モンスターを俺達と街に近付けさせないでくれ」
「分かったわん! さっさと倒してきちゃって!」
「あぁ!」
さっさと倒せるような相手じゃないんだがな…、膝ももう限界が近い。
俺はニックとミリアと共に、オークロードの討伐へ向かった。
☆
オークロード
オークの上位種であるハイオークの更に上に位置するモンスター、防御力の高さに加えて傷を再生するスキルを持つ。危険度のランクは6で、武器はこん棒や斧、槍を持っている事もある。
身体の大きさは上位種になるにつれてでかくなる。オークが2m程度なのに対して、オークロードは4mを超える。
ひたすら傷をつけてダメージを与え再生させ、その再生により更に減っていくHPを削り切れば終わりだ。…言葉にするだけならな。
「「『スラッシュ』!」」
「『ファイアーランス』!」
ダメージを与えては再生させを繰り返す事15分。魔術によるダメージの方がでかいんだが、いつまで続くか分からないこの戦い、今ミリアに大技を使わせるわけにはいかねぇ。
俺とニックが交互にオークロードの注意を引き、当たればふっ飛びそうなこん棒のぶん回し攻撃を避けながら、徐々にHPを削っている。
見た事も会った事もないが、オークロードの更に上位種、オークキングはロードより全能力が大幅に上がり、『HP自動回復』というスキルまで持っているらしい。キングじゃなくて良かったと思っておこう。
ってか詰むんじゃねぇか? どうやって倒すんだ?オークキングなんて…。高火力な魔術をぶつけ続けて強引に削り切───
「うおっと!」
余計な事考えてる場合じゃねぇ、頭のすぐ近くをこん棒が通り過ぎていった。
「大丈夫か!?」
「あぁ、悪い。当たっちゃいない。あとどれくらいだと思う?」
「2割ってとこじゃないか? 中級のボスと同じならな」
「同感だ。あと少し、油断するなよ!」
「お前に言われたかねぇな!?」
無駄口を叩きながら更にダメージを与えていく。
「一発でかいのいくぞ! 『ダブルスラッシュ』!」
「おう! そろそろだな! 『スラッシュ』!」
「『ファイ──」
ミリアの魔術が撃たれる前にオークロードが倒れ、魔石とドロップを残して消えていった。やはりこいつもダンジョンのモンスターか…。
「…はぁ~~、疲れた。おつかれさん」
「さすがにオークロード相手に私達3人では時間がかか…、あなた!?」
「いや、大丈夫だ。ちょっとばかし膝がな…。一旦下がるぞ、さすがに回復してぇ」
ニックに返事をしながら振り返ったミリアが、片膝をついていた俺を見て慌てたので、立ち上がって街へ戻るよう促した。直接ダメージを受けていなくても、疲労と膝の痛みによりHPは減っていた。
正直もう家のベッドに転がって眠りたいところだぜ…。そういえばオークロードを倒した事で状況はどうなっ───
「………、ゴフッ!?」
身体が押されたように前に進んだ、痛ぇ、ズリュッと音が聞こえた気がする、痛ぇ、ズドンッかもしれねぇ、痛ぇ、内臓をやられたのか?、痛ぇ、口の中に血の味が…、痛ぇ、痛ぇ、腹から槍が生えて…、痛ぇ………。
耳鳴りと共に、すぐ近くにいるミリアの悲鳴が聞こえる。ニックが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。下を見れば…腹から血に染まった槍が生えてた。
オークロードを倒した事で気が抜けてたのか…情けねぇ…。
俺が背後を振り返ると、こちらを見ている素手のオークロードがいた。2匹目…、あいつがやりやがったのか…。
「あぁ…ぁ…、ぁぁぁあ˝あ˝あ˝あ˝!!!」
ミリアの悲鳴は叫びとなり、それに呼応するように魔力が高まっていくのを感じる。止めさせる前にその魔術は放たれた。
「『ボルテクス』!!」
火系統の上級魔術『ボルテクス』
ミリアが使える中で最高位の魔術がオークロードを襲った。高い火柱、50mは離れているここにも熱風がやってくる。ニックが俺の前に立ち、盾となって熱を防いでくれた。
オークロードは激しい炎に焼かれながら再生を繰り返している。が、与えるダメージの方が大きく、15秒程でオークロードはドロップを残して消えていった。
そして魔術を放ったミリアが倒れた、MPの枯渇による気絶だ。くそっ、こうならないように戦ってたってのに、ここで2人抜けるのはマズいぞ…。
「動くんじゃねぇ! ラルフの方が重傷だろうが!」
「父様! 母様!」
「ミリアは大丈夫だ、魔力枯渇…だと思う。俺はちょっと厳しいがな…」
「と、父様、今槍を…」
俺達の状態を見てシェリルがやってきちまった。シェリルが震えながら槍を抜こうと手を伸ばしてきた。が、その手をニックが止めた。
「ダメだ、今槍を抜けば一気に血が流れ出ちまう。教会へ連れて行くのが先だ」
「なら「シェリル」…」
私が連れて行く!とでも言おうとしたんだろうが、それはさせられない。
「シェリル、すまない。ニックと一緒にここを…俺の代わりに街の事を頼んでいいか? 傷を治したらすぐ戻ってくるからな」
「本当…ですね? いえ、任されました! 早く行ってください!」
「あたしもフォローするわラルフさん、だから絶対…ううん、早く帰ってきてねん?」
「あぁ、頼んだよ」
シェリルとフランソワが戦線をあげ、そこにやって来た若い冒険者達に肩を借りて、ポーションを飲みながら俺とミリアは街へ戻っていった。
痛ぇ…、よく我慢したよ俺は…。
「ゴフッ! ゲホッゲホッ!」
十分距離が取れたと思ったところで、口元から血を流しながら咳き込んでしまう。娘に父親が口から血を吐き出す所を見せるのは酷だからな…。
時間がないと思ってか「任されました!」と切り替えも早かった。実際時間は無ぇ、俺のHPは減り続けている…自分で言うのもなんだが、危険な状態だ。
問題は…シスターの回復魔術では、おそらく腹の穴は塞がらねぇ。小さな傷ならともかく、穴を…内臓を癒すには…。
俺達は街へ辿り着き、教会へ向けて進んでいった。
☆
side:シェリル・ジャガーバルト
母様が倒れ、父様が重傷を負って街へ運ばれ、ニックさんとフランソワさんと一緒にいつ終わるとも知れない戦闘を続けていた。
レッドウルフやブラックウルフの相手は私にはまだ早かったので、フランソワさんが前に出て相手をしてくれている。
そこへ現れた3匹目のオークロード、今はニックさんとフランソワさんが2人がかりで戦っている。
私のサポートに銀の盾の皆さんがやってきてくれた。
「大丈夫かい? シェリルちゃん」
「はい! 今はオークロードをニックさんとフランソワさんが対応しているので、そのサポートに回ってます!」
「分かった、雑魚を近付けさせ───」
銀の盾のリーダー、ジャックさんが言葉を途中で止め、森の方を見ている。………オークロードが新たに2匹。
距離はまだあるけど、確実に近付いてきている強敵に膝をついてしまいそう…。
「………どう、すれば…」
「しっかりしろ。倒さなくていい、時間を稼いでいればギルマスとフランソワさんが加勢に来てくれる、それまでの辛抱だ。ユート、シェリルちゃんと組んでくれ」
「分かった、よろしくなシェリルちゃん」
「わかり、ました。よろしくお願いします!」
ユートさんと同じ名前の銀の盾のメンバーのユートさん。街にいれば話をする機会はあったけど、まさか組んで戦う事になるなんて思いもしなかった。
そこでジャックさんが口を開いた。
「…なぁミランダ、言う時が無くなると困るから、こんな場所で言うんだけどさ…。この戦いが終「ダメです!!」…、えぇ~?」
思わず止めてしまいましたが、これは確かユートさんが言っていた死亡フラグというやつでは!?
不満そうな顔をしている銀の盾のみなさん…。ですがこんな場所でそんなことをしないでください!
「ご、ごめんなさいジャックさんミランダさん。でも、ちゃんと勝って!帰ってから!やってください! それまでは言っちゃダメです!」
「そ、そうか? 分かったよ」
私の圧に押されたジャックさんは素直に従ってくれた。
☆
その少女が現れたのは突然だった。
私たちは2匹のオークロード相手の時間稼ぎに備えていた。そこでニックさんが体勢を崩して狙われ、それを庇うようにフランソワさんがオークロードのこん棒を正面から受け止めようとした時、オークロードがピタッと動きを止め…次の瞬間オークロードの頭が弾け飛んだ。オークロードが振り上げていたこん棒を持つ手はだらりと下がり、頭の無い巨体は地面に膝をついた。
役目を終えたように、勢いを無くして地面へ落ちた…まん丸な石。誰かが投げたのかしら…。私の握りこぶしくらいの大きさ、でもオークロードの頭を弾き飛ばすほどの威力で…、その後の石の落ち方はなんだか不自然。
そう考えていた時、ゆっくりと立ち上がったオークロードの頭部が再生を始めていた。あれでも死なないのね…。
「…え?」
オークロードの胸に横向きで着地したような姿勢の少女が居た。いつの間に?誰?どこから?と頭の中に浮かんだ疑問は、
「ふっ!」
「ブゴォ!?」
少女に両足で蹴り飛ばされ、転がっていくオークロードを見て消えてしまった。少女は舞うようにくるりと後ろに一回転して着地した。飾り気のない服に、裸足で、ボロボロのマントを身に着けていて、そして輝くような白い髪をした、可愛らしくも凛々しさを纏った少女。まるで劇を見ているよう…。
………、どこまで転がるのかしらあのオークロード…。ゴブリン達がどんどん巻き添えになってるわね…。
「助太刀します! 状況は!?」
「…!感謝する! 今森からモンスターが押し寄せてきている、おそらく初級ダンジョンからだ。時々さっきのような、ここにはいないはずの強いやつも出てきている」
「怪我人は?」
「死者は今の所ない。怪我人は街に教会があって、そこで手当てを受けている。この街の領主も今…治療中だ」
「…分かりました。一旦蹴散らします、距離を取ってください」
「ひ、一人でか!? 無茶だ!」
ニックさんがすぐさま我に返り、状況の説明をした。誰かは分からないけど、オークロードを吹き飛ばせる程の力を持った少女が手を貸してくれるのは心強い。
それでも一人で蹴散らすなんて…。
「あ~、まぁ一人ですね…、ではその場を動かないでください。あと炎木を1本もらいます」
「か、構わないが、どうするんだ?」
許可をもらった少女が、街から持ってきていた1本の黒い木…横たわっていた炎木に触れると…、
「「「………」」」
消えてしまった。夜に備えて明かりとする為に持ってきていた火の付きやすい木、炎木。…どこへ? 長さ3mはある、少女より太くて大きな木が一瞬で消えてしまった。マジックアイテム…マジックバッグ? …そんな高価なもの持っているようには見えないし。と言うか、持ってたとしてもあの大きさは入らないよね?普通。…普通って何だっけ。
「…粉砕……風を……囲の……壁の前……よし、やるよヒサメ」
少女が何か呟いた後、チリーンと鈴の鳴る音がして、その手にはいつの間にかどこかから取り出した…鞘に納まった剣があった。握る部分を含めて60cmくらい…、短いけど剣…よね。持ち手と鞘の境目に装飾品がくっついている。とても綺麗…。
しかしその感想は、
「シッ!」
少女が姿勢を低くして横に一閃、前方にいた大量のモンスターを切り裂いた事で恐怖に変わった。100匹はいたと思う、あんな長さの武器でどうやって…剣が伸びた?いやいや…。
振りぬいた格好の少女、その手にある赤黒い剣身をした片刃の剣。
ゾワっと鳥肌がたった。見るだけでこんなにも圧を感じる…。ニックさんとフランソワさん、銀の盾のみんなも顔が強張って冷や汗が出ている、同じ事を思っているのかもしれない。
地上にいたであろうモンスターは緑色の血を流し、ダンジョンから出たモンスターも血を流した後に消えてアイテムと魔石を落としている。
少女が右手を前に伸ばし、手のひらの先に小さな光が生まれた。先ほどの片刃の剣はどこにも見当たらない。状況に追いつけず混乱していると風が吹き始め、その風がドロップ品だらけだった戦場からアイテムと魔石を空へ巻き上げていく。
魔石が1個だけ、少女の手元に飛んできた。他の魔石の行き先を見れば…街を囲う壁の方へ積み上げられているわね、…風系統の魔術かな、あんな事出来るんだ…。
感心していると、少女が5歩森へ向けて進んだ。一時的に目の前のモンスターがいなくなったので、冒険者が、兵士が、街を守るために戦っていた皆がその光景を見ていた。
今度は両手を横に広げ、そこに先ほどと同じく小さな光。…あの光が魔方陣…なのかな? 分かんないや。今度はその両手を下げ、しゃがんで地面に触れた。すると、
「「「「「………」」」」」
地面が削り取られ、少女から左右に、高さ5mくらいの壁が出来上がった。横には…広すぎて分からない、それぞれ200mはありそう。少し森側に反ってるかしら? そりゃみんな言葉を失うわよね、私も含めて。
さっきの風系統魔術は器用に使ってたし、今の魔術も最初のちょっとだけしか揺れなかったし…。こんな使い方一体どこで…。
風と…土系統魔術…なのかな? 適性が2つあったとしても、普通こんな規模で使えないんじゃ…? 少女の見た目からも、凄腕の魔術師と言うには幼い…若過ぎるし。
あれこれ考えていたら…少女の作った左右の壁の間…2mほどの隙間から、こちらに進んでくるモンスターが目に入り我に返る。先頭には、多分さっき転がっていったのを含めたオークロードが3匹、その後ろには数える気も起きないゴブリンやグレイウルフの群れ。
「これからちょっと危険な事をしますので、念のため気をつけてください」
………危険。…危険ってなんだっけ。さっきの片刃の剣を使うより危ないの…?
銀の盾の2人…ジャックさんとユートさんが私たちの前に出て盾を構えてくれた。
「………………」
少女の呟きは声が小さくて聞き取れなかった。けど、遠くに見えるオークロード3匹が地面に沈み、風が意志を持ったようにモンスターに向かって吹いていき、黒っぽい粉がその風に乗り、その粉がモンスターを覆い隠すように集まった。
大きく膜を張ったような、視界の悪そうなその場所には、モンスターが500匹くらいはいるかもしれない。喉を抑えてる? 毒…なのかな、あれで弱らせるのかもしれない。
しかしそれは、そんな優しいモノではなかった…。
「『ファイア』」
今度はちゃんと少女の声が聞こえた。火系統魔術の初歩の初歩、戦闘にはとても使えないけど、魔術師や鍛冶師のジョブを持っている人は火種としてよく使っ───
ドウゥン!!!!!
衝撃が体を突き抜け、私は尻もちをついた。モンスターの居た場所から、大きな火が天に届きそうな程上がっている。いや、瞬間的に発生した火が、火と煙を巻きながら昇っている。
しかしその昇っていた火は数秒の内に消えてしまい、煙だけが昇っていった。煙の塊だけが空をどんどん進んでいる…。大きな火が上がったその場所に視線を戻すと、胸元まで地面に沈んだまま燃えているオークロードと大量の魔石とアイテムがあった。
私は立ち上がりながら考えてしまう。1人の人間が、あんな威力の魔術を使って平然としているなんて…、いや違う。そもそも『ファイア』がどうしてあんな…。
「ひとまずはこれで大丈夫だと思います。沈めたアレの対処とアイテムの回収は今のうちに。もしモンスターが近づいてきたらこの壁の間から誘導して倒していってください。この狭さなら余裕を持てるでしょう。回復は大丈夫ですか?」
「…ぁ、あぁ…」
さすがにニックさんも目の前の状況を飲み込めていないみたい。振りむいた少女に声を掛けられ、なんとか返事を絞り出した感じだった。
「ではこの場をお願いします、私は街へ行ってきますので。『オールアップ』。体が軽くなっていると思うので戦闘時は気をつけて。効果は1時間程度です、では」
頭が理解する前に、少女は言いたいことを言うと物凄い速さで街へ行ってしまった。走るというより大きく飛ぶように…あ、もう着いてる…。
自分の常識では全く理解できない出来事の連続。あの子は天の使いだと言われても納得しちゃいそう。
………、あの子なら父様の怪我さえ治せちゃうのかな? 街へ向かったのはそういう事よね…? でもきっと戦闘系の…ううん、今は勝手に信じさせてもらおう。
ボーっとしてられない。私は立ち上がって…体の軽さを実感した。…ナニコレ。
みんなも手を握ったり開いたり、軽く飛んだりして確かめているみたい。フランソワさんは「漲るわああぁぁん!!」とすごく元気だった。
そこでパンパン!と、ニックさんが手を叩いて皆を注目させた。
「今はあのオークロードを先に処理しよう! アイテムと魔石の回収もだが、安全を第一にな! 基準戦線はこの壁の後ろ、ここだ! 行動が終わったらここへ戻ってくること、考えるのはそれからだ! いくぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
危機的状況を1人でひっくり返し、皆に希望を与えた少女。
その少女が私の妹になるなんて、この時は全く想像もしていなかった。
読んでいただきありがとうございました。この物語は、書き溜めている小説の15~17話を編集したものです。…序盤から読んでいって、面白そうな場面と思えた話がここでした。
改めて読んでみると修正する場面が多く、未熟だなと感じる事が少々…多少…多々…めちゃんこありましたが、「面白そう」と思っていただけたら幸いです。