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愚かな選択肢

 土曜日の11時に起きた。先週のようなわくわく、ドキドキした気持ちはない。


 前回の反省を活かして、駅前で集まることをメッセージで送る。駅に13時22分に着くらしいので、その時間には駅に行く。


 しっかりと昼ごはんを食べた後に自転車に乗る。気が思いが、これが最後。と言い聞かせて、ファミレスに向かう。

 ファミレスの自転車置き場に自転車を置き、駅に向かう。改札前に着いたのは13時20分だった。


 少し待っていると、エスカレーターからここしばらくよく見る顔がやってきた。高島さんだ。

 高島さんは改札でぴっとすると、手を振ってきた。いつも通りに見えるが、やはり表情は硬いように見える。


「迎えにきてくれて、ありがと」


「いや、気にしないで。それじゃあ、ファミレスに行こう」


 ファミレスに行こうという言葉に高島さんは首を横に振る。


「人がいないところで話したいの。人があまりいない、公園に行ってもいいかな?」


 土曜日の公園は子供たちが大勢いる気がするんだけどな?まあ、昼間の都会で人がいない場所なんてない気がするけど。


「公園って、逆に人がいっぱいいるんじゃない?」


「大丈夫。あまり知られていない公園だから」


 なんだか、その公園にどうしても連れていきたい、気がして仕方がない。やはり、ここで何かあるんだろう。いや、だろうなんて、曖昧なものではない。ある、と確信できる。


 あぁ、先週のような楽しい勉強会が無かったら、期待なんてしないで済むのに。こんな状況でも未だに、高島さんからの告白に期待している。だから、ここで帰るなんてことはできない。


「分かったよ。行こう」


「うん」


 駅から学校の逆方向に行く。こっちは住宅街で日頃は行く用事がない。どんどん、細い道に入っていくと、小さな公園が見えた。

 ほんとうに小さい公園だ。公園の周りを1分ぐらいで回れそうだ。遊具は滑り台だけ。他には防災用の道具が入っている倉庫しかない。


「ここ?」


「そう。ここだよ」


「こんなところに公園があったんだ」


 素直に思ったことを呟く。いつもなら、ここから話が膨らんでいきそうだったが、高島さんは本題に入った。


「ここで話したいことがあるの。話したいと言うより、言いたいことかな?」


「言いたいことってことは聞いてるだけでいいの?」


 高島さんは首を横に振り、少し顔を赤らめながら


「返事も聞かせてほしい」


 ん!!!これは!

 いやいや、やめろ。考えるな

 考えたら、顔にでる。


「そっか。分かったよ。それで何を言いたいの?」


 俺は見えないように、自分のお尻をつねる。こうしていないと、ニヤけそうだから。

 高島さんは俺の方を見ない。ずっと、下を向いている。

 でも、顔が赤くなっていることは分かる。なぜなら、耳が真っ赤になっているからだ。

 そして、高島さんは下を向いたまま、大きく息を吸う。そして、ゆっくりと吐き出し、吐き出し終わると同時に


「よし!」


 そう言い、俺の目をはっきり見つめる。見つめあっていると気まずいので目を逸らしたくなるが、それが許される雰囲気ではない。

 無言で見つめ合うのが耐えられず、俺が声を出そう思った瞬間、高島さんが声を出した。


「私は、宮野くんのことが好き。付き合ってほしいです」


 高島さんの言葉を聞き、自分でも分かるくらい目を大きく開ける。そして、思考が止まり、何も考えられなくなる。


 女の子に告白されたことないからどうしたらいいか分からない。初めて彼女ができるチャンスにそのまま、俺も好きです!と言いそうになる。しかし、なんとか理性が俺のことを止めた。


 何かがおかしい。


「答えの前に幾つか質問してもいい?」


 その言葉で少し寂しそうな顔をする。しかし、すぐにキリッとした顔に戻り、


「なんでも聞いて」


「まず、なんで俺に勉強を教えてもらおうと思ったの?高島さんなら、他に頼れる人なんていくらでもいるだろ?あぁ、俺と仲良くしたかったとか、そんな答えを期待しているわけではないよ」


 俺は少し強い口調で言ってしまった。しかし、そんなことを気にせずに、


「ある人にそうしろって言われたからだよ」


 ある人ってなんだよ!そんなの決まっているだろ!


 俺はイライラする。どうして奴らを庇うのか理解ができないから。


「ある人ってだれ?」


 そのイライラが言葉と態度に出てしまった。高島さんは俺のそんな様子に戸惑っている。しかし、それでも言おうとはしなかった。

 俺は痺れを切らして、名前を口にする。


「ある人って、上田だろ」


 これで高島さんも上田たちが関与していると認めるだろうと思った。しかし、急に高島さんの表情は怖くなった。怖いと言うより、睨んでいる。

 なんで、ここで俺を睨むんだと思ったが、どうやら睨んでいるのは俺ではなかったみたいだ。


「あれー?やっぱ、バレていたかー!もっと面白い反応しろよーw」


 この公園にいてはいけない人の声がする。俺はそいつらの姿を確認したく無かったが、そうもいかなかった。

 ホラー映画の登場人物のように、ゆっくりと後ろを振り返った。そこには上田と大久保がいた。おそらく、防災用の倉庫裏にいたのだろう。俺に存在がバレて、わざわざ自ら出てきたのだ。


 やっと登場か。

 予想通りすぎて、少し嬉しく思えてきた。

 俺の推理力は高いんだ!


 俺が心の中で勝ち誇っていると、高島さんが聞いたこともないような大きな声で言った。


「どうして、ここにいるの!!!」


 高島さんが予想外の反応をして、俺を含めた男たちは言葉が出なかった。

 俺たちが無言なのが彼女をさらにイラつかせたのか、さっきと同じかそれ以上の大きさで、


「私は、!!来るなって言わなかった?私はもう、宮野くんを陥れるようなことはしないって!!」


 さすがに高島さんのこの態度が我慢ならなかったのか、大久保が声をだした。大久保は女の子にしてはいけないくらいの表情をしていた。


「なんだ、お前!こいつに情が湧いたのいうことか!?」


 俺は状況についていけない。しかし、状況から察するにやはり、上田と大久保の差し金により、彼女は俺に近づいてきたみたいだ。

 不思議なのが、高島さんが俺を庇っているところだ。普通なら上田たちと俺のことを笑うはずだ。


「情もなにも、私はもともと宮野くんのことが……」


 ん?

 最後の方が聞き取れなかったが、文脈から察するに高島さんは俺のことを前から好きだったの?

 どうやら、上田と大久保も初めて聞いたみたいで、驚きを通り越して、疑問が勝っているようだ。


「いやいやいやいや!このオタクのどこがいいって言うんだ!?」


「お前は男から人気があるんだぞ?わざわざ、こんな男を選ばなくてもいいじゃないか!」


 俺に対して非常に失礼なことを言う奴らである。本人が目の前にいるのにこんなことを言えるって逆に尊敬するわ。


 これには流石の俺も怒りそうになる。俺のことが好きな高島さんはもっと怒ってくれると期待していた。しかし、さっきまでの怒りの表情は薄まり、哀れんでいるような軽蔑したような顔になっていた。


「彼の良さはあんたたちには、一生わからないわ!

 オタクだから何?彼は私の前でそんな話をしたことはない。私が楽しめるような面白い話しかしてこないわ!

 それに!私を心配したり、私に気を遣ったりしてくれる。彼以上に優しい男の子は知らない!他の男なんて、興味なんてない!」


 俺のこと、ベタ褒めじゃん。え、今日俺死ぬの?


 上田たちはこうもはっきりと彼女の気持ちを聞いて、狼狽えている。

 奴らの思惑は見事に打ち砕かれて、行き場のない感情をどこにぶつけていいか、分からないのだろう。


「あぁ!くそ!

 クソつまんね!行くぞ!ルイ」


 上田はそう言った。高島さんと同じ部活の大久保はそれに続き、


「美歩!分かっているだろうな!俺らの部活でもう、お前の居場所ないぞ!」


 なんだその脅しは。脅迫罪に問われるぞ?

 でも、これはやばいんじゃないだろうか?高島さんは大丈夫か?


「こうなったら、辞めるつもりだったわ!私のこと舐めないでよ!」


 カッコいいな……。


 上田と大久保は高島さんの堂々とした様子を完全に無視して、公園から出て行った。

 俺と高島さんはその様子を見届ける。そう言えば、俺は一言も話すことがなかったな……

 俺たちが取り残されて、さっきまでの言い争っていた空間と同じとは思えない、気まずい世界ができていた。俺が頑張ってこの世界を壊そうと、声を出そうとするが、それよりも前に


「私の気持ちが全部、バレてしまって恥ずかしいな。でも、この気持ちは嘘じゃないから」


 さっきまでの怖い表情ではなく、少し赤面しながら、しかし、俺のことをまっすぐ見て言った。


「その、俺のことが好きって言うのは分かったけど、いつから好きだったの?」


「好きになったのは最近だよ。でも、メッセージを送る前から気になっていたの。優しくて、気遣いができる人だなって」


「そういえば、メッセージ送る時に俺の連絡先はどうやって手に入れたの?」


 ふと、前々から疑問に思っていたことを聞いた。俺の連絡先を持っている人なんて限られている。それにもかかわらず、どうやって連絡先を手に入れたのか。


「あぁ、それは、ルイから貰ったの。私も頑張って宮野くんの連絡先をゲットしよう思ったんだけど、グループに全然入ってなくて、困っていたんだ」


 大久保から貰った!?もちろんだが、俺は連絡先を大久保なんかに教えていない。それなのに、どうして大久保が?


「ルイたちに宮野くんに嘘の告白をして、笑い者にしようって話を聞いたの。それで、私が告白するからって言って、連絡先を教えてもらったよ。確か、2組の田中くん?が宮野くんの連絡先を他の人に渡していたよ」


 田中!!!!お前か!

 俺を上田と大久保に売ったのか!?まあ、そんなことをすると奴らからは好印象をもたらすが、友達を売るとは……

 これで、ひとつ分かったことがある。田中は俺の敵だ。


「そうだったんだ。ありがと。詳しく教えてくれて」


 ここまで、質問してばかりの俺は一言お礼を言う。


「うんう。そんなことないよ。それよりごめんなさい。私があいつらを止めていたら……」


「謝らなくていいよ。それに高島さんはあいつらに協力はしなかったんじゃないの?」


「そうだよ!今までいろいろ言われてきたけど、全部無視してたの」


 完全に上田たちと対立しているみたいだ。でも、そんなことをして大丈夫なんだろうか?さっきも脅されていたし


「上田と大久保に喧嘩を売って大丈夫?」


「ん……。大丈夫ではないかな」


「だよね……」


 あいつらは友達は多いし、ヒエラルキートップは伊達じゃない。ターゲットになると俺みたいにクラス中にハブにされる。


「でも、あなたが守ってくれるでしょ?」


 イタズラ顔をしながら、高島さんは言った。冗談っぽく言っているが本当に頼りにされている気がする。


「あぁ、守るよ」


 つい。マジな雰囲気で言ってしまう。自分で言っていて顔から火が出そうだが、それ以上に高島さんは照れている。


「あ、うん。ありがとぅ。頼りにしてるよ」


 なんだろう。この雰囲気。

 付き合いたてのカップルのようだ。

 ……しかし、俺は考える。


 本当にこのまま高島さんと付き合うのか。


「それでさっきの返事を聞いてもいいかな?」


 高島さんは告白の返事を急かす。彼女の心の中では断れる要素がないと思っているだろう。俺も高島さんと恋人になれるチャンスを捨てる理由はない。

 しかし、俺は


「ごめん。付き合うことはできない」


 言ってしまった。

 あぁ、なんて愚かな選択肢だろう。

 どうして、自分はこんな選択をしてしまったのだろう?

 分からない。本当にわからない。

 分からないけど、さっきから愛の顔が浮かんでいる。


「そんなに佐々木愛が好きなの!?」


 俺が自分の理解できない言動に困惑していると、彼女の言葉が俺の心臓をドキンと鳴らす。

 そうだ。俺は未だに愛のことが好きなんだ。


「宮野くんは振られたんだよ?もう、可能性は一ミリのないの!だから。だから、私と幸せになろうよ」


 高島さんは大粒の涙を流している。そのせいでメイクも落ちている。そんな姿でも彼女の美しさは変わらない。いや逆に、涙のおかげでお美しさの中に神々しさすら感じる。

 そんな姿を見ても、俺の意志は変わらなかった。


「分かっているんだ。分かっている。高島さんと一緒にいた方が楽で、幸せで、楽しい青春が待っていると」


「だったら、」


「だからこそ無理なんだ。俺は愛のことをずっと、ずっと前から好きだった。そんな彼女の存在を俺の中から簡単に消すことはしたくない」


 あぁ、そうか。

 そういうことか。


「高島さんといると愛の存在が消えていきそうで、怖いんだ……」


 そうだ。俺は怖いんだ。

 愛の中から俺が消えて。

 さらに俺の中から愛が消えるのが。


 どうして自分がこんな愚かな選択肢をするのか、言葉にすることでわかった。なんて、自己中心的な話なんだろう。


「そんなことで!そんなことで、私はこんな目に……」


 ただ、俺が怖いと言う理由だけで高島さんのような優しい子が苦しんでいる。俺には彼女を救うことは簡単だと、頭では分かっているが、行動に移すことはできない。


「高島さんは優しくて、可愛くて……それでいて、自分の意志を持ったかっこいい人

 俺なんかじゃなくて、もっといい人がいるよ」


「そんな人いないよ……あなたは自分のことを卑下にしすぎ。さっきも言ったけど、宮野くんには他の人にはない魅力がある」


 声が大きくなっていき、言葉も強くなっていき、


「私は宮野くんを1番理解して、1番好きでいて、1番大切にするの!だから。だから……だから、私と付き合ってよ……」


 見ていられないくらいの高島さんの姿が目の前に広がっている。

 この姿を見ても、俺の意志が変わることはなかった。こんな自分が嫌いになる。


「ごめん。それは無理なんだ……」


「佐々木愛のどこがいいの!?あんな、見た目だけの女の!いつもいつも、男に媚びて。男はそれに騙されて。

 宮野くんも見たでしょ?伊藤くんとワクドで楽しそうにご飯を食べている姿を。あの女は上っ面だけをみて人を判断するような女で、宮野くんに相応しくない!!」


「高島さんに何がわかるんだ」


 はっ、とする。愛のことが罵倒されていて、一瞬自分の感情が制御できなくなった。自分の声が自分だとわからないくらい低い声がした。

 ぱっと、高島さんの方を見る。一瞬固まり、さらに泣き出してしまう。


「どうして、あなたは佐々木愛のことを庇うのよ。私にそんな顔を見せないでよ。怖いよ……」


「ご、ごめん!本当にごめん」


 さっきまで、泣いていた彼女とは打って変わりキリッとした表情で、


「もういい!もういいよ!宮野くんの気持ちはよく分かった!絶対に後悔するからね!」


 今の彼女は怒っているのだろう。俺のことを睨みながら言った。

 いい終わると、走りながら公園を出て行った。

 俺はそれを送るよ。と言う言葉を出すことができないまま、見送った。


 当たり前だな。

 俺になんの権限があるんだ。


 1人残された公園でさっき言われた言葉を思い出す。


 "絶対に後悔するからね!"


 あぁ、するだろうな。後悔を。

 なんて言ったって、もう既に後悔をしている。

 ただ、あのまま高島さんと付き合う姿を想像すると、怖くてたまらない。


 俺の中の愛が消えそうで。



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