佐々木愛の日常4 side 佐々木 愛
大変遅くなりました……
いつもの倍あるので、許してください笑
土曜日は和也を見守る仕事をした。もちろん、日曜日も和也の家に行く。なんとか、カメラをつけることを考えないと。毎日、和也家に行くのはダメだ。
行くのは苦ではないけど、いずれか通報されてしまう。
だって、怪しいもん。
自分でもそう思う。
だから、通報されないようにいつでも、どこでも見守れるようにしないとね。
一週間で宮野家の行動パターンがわかった。お母様は日曜日から水曜日までは朝からお仕事で、木曜日だけは夜勤みたいだ。お休みは金曜日と土曜日。
だから、和也の部屋に入るには月、火、水のどれかだね。
とはいえ、本当に入る勇気はない。だって、完全に犯罪だし、もしバレたら和也から嫌われるでは済まないだろう。
冷静な私はカメラを設置して得られることよりも、カメラを設置してバレた時に失うものが大きすぎると囁いている。
そのことは分かっているから、今のところは実行には移さないだろう。別に今のところは怪しい人で犯罪は犯していないと思う。
今なら、引き返すことができる。
今のままでいい。ただ和也を見守っているだけだったら、いずれかは飽きる。そうなれば、私はたくさんの男から追いかけられる美少女に戻るだけ。
今の私は少しおかしくなっただけ。
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週が明けた。
月曜日はいい日だ。和也に会えるし。
月曜日も朝から和也の家に行った。これで1週間だ。
和也もお母様も先週と同じ行動をしている。
私も和也が起きるのを確認した後に学校に行った。
何事もなく授業は終わり、放課後は梨乃と勉強。
そんなことをしていると、水曜日になった。
今日はテスト本番だ。
テストの日も和也の家にはいった。和也はいつもより早めに起きていた。和也はテストの日は早く起きる。
また、1つ新しい和也を知ることができてよかった。
私自身のテストは何も問題なく終わった。
いつもはテスト勉強をしなくても高得点が取れる中、今回は勉強をしたのだ。問題なんて起こるはずがない。
どちらかと言うと、テストが終わってからの方が問題だった。
「宮野くん!お昼ご飯食べて帰ろうよ」
テストが終わり帰ろうとしている和也について行くと、廊下で待ち伏せている女がいた。
ストーカーかよ。
「ごめん。明日は苦手な教科だから早く帰って勉強したいんだー」
和也が泥棒猫の誘いを断った。私は吹いてしまいそうだったが、なんとか耐えた。
和也がお前とご飯なんて食べるわけがないだろ。前に教室で食べた時は無理矢理だったけど、今回はそんなことは起きない。
「明日!お昼ご飯一緒に食べようよ」
断られた泥棒猫は見るからに落ち込んでいる。そんな、態度に当てられたのか、和也が言った。
引っ込み思案の和也からの誘いなんて、私でもあまりない。そんな中、嫌いな女が和也からは誘われていることに嫉妬で狂いそうになる。
そのせいで、泥棒猫のことを強く睨んでしまう。
2人はそんな私を気にする様子もなく、話を続ける。
「ほんと?やったー!明日だね。これで明日のテストも頑張れそうだよ!」
「じゃあ、また、あしたー」
そう言うと、2人は別れていった。和也を追いたくなるが、自転車の和也の後をついていくことはできない。
あぁ、ほんとあざといな。
本当にムカつく。
私のそんな目線に気がついたのか、泥棒猫は私の方を見る。泥棒猫は余裕の見せつけるように、ドヤ顔をしているように見えた。私の怒りはさらに強まるが、これをぶつけることはできない。
なんとか、怒りを抑えるように駅の方に足をすすめていった。
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テスト2日目も問題なく終わった。まあ、物理が少し難しかった。あれは満点の自信はないかな。
そんなことよりも、今日は和也と泥棒猫が2人でお昼ご飯を食べる日だ。なんとか、これも監視しないと。
でも、前のファミレスのように店に入られるとどうしようもない。私も一緒に入るのがベストかな。
目の前にいた梨乃に話しかける。
「ねえ、梨乃ー。お昼ご飯、どこかで食べようよ」
「んー。ごめん!今日はテニス部の子たちと食べる約束しているんだ」
テニス部か……
それは人数も多いし面倒臭いな。まあ、私が来て嫌がる人はいないと思うけど、大人数での行動は苦手。
「そっかー。分かったよ。他の誰かと食べるよ」
「ごめんね。一緒に来ても良いんだけど、苦手でしょ?」
相変わらず鋭いな。
まあ、そもそも自己中心的なお誘いだからそんなに気にしなくても良いいんだけどね。
ばいばーいと言い、梨乃と別れて教室を出る。
隣のクラスの前に和也が立っている。あの女を待っているのだろう。
私ではなく。
あの女を。
さて、どうしようと考える。
いっそのこと1人で食べるか?
いや、それは流石にきついな。誰かが都合よく誘ってくれたら良いけどな。
いつもは鬱陶しいくらい誘われるのに、こういう時に限って誘われないのが腹立つ。
いつもはご飯に誘われても行く気が全くない私が、随分と勝手なことを言っているなと笑ってしまう。しかし、そんな私の意図を汲み取って、それともただの下心かは知らないけど誘ってくる人がいた。
「佐々木さん!もしよかったら、一緒にお昼行かない?」
伊藤か。空気が読めるのか読めないのかよく分からないが、私にとっては都合がいい。
私は自分の都合のいい展開になった。だからか、いつもより機嫌が良くなって、満面の笑みで
「いいよ。一緒に食べようよ」
私のこの言葉にいろんな人が驚く。
まあ、いつもはご飯なんて断る。てか、和也以外の男と2人でご飯を食べるのは初めてかも……
んー。そう思うと、安易な行動だったかな。
自ら和也との思い出を壊すなんて。
この状況なら仕方がない。あの2人を放置することなんてできない。
「俺、ちょっと掃除当番だから」
葛藤をしていた私に対して、呑気に伊藤は言った。
どうでもいいけど、早くしてよ。
「そっかー。じゃあ、教室前で待っているよ」
「また、後でー」
そう言うと伊藤は階段を下りて行った。
私は和也たちの会話が聞こえるくらいの場所で伊藤を待っておく。和也は私のことなんで気にしていないと思うが、泥棒猫は私をチラチラとみてくる。
しかし、それを和也には気づかれないように自然にしゃべっている。
「じゃあ、ワックにでも行こうよ」
「おっけー。じゃあ、行こっかー」
よし!2人の行き先が分かった。これで同じ場所に行けば、2人を監視できる。これがわからないと、ただの伊藤とのお昼ご飯になってしまう。そんなのは拷問でしかないよ。
和也たちは階段のほうに歩いていく。私はそんな2人を目で追いそうになるが、なんとか我慢する。他の女といる和也が一瞬でも私の目から離れることに気が狂いそうになる。
心の中で伊藤!早く来いや。と思うが、私の思いとは裏腹になかなか来なった。そのせいでいろんな男から話しかけてくる。毎回、愛想よくして相手にするのが面倒くさい。
「へー。そうなんだー」
「すごいねー」
「ごめんね。今日は違う人と約束しているんだー。また今度、誘ってよ!」
あっっっっ、めんどくさい……
そんな、苦行に耐え続けていると、やっと伊藤が戻ってきた。伊藤が戻ってきた瞬間、周りにいた男たちが虫のように散っていく。
なんか、私とこれが付き合っているみたいな反応はやめてほしい。きもいよ。
「ごめんね。なるべく早く戻ってきたよ」
早くねーよと思ったが、時間をみると5分くらいしか経っていなかった。
時間って不思議だよねー。和也のためなら何時間でも待てるのに、興味のない男だったら数分すら耐えれないとは…
「じゃあ、行こっかー」
「えっ、どこに行くか決まっているの?」
伊藤は驚いた顔をしながら言った。私は当たり前のようにワクドに行こうとしたが、それにいちいち突っかかってきた。
ただでさえ和也から目を話して、イライラしているのに伊藤と喋っているとそれがさらに加速する。
でも、なんとかそのイライラを抑え込んで、ワクドに行く方向にもっていく。
「私ね。あまりそういうお店はいかないから、伊藤君と一緒に行きたいの」
できるだけ上目遣いでかわい子ぶって(実際にかわいいけど)、そういった。
伊藤はそれを素直に受けって、すぐさまに私の意見を尊重した。
「そっかー!確かに佐々木さんはあまり、行かなそうなイメージだよー。俺でよかったら一緒に行こう!」
「うん!ありがとー!」
おえっ……
自分で自分の言葉に吐きそう。
まあ、いい。これでワクドに行ける。
早く、行かなきゃ。
そう思い、伊藤を急かす。でも、向かっているときにいろんな人に話しかけられる。しかもそれを伊藤はいちいち相手にしているのでなかなか足が進まない。
なんか、私と一緒に歩いていることをステータスと思って、いろんな人に見せつけているみたい。
あぁ、気分が悪い。
お腹空いたし、早く行こうよ。と言い無理にせかす。
いつもより、3倍の時間をかけて学校を出れた。この時点でうんざりしているが、これからが本番だ。
ワクドに向かっていると時もチラチラと見られるが、話しかけられなかった。
それにしても、こいつは歩くのが遅いな。チンタラ歩いているせいでイライラがさらに増していく。
なんとか、ワクドに着いた。一緒に注文してくれたが、何故かお金も一緒に払ってくれた。私に対して格好をつけていると思うんだけど、私は和也以外の男にカッコいいなんて言う感情は全く湧いてこないから、無意味だ。
まあ、お昼ご飯代が浮くし、遠慮しつつも甘んじて奢ってもらおう。
注文した商品が出来上がるのを待っている間に店内を見渡す。残念ながら、目に入るところには和也はいなかった。
じゃあ、2階かな?
このワクドはあまり来ないけど、2階建てなのは知っている。2階にも席があるはずだ。そこに和也はいると思う。
頼んだ商品がトレーに乗って出てきた。それを伊藤が受け取った瞬間に
「上で食べようよー」
と私は誘導する。そして、どんどんと階段の方に歩いていく。
お金も払わせて、トレーすら運ばないんだから最悪な女だなっと思うが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
2階に上がり、あたりを見渡す。
いた。
和也と泥棒猫が。
端っこのトイレの近くの席だった。
私が和也に目を奪われていたが、伊藤の言葉によって現実に返される。
「佐々木さんとご飯食べれるなんて、夢みたいだよ!」
えぇ。本当にね。
悪夢のようだわ。
そう思ったが、それを口に出すことはもちろん出来ないので適当に話を合わせておく。
「伊藤くんは大袈裟だね。誘ってくれたら、また行くよ」
私たちの会話で気がついたのか、和也と泥棒猫はこっちを見る。一瞬、和也と目が合いそうになるが咄嗟に無視する。
私が和也以外の男と一緒にいる姿なんて見ないで……
私は2人の存在を全く気にしていない様子で席に座った。
座った場所から和也の後ろ姿は見える。また、泥棒猫とは向かい合っている。
だから、泥棒猫とは出来るだけ目が合わないように和也の背中を見るようにする。
あぁ、背中も可愛いな。
前からだともっと可愛いのに。
「食べないの?」
ハンバーガの包みを取っていた伊藤が私に言った。
私の勝手でしょ?と言いそうになったが、なんとか堪えた。
「どうやって食べるかわからなかったんだ」
はい。嘘です。
ワクドにはお父さんによく連れて行かれるし、ジャンクな食べ物は好き。
でも、なぜか学校での私のイメージはお淑やかで、お金持ちで、世間知らずのお嬢様のようだ。
まあ、その清楚なイメージのおかげで変な男からは話しかけられないで済んでいるから別にいいんだけどね。
「そっかー!気が回らなくてごめんね。初めてだもんね!」
そう言うと、わざわざ食べ方を教えてくる。
いや、知ってるしと思いつつも、その指示に従いながら食べる。
目線は相変わらず、和也の方に行ってるが。
和也たちは楽しそうにスマホで動画を見ているみたいだ。猫の動画のようで和也が猫について語っている。
少し声が大きかったのか、伊藤も後ろをチラッと見た。そして、私に対して少し苦笑いした。
この伊藤の反応にイライラしたが、それを表に出さないように伊藤に合わせた。
和也は猫が大好きだ。でも、それを認めようとはしない。
そう!ツンデレだ!
それがほんと、可愛いだよね!
猫が好きなことが恥ずかしいのかな?私は和也にどんな好みがあっても、全然気にしないのに。
なんなら、私が猫耳を付けたら相手にしてくれるかな?
いや、逆に怒らせるかな?
「テストはどうだった?」
和也のことを考える幸せな時間が終わった。
というか、終わらされた。
沈黙に耐えられなかったのか、伊藤が話を振ってきた。
「物理が少し、難しかったかな」
「そーだよな。あれは先生も意地悪だよな」
そうそう。と適当に相槌を打ちつつ相手にする。
お前は喋らないでいいよ。と思うがそうはいかないみたいだ。
和也たちは、食べ終わってから勉強を始めてしまった。
あの女はまだ、和也を独り占めするの!?
どうしよう、私ももうすぐ食べ終わってしまう。そうなったら、2人を残して店を出ないといけない。
「せっかくだし、勉強でもしよっか?明日のテストだし」
なんとか、店に居続けるために勉強に誘った。
苦渋の決断だけど仕方がない。
「もちろんいいよ!勉強しよう」
伊藤は前のめりになってそう言った。
うん。きもい。
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1時間くらい勉強しただろうか。和也たちは教室でしていた時のように真面目に勉強していた。
私も勉強しようと思ったが、伊藤がことあることに話しかけてくる。鬱陶しいが、無視することはできない。
心の中で、もうこいつとは一生勉強しない。と誓った。
そんなことを考えていると和也たちが勉強道具を片付け始めた。
どうやら、帰るみたいだ。
だったら、私も帰らないと。和也がいない店でこの男と一緒にいる理由はない。
勉強道具を片付けた後、階段を降りていった。2人の姿が見えなくなってから、伊藤が口を開いた。
「驚いたなー。宮野が高島さんと一緒にいるんだから」
「えぇ。そうね」
触れてほしくない話題が出てきたため、そっけなく答えてしまった。
「佐々木さんがうまくいかなかったから、高島さんなんだね」
少し馬鹿にしたように伊藤はいった。
この言葉を聞いた瞬間に全身の血が沸騰しそうになった。
怒りと共に悲しさが湧き上がってくる。他の人から見ても和也は私に興味がなくなった事実を突きつけられて。
「そんなんじゃないと思うよ」
ただ、弱々しくそう答えるしかなかった。
私はわざとらしく時計を見た後に筆記用具を片付けていく。
「帰るの?」
「うん。帰らないといけないから」
そっか。と言うと、伊藤も勉強道具を片付け始めた。
私は先に片付けが終わり、このままでは一緒に帰る流れになると気がついた。
それは嫌だ。これ以上、こいつと一緒にいたくない。
「じゃ、悪いけど先に出るね。ちょっと、寄るところがあるから」
そう言い、有無を言わさず先に階段を降りていく。伊藤は何かを言っていたが、聞こえないふりをした。
店を出た後は駅のほうに向かうのではなく、スーパーに寄った。
ぼっーとしていたから、何を買ったかは覚えていなかった。
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3日間のテストが終わった。
今日も和也を見守っていたけど、幸いにも泥棒猫と一緒にいることはなかった。
明日からは休日だけど、やることがある。
あぁ、和也の見守りじゃないよ?
明日からアルバイトを始めようと思っている。
今日は採用前の面接があるんだよねー。
カメラとか色々と買わないといけないものが出てきたから、稼がないとって思った。
"女子高生 稼げる"で調べたら、怪しいやつがいっぱい出てきた。
まあ、稼ぐだけならそういうことをした方が効率がいいと思う。でも、和也以外の男にそう言う目で見られるのは耐えられないし、毛先の一本すらも触られたくない。
だから、アルバイト先は健全なカフェだ。しかも、女性客が多いお店。
履歴書を書いて、いつもは乗らない路線でアルバイト先に行く。家に帰る暇はなかったから、制服のままだ。
店長は40代くらいの女性だった。面接が始まった瞬間にアイドルみたいだね。と言われ、すぐに採用が決まった。
ふふ。初めての面接だったけど、恐ることはなかったね。
その後、シフトが決まり土曜日に朝から夕方まで入ることが決まった。平日にも入って欲しそうだったので、1日だけ学校が終わってからもシフトを入れた。
だから、アルバイトには週に2回行くことになった。
その日はそれで帰り、久しぶりに本を読み始めた。本も和也が読んでいたから読み始めたけど、今では一番の趣味になっただろう。
和也はライトノベルをよく読んでいるみたいだけど、和也が言うには私には合わないらしい。何度か読もうとしたけど、止められて結局読むことはなかった。
まあそれでも和也と共通の趣味だから、無碍にはしたくない。ゲームとかもしたいけど、和也がどんなゲームしているかは教えてくれない。
それにゲームは少し高いので簡単には手が出せないのも正直なところだ。
もっと、もっと和也と共有できるものを作っていきたいな。私、和也の好みならどんなものも受け入れられる。
でも、和也は自分の話をしないから、私は和也の趣味とか好きなものとかを今は知らない。
そう、今は。
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次の日。久しぶりに和也の家に行くこともなく、駅に向かった。今日は土曜日で初めてのアルバイトの日だ。
流石に遅刻はできないので、家から直接アルバイト先に行った。
個人経営のカフェでコーヒーとケーキが売りらしい。店の名前は喫茶ヒトリという。
店内は小さい為、店長とホールスタッフの2人の合計3人で回しているみたい。私の他に女子大生のスタッフがいた。
結構美人で店長は両手に花だー!と叫んでいた。
なんか、面白い人だ。
1日でメニューで覚えて、仕事の大半を1日で覚えたことで時給アップがすぐに決まった。
まあ、よかった。よかった。
お金は結構必要だからね。
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日曜日は朝から和也の家に向かった。和也の部屋を見ると安心する。いつかはカメラを……
日曜日だからかいつもより起きるのが遅かった。それ以外には変わったこともなく、外に出ることもなかった。
まあ、和也のいつもの日曜日だ。
月曜日になって、学校に向かう。前にもちろん和也の家に行く。どうしてか今日は起きるのが早かった。家を出るのはいつもの時間かなっと思ったが、いつもよりだいぶ早い時間に出ていった。そのおかげで、家を出る和也の様子も見ることができた。
なんか、いつもよりも元気がなさそうだった。まあ、ただ眠いだけだと思うけど、それならもう少し寝ていたらよかったのにね。
はっ!まさか、またあの女との約束が!?
やばい。早く学校に行かないと!
自転車で学校に向かう和也を見送ってから、私は駅のほうに走っていく。
今日は幸いにも誰にも会わずに済んで話しかけられることもなく、教室に着いた。
しかし、なんか様子がおかしい。
教室前に違うクラスの人がいる。それもいっぱい。
なんか、大きな声が聞こえてくる。
「おい!なんか、言えよ!」
「最低のクズだな!高島にそんなことをしていたなんて!」
「もう、学校に来るな!犯罪者め!」
「あんたみたいのと同じクラスなんて、恥ずかしいわ!」
ん?なんか、不穏な言葉が多いな。
誰かが何かやらかしたのかな?
それにしたって、ひどい言葉ばかりだなー。
他人事のようにいつも通り教室に入ろうとしたが、その言葉を浴びせられている人に目を疑った。
和也の周りに女子生徒が数人が群がって、さっきよりもひどい言葉を浴びせている。しかも、それを止めようとする人は誰もいない。
一瞬、呆然としてしまった。
それくらい異常な状況に頭が追いつかなかった。
え?何が起こっているの?
どうして彼が責められているの?
彼が何をしたの?
彼がここまで責められる理由は何?
私が頭の中でぐるぐると空回る答えの出ない思考を繰り返している時も和也に対する罵倒は止むことはなかった。
なんでもいいけど、止めないと!
そう思い、体を動かして教室に入っていく。私の存在に気がついたのか、ひどい言葉を言っていた人たちが口を閉ざし道を開けていく。
和也たちも私の存在に気がつく。私は意を決して口を開いた。
「ねえ。随分、彼を責めているみたいだけど何があったの?」
いつものふわふわ雰囲気ではなく、厳しい言葉で言ってしまった。
和也の周りに群がっていた女たちが私の方を向いて、高々に言った。
「佐々木さんも聞いて!こいつが隣のクラスの高島美歩っていう子にレイプしようとしたの!!」
和也に!レイプ!?
なにそれ!?
羨ましい!
って、違う違う。私の場合はイチャラブになってしまうわ。
落ち着け。自分。
心を落ち着かせてよく考えよう。
和也が
泥棒猫に
えっちなことをしようとした。
えっ?それって和也が泥棒猫のことを好きってこと!?
そのことに気がついてしまって、吐きそうなくらい胸が苦しくなってくる。
いや、でも待って。
泥棒猫は和也のことが好きだと思う。
だったら、考えたくないけど相思相愛になるんじゃないの?でも、和也は泥棒猫が好きで、泥棒猫も和也が好きだったら、レイプなんて言葉は出てこないよね。
じゃあ、どういうこと?
一体何が起こっているの?
頭で考えても何も答えは出なかった。
だから、何気なしに目の前にいる和也に質問してしまった。
「彼女の言っていることは事実なのかしら?」
って!和也と凄く久しぶり話していない?
内容は重苦しくて仕方がないけど、和也が私の目を見て私の声を聞いてくれた。
これって、奇跡じゃない?
「話すことは何もない」
浮かれたことを考えていた私に対して、和也はその浮かれを打ち砕くような冷たい言葉を放った。
その言葉を聞いて自分の置かれていた状況を思い出した。いや、今までは無理やり忘れていただけだ。
そう、私は和也に嫌われているのだ。
そんなことも忘れて、ずけずけと間に入って偉そうに何をやっているのだろうか?
嫌いな女が間に入っても何もならないではないか。
でも、このまま放置することはできない。
でも、私にはどうすることもできない。
あぁ!周りがうるさい!
私がいろいろと考えているうちにまた、和也が言われたい放題になっていた。
その言葉はまるで私にも言われているような、そんな気分だった。
だって、愛する人に放たれる言葉だもの。
それは私に対しての言葉にもなるんだ。だから、痛くて辛くて苦しいんだ。
でも!
でも!
彼はそんな言葉を突きつけられる人ではない!
だって、私が愛する人だもの。
「やめなさい!」
そうだ。彼から嫌われているとかそんなこと関係ない。
彼への言葉は私の心が痛む。
だから、私はそれを止めるんだ。
「どんなことがあっても、寄ってたかって1人の子をいじめてはダメだよ!
それに!彼はそんなことをする人じゃない!」
自分でも驚くくらいの大きな声で言ってしまった。そのせいか周りがしんっと、静まり返ってしまった。
そんな雰囲気を壊すのはまた、あいつだった。
「優しいね佐々木さんは。こんな奴とはいえ、幼馴染だもんね。庇ってあげたくなるよね」
伊藤がそう言った。
この人はなんで、幼馴染って知ってんの?あぁ、前にバレていたっけ?
って、さっきの私。凄く恥ずかしいことを言った?和也のことを庇ったもんね。
伊藤に言われてから気がついた、先ほど自分が言った言葉に羞恥を覚える。
自分の顔が赤くなっていることを自覚する。和也の方を見るなんて、今の私には出来なかった。そのため、伊藤の顔を見て不快感を生み出そうと思い、言葉を放った。
「幼馴染とか関係ないよ」
いや、和也と幼馴染っていうのは私の一番の自慢できるところだから、声を大にして言いたい。でも、今は関係ない。
それにしても凄い雰囲気になってしまった。私が間に入ったことでさらにカオスなことになった。
この雰囲気をどうにかするのは私にも和也にもできないが、都合がいいことに都合のいい男がいる。放っておけば勝手にまとめてくれるだろう。
案の定、伊藤がこの場を収めてクラスメイトが席に座った。
担任が来て、ホームルームが始まった。ホームルームが始まっても、和也に対する視線は冷たかった。
クラスメイトたちはヒソヒソと話して、和也のことを馬鹿にしている。
この教室は居心地が最悪だ。
愛する人が冷遇されているんだよ?
そんなの耐えられる?
あぁ、この教室にいたくないな。
1時間目が始まっても、授業に集中せずにヒソヒソと噂話をしている。そんな姿を見るのもイライラして仕方がない。
私は授業が終わった後、すぐにトイレに向かった。個室に入り、小さな掠れた声で鬱憤を爆発させる。
あーーーーー!!
なんなの!もう!
和也は何もしていない!
愛する人がどうしてあんな目に合っているの!
そもそも!あの女が悪いんだ!
あの女が和也を妬んでこんな噂を流したんだ。許さない。私から和也を奪うだけでなく、和也を傷つけるなんて!
それに、クラスメイトもなんでそんな話を間にうけているの?
和也と一緒のクラスならわかるでしょ!?和也の優しさと和也の性格を!
そんなことするわけがないよ。それにもかかわらず、みんなで和也を責め立てて!本当に嫌い!
あの女も!
クラスメイトも!
和也を傷つける人、全員嫌い!
いくらぶちまけてもスッキリしなかったが、少しはマシになった。少しでも不満を解消しないと、教室で叫びそうになる。
あぁ、戻らないと……
個室から出る。トイレには幸いにも誰もいなかった。
誰かに聞かれたということはないだろう。
教室に近づくと、デジャブを覚える。
朝と同じだ。他のクラスの人も教室の前にいて、教室内もざわざわしている。
もしかして!!また!?
早足で教室に入る。
予想通りに和也の周りに人がいた。しかし、私が教室に入った瞬間に何事なかったかのように口を閉じている。
でも、私にはわかる。
和也の顔を見れば。
なんて、顔をしているの?苦しそう。
本当に苦しそうにしている。
また、ひどいことを言われていたことがわかるが、私は冷静に口を開く。
「何を話しているの?」
「世間話をしてただけー」
「そうそう。当たり障りのない世間話。なあ!宮野くん?」
名前を忘れた男たちが答えた。こいつら、伊藤と取り巻きか。まあ、どうでもいいけど。
世間話な訳がない。世間話だったら、和也はそんな顔をしない。
「そうだね。世間話だよ」
私の断言とは裏腹に和也からの肯定の言葉が聞こえた。今だに苦しそうな顔をしている。
でも、和也がそういうのなら、
「そう……。ならいいけど」
と、弱々しく言うしかなかった。
和也の周りにいた男たちは席に戻って行った。私はその姿を睨みつけてしまう。
残された私は和也と2人であることに気がつく。本来ならドキドキして、にやけ顔が収まらなくなるところだが、今の私にはすることがあった。
「ねえ。大丈夫?何かあったら、言ってよ」
そう。苦しそうな和也を救うことだ。
和也は無表情で私の方を見ている。和也のこんな顔は初めてで、そんな和也を見ていると泣きそうになる。
でも、今は和也を救うことが大事だ。いくら、和也に嫌われていることを突きつけらとしても、引くわけにはいかない。
チャイムがなった。本来ならすぐに席に戻るが、今回はチャイムを無視する。
和也の方をじっと見て、和也が口を開くのを待つ。
「佐々木さんには関係ない。放っておいて」
やっと口を開いてくれたことでの喜びを一瞬でかき消すような冷たい言葉に崩れ落ちそうになる。
もう、私には和也を救うこともできないの?
「そう」
死にかけの声でなんとか、そう言い。席に戻る。
顔を隠して、涙を拭う。バレてはいないと思うが、まさか教室で泣いてしまうとは。
辛いよ。教室では泣くこともできない。
今すぐに泣き喚いたい。
教室ではそれすらできないだから、辛くて仕方がない。
自分がどんなに辛くても和也には幸せでいてほしい。和也が苦しいのなら助けてあげたい。
私が和也から嫌われて、避けられていたとしても私は和也の手助けをしたい。
今までは嫌われたから見守っているだけでいいと思っていた。しかし、その結果がこうなった。すなわち、見守っているだけでは、和也を守ることはできない。
私が和也と一緒にいて守るしかない。和也と話して、触れて、和也を悪意から守ってあげないと。
私は行動するしかない。今まで嫌われたからといって、話しかけることもしなかったが、それはダメだ。
今後は話しかけて、一緒にいて和也を守らないと。
そしてさらに、見守り活動ももっと、激しくしないとね。
これにて佐々木愛目線は終わりです。
次は主人公目線に戻ります。
高島さん目線も書きたいと思っているのですが、面倒くさいなーって思っています。
需要があれば早めに投稿します。