疑いの目
昼休みはもちろん1人で食べた。場所はぼっち飯の場所。
あっ、トイレじゃないよ?俺が告白した場所だよ?
授業が終わったので、帰ろうとする。今日は時間経つのが、いつもの100倍ぐらい長く感じた。
荷物を持ち、帰ろうとするが担任の先生に話しかけられた。
「生徒指導室で待っててください」
放課後で雑談が飛び交っている中、ぎりぎり俺には聞こえるくらいの小さな声でそう言った。
生徒指導室に呼ばれることなんて、嫌ってくらい思い当たりがある。行きたくないので、このまま無視して帰りたいと思ったがそんな事をしたらあの事実を認めているようなものだ。
俺は緊張しているのかトイレに行きたくなったため、トイレに行った後、生徒指導室に向かった。
生徒指導室は職員室と校長室の間にあり、人通りは多い。俺が生徒指導室の前に居たら、また噂話が広がると思った。
そのため、いっそのこと中に入りたいと思って、扉に手をかけた。すると、鍵はかかっていなく、すんなり入ることができた。いつもは鍵がかかっているため、担任が開けておいたのであろう。
ソファに腰掛け、先生の到着を待った。
10分ぐらい経過しただろうか。生徒指導室の扉が開いた。
先生が3人が入ってきた。担任の高木先生と3組担任の星野先生、生徒指導の高橋先生だ。
3組担任の星野先生は二十代で比較的に若い、男の先生だ。担当は数学で、経験が浅く、授業中に失敗しているイメージが強い。
正直、授業を教えてもらっているだけなので、どんな先生かはよく知らない。
高橋先生は体つきがしっかりしている、体育担当の先生だ。その上で生徒の風紀などを取り締まっている生徒指導も担当をしている。
夏休み前などに前に立って、あれをするな、これもするなっていう先生だ。高橋先生は体育の先生だが、担当はされていないため直接は喋ったことはない。
3人の先生に囲まれるとか、怖いわー
3人は俺の向かいのソファーに座り、高木先生が口を開いた。
「宮野くん。貴方はここに呼ばれた要件は分かっている?」
ここに3組の先生がいることで確信できる。
あれしかないと思い正直に答える。
「3組の高島さんの事ですよね?」
「そうね。生徒たちの間で噂になっているの。さすがに噂が噂がだけに無視することはできなかったわ」
今日のことだけど、ずいぶん対応が早いものだ。それだけ大きな問題だと思われているのだろう。まあ、もし事実なら警察も必要になってくる案件だしな……
「でもね、噂は所詮、噂だわ。先生たちは当事者の口から真実が知りたいの」
当事者と言われて、ビクッとしてしまう。まさか、高島さんと鉢合わせするのか?と思った。まあ、それはないか。
おそらく、後日に話を聞くのだろう。いや、もしかしたらもう既に高島さんから話を聞いたのか?
「当事者というと、高島さんからは既に話を聞かれたのですか?」
「いいえ、聞いていないわ。先に貴方の話を聞きたいと思ったの」
高木先生ははっきり俺の方を見て答えた。この問題に真摯に向き合っているのがわかる。噂で加害者の俺に、疑いの視線を向けるわけでもなく、ただ事実の確認をしているところは尊敬できる。
「そうなんですか……」
そう言い、俺はこの後になんて答えるか考える。
全て正直に話すか、それとも誤魔化すか。
正直に話すと言っても、俺の口から説明してもいいのか?そんなことをすると高島さんを、もっと傷つけることにならないか?
それともあえて俺の口から説明して、高島さんには説明をしないでいいようにするか?
いやいや、待て待て。
そもそも、高島さんが俺を犯罪者に仕立て上げたのだ。だとしたら、わざわざ正直に事実を話すか?
このまま、嘘をつき続ける可能性もある。いや、その可能性が高いだろう。
だとすれば、俺は正直に事実を話す必要がある。そうしないと冤罪にかけられてしまう。
自己保身のために正直に話そうと、口を開きかけるが俺の本能がそれを拒んだ。
やはり、俺の口から高島さんの気持ちや行動、そしてその結果を話すことはできない。あれはあの子にとっても、最悪の思い出だろう。それを掘り返すようなことはしたくない。
1番、正しいのはこのまま、否定も肯定もせず、なあなあで誤魔化していくことだ!そうすることで、お互いの記憶からあの事を忘れ去ってしまおう。
やっぱり、俺にはどうしても、高島さんがこの状況を作り出したとは思えない。これは高島さんの意図しない結果ではないかと考えている。
高島さんは優しくて、いい子だ。そんな子が俺のことを犯罪者に仕立て上げた、なんて風に考えたくはない。
まあ、もしこれが俺の勘違いだったら、まじで警察のお世話になるかもしれない。そうなったら、仕方がない。全てを正直に話そう。でも、いまは何も話さない。
俺の沈黙が長すぎたのか、生徒指導の高橋先生が口を開く。
「話しずらいなら、話せる人を呼んでくるぞ?」
「すみません。そう言うわけではないんです」
「そうか?なら、ゆっくりでいい。正直に話してくれ」
高橋先生とは初めて話したが、いい人だと思った。生徒の気持ちを汲み取って、生徒指導をしている。
しかし、こんないい先生でも、俺は正直に話すことはできない。申し訳ないが。
「正直に申しますと……
先生方にお話しするような事はありません。放っておいてください」
俺のこと言葉に3人とも驚き、困っている。さらに、3組担任の星野先生は怒りをあらわにした。
「宮野!この状況でそんなことが許されると思っているのか!!?お前のやったことによって、女子生徒が泣いているんだぞ!」
星野は俺との間にある、机を手で叩きつけて怒鳴った。
それを2人の先生は止めている。流石に経験豊富な先生方は冷静である。
しかし、高橋先生と高木先生のさっきまでしていた、俺に対する温かい目線はなくなった。その代わりに冷たい、凍りつくような視線になっていた。
まあ、内心怒っているのだろう。
「話す事はないとはどう言う事ですか?未確認ですが、貴方はとても大きな罪を犯してしまったかもしれません。それを我々が見逃すわけにはいきません」
「そうだ。自分自身を守るためにも話すんだ。何も話さないとなると、疑いを晴らす事はできなくなるぞ?」
2人の先生は軽い脅しをかけながら、俺に揺さぶりかける。まあ、普通ならここで正直に答える流れだろうが俺の意思は変わらない。
「先生たちの言っていることはよく分かります。ですが、もう一度言います。放っておいてください。これは私と彼女の問題です」
バンっ!とさっき星野があげた音より遥かに大きな音がした。生徒指導の高橋先生が両手で机を叩いた。
「何も話さないとなると、お前はやったと認めることなるぞ!?もし、噂が真実であるならそのことだけでも認めろ!そうしたら、学校内で片付けれるかもしれない」
おそらく、先生たちの中では俺は完全に黒なんだろう。噂は本当でそれを認めれないから、黙っていると勘違いしている。
いや、まあ。普通そうなるよね……
その上で警察は呼ばないと言う餌を与えて、話を聞き出そうとしているのだろう。
本当に高橋先生は上手に生徒指導を行う。
「そうなんですか。ですが、私の意見は変わりません。放っておいてください」
怒ると言うより、呆れた感じになった。
先生方は少し目配せをした後に俺の方を向き、高木先生が口を開いた。
「分かりました。では大変不本意ながら、親御さんに相談した後、警察に事実確認をしてもらうようにしましょう。それでいいですか?」
担任の先生は優しめの口調でいつも通りに話す。
しかし、顔は見たことがないくらい険しく、怒りが滲み出ていた。
「その前に一つ。
まずは彼女に……高島さんに話を聞いてください。そして、彼女も私と同じで、放っておいてといったら、もうこの話は終わりにしてください。
もし、彼女がなにか話したらその時は私も何かを喋るかもしれません」
「なんだその態度は?我々に交渉でもしているのか?」
星野は答える。
こいつがいると、話しが進みにくくてたまらない。
高橋先生と高木先生はソファーを立ち上がり、俺には聞こえないように隣の部屋に行った。おそらく、作戦会議だろう。
星野と2人きりになった。俺は一言も喋りたくないが、そうもいかないみたいだ。
「宮野。やったんなら認めないとな。悪いことをしたら、まずは認める。そしてその後に罪を償うんだ」
「はぁ。そうなんですね」
俺は適当に答える。すると、俺のこんな反応にイラついたのか、少し声が大きくなる。
「強姦はな!少年でも厳しく罰せられるぞ!それがわかっているのか!?」
「へー。知らなかったですー」
先生たちは早く帰ってこないかな。こんな生徒指導が下手くそな奴と一緒にいるのは疲れる。
「いいか!!……」
ガチャと言う音で星野は黙った。高橋先生とは高木先生が戻ってきたみたいだ。
そして、ソファに座り口を開く。
「宮野くん。スマホは持っているよね?家にあると思うんだけど、その中身を確認してもいいかな?それを認めるのなら、今日のところはこれで終わりでいいわ」
スマホ?なんで、スマホを確認するんだ?
まあ、見られて困るものはないから別に問題はない。しかし、スマホは家にある。家にあるものをどうやって確認するんだろうか?
「それは別に構いませんが、スマホは家ですよ?」
「えぇ。きちんと校則を守っているようね。だから、今から先生たちと宮野くんの家に行き、一緒に確認するのよ」
おぉ……。そこまでしても、確認したいのか?
俺と高木さんとのメッセージの履歴でもみるんだろうか?まあ、これくらいで見逃してもらえるのなら別に構わない。
「分かりました。それでいいですよ」
「そう。よかったわ。ところで、親御さんは家にいる?」
「いえ。いませんよ」
「そう。何時ごろに帰ってくるの?」
やはり、親にバレるか……
まあ、先生に呼び出されたんだ、こうなることは予想できていた。
「20時頃だと思います」
「そう。なら、いま電話に出ることはできる?」
「無理だと思います」
母は看護師だ。職務中にスマホは持っていなかったと思う。てか、持っていても仕事の邪魔はできない。
「そうですか。でしたら、後で連絡を入れます」
「はい。分かりました」
母にバレるのは仕方がない。母には全てを正直に話そう。愛に告白したところから、今までの全てを。
俺にとっては唯一の家族で、女手一つで育ててきてもらったんだ。心配をかけるようなことはしたくない。
「宮野の家には私の車で向かおう。高木先生は一緒によろしくお願いします。星野先生はいつも通りの仕事に戻ってください」
「はい、分かりました。出かける準備をします」
「分かりました」
そう答えると、星野と高木先生は生徒指導室を出て行った。高橋先生はちょっと待ってて。と俺に言い、出て行った。
俺も荷物を持ち、すぐに出ていける準備をする。
高橋先生が戻ってきた。
「待たせたな。行くぞ」
そう言うと、連れられていく。放課後で生徒も少ないのが幸いだ。誰かに見られている感じはしない。
黒のミニバンの前に来ると、鍵を開けて中にはいる。俺は後ろの席に座るように言われて、それに従う。ちょっとすると、高木先生もきて、助手席に座った。
「では行こう。道案内を頼むぞ」
そう言い、車は発進した。
俺はふと、自転車のことを思い出した。これは明日は電車で通学だなっと思いながら、車の窓をぼっー、と見ていた。
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俺の家に着いた。先生との帰宅なんて変な感じがして、やばい。
鍵を開けて、玄関に入る。
「宮野。俺だけは上がってもいいか?」
「あぁ、はい。大丈夫ですよ。というか、高木先生もいいんですよ?」
スマホを取りに行こうと部屋に向かうが、高橋先生はそれについてくるみたいだ。てか、リビングで待っていればいいのに。
「いえ、親御さんの許可がない中あがることはできません。私はここで待っていますので、高橋先生とスマホを取ってきてください」
「あっ、はい」
生返事を返して、部屋に向かう。後ろには高橋先生が来ている。
部屋を開ける。俺の部屋には漫画や小説が沢山あるが、見られて困るようなものはない。幸い、フィギュアやポスターはない。というか、隠してあるし。
スマホを充電ケーブルから引っこ抜く。高木先生が待っている玄関に戻ろうとする。
「宮野はパソコンとか持っていないのか?」
部屋の中でキョロキョロしていた高橋先生は俺に質問する。部屋の中を見たらわかるだろと、思いながら答える。
「持っていませんよ。今時、高校生にパソコンなんて必要ないですよ」
「そうか」
そう言い、俺と共に部屋を出る。玄関まで戻ってきて、スマホを見せてくれと言われる。
俺はパスワードを開けて、高橋先生に渡した。
「ありがとう。プライバシーは守るからな」
スマホを見てる時点でプライバシーは守ってないだろっと思いつつも、分かりました。と答える。
先生は真っ先に写真を開いた。
俺のスマホのアルバムにはアニメ画像がたくさん入っているが、見られて困るやつではない。恥ずかしいけど。
一瞬、険しそうな顔をしたが、すぐに元に戻り、一通り目を通した後にアプリを閉じた。
「メッセージも見てもいいか?」
「あっ、はい。大丈夫です」
先生はメッセージを開き、高島さんとのメッセージ履歴を見る。プライバシーを侵害しまくってるなーと思ったが、メッセージでは最低限のことしか話していないため、問題はなかった。
メッセージの中身は勉強の約束ばかりで、こちらも見られて困るものはない。
一通り目を通して、満足したのか俺にスマホを返した。
「ありがと。これで一つの懸念点がなくなった。今日は約束通り、私たちはこのまま学校に戻る」
懸念点?と思い質問しようと思ったが、2人は早々に帰っていった。
帰り際にまた明日、学校で会いましょう。と高木先生に言われた。
一体、何か確認したのだろうか?2人が出て行った後、リビングに行き座りながら考える。
スマホで写真を確認か……
写真、写真か……
レイプ疑惑に写真。
あぁ、分かった。
もしかして、俺が高島さんの弱みになるような写真を撮っていると思ったのだろうか?
その疑惑が晴らすために、スマホやパソコンを確認したのか。
確か、夕方のニュースで強姦被害は加害者が弱みを握って被害者が表に出てこないのが大きな問題になっていると言っていた。その可能性を潰すために、わざわざこんなところまで来たのか……
はぁーー。先生たちはなんか、手慣れているなー。
てか、学校側がそんなことまでしてもいいのだろうか?捜査権とかないよね。
まあ、強制ではなかったし、いいのかな?
俺の名推理が冴え渡っていると、猫がやってきた。
さっきまでは人がいたため、隠れていたのだろう。いつも通りの奴だけになったので、餌の催促か……
呑気な奴だなーと思いながら、餌を与える。
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20時前に母さんが帰ってきた。俺はいつも通りを装うが、そろそろ学校から電話がかかってくるかもと思いつつ、ドキドキしている。
なんで説明されるか分からないが、母さんが先生からの話を聞いたら顔が真っ青になるだろう。そのため、すぐに説明できるように、何を話すか頭の中で整理しておく。
20時を少し過ぎた後、電話が鳴り響く。
きたか……
と思いつつ、母が電話に出るのを眺める。こんな時間に電話とは先生に申し訳ない。
母さんは電話に出ると、少しびっくりした雰囲気を纏った。
そして、俺の方を見て心配そうな顔をした。
5分くらいだろうか。はい、はい。と母さんは相槌を打っている。俺のことを見る目がどんどん険しくなる。
うわ。これは怒ると言うより、気が動転している感じだ。
そりゃそうなるよな。息子が犯罪を犯した可能性があると言われたのだから。
電話は10分弱で終わった。失礼いたします。と母さんはいい、受話器を置く。
そして、俺の向かいに座った。
「学校から電話だったけど、なんのことかわかっているわね?説明しなさい」
「うん。分かっているよ。その前に一つ、言いたい」
俺は母さんの目をしっかりと見て、言う。
「俺は母さんが悲しむようなことは一切していない。これだけは誓う」
「だったら!なんで!こんなことになっているの!それを先生に話せばいいじゃない!!」
母さんも流石に怒鳴ってきた。今日は怒鳴られてばかりだなっと思いながら、冷静に答える。
「それを話せない理由?いや、話したくない理由があったんだ。でも母さんには全て話す。心配かけたくないから」
俺のこの言葉に少しは納得したのか、母さんは少し冷静になった。
「じゃあ、聞かせて。その理由を」
「分かったよ」
やはり、俺にとっても最近起きたことを話すのは勇気がいる。
しかし、こんなピリピリした雰囲気の中、呑気に寝ている奴がいる。そんな奴を見ていると少し、話す勇気を湧いてくる。
そして、俺は口を開いた。
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30分ぐらいだろうか。俺は説明して、たまに母さんから質問された。
そして、最終的には納得してもらった様子だ。
「ここしばらく、元気がないと思っていたらそんなことがあったのね。辛かったでしょ。
それに、高島さん?の告白を断ったのは正しかったのかはわからないわ。でも、あんたなりに考えて答えを出したら、誇りを持ちなさい」
そして、母さんは俺のことを抱きしめる。咄嗟に振り解こうとするが、力が強くて無理だった。
母さんは俺を抱きしめたまま、優しく語りかける。
「学校も辛かったら、行かなくていいわ。無理していく場所ではないわ」
俺はこの言葉を聞いた瞬間、今まで溜まった辛さや悔しさ、情けなさが涙となってこぼれ落ちてきた。
今まで、いつまでこの苦しみが続くのだろうと絶望していた。しかし、母さんの言葉でこの絶望から解き放たれた。
学校に行かなくてもいいと言う、安心感が俺を救ったのだろう。
しかし、俺は学校に行かないと言う選択肢は選ばない。
「がぁさん。がっごうはいぐ(母さん。学校は行く)」
泣きながら、俺は自分の意思を伝える。
俺が学校に行く理由。それは自分の恋を終わらせるためだ。
もしこのまま、学校から逃げると、一生、彼女への恋心は無くならないだろう。この恋心は学校に行くことでしか、無くなることはないと確信できる。
だから、俺はどんなに
辛くても
絶望しても
泣きそうになっても
学校には行く。
もしこれらに耐えられなくなったら、逃げたらいい。
なんていったて、母さんからの安心はちゃんともらったんだから。
とりあえず、第一部は終了です
ヒロイン目線をどこに入れるか悩んでいます。まあ、ストーリーのキリのいいところで入れて行くと思います。
ヒロイン目線を最初の方に追加しました!
ストックがなくなったので、投稿スピードが遅くなります。週一ぐらいで投稿する予定です