エピローグ
「幼馴染だからといって、調子に乗らないで。私はあなたのこと好きじゃないわ」
夏休みが終わってすぐの、学校の人気なのない場所で俺は好きな人から拒絶された。一瞬、夢が現実かわからなくなるくらいの眩暈がした。
告白するからには付き合ってもらえる自信があったが、それが一瞬で崩れ落ちた。
「そっか……そうだよな。俺みたいな奴を佐々木さんが好きなはずがないよな」
立つのもしんどい中、俺はなんとか答えた。今は直ぐにでもここから離れたい。今すぐに好きな人の前から消えたい。
「時間をとらせてごめんな。来てくれて、ありがとう。それじゃあ!」
早口で言い放って、小走りでかけていく。最後に見た、好きな人の顔は悲しそうに見えた。告白を断った事を気にしているとだろう。だったら、もう少し優しく拒絶して欲しかった。
目頭が熱いが幸いながら、溢れ出すことはないようだ。トイレに駆け込み、鏡で自分の顔を見る。冴えない顔だ。眼鏡をかけて、色白でニキビも残っている。よくこんな顔であの美少女に告白したよな。
今は家に帰って、2次元の女の子に逃げたい気分だ。早く家に帰って、現実から逃避しよう。帰宅しようとトイレを出ると、クラスメイトのオタク仲間が2人いた。
「おい。大丈夫か?たまたま、見てたんだけど、散々だったな」
細くて身長の高い、田中は少し頬をあげながら言った。
見ていたとは告白のことだろう。そうか、見られていたのか。ということは断られ方も見られていたのだろう。あぁ、死にたい。
「お前、佐々木さんと幼馴染だったんだなー。それにしても、あの振られ方は可哀想だわー」
顔を辛そうにしながら、同情してくれているのは少しぽっちゃりしている、太田だ。
こういう時に2人の性格がはっきり現れるな。太田は俺のことを心配しているが、田中は少し笑っている気がする。まあ、2人とも類は友を呼ぶ感じで仲良くなったけど、田中とはこれ以上仲良くできないな。
「いやー、マジで最悪だわ!アニメみたいに幼馴染でちょっと可愛いから告ってみたら、あの反応。あんなクソみたいな女に告白なんてしなければよかったー」
俺はなけなしの見栄を張った。ずっと、片思いしていた初恋の相手を貶すようなことは言いたくないが、そうしないと涙が決壊しそうだ。
「アニメ見たいってw確かにアニメではよくある展開だよなー。まあ、あんな性格悪い女なんて放っておいてギャルゲーしようぜ」
眼鏡をくいっと上げながら、田中は言い張った。
お前にあの子の何がわかる。あの子はどんな時も頑張ってきた強くて優しい子なんだぞ!
そのことを口に出せたら、どんなに楽か。でもそんなことをしたら、あの子に拒絶された現状に絶望してしまう。
「ああ、全くそうだよなー。あんな3次元のクソ女は忘れて、ギャルゲーしようぜ!」
俺は心にもないことを口にして、吐きそうな気分になる。
あぁ、本当のことを言っても絶望して、嘘を言っても最悪な気分になるとは……とにかく、今は1人になりたい……
「じゃあ、新しいギャルゲー貸してやろうか?キャラがめっちゃ、可愛かったぞ!」
太田は俺に気を遣ってか、そう言った。太田よ。その優しさは今は辛いよ。
「いや、いいよー。家にあるやつでまだ、やっていないゲームがあるから」
嘘だけど。
俺はそう言い、2人から離れようとする。しかし、後ろから声が声が聞こえる。
「そういえば、お前の告白現場を見ていたのは俺だけじゃなかった」
俺は田中のその言葉に驚き、一瞬で後ろを向く。
「は?どういうこと?他に誰かいたのか?」
「うん、多分いた。あれは伊藤のグループだったような……」
田中は少し笑いながら口にした。
田中は性格が悪すぎるなー。そんなことより、伊藤グループに見られていたとは……
イケメン男子である伊藤と2人の男子グループのことだろう。クラスのカースト最上位様だ。伊藤はイケメンで物腰柔らかそうが感じだか、その周りの連中の性格は最悪だ。よく、オタクたちを馬鹿にして笑っている。
最悪だな。これは、まじで。
「そうか。情報サンキュー」
気にしていないそぶりを見せながら、この場を後にする。
俺は帰宅しようと思うが、いつもとは違う帰り方をすることにした。いつもは自転車登校だが、今自転車に乗ると事故りそうだと思った。だから、今日は電車で帰る事にした。
校門を出て、駅の方に歩いていると後ろから笑い声が聞こえてきた。爆笑しているわけではなく、嘲笑している感じだ。
振り返ると、俺の告白現場を見ていた伊藤グループだった。
「うわ。こっち見たぞ!」
「よく、あの顔面で告白する勇気があったよなw」
2人の男子嘲笑しながら、小声で話していた。伊藤は男子2人そんなこと、言ってやるな。と声をかけた後に俺の方を向いて
「ごめんな。さっきの佐々木さんへの告白、見てしまったよ。でも、いいたい事を言ってかっこよかった」
イケメンフェイスが笑顔で嫌味を言ってくる。
最悪だ。これで俺が告ったことがクラス中に響き渡り、しばらくは嘲笑の的だろう。
あした、学校行けるかな?いや、行く勇気があるかな。
「ああ、ありがとう。でも断られてしまったよ。俺には高嶺の花だったみたいだ」
伊藤に言ったつもりだったら、取り巻きの2人の男子が腹を抱えて笑い始めた。
「高嶺の花って!!今更だろww 鏡見ろって。まじでw」
「オタクに告られる佐々木さんが可哀想だわw てか、オタクと幼馴染とか、佐々木さんにとっては黒歴史じゃねww」
こいつら、性格がゴミだな。でも、この2人、大久保と上田は女子から人気がある。大久保はサッカー部のエースだし、上田は実家が金持ちだ。そして、容姿もそれなりに整っている。
あー、今すぐにくたばってくれないかなー。
「おい、お前ら。言い過ぎだ。ごめんな。こいつらも悪気はないんだ」
いや、悪意の塊だろ。でも、これ以上、話を長引かせたくない。
「いや、気にしていないよ。じゃあ、俺はこれで」
そういい、軽く会釈をして再び駅の方に歩いて行く。
駅につき、交通系カードにチャージをして改札口を通る。ちょうどよく、電車がきた。
途中、この辺りで有名な風俗街がある駅に止まった。一瞬、降りたいと思ったが、後で自己嫌悪で死にたくなると思いやっぱりやめた。
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自宅に帰ると、家はいつも通りだった。スマホを見てもゲーム以外の通知はなく、猫はご飯をくれと鳴いている。
俺は猫に餌をあげた後に、通話アプリを開いた。そこには当たり前のように佐々木 愛の名前がある。俺がさっき告って、振られた人だ。
この名前を見るのも辛い。そう思い、アプリ上で佐々木 愛の名前の上で左にスワイプした。そして、ブロックのボタンを押して、スマホを放り投げた。
振られたからブロックするなんて、女々しいな。情けないな。でも、もう連絡を取ることもないだろうしな。
もう、連絡を取ることはない。それどころか、あの子の人生に俺は必要ないんだ。そう思うと、急に涙溢れてきた。眼鏡のレンズが沈んでいく。そのせいで、まともに前も見れない。
あぁ、良かった。やっと、泣くことができた。泣くと少しは気が晴れる。
ガチャと玄関の扉が開く音がした。母が帰ってきたみたいだ。俺は大慌てで涙を拭い、いつも通りを装った。
「あっ、おかえりー。餌はやっといたよ。それで今日の俺の餌はなにー?」
「ただいまー。あんたの餌はチャーハンよ。今から作るからお風呂でも入ってきなさい」
分かったと一言いい、風呂に入る。風呂から上がるとチャーハンを食べて、自分の部屋に戻る。
「にゃー」
ベットで寝ろこがっていると、猫が入ってきた。そして、ベットに乗ってきて、頭をすりすりしてくる。
「ちょこは可愛いなー。俺が落ち込んでいるから、慰めに来てくれたの?」
頭をわさわさとなでる。耳の付け根も撫でて、首も下と流れるように手を動かす。
ちょこはゴロゴロと喉を鳴らしながら、目を細めている。
「お前が擬人化して、俺と付き合って欲しいわ」
言った後に発想がやばいと思い、失笑してしまった。
心が荒んでいるといつもとは違うことを考えてしまう。今日は早く寝よう。そう思い、ちょこを毛布の中に入れて一緒に寝る。
「あぁ、これが女の子だったらな……」
数時間前に起こったことを思い出して、寝つきの悪い思いをしながら頑張って眠りについた。
次の日、早朝に目は覚めた。寝るのが早かったから仕方がない。ちょこは部屋から出ていったみたいだ。
起きた時に1人だと寂しいな。
いつもは当たり前だったことを今日は当たり前だと思えないみたいだ。そう思うと、昨日のことをやっぱり引きずっていると自覚してしまう。
「今日は学校に行きたくないな。今日は金曜日だから、今日休むと次は月曜日か……」
それなら、今日はズル休みでもしようと思ったが、それだと来週の月曜日に学校に行けなくなりそうで怖かった。そのまま、不登校になりそうだし。
「いや、でも待てよ。今日休めば、あの子も少しは気にしてくれるかな」
そんな訳がない。あんな、振り方をしている男を気にするはずがない。でも、期待してしまう。
このままだと、何かと理由をつけて学校に行かなくなると思い、だいぶ早いが学校へ行く準備を始めた。
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準備が終わってからテレビを眺めながら時間を過ごした。時計を見て、いつもは出てる時間だが、今日はまだ出ない。今日はいつもより遅く、家を出る。なぜなら、教室であの子に会うのが気まずいからだ。
しかし、そこである事に気がつく。昨日、自転車を学校に置いてきたままだ。だから、今日は電車で学校に行かなければならない。俺の場合、電車だと自転車より時間がかかってしまう。
ばっと、時計を見て電車の時間を確認した。今からでは予鈴には間に合わないが、行くしかないと思い鞄を持った。
学校に着いたが、やっぱり間に合わなかった。まあ、遅刻したと言っても10分ほどだ。教室では担任が朝礼をおこなっている。俺は後ろのドアから入った。
「宮野くん。少し、遅刻ですよ」
担任の高木先生がこっそり入ってきた俺を注意した。高木先生は推定、40代の女性の先生だ。
「すみません。寝坊しました」
俺は咄嗟に嘘をついた。まあ、特に理由はないけど。
一部の人はくすくすと笑っている。俺にはわかる。これが遅刻に対することではなく、告白に対することなんだろうと。
俺は自分の席に向かう。その時にあの子の姿が視界に入りそうだったため、俺は咄嗟に視線をずらした。顔を見ると、胸が締め付けられそうになると思ったからだ。
俺が着席後も何事もなく朝礼が進んでいく。俺の2つ前で横に3つ席が離れたところにあの子がいる。後ろ姿というより、左斜め後ろ姿をみる。いつも通り、可愛いと実感する。
ロングで真っ黒の髪の毛を左耳だけかけている。耳は小さく、顔も小さい。でも、目は大きくて、清楚系アイドルのようだ。いや、その辺のアイドルより可愛いだろう。俺は芸能人を含めても、こんなに可愛い人を見たことがない。
そんな人に無謀にも告白して玉砕したのは俺のことだった。