表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/137

42

 応接室の上座に祖父、父、なぜかジエムが父の隣でその次にカラザが正座。向かい側の下座にはガイ、ネビー、私が並んでいる。

 この時点で我が家は輝き屋と対等か格上だと推測出来るしどうやらカラザはジエムに舐められているかわざとそういう風にしていることも分かる。

 ジエムだけ姿勢が悪くて片足を立てて不貞腐れ顔というか怒り顔。

 そもそも玄関前でカラザがなにやら彼に耳打ちをして「だろうな。ふんっ。まあ話くらい聞いてやる」と口にしてからこの状況。

 私は大大大嫌いだけど人に好かれるところもあるとか芸の才能はあるみたいに思うところはあるけど更に私の嫌いな種類の男性になっていそうな予感。


 私はジエムに「お前は俺の隣だろう」と言われたけど断固拒否して下座の末席でネビーの隣を確保している。

 その際もカラザがジエムに何かコソッと話してくれた。

 なぜ私がジエムの隣で当たり前みたいなお顔なのか呆れたけどかなり怖かった。

 次に触られたら破滅するような嫌な予感が強い。強く掴まれた腕は相変わらず痛い。

 痛みの感覚からして爪が食い込んで血が出た気がする。少しヒリヒリ、ジクジクするから多分そうだ。

 でもあの「お前が帰ってきて嬉しい」みたいな様子での行動だと暴力行為として訴えられないだろう。厳しめで兵官から口頭注意で終わり。

 私が訴えなければ誰も気がつかない。見た目ではどれ程キツく握り締められたか分からないからだ。

 このような中途半端なことをされるならしっかり殴られたかった。

 いつもこう。今回は無意識だろうけどジエムはなんだかんだギリギリ安全狙い。毎度のことだけど腹が立つ。

 

 上座と下座の間、私から見て右手側に農林水省東地区本庁から来たレアンが冷や汗困惑顔という様子で正座中。

 ガイが祖父にルルとレイを「お嬢様が雇った護衛です」と説明したので2人はアダに別室へ招かれて不在。まずは全員自己紹介をした。名前と肩書きだけの簡素なもの。


「で? 邪魔というか部外者の役人がなんの用だ。優先しろって農林水省は漁家と農家の管理が仕事だろう。まあお前も大根役者なんだろう? とっとと話せ。既に酷いけど棒読みが更に酷くなったら退場だ退場。バカウィオラが考えた台本は気になるから観るだけ観てやる」


 身分証明書も見せられたのに失礼過ぎる!

 この神妙な空気の中で「全部ウィオラのバカが考えた猿芝居だろう」みたいな発想を継続させるなんて頭が痛くなってくるというかもう痛い。

 ジエムは昔からこういう感じで話が通じない。思い込みが激しいというか都合の良い解釈ばかりする。当たり前だろうみたいな感じだから騙される人は騙される。

 しかしながら外面は良かったはずなのにどうしたのだろう?

 祖父、父、カラザの態度を見習うべきなのに呆れた。昔は出来ていたのに出来なくなっているとは。

 レアンはガイと同年代に見えて本庁から来たので恐らく農林水省の中でも偉い立場の方なのに。


「息子が大変失礼致しました。レアンさん、おそらく関係者は全員揃っていますのでお話をお願い致します」


 カラザは実に立派な姿勢で会釈をした。隣の息子と大違い。驚き顔は同じに見えたけどカラザとジエムは親子ではない気がしてくる。

 だから祖父と「あのカラザさんからひ」なのだろう。きっと続きは「酷い息子」だな。

 私はいつも優しい長男ヴィシュヌの婚約者なら良いのにと思っていた。

 恋を知ったのはつい最近だから初恋ではないとは分かるけど、ジエムみたいにヴィシュヌと交流させられていたら「嬉しい」みたいに恋に落ちた気がする。

 今なにやら更に嫌な男性になっていそうなジエムを見ているから特にそう感じる。こうなると父に対する怒りも改めて湧いてくる。

 ジエムが成長してから性格や相性を少し考慮して縁結びではなくて野心のために早々と結納だからこうなる。こんな悪縁を結んで!

 でも我が家は私をジエムから隠したようなので父も味方なはず。我が家はなにをされていたのだろう。あとジエムが分からない。謎。


「急ぎたいので単刀直入にお話致します。同じ内容ですのでこちらの書類に目をお通し下さい」


 レアンは1番上座に座る祖父へ書類を1枚差し出してもう1枚は自分で持ったまま書類に視線を落として口を開いた。小さい手拭いで顔の汗を拭いている。


「南地区の海の漁家がかなりの規模で団結してこう申しています。俺達の豊漁姫ウィオラ・ムーシクスお嬢様と南地区と東地区の農林水省の全てから彼女の家出問題解決報告があるまで東地区関係者との取引を中止する。現在取引はもう停止中です。例外は東幸せ区の春風亭関係者のみ。取引中止理由はウィオラお嬢様の実家と元婚約者の家なのでそちらで調査するように」


 もう取引中止になってるの⁉︎

 私はバレル達の豊漁姫になったらしい。そういえば「お嬢様は皇女様みたいなもので海に好かれたからやはりお姫様だ」みたいな話をされたな。

 なぜそこに「豊漁」がくっついたのだろう。あの虹生物だけでそうなるなら漁師の方々は非常に信仰深い。

 テルルが最初はネビーとの縁談話ではないだろうという推測をしたけど当たり?


「なんだその出だしは」

「ジエム。全部聞いていなさい。ウィオラお嬢様の考えは全て聞くと自分で口にしたんだろう。失礼致しました」


 カラザはまたしてもジエムに耳打ち。それでジエムは「フンッ。まあそう見える。そうだな」と鼻を鳴らして机に頬杖をついた。

 だから失礼過ぎる!


「続きまして、この件には可能な限り卿家が関与すること。関係職員一覧を作成して卿家が関与出来ない理由を全て述べる事。裁判関係の場合は事務官から裁判官に至るまで全て卿家を1名以上選出すること。この前例を作ることは困ります。関係役所との調整関係や法改正にも関わってきますので」


 漁師は屈強で海に好まれている男! なので勉学嫌いなのは有名。火消しと似ている。しかし権利や裁判関係の勉強は熱心。

 勉強嫌いの粗暴な漁師には学がないと下に見ると痛い目をみるという俗語はこの事。彼等は正当性を主張する場合は容赦なく商売取引先のツテを使う。

 南地区の海にしかいない魚介類は王都中どころか国中へ売られているのでそのツテは皇族にさえ繋がっている。

 なにせ海で船に乗れるのは漁師と漁師が許可した者だけだからだ。

 かつての皇帝陛下が「船に乗りたい」と言って「お前は態度が悪いから嫌だ」と断った漁師達が何人か殺されたので漁師は団結して自分達の分以外の漁を拒否。

 船の動かし方を知っていても操作出来ないとか網の使い方が分からない。さらにその道具も全て隠して徹底抵抗。

 砦を作って海の国を作る。決して飢えない国で俺達は豊かに暮らすという事態に発展。


 前に来てくれた皇帝陛下の甥は良い奴でうんと賢くて信じているからこの海の国の皇帝になってもらう。

 商家も農家も皆来い。船に乗れないだけで人を殺す皇帝陛下の国だと皆殺される。

 金があっても食べ物は得られない。暴力に訴えるなら断固戦う。積み上げられてきた漁の方法を失って海に嫌われて滅びろ。

 こういう時に嵐などが重なるからまた厄介。嵐でなくてもよくある雨でも構わない。

 漁師を激怒させたから漁師の為に海を作ってくれた龍神王様もお怒りだと騒ぐ。漁師達は信心深そうだったので本音かもしれない。

 こういう皇帝陛下だから元々嫌われていて漁師達に乗っかってあちこちの家も国とは人だからこんな国より素晴らしい新皇帝陛下と新しい国に行くと大騒ぎ。結果は皇帝陛下交代。

 信じられる皇族が皇帝になるなら新しい国なんて必要ないので今まで通り暮らすということで煌国は分裂しなかった。内乱手前。

 小等校、中等校、高等校、女学校などに通っていれば絶対に学ぶ有名な大事件だけど「たかが漁師」と口にしたジエムの頭には授業内容も私が教えた試験勉強範囲も定着していないのだろう。

 農家や漁家をあまり刺激してはならないのは商売の基本のきなのに。

 

 だから漁家は増長しやすいけど本人達がサッパリした一族であるし、気まぐれや特権意識が強い漁家や農家を農林水省が上手く抑制したり逆に手伝って国や区民と結びつくように働いてくれている。

 なので漁家達の正当性を農林水省や裁判所が認めた場合は敵対相手は容赦なく叩き潰される。

 漁師になれるのは漁師一族のみ。国がある程度値段を決めていて中々大儲け出来ないし仕事は過酷で休みも少ない代わりにこのように「俺達が正したい問題をしっかり調べてもらいたいからとりあえず取引中止」が言えるという風に特権も様々。

 あとかなりの贔屓(ひいき)商売。全体の稼ぎが大きく変わらないなら良いんだろう? なら好き嫌いでうんと高くしたり無料にするなどわりと好き勝手だけどこれも許されている。

 使い過ぎると狼少年になるので滅多な事ではその手には出ないという賢さもしっかりある。


 納税や寄付なんて計算や役所との付き合いが面倒くさいから嫌だ、という理由だけで漁家や農家は商家と分けられている特別扱い。

 農家は大人しめだけど「俺達の仲間だ!」と漁家がひっついて守るし代わりに戦う。先頭がいると農家も戦闘する意識満々と時に好戦的。

 日頃から鍛錬しているから子ども達はネビーに「強いなら教えてくれ!」と言ったのだろう。

 子どもが集まった理由とかホイホイちゃんばらに発展した過程はよく分からない。

 ネビーは多分自衛の為に指導したけど漁家達や農家達の武力強化意識はいざというときに革命を起こす為くらいの意識がある。漁家農家は時に皇族よりも勝るとはこのこと。

 なのに「お嬢様は皇女様みたいでかわええ」みたいな謙虚さというかあの価値観はなんなのだろう。

 俺達に定期的にかわええ皇女様に会わせろ! とか私達に格好良い皇子様を見せにきなさい! にはなっていないみたい。

 勉学知識と実情ってやはり上手く結びつかないものだな。


 なのでこの話を私達は「漁師の主張は正当性があってウィオラお嬢様は悪くない」に持っていかないといけない。

 私が悪くないと農林水省が中心になって問題を解決してくれる。その約束と引き換えに漁師達が取引を再開するからだ。

 逆だと漁家や私が叩き潰されるけど漁家は「調べてお嬢様が悪いなら取引開始。いつもありがとう農林水省。誤解して悪かったな。安売りとかする」だし私は「私が悪いので家を捨てています。事情があってお話出来ずに漁家の方々を誤解させてしまいました。すみません」で終わり。お咎めは大してない。

 私はガイやテルルとそういう話をしてきた。ガイやロイの農林水省の友人にこういう場合だとどうなるか調べてもらったらしい。それでこういうことはそこそこある話みたい。

 いきなり取引中止も非常に稀ではないなんて日々生活していて知らなかった。南地区だと前回は7ヶ月前だそうだ。農林水省の解決が早いから関係者以外にはそんなに広まらないで終わっているという。

 でもこうして「もう取引中止」と提示されてレアンの様子を見るとやはり大事(おおごと)そう。火に油を注ぎ続けると内乱や皇帝交代まであり得るから仕方ない。

 でもいきなり取引中止の理由はなに?

 そこまでの話は漁師達としていないし私の家出問題なのに。縁談後押しにしても先に取引中止は過剰でおかしい気がする。


「次はこちらです。南地区、東地区、どちらで裁判が行われるとしても裁判官は南地区中央裁判所の卿家ロイ・ルーベル裁判官、卿家ベイリー・マクシミリア裁判官を必ず参加させるように。卿家裁判官を指名はよくありますが個人指定はやはり珍しいです。他地区の裁判官という前例は作りたくないというか困ります。こちらも関係役所との調整関係や法改正にも関わってきます」


 漁家達は知識を総動員していかに農林水省に嫌がらせをするかを考えるというけどレアンは確かに困っていそう。

 今のところ要求を却下すると「国を信じて国の犬に働いてもらいたいのにふざけんな! 賄賂や不正などがあったらそれこそ国潰しだ! 俺達は皇帝陛下を信じているんだ! 公務員はいつになったら全員卿家になる! 教育しろ!」みたいになる。多分。

 逆に卿家嫌いで卿家は誰も関わるなと提示されてそれを拒否すると「国を信じて国の犬の役人に働いてもらいたいけど卿家は少なくて頼られて大変だから除くっていう話しだ! なんか文句あるか! それとも卿家以外は信用ならないのか! 公務員は国の犬なのにどういうことだ!」である。多分。

 そういう漁家や農家との付き合い方、みたいな考察討論授業があって「難癖……」と思ったものだ。


 なので卿家は卿家らしくない家は仲間外れにして潰す。あの気に食わない役人は卿家という話は卿家全体の悪評に繋がり国から特権を奪われるからだ。

 その卿家は仕事の評価が低い時に粗探しや小さな不正を使って点数稼ぎをするのでそれはそれで時に嫌われる。

 親戚だろうがお嫁さんの実家だろうが親子だろうが卿家維持のためには容赦なく裏切る国の犬。それが卿家。

 卿家は卿家を売ることは少ないので味方になろうと団結しておこうと卿家同士でくっついている。家の数が多くないのもある。多数決や人数で負けるからツテなどで権力強化。

 大人気舞台ロメルとジュリーの観劇券は奪い合いで我が家は音楽関係者として簡単に入手したけど卿家なら「町内会の職場の方から特別招待券をいただきました」であり、私の家で中々手に入れられない美術館の皇居雛衣装展の招待券も「父の友人の息子さんから特別招待券をいただきました」だったり全方位にコネやツテがあることが多い。というかそう暮らしているのは同級生から学んだ。

 クララも『皆で回し読みして劇が始まる噂を早く入手して人気が出る前に招待券を狙わないと』と言っていたので新しい舞台の招待券の結構な数が卿家に流れそう。人気爆発前なら集めやすい。


 卿家のお嫁さんは家を守り家の為にツテやコネ作りをして手伝い人が足を引っ張るかもしれないから自分達で家事をするという。

 卿家の特権は欲しいけど嫁に面倒くさい仕事を与えられるから卿家に嫁ぐのは人気かつ不人気。

 だからネビーは人気物件。兵官と卿家のコネやツテがつくのに「卿家継続は興味ないです。親戚や卿家に迷惑をかけなければ良いです」だからお嫁さん仕事がかなり楽で合法的脱税もついてくる。

 家族と気が合うなら家事育児はネビーの家族が手伝うからそちらも楽になるのは接してみて分かったさらに良い条件。

 ネビーは基本両親にひっつきたくてその両親にはルカとジン夫婦がくっついていて、ルルも「両親とルーベル家半々にくっつく。離れない」なので女手が沢山。

 リルは「兄ちゃんのお嫁さんは家族が大事にします」でそこにレイやロカもくっつく。

 レイは料理人なので料理関係、ロカは女学校経由で医者や薬師に興味があるので医療系まで増える。

 ネビーの絶対条件は家族でその家族もルーベル家ごとくっついているので噛み合うとお嫁さんは楽で噛み合わないと最悪。

 だから縁談条件に「お見合いか結納中に長屋で同居」なんて条件が出て来る。

 なのでネビーは人気物件だけど下手すると事故物件。私は数日でそう理解した。お嫁さんの家の優先度は最下位と容赦ないので欲しいけど渋る家も多いだろう。


 ガイとネビーが少々目を丸くした。裁判官にロイ指定は私も驚き。

 ベイリーはロイの中等校時代からの友人と聞いていたけどロイの同僚でもあるのか。つまり屋根舞台に感激してくれたヨハネとも同僚。

 卿家の男性は卿家が多い高等校を選ぶことが多いから3人とも友人かもしれない。

 ロイもベイリーも名指しでヨハネは違うのなら業務が違うか漁師達とヨハネには縁がないのだろう。

 こうなるとベイリーに会ってみたくなる。かつてルルが惚れた相手でお嫁さんはあの長屋で楽しく蛇投げをしたとは早く知り合いたい。


「苗字が同じで南地区住まいなのも同様みたいなのでこちらの卿家ロイ・ルーベル裁判官はそちらの煌護省南地区本庁にお勤めのガイ・ルーベルさんやお隣の南地区本部兵官ネビー・ルーベルさんのご関係者でしょうか」

「はい。こちらが身分証明書になります」


 ガイがレアンに身分証明書を渡した。


「卿家をことごとく指名ですからレアンさんは我が家と同じく卿家かと思いますがいかがでしょうか」

「その通りです。うつさせていただきます」


 レアンは机の上に筆記用具を出して紙に文字を書き始めた。高級品の仕込み筆を持っているとはやはり偉い人そう。蓋を開けるだけで書ける筆は私も欲しい。

 普通に筆を使うか鉛筆で我慢している。夏風花魁に試しに借りた万年筆は慣れなくて苦手だったし仕込みインクの万年筆は目が飛び出る程高くてそのインクも入手困難なので諦めている。


「漁家の方々は本件の問題解決支援をルーベル家及びベイリー・マクシミリア裁判官に直接依頼したのでこうしてこの家をお訪ねになられたのでしょうか。その場合はまず漁家を説得して南地区の農林水省へ相談してくださるかと思うのですがその辺りは」


 レアンは今ちくり、とガイとネビーに嫌味を発した気がする。もう既に取引中止になっているのはお前らのせいか? 南地区の農林水省の仕事だろう? みたいなことかな。


「我が家は巻き添えです。ここまで卿家を指名や個別指名は寝耳に水です。その地域の漁家の方々との付き合いからある程度は予想していましたが過剰で驚きです。確認して出発しましたが農林水省南地区本庁には何も話がいっていませんでした。訴え先はまず農林水省東地区本庁とこの家、トルディオ宗家だと思い急いでこうして来訪しました」

「その地域がどの程度を示すのか分かりませんがかなりの大規模です。農林水省関係者でもそこまで知り合えない規模です。漁家とはどのようなご関係でしょうか。卿家なので公平さが欠けるとは言いづらいですが場合によっては」


 レアンは目を細めてガイを見据えていてそのガイは涼しい顔をしている。

 場合によっては追い払うか叩き潰す。でも違ったら味方が減るからそれは言わないということだろう。


「身分証明書の通り長男の妻、つまり現在の私の娘はリルです。リルは数年前に毛むじゃらカニを漁師に6匹12銀貨で売っていただいたことがあります」


 幻の縁起カニの話はもう知っているけどここで話題に出すくらい意味のあるカニなの?

 祖父、父、カラザは首を捻りたいけど捻らずという様子でジエムは鼻を鳴らして目を閉じた。

「観るだけ観てやる」にカラザがさらに「聞け」みたいに誘導したからジエムは大人しく全部聞いてから話をしてくれるつもりみたい。

 大人しいといっても態度が悪過ぎるけど。今のところ話を聞いてくれているのは助かる。

 しばし沈黙。


「……6匹? 6匹ですか? 6匹も⁈ 6匹ってなんでしょうか⁈ 詳しく知りたいです」


 レアンは唖然という様子。しかも素っ頓狂な声を上げた。6匹は彼からするとかなり凄いことみたい。おめめが落ちそうな程目を見開いている。

 詳しく知りたいとは毛むじゃらカニの話は必要ということになる。


「まずは我が家と漁家の関係性をお話し致します。本件と繋がりますので。説明は後回しに致しますがウィオラお嬢様は毛むじゃらカニその他を無料で贈られました。恐らく豊漁姫という呼称と関係あります」

「む、む、無料⁉︎ 最低1銅貨は資料で見たことがありますが無料とはなにをされたのですか!!!」


 毛むじゃらカニ話は大切みたい。


『ほらよ、勝ち気なのにお上品で眼福なかわええお嬢様。俺達は得しかしてない。お嬢様にやるんだしこのカニはうんと美味いから沢山食べるんだぞ。教えてあるからルーベル家で下処理しろよ』


 ……ネビーの話し方って漁師達の影響もある?

 ほいっと贈られたのにこれは予想外の展開だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ