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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
本編

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23

 ルルが子守をして私とリルは台所。彼女は毛むじゃらカニの話をしながら下処理をしてくれている。リルはちんまりしていて品も良いけど長屋育ちというように豪快なところもあった。エルの娘でルカの妹でルル達の姉なんだなと少し感じる。

 毛むじゃらカニは毛みたいな甲羅をまずハサミでバシバシ切るけど私には少々難しかった。それなのにリルはすまし顔でどんどん切っていく。


「ネビーさんがあしはルーベル家へと言っていました。長屋の皆さんでしゃぶしゃぶは数が足りないからと」

「それは嬉しいです。あしはあしの味がするので兄ちゃんとウィオラさんの2人分で2本だけ持っていって下さい。幻の縁起カニです」


 あしはあしの味がする? 幻の縁起カニ?

 大昔に漁師がこのカニをどんどん売ったら嵐や連日雨に強風などで漁に出られなくなったとか、カニの大副神が現れて「縁起物」と漁師に言ったとか色々あるらしい。

 漁師以外には基本的に「縁起の悪いカニ」と隠されている。皇族はこのカニを知っていて食べることを禁じられている。皇居に持ち込みすら禁止。

 昔々、漁師の忠告を聞かなかった皇帝陛下が息子娘に与えて次々亡くなったそうだ。それは恐ろしい。

「毛むじゃらカニ百怪談」という話があるくらい怖い逸話があるという。

 ネビーはあまり覚えていないみたいだったのでこの話に興味が乏しいということになる。岩窟龍王とから三連光苔(みつりこうたい)の話も忘れてしまうのかな。


「私は神話や逸話は何かの不幸や幸運を印象付けて人々の心を操作したり育むために作られた創作物だと思っています。それから実話を誇張して教訓を印象付けたりです。下茹で2回ですし手間暇かけてわざわざ毛を切るのでこの毛みたいなところに毒があるのかもしれません」


 リルに驚き顔をされた。何だろう。


「そういう考えは無かったです」

「私個人の意見ですから。先人の知恵は大切です。毛むじゃらカニを巡って血みどろの争いがあったかもしれません。皇居で下処理をしっかりしないことでわざと毒殺ですとか。話に込められた意味や感情を探ろうとするのが癖です。多くの文学や芸術に触れてきましたしそのような家で育ちました」

「何か面白い話はありますか? いえ、その前にしおりの験担ぎを聞きたいです。私も新婚の頃にロメルとジュリーを観劇しました」


 リルはルルと同じで学問や文学に興味がある女性かもしれない。興味津々という表情だ。

 ネビー達兄妹って今のところの印象だと全員裏表が無さそう。ネビーと同じ星空みたいな煌めき星の瞳を持っている。惚れたら負けで目が曇るとはこのことだろう。

 人の見る目はあると口にして裏切られた者を大勢見てきたので単に私の願望。


「女学校での噂で贈られた花を2つ並べてしおりにして1年間破らず失くさずに使っていると片想いが成就するという話がありました。西の国の北極星のご利益がありますようにと」

「それなら私もしおりを作ります」


 はにかみ笑いをするリルに首を傾げそうになった。片想いの願掛けですがどなたか旦那様以外に想われている方がいるのですか? という言葉を飲み込む。


「2つ作って夫婦で持っていたらご利益がありそうです。でもしおりだらけになってしまいます」

「しおりだらけ……よく花を贈られるのですね」


 ええ、とリルは幸せそうな笑顔を浮かべた。おしどり夫婦みたいだから余計な質問をしなくて良かった。

 私も2人で持ちたいと考えたのに邪推するなど失礼。ネビーのような思った事を口にする性格ではなくて良かった。

 今の私はなんでもネビーに結びつけて考えてしまうみたい。


「カニといえば花カニに好かれた卿家ルーベル家のお嫁さんとはなんでしょうか。とても気になっています」

「新婚の頃にお義父さんと海釣りに行きました」


 ルル達とは違ってリルはここで停止。私は何か話した方が良いの? と悩んだらリルは話を続けた。


「それで花カニという当時うんと高くなっていたカニが釣れて売ってもらいました。服装と垂れ衣笠で顔が隠れていて別嬪(べっぴん)お嬢さんと漁師さんに間違えられて眼福だから売ってくれると」

「高いカニで売れるからではなくてですか?」

「両方です」


 漁師ってそうなの。バレルは私に対して「しかしお嬢様はかわええ」と照れ照れしたお顔をしていたから「お嬢さん」とか「お嬢様」自体に弱いのだろう。

「とんでもない家のお嬢様は俺達からしたら皇女様」らしいし。とんでもない家って身分証明書の番号か何かで大豪家とか見抜かれたのだろう。

 また少し間が出来た。


「お顔詐欺(さぎ)をしたと気がついたので止めました。でも船着場の漁師さんのところへ行ったら真冬の早朝に海釣りをするお嬢さんなんていないから眼福だと」


 眼福ってネビーみたいな発言。


「はい。それでどうなりました?」


 ルル達とはまた違ってリルは独特の間や話し方。おまけに「私はブサイク気味だけど美人に間違えられて得をしました」みたいな発言をすまし顔でサラッと口にするからびっくりするというか気になるというかなんだか少し笑える。

 ネビーともルカ達ともかなり違う。


「花カニが驚く程高く売れて船着場に良い縁起がついたとか、うんとお話しをしたらなぜか私を気に入ってくれたとか、ルーベル家の仕事が最近役に立っていたとか、兄もたまたま知り合いだったと分かって漁師さん達と仲良くなりました」


 何個乗せ?

 花カニ。リル。ルーベル家の仕事。ネビー。4つ。4は死に避け幸せ数字ともいうけどその4つ乗せ。カニを漁師に売ってもらったらネビーと知り合いだったってどういう会話をしたの?


「ネビーさんがたまたま知り合いだったのですね。なぜ分かったのでしょうか」

「兄は推薦兵官だと言うて兄の権力を傘に着て毛むじゃらカニを追加で売ってもらおうと話したら兄について聞かれてネビーって聞いたことあるなと。兄あるあるです」

「ネビーさんあるあるですか」

「漁師さんを助けて子どもと遊んでいたそうです。鍛錬ついでに釣りに来たのに釣竿を忘れたと言うたら子ども達がアサリを一緒に掘ってくれたそうです。今より人の話を聞かなかったので漁師さんからのお礼のフグを貰いそびれて帰宅です」


 知り合って3日でなんとなく想像出来てしまう。サラッと人を助けるとか忘れっぽくて子どもと上手く遊べるところ。


「私が節約話ばかりしたので漁師さん達は卿家は手伝い人もいない貧乏と誤解。その少し前に難癖解決があったようで中央裁判所の卿家はうんと大切と言うてくれました。兵官や煌護省は好かれている地域です」

「船着場の縁起を良くするうんと高く売れた花カニを手に入れた上にガイさんとロイさんとネビーさんの事が重なって好まれたということですね。それで何が起こったのですか? 花カニの件ってことは何か事件です」


 卿家は手伝い人もいない貧乏と誤解だからそれ関係だろう。


「税金泥棒みたいな人にはしばらく高く売ったり売らないと。卿家の給与、特に中央裁判所の卿家の給与が安いと自分達が困ると意見書らしいです。それで中央裁判所の卿家全員に特別報奨金が出ました。商家などはとばっちりですがお義父さんがよくある話だから仕方ないと」

「それはよくある話なのですね」

「華族がどうした、兵官がどうした、酒屋組合がこうとか農家の扱いが最近悪いとか色々あるそうです。何をするか知りませんが農林水省が頑張ります」

「私はその農林水省が頑張る方はなんとなく知っていますが漁師のこのような気まぐれ話、特に具体的な話は知りませんでした」


 それでリルに海の大副神の遣いについて聞かれたので漁師から聞いた話とネビーと一緒に見た虹生物の見た目について語った。


「漁師さん達は輝き屋とウィオラさんのご実家にバチが当たらないように先回りですね」

「えっ?」

「大嵐が来て海だけではなくて南地区、他の地区までどんどん広がったら大変です。各地で雷がうんと落ちるかもしれません。海の大副神なんてカニの大副神どころではありません」


 そうなの?

 これはそういう話なの?

 そんなとんでも話に発展してしまったの?


「なので仕方ないです。ウィオラさんは歌って踊って皆さんを楽しませただけです。あとは漁師さんや農林水省さん達のお仕事です。任せるしかありません」

「はい。あの、リルさんは因果応報を信じているようですが努力しても報われない方についてどう思いますか?」


 何? みたいに首を傾げられてしまった。ネビーもリルみたいな思想というか信仰熱心なのだろうか。


「副神様は気まぐれで好き嫌いが激しくて人は悪4欲(しよく)で生まれてくるから誤解されている間は仕方ないそうです。仕方ないから自分達でなんとか頑張るしかありません。努力しても報われないことはうんとあります。私はずっとぼんやりが直りません」


 この考えはどこから来たの?

 龍神王様の説法や逸話にこういう内容のものはあったっけ?


「兄ちゃんの忘れっぽさと足く……なんでもありません」


 リルは結構喋るようになったというか会話の速度や間がルカに近づいてきた。


「ネビーさんが忘れっぽいことは既になんとなく存じ上げていますがあしくとはなんでしょうか」

「特別酷いのではなくて他の人よりうんと仕事をするからみたいなので仕方ないです。昔はそれを知りませんでした。洗えば大丈夫です」


 洗えば大丈夫なあしくって何?

 リルの顔がしまった、みたいに変化しているし目が泳いでいる。


「良い方法というか草をもらって育てていて足袋のつけ洗いを自分でするので大丈夫です」


 だから何?

 !

 ルルが言っていた「足くさは洗えば問題無いし」の足くさだ。

 布団は大丈夫だったから本人が気にしているなら大丈夫……なぜこのような情報を知らないといけないというかもう知っているのかな……。

 ネビーは家族親戚に個人情報を流され過ぎだ。私もそこに加わって情報漏洩されてしまうの?

 けれども5人の妹達は姉や妹達の話はそんなにしない。リルからもまだ他の姉妹の話はされていない。


「何でもないのでプクイカをご覧下さい。エドゥアールへ新婚旅行なら連れて帰ってきて欲しいです」


 もうこの話はダメです、みたいにリルはおろおろしながら私を水瓶の方へ案内。

 リルが誰似なのかサッパリ分からないけど似ているところはある。

 考えなしみたいなところはネビーに通じるところがあるし、私に慣れてきたのか口数が増えたらルカのような雰囲気。残りはまだ全然交流していない彼女達の父親レオ?

 昨夜や今朝の食事中のレオはルカみたいだったけどな。ルルが特別美女ならリルは特別人。気になるというか面白いというか不思議な女性。

 口数が少なかった居間での印象とかなり違う。ルカ達と違ってリルなら私の妹になってくれそう。

 プクイカは岩山エドゥの川から連れ帰ってもう何年も育てているイカらしい。


「なので川イカです」

「川のイカさんは何年も生きるのですね。海のイカさんはどうなのでしょうか」

「死にます。死にまくりです」


 えっ?

 リルは不機嫌そうな気に表情になった。何? 私何かした?


「増やして売りたいのに春に増えて翌年にさらに増やして売るぞと思っているのに死にまくりです。いつまで経っても養殖出来ません」


 死にまくりってそういう意味。養殖出来ないのが悔しいというお顔なのか。


「……養殖しようと思って持ち帰られたのですか? ああ。商売人の娘さんですからそのようなお考えをされたのですね。私には思いつかないことです」

「旦那様にもそう言われました。育て方を街で聞き取り調査したり増えてうんと売れるならどういう手続きが必要なのかも旦那様の担当です。私には分からないですし手続きも難しそうです。私は育て担当ですが食べる量にしか増やせていません」

「異なる世界が合わさった結果上手くいくかもしれない計画ですね。お亡くなりになられたプクイカはどうなってしまうのでしょうか。食材ですか?」

「はい。我が家は南地区では中々手に入らないプクイカを何年も食べまくりです。お客様がたまに欲しいと言いますけど商売仇になると困るので死んだプクイカを渡すか飼い方を教えずに少しだけ譲ります。旦那様の友人達が次々エドゥアール温泉街へ行きましたが誰も育てられていません」


 川のイカだけど水瓶で飼えて増やせるけど他の家では難航か。なんだろう。


「元服祝いの家族旅行がエドゥアール温泉街の予定でした。行けるなら行きたいです。多少下調べしてあそこには行きたいみたいな話をしていました」

「どちらへですか?」

「上温泉広場です。行かれましたか?」

「行きました。地獄蒸し料理がまだあれば食べて来て下さい。ここから向かって街に入ると手前に滝があって驚いて夢中になりそうになるけど無視です無視。まずは宿で観光案内本を借りて上温泉広場で足湯をしながら相談とかがええです」


 リルの話し方はますますルカに近づいている。人見知りされていたのかな。

 ロイとリルは新婚時代に祝言とロイの出世祝いで行ったそうだ。生の声が聞けてさらに楽しみ。来るかな、私にもその祝言祝いのエドゥアール温泉街旅行。


「かめ屋で兄と昼食をとったそうですがかめ屋の旦那さんはエドゥアール温泉街の老舗旅館の元跡取り息子です。海に憧れて海の幸と共に生きたくて素性を隠してかめ屋で奉公人です。今は女将と結婚したから旦那です。なので我が家関係はかめ屋の旦那さんの実家の旅館にお世話になっています。親切だけど野心家で皆働かされます」


 かめ屋の旦那はロマン男性という訳か。あの女将がかめ屋を営む商家か大商家のお嬢さんということになる。


「働かされるのですか。芸を披露したら何か贔屓(ひいき)して下さると良いです。三味線を忘れずに持っていきます。私は座り仕事ばかりだったのでこれからは足を鍛えます」

「大丈夫です。牛車がいます。赤鹿は高いけど馬なら兄がいますし山登りは怪力山歩き牛、川歩き牛もいますし節約と貯金をしておけば歩く時間を減らす良い方法があります」


 川イカ。怪力山歩き牛。川歩き牛。リルは確かにネビーの妹であそこの長屋出身だ。……プクイカが回転してふよふよしている!


「まあ。回っています。愛くるしいです」

「手を入れたらワッて噛み付くので指を入れないで下さいね」

「恐ろしいイカさんなのですね。おちびで丸々とした愛くるしいイカさんなのに」

「川イカは殺人イカです」


 リルは急に笑顔を消して険しいお顔になってプクイカを軽く睨んだ。ネビーとはまた違った形だけど正直者で分かりやすい。

 顔立ちが同じだしネビーも「殺人イカ」と言いそうなので私は思わず吹き出した。


「ふふっ。殺人イカですか。危険ですね」

「そうです。なので触ろうとしてはいけません」

「殺人なら肉食ですね。餌は魚とか海老とかに群がるのでしょうか。温泉街の川のイカさん……水温でしょうか。あとは水そのもの? 東地区の川の生物も中々他地区では育てられ……」


 リルの視線が泳いだ。私の推測は正解みたい。他の家の人達は気がつかないのかな?

 他にも育てるコツがあるのかな?


「商売の横取りはしません。むしろ稼げたら場所などを提供して増やす方の支援です。皆さんで稼いで皆でエドゥアール温泉街へ行けたら良いでしょうから」

「ウィオラさんのご家族は7人みたいなので……ばあちゃんは無理そうだから……22人です。大大大宴会です。プクイカ達が増えてくれないと困ります」


 さらっと我が家が増えた。増やしてくれた。リルとネビーが似ているなら彼も同じことを言ってくれるのかな。

 私を5年放置は輝き屋音家拝命のためだけど捜索したはずとかお金や環境を確認されているかもと指摘されたので少々感傷的。


「ウィオラさん?」

「いえ。5年振りに帰るのか、と思いまして……。帰らせてもらえると思っておきます」


 どのような扱いをされるか怖いけど1人で帰る訳ではないから心強い。

 

「大変です! 吹きこぼれています!」


 毛むしゃらカニの下茹で中なのをリルも私も忘れていた。忘れっぽいネビーとちょこちょこうっかりな私の組み合わせって大丈夫なのかな。

 それは試しに長屋生活をしてみないと分からないけど結納が決まった後からその生活。まずは挑戦したい。

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