表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/137

22

 ネビーの甥っ子レイスと姪っ子ユリアは双子だった。2人は似ていない。レイスはリル似。将来ネビーみたいな顔になりそう。ユリアはまだ見ぬ破天荒結婚をしたロイ似なのだろう。

 2人とも人見知りみたいでリルの背後でコソコソしていたけど琴で楽しげな曲を弾いて歌ったら近寄ってきてくれて愛くるしい。

 隣の部屋で子どもの面倒を見ながら結納話を聞いていたリルにルルが「もう1回説明しておく」と話してくれたのは良い。

 次が問題。蛙で泣いたとか水汲みもろくに出来ないとか、しましま蛇に気がつかないなどあらゆる話をされてしまった。

 リルは無口なのか「そうなんだ」とか「それで?」と基本的に相槌。私についてとかネビーへの感想とかはあるのかないのか何を考えている方なのか読めない。

 花カニに好かれた卿家ルーベル家のお嫁さんとは何なのか気になるけど聞ける雰囲気ではない。

 現在の話題がそこに結びつくような話題ではないしルルのお喋りの間にも入れない。リルは口数が少ないけどルルのお喋りの間に入れるのは姉妹だからなのだろう。

 かなり大人しいリルとお喋りで賑やかなルルやレイの中間がルカみたいだと感じる。長女はルカなのにリルとの間とはどういうことなのだろうか。卿家のお嫁さんになって変化があった?


「兄ちゃんが龍歌で雅に口説くなんて驚きだよね。桜の枝に龍歌って言うていたよ。姉ちゃんも聞いていたよね?」

「兄ちゃん、旦那様に以前龍歌は仕事に必要ですか? 卿家の教養ってどこまでですか? って聞いたの。旦那様がお嬢さんを口説きたいなら使えますけど仕事にはあまり影響が無いと伝えたって」

「それでか。兄ちゃんって必要性や興味があると集中してよく覚えるよね。龍歌なんて分からないって言わなくなったのはロイさんのその言葉だ。逆だとすぐ忘れるのに」


 興味がないとすぐ忘れる……。


「私がお部屋を借りたことを忘れたのは私に興味が無かったのでしょうか」

「それは兄ちゃんが言うていました。疲れボケです。眼福で得だったと。無自覚おバカなのに本能発揮。忘れたけど部屋に帰ったら良いことがありそうとは野性の勘です。近寄りたくない相手なら逆だったというか絶対に世話焼きなんてしません。忘れっぽいのは悪気がないと分かっていてもイライラする欠点なので対策したり諦めるかこの男は嫌だと逃げて下さい」

「まずはどのような忘れっぽさなのか観察して対策します。嫌になって逃亡はきっとその後です」


 誰にでも欠点はあるので合うか合わないかは試してみないと分からない。向こうも私に対して同じだ。


「龍歌は何でした? 兄ちゃんがその場で作るなんて出来ないと思うから古典龍歌ですよね?」

「私も聞きたいです」


 龍歌は大袈裟という建前があって龍歌を贈られて嬉しかったら褒めて広めるもの。贈られた龍歌について話をする日が訪れるとは感慨深い。


「桜の枝と共に花見にと群れつつ人の来るのみぞあたら桜のとがにはありけると詠んで下さいました。今夜の芸披露を見たいけど他の男性には見せたくないなぁと」


 顔を覆いそうになったけど耐えて俯くだけで済んだ。照れ屋過ぎるのを直さないと。


「魅力的で罪深いですなんて兄ちゃんも雅に口説けるんだ。そもそも馬に乗せてかめ屋で昼食に桜並木や海を見る散策。嫌だとひょいひょい避けるのにやる気を出すとこれかあ。恋愛も私達が知ってる兄ちゃんの性格通りだったんだね」

「うん。兄ちゃんの頭には色恋を感じる場所が欠けてるのかもなんて旦那様と話をしていたけど違ったね」

「枝を折る前に桜の枝を折るのは好まないですか? と聞いて下さいました。ネビーさんは忘れっぽいところがあっても細やかな気遣い屋さんだと思います。ただ正直者というかあけすけなくて困るというかいっぱいいっぱいになるというか……」


 リルもルルも大きく頷いた。レイスとユリアは琴をいじって遊んでいる。ペインペインと弦を弾いて楽しそう。

 私はもうお稽古を初めていた歳だけどこのくらいの子どもは音が出るから楽しい、くらいで良いと思う。


「ウィオラさんはもう返事を考えているんですか? 古典龍歌を贈られたから古典龍歌返しですか? 作って贈っても詳しく説明して下さいって(はずかし)められるので古典龍歌の方がええと思います。(はずかし)められたいならええですけど。見えないところで2人でこそこそ楽しくどうぞ」


 ルルはとても愉快そうな笑顔。

 指摘されたら私もそうだと感じた。ネビーならそう、って思える。私の短い人生の中で出会った人の中で1番分かりやすい人だと感じている。龍歌の創作はやめておこう。


「春霞の山桜の歌にします。それでいただいた桜でしおりを作って贈ろうかと。験担ぎがあるのでこっそり作ろうと思いましたけど贈って良さそうなので」


 春霞たなびく山の桜花見れどもあかぬ君にもあるかな。つまりずっと見ていられますという意味。

 変なの。人生初めての自分の恋話をお相手の妹達とするなんて。恥ずかしいけどすんなり話しているのは羞恥心が溢れ過ぎて逆に慣れてきたからな気がする。

 ネビーと生きていくなら私も彼がうんと大事にしている家族や親戚を大切にしたい。

 大切に思える相手なのか知りたいから話さないとならない。それで今のところ自然と話せている。


「お嬢様らしいって喜んで浮かれますね。いや、お嬢様らしくなくても浮かれるのかな。分からないや。験担ぎってしおりで何をするんですか?」

「ロメルとジュリーをご存知ですか? 数年前から人気のお芝居です」

「観に行きました! しおりなんてありましたっけ?」

「なかったよ。レイス、乱暴に弾くなら片付けるよ。優しく触りなさい」


 ニコニコしていたリルが表情を変えてレイスを軽く睨んだ。


「やさしくしてるもん」

「そう見えなかったけどそれならごめんね」


 リルは即座に申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ずっと確認していて注意したくなるくらい乱暴に見えたんだから悪いのはレイスだよ。だから終わり。こっちに来なさい。言い訳しない」


 ルルはこっちに来なさいと言ったけどレイスのところへ行って抱っこして連れてきた。


「ユリアはええよ」

「おにちゃとあそたい」

「レイス、お母さんにごめんなさいと遊ばせて下さいだよ。優しく使いますって約束出来る?」

「おいでレイス。優しく使っているって分かるように触ろうね。他の人にどう見られるかは大切。気にしすぎるのは良くないけど気にしないのもよくないよ」


 リルに抱っこされたレイスはぐずぐずし始めた。今年4歳の子に厳しいというかしっかり説明するんだ。

 私は記憶がないけどウェイスに対する躾は覚えていて我が家も似た感じだった。卿家は家柄のわりに厳しいとはこういうところなのだろう。

 国が卿家に与えた業務内容は主に役人の手本と国への密告。

 こういう役人がいるなら従うという信頼を集めるための駒であり汚職反乱などの芽の事前摘み取り係。

 卿家と他の家が対立してくれるとその上の国に目がいかなくなるから、みたいな授業中の小話も思い出す。


「やさしくしたもん」

「お母さんやルルが悪い? どうして?」

「おきゃくさんとおなじだもん」

「同じ? ウィオラさんはそんなことしていませんよ」

「ああ、強弱をつけて弾いたから真似をしたんですね。気がつくのが遅くなりましたがお稽古でこういうことがありました」


 リルとルルは「真似だったんだね。ごめんね」とレイスに謝罪。レイスは2人に順番に抱きしめられた。微笑ましくて心温まる。


「見どころがあるからレイス君には春の桜の曲を教えますね。ユリアちゃんも弾いてみたかったら次に教えますよ。庭のあの桃色の花が桜です」


 リルやルルに目配せは通じるかな、と思いながら移動して琴を弾く体制になった。

 どうして? と聞き出すのは大切だと覚えておこう。子育てってかなり難しそう。

 レイスを琴と自分の間に入れて手を添えながら一緒にゆっくりと弾く。


「さくら、さくら、舞い散るさくら。このさくらをしてみましょうか」

「さくら」

「そうそうお上手です」

「さくら、さくら」


 レイスの幼い顔に曲になって嬉しいと描いてある。この顔この顔。子どもの楽しそうな表情は大好き。


「お上手でしたね。ユリアちゃんも弾いてみる?」

「うん。おねたいです」


 レイスとユリアを交代させる。ユリアは年齢の割に舌足らずみたい。可愛らしい。


「見渡す全て、さくら、さくら。こうして弾いてさ、く、ら」

「はい」

「お上手よ」

「さ、く、ら」


 手付きはレイスの方が上手い。飲み込みの早さという才能があるかも。ユリアは普通。曲を弾けた喜びもレイスの方が大きく感じられた。


「おきゃくさんまたききたいです」

「ききたたいです」

「ウィオラさん、私も桜吹雪(おうふぶき)をお願いしたいです。お手本はあるけど別のお手本も聴きたいです。また歌も聴きたいです。リル姉ちゃんに聴かせたいです」

「お願いしたいです」


 分かりましたと言いかけて思い出して使う言葉を変えた。


「弾かせていただけて嬉しいです。ありがとうございます」


 演奏ばかりさせられているけど楽しい。両親に対して色々思うこともあるけど氷が溶けていくみたいに胸が温かい。

 この5年間、無意識で自分を可哀想だと被害者ぶったり、遊女達よりうんと恵まれていると慰めたりしていたのかもしれない。

 今はただ何かと比較することもなく穏やかで幸せだなとそれだけを感じる。

 結婚は家と家との結びつきだけど本人達の意思も尊重していきましょうという風潮に変化しつつある理由はきっとこういうこと。

 貧しそうと思われている長屋にもそこそこ豊かなこの家にも同じような陽だまりの匂いがする。上流層にも浸透していくと良いな。


「桜、桜、はなびらひらりと舞い落ちる」


 昨日は知らなかった感情が理解出来る。時よ止まれ。永遠の幸福の中に閉じ込めて下さい。

 忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな。

 あのまま彼と2人で桜吹雪に包まれ続けていたかったな。

 

「ひらり、ひらり、ひらり……」


 ネビーの優しい微笑みと「かわゆい照れ顔」という言葉が頭の中をぐるぐる回るものだから息が苦しくなってきた。


「すみません。ここまでで失礼致します……」


 熱い。顔も体もとても熱い。


「ウィオラさん、お顔が真っ赤です」

「海へ行って熱がお体にこもったのでしょう。団扇をお持ちします」


 立ち上がろうとしたリルをルルがニヤニヤした笑顔で止めた。レイスとユリアが「だいじょうぶ?」と心配してくれている。

 ユリアなんて私の頭を撫でてくれている。子ども好きだから可愛くて仕方がない。


「姉ちゃん。贈られた龍歌を思い出して照れたように見えるから平気だよ。昨日演奏する前にこういう気持ちで奏でますって言うて同じ曲なのに違う雰囲気で弾いてくれたんだよ。今のはなんかこう、むずむずして、嬉しいけど恥ずかしいような……だから私は照れ照れ気分。だからウィオラさんは照れるようなことを考えていたはず」


 演奏で惚気たと見抜かれている!


「ぎょ、魚介類をお渡し致します。ネビーさんが忘れていらっしゃるかもしれませんので。レイさんに頼まれたもの以外は欲しいと言われたら何でも渡すと申していました」


 失礼しますとルルの眼差しから逃亡。リルはキョトンとした表情。顔立ちが似ていて驚いた時のネビーと同じ表情なので変な汗が出てきた。

 この初恋が積もりつのって上手くいって祝言出来たら私は彼女達の義理の姉。

 姉しか居なかったのにいきなり5人の妹。今のところルカ、ルル、レイには敵わなそうというか妹みたいな扱いをされそうだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ