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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
本編

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 紫電一閃。

 昨夜「恋に落ちますように」なんて演奏を模索したら自分が噂の恋穴転落?

 大混乱の中ルルに長屋の事を教わった。大家に軽く説明されたけど全然違った。かなり不安。


「へ、蛇が出るのですか?」

「はい。わらわらいる青緑蛇は毒蛇ではないので大丈夫です。しましま蛇だと死ぬことがあるのでたまにしかいない大きなしましま蛇こそ注意です。赤と黄色で大きいから目立ちます」


 私は今ルルに蛇投げ用枝、というものを渡されて洗濯場周りの草むらで「こうします」と説明されている。

 蛇投げ用枝って拾った枝だ。ルルが厳選して「部屋に置くように」と私に渡したもの。


「皆で定期的に草刈りをするけどすぐ伸びるんですよね。そういう仕事とか行事とか暗黙の了解とか色々あるので母にひっついて下さい。母に言うておきます」

「言う……私もネビーさんも昨夜一言二言話しただけで後はルルさんとご一緒していた時くらいの間柄です。以前からの知り合いではないですし、そのような推測をされる感情はお互いない……はずです……」


 私の心は不明。


「かわゆいお顔です。あっ、いた。何で殺しまくらないでポイポイ投げるのかなって思っていたけど勉強したら蛇の大福神様とか西の国では蛇神……ウィオラさんは蛇が苦手ですか?」


 枝に引っ掛けられてうねうね動く蛇に私の体は停止中。蛇は副神の化身といって飼うことさえあるらしいけど近くで見たのは初めて。


「その春イボ蛙は大丈夫ですか?」

「春イボかえ……き、きゃあ!」


 掌で示された自分の下半身を見たら着物に青茶色で丸いイボがたくさん付いているたまご大の蛙がくっついていた。


「い、いやぁ!」


 払いたいけど触りたくない。バサバサ着物の裾を揺らしてみる。


「の、登ってきます!」

「こいつは太々しいからそのように品良く払おうとしても動きませんよ。おりゃあ!」


 ルルは枝を振って青緑蛇を川へ投げた。次はその枝で蛙をシュッとすくってまたしても「飛んでけ!」と放り投げた。


「わ、私、不安になりました。長屋って何となく憧れもありまして……。町屋は1人暮らしには高いですし居候は関係が拗れたら大変だと思いまして……」


 私はここで洗濯を出来るのかな。


「ロカの先生で良かったですね。母が世話して守ってくれますよ。他人に洗濯されても良いならお金を払えばしてくれる人も沢山います。炊事もそうです。女学校の先生って何時から何時まで働くんですか? 土曜日は半日で日曜日は休みですよね」

「休みはそうです。来月から朝は10時からで16時までです。2週間あるので生活の練習です」

「大家さんって少し悪なのでお金を出せそうだからわざと高い部屋にしたんでしょうけど、1人身でそれだけ働くなら安い共同かまどの部屋の方が良かったと思います。今埋まっているから引っ越せませんけど」


 共同かまどは屋根付きだけど外にあってかまどの無い部屋数分のかまどはない。絶対に不便。

 なのにどうしてですか? と質問する前に説明された。

 1人身や共働きで子どもが小さい夫婦などはまとめてお米を炊いたり火が残っているうちに交代してもらったり協力しているらしい。

 信用しているご近所さんの前で約束事を決めて紙にも書くそうだ。揉めたらその人に間に入ってもらう。


「誰かと炊事がええと思います。まあ我が家ですね。貴重品は鍵付きの押し入れの中。畳の下に鍵付き金庫。他の家との交渉例は鍵を開けっ放しにして帰宅前の時間からかまどを使ってもらってお米を炊いてもらって、何ならお味噌汁とかも作ってもらう代わりに何か相手にするとか工夫。16時に仕事が終わって帰宅してから色々作るのは大変ですし炭や薪問題もあります」


 必要な火力を得るのに炭や薪の量をあまり減らせない。工夫しないとお金が勿体ないという話をされた。

 それから17時から18時には八百屋も魚屋も閉まるので品薄や安売りで戦争らしい。


「炊事は出来るからと気軽に考えていました」

「炭が高い時は薪割りをしたり冬に備えて炭団を作っておいたり色々あります。代用炭団作りは得意です」

「薪割り……斧が必要です」

「喧嘩しない限りは兄ちゃんにお願いすれば済むので斧は買わなくて大丈夫です」

「そのように頼る訳には……」

「話しかけないと仲良くなれませんよ」


 蛇探しと投げる練習は後でと言われて水汲み。私の部屋から近い川への近寄り方を数カ所教えてもらった。

 他の住人に挨拶をされる度にルルは「ウィオラさんです! 兄ちゃんの隣に越してきた女学校の先生です。ロカの先生なのでまずは我が家がなるべくお世話をします!」と返事をしてくれている。

 相手が私へ挨拶以外の話をしようとすると「色々教えてるんで後で! 後で挨拶回りします!」とにこやかに拒否。

 

「あちらに井戸がありますけど誰も使わないんですね。どなたも近寄りません」

「なぜか変な味がするから使いません。味が悪い水で体を拭くのも嫌っていうか。何となく縁起の悪い水じゃないかって話があって。そうそう。夏は風呂屋より水浴びです。暑くなってきたら向こう側の長屋と協力して布を張ります」


 汲んだ水を運びながら説明を聞く。私は桶の半分で大変なのにルルは棒に繋がっている桶2つに満杯の水。棒を肩に掛けて涼しい顔だ。

 実家には使用人がいて菊屋でも水汲みをしていない。女学校で井戸から水を汲めたから大丈夫な気がしていたけど今更あれは実習だと気がついた。

 生活で使いたい量と違うし平坦な場所で運び先も近かった。

 川で水浴びは布と板で簡単な小部屋みたいにして女性用の場所を作るらしい。男性はそこらで(ふんどし)姿だそうだ。


「ええ……(ふんどし)……」

「お顔が真っ赤です」

「だ、男性のは、はだ、裸なんて見たことがありません」

「裸は流石にいないです。(ふんどし)姿です」


 定義が違う。


「そ、それは裸です!」

「えっ?」


 菊屋は中店(ちゅうだな)で最後の方は大店(おおだな)。宴席で脱いで騒ぐ客は居なかった。

 他のお店に頼まれて行く際も私は客層と代金を考えて大店と中店(ちゅうだな)にしか行っていない。

 男性の裸に近い格好は祖父や父くらいで物心がついたかつかないかという時までの記憶。それから女学校時代にこっそり浮絵鑑賞。

 菊屋で興味から春画をチラリと見て最初はほぼ失神。しばらく固まって動かなかったと言われた。

 そもそもそういう知識は文学から得たけど友人達との話や想像と違って衝撃的だった。


「川の深くへ入ったりするから基本は上しか見えません。夏前に暑いと上をはだけてたり脱いでそこらで飲んだり将棋や囲碁とか沢山いますけど平気ですか?」

「じょ、上半身裸なんて見られません……」

「えー。お嬢様ってここまでですか。気にしない人と暑くて脱ぎたい男達に多数決で負けるので……浮絵で慣れたら良いですね。ああ、探したらありそうなので兄ちゃんのを探しますか?」


 私は思いっきりブンブンと首を横に振った。


「冗談です。面白くてつい」


 遊女達に遊ばれてたのと同じだ。


「そういえば自分達は話したのに聞き忘れていましたけどウィオラさんっておいくつですか? どう見ても若いので同い年くらいかなぁと」

「こ、今年で22歳です」

「それなら私よりお姉さんですね。あっ、既にいますけどあれは大丈夫ですか?」


 ルル達の父親と同年代くらいの太めの男性が片袖を抜いて歩いている。私は思わず顔を背けた。


「ジン兄ちゃんに聞いたら最近なんか流行りらしいです。人気火消しがしたと。オジジがしても格好ええとは言えないのに」

「そうですか。ひ、火消しさんの行列は恥ずかしくて音楽だけ聞いていました」

「逆にここまで照れるのはどのように育ったのか不思議でなりません」


 ひゃあ。色々な意味でここでの生活が不安になってきた。でも初心(うぶ)が治るかもしれない?

 

「婚約者以外と男性に近寄らないように見張られていました。そうではない子も登下校は集団で見張り付きです。私達の生活では当たり前のことでした」

「卿家のお嬢さん達もそうですけどここまでの方は見たことがないです。兄弟がいたり卿家同士の幼馴染婚は概ね良いことなので町内会のお祭りとかあるからですかね? 家族と一緒に卿家とお出掛けとかありますし。格好良い火消し行列とか武術大会の見学はなるべく禁止らしいです」

「卿家の同級生がいたのでそのような話を聞いたことがあります。彼女は格上狙いの家なので厳しめだとか」

「つまり格上狙いの卿家のお嬢さんが通う女学校に通っていたんですね。またしてもお嬢様の証拠が出てきました」


 遊女達に箱入り娘だと見抜かれていったことと同じような状況。


「は、裸対策は垂れ衣笠を使います。薄布から徐々に慣れます」

「次は畑へ行きましょうか。我が家の畑もあるのでお遣いを頼むかもしれませんし、野菜を少しどうぞ持っていってとか言います。泥棒もいるけどみんな非常食と趣味みたいなもので雑に育てて増えたらええななので喧嘩はそんなに」


 部屋とは真逆の位置へ移動開始。


「私はまだお金が無かったから女学校へは行かせられないと言われて代わりに別な方法で学ばせてもらえました。でも女学校は気になります。まあもうこの年齢では通えませんね。ロカが寺子屋とは全然違うと。長屋? とバカにされるけど長屋も町屋もそこまで差がなかったり我が家は現在4部屋を独占なので五十歩百歩です」

「私もしがない豪家の娘なのに大商家の息子と縁結びとはなにやらみたいに言われていました」

「ひゃあ。ウィオラさんのお嬢様ぶりよりも上の……まさか皇居へ入内するような方がいたとかですか?」

「そういう方は局で育つそうです。まれにいても中央区の女学校らしくいませんでした。財閥系の華族の方はいましたけど。他の学校に落ちたみたいです」

「ひゃあ! 新しい世界の話が聞けそうで楽しみです! まあずっと楽しいですけどね。居候先にも来てください。いや呼びます。今日これだけ案内しているから強制です」


 試しに文通お申し込みの話をしたらルルは「自作の龍歌に押し花付きなんて素敵です。そもそもその龍歌が良いです」と照れ顔。この感じは懐かしいかも。

 長屋と長屋の間を歩き続けて畑へと近寄ってきて「農村地区見学みたい」と楽しくなった。


「ちんまりな畑で愛くるしいです。黄色いこちらの丸々さんは何ですか?」


 金柑(きんかん)なら木に成るけど細い緑の枝に沢山葉がついて大粒のぶどうみたいな黄色い丸い実が連なっている。


「ウィオラさんが愛くるしいですよ」

「えっ?」

「春になるとわらわら増えてくれる謎の実です。一昨年兄ちゃんが仕事で行った農村地区でもらって植えたら育ちました。きちび実と呼んでいます。黄色いちびの実なので。兄ちゃんは忘れた時とかなんにも関係なく勝手に名前をつけます。レイの働く旅館で聞いたんですけどこれは知らないと。なので兄ちゃんが付けた名前のままです。食べますか?」

「いいのですか?」

「どうぞ」


 1粒摂って少し迷って手拭いで軽く拭いて一口。


「オレシに似ています。果物ですけどこちらは甘くなくてお野菜みたいです。蒸したお芋みたいな不思議な食感ですね」

「オレシ? オレシとはなんですか?」


 話しながら畑の説明を聞いていたら川の下にたんぽぽ畑を発見。珍しい。

 しかも私が知っているたんぽぽと花の大きさが違うし葉っぱの形も異なる。それでつくしも少し生えている。

 釣りをしている中年男性達がいたので軽く会釈をしたら「あれは知らない人達だから目を合わせたり近寄ってはいけません」と言われてしまった。

 怖くないだろうけど何かあるかもしれないから住人達と余所者の区別がつくまで誰かにひっつくか距離を取るように言われた。

 街中なら人目が沢山あるけどここは気をつけないと人目がないところがあるからと。

 浮かれ気分で警戒心が緩んでいたのでありがたい話。花街は安心感がないと思って過ごしていたけど街中は平気みたいな気がしていた。

 菊屋の場所や住み込みだったことや菊屋との契約に女性花官と親しくなっていたことを考えると逆かも。


「たんぽぽ畑とは珍しいです。見たことのないたんぽぽです。ここは観光地ですね」

「えっ?」


 不思議そうな顔をされてしまった。


「そこらに生えています。まさか花冠とか作ったことありませんか?」

「花冠? 冠が作れるのですか? 南地区へ来てから音楽関係のお出掛けばかりでこのような公園へ行っていなかったことを後悔です」

「ここは公園ではなくてそこらの道というか河原……しましま蛇!」


 ルルは素早く枝を使って蛇を遠くへ放り投げた。あまりにも早かったので感心。しかも何も無かったようなお顔をしている。


「ぼんやりだからしましま蛇訓練をするまで必ず誰かと居ましょう。しましま蛇は死にますからね。助かることもあるけど死にますから。私は助かった人しか見てないですけど死にますからね! しましま蛇退治は男達が定期的にしてくれていますけど私はついつい投げてしまうので戻ってくるかもしれません。通勤はロカと誰かがいるから問題ないです」


 それってまた見張り付きみたいなもの。死にたくないのでそうする。

 町屋の方が良かったのかと尋ねたら「毒グモに噛まれて誰にも見つからなくて死んでいたとかあるそうなので難しい問題です」と言われた。

 私は家出したのにまだ箱入り娘みたい。菊屋に住み込みもある意味箱入りだったのだろう。


「このたんぽぽはお腹を壊すので食べたりお茶に出来ないザコたんぽぽです。信じないで試してもええけどお腹が痛くなるだけです。こちらは平気。食べるのは苦いので最後の手ですけど干してお茶は美味しいです。けどジン兄ちゃんがこっちのたんぽぽと間違えました。両方飾りにはなります」


 気になっていた斜めの板は食べ物を干したりしているそうだ。最後の手とはお腹が減ったら食べていたということかな。


「こちらのたんぽぽをお部屋に飾ります。枯れてきたら干してお茶にしてみます」

「それなら沢山集めて花冠を教えます。あと家にあるので飲みましょう。昔は作りまくって1年分のお茶確保まではいかなくても保存していました。ここはたんぽぽ戦地です。今は居候先辺りでは知られていなくて好まれたのでお裾分けです。かわゆく包んで春らしい判子を押したりしています」


 たんぽぽ戦地。しましま蛇とか青緑蛇に春イボ蛙とかネビー以外の人達も勝手に名前を付けている気がする。賢そうなルルはそのことに気がつかないのだろうか。


「ありがとうございます」


 花街には公園があったけど小さくて家の庭園みたいだった。下見の時にここまで見なかったし大家の説明と違うから不安もあるけど楽しい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] るるが [一言] ルルの性格が好きかも。ベンベン琴って面白いし、すごく性格というか彼女の雰囲気が伝わる。 主人公については花街で5年も過ごしながら、ここまでウブなのには違和感持ってしまう…
[良い点] 恋愛してきていない二人の今後とルルを落とす男性がいつ現れるのか楽しみです。 初恋の二人が可愛いですね。 ときめきをありがとうございます!
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