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章 第三「20120423fragment■///対策班、動く」第一幕

※本作はシナリオライター笠間裕之先生の小説『木造ロボ ミカヅチ』の二次創作です。こちらだけでも読むことができますが、両方合わせてより楽しく読めるよう工夫しました。ぜひ原作もチェックしてくださいませ※


https://ncode.syosetu.com/n4681ci/


笠間裕之先生公認 巨大ロボ×日本神話 異色のご当地ロボ小説 まさかのスピンオフ!!


中学生になったばかりの伊能彩雲はちょっぴり剣術が得意なふつうの女の子☆ ひょんなことから幼馴染のお寺に隠されていた木造のロボットが明るみに出てもう大変!>< え?鹿島に出現した未知の脅威が私の故郷にも迫ってるの?それを防げるのはこのロボットだけ?そーゆーことならやるしかないじゃん!行くよフドウ!! そんなこんなで純情乙女の一大バトルスペクタクル、始まっちゃいます!鳴濤山不動院長勝寺で私と握手!!


 1週間に3話ずつ、月・水・金辺りで更新予定。既に完結していますので最後まで安心してお読み頂けます。


この作品は「n4681ci」の二次創作です。作者より許可を頂いています。

章 第三「20120423fragment■///対策班、動く」第一幕


挿絵(By みてみん)


 茨城県稲敷郡阿見町、霞ヶ浦。国内で二番目に大きな湖のほとりでは、一〇日ほど前から不可解な発光現象が観測されていた。紫色のその光を見た者は湖におびき寄せられ、入水じゅすいし、そのまま溺れ死ぬと云う。目撃者の証言と偶然救出された被害者の話を総合するとそんな話になる。尤も、救出された人は自らの意志で行為に及んだ自殺未遂者であって、被害者と呼ぶのは適当ではない。従ってこの一連の事件に加害者の存在は立証できない。

「全くやりきれないよなあ。今朝のを入れて何件になった?」

「一五件です。自殺の名所ってこんなに急にできるもんなんすかね」

「俺に聞かねえでくれよ」

 二人の警官が巡回する夜の霞ヶ浦を照らしているのは街灯のみ。こうしてほとんど毎日のようにパトロールしているが、事件の被害者が見たという紫色の光源などどこにも見当たらない。

「こうやって見回りを強化するくらいじゃ、事件を未然に防ぐことはできないでしょうね」

「ま、自殺対策にコストをかないのは元よりお国の方針だしな」

「そうは言っても、毎朝寝覚めが悪いですよ……。朝になってご遺体が湖に浮かんでるかもって。巡回に駆り出されてる以上、防げなかった責任が自分にもある訳じゃないですか」

「そうやって何でも背負い込もうとすると長く続かんぜ。上に命じられた仕事をこなせば良い。それで救える命があるんならな……。って、良い話をしてるってのに何だ?停電か?」

 湖を囲む歩道に立つ街灯がちかちか明滅し始めたかと思うとぷっつりと消えた。慌てて懐中電灯を取り出す。

「先輩、何か聞こえませんか?」

 言われるまま耳を澄ますとどこからか子どもの声がする。

「ほ、ほ、ほぉたる来い

 こっちの水は辛いぞ

 あっちの水が甘いぞ

 ほ、ほ、ほぉたる来い」

 声のする方へ懐中電灯を向ける。湖のほとりのベンチでわらべ唄を唄っていたのは五、六歳の年頃の女の子だった。おかっぱ頭で地味な柄が入った緋色の和装をしている。

「お嬢さん、こんな時間に何してるのかな?お母さ、」

 声の主を見つけて人心地のついた中年の警官が童女に近寄って話しかける。が、何やら様子が変だ。

「先輩、どうしました?……ヒィッ」

 若い警官がその場に倒れ込む。がくがく震える足を抑えてその場にとどまっているだけで精一杯。

 鞠を手にした童女の両の眼は赤い絹糸で縫い閉じられていた。

「そこに誰かいるの?」

 童女が虚空に両手を伸ばす。鞠が転げ落ちる。

「いけない、落っこちちゃった。汚したら叱られちゃう」

 中に入った鈴の音を頼りに童女が歩く。鞠は若い警官に向かって転がっていく。

「来るな……こっち来るな……」

 腰を抜かした警官は頭を沈めて息を殺す。だが童女は鞠を拾い上げるとほっと安心した様子で埃を払った。

「いけない、日が暮れる前にご用事を済ませなきゃ。遅くなったら叱られちゃう」

 若い警官に気づいた様子はなかった。ちょっとした段差に危うげにつまずきながら、湖の方へ戻っていく。地面にはつまずくのに手すりは擦り抜ける。湖のほとりで座り込むと再び唄い始めた。

「ほ、ほ、ほぉたる来い

 ほ、ほ、ほぉたる来い」

 唄に呼応するかのように遠くの方で灯った紫色の妖光が接近するにつれて光が強まっていく。

「きれいなほたるさん。わたいにも見えるよ」

 湖面から顔を現したのは横に裂けた大きな口を持つアロワナのような魚だった。頭だけで家一軒分はありそうだ。

「こっちの水は辛いぞ あっちの水が甘いぞ

 こっちの水は辛いぞ あっちの水が甘いぞ」

 歌を聞いた怪魚がにわかに苦しみ始める。ばしゃばしゃと大きな波しぶきを上げて、今にも溺れそうな勢いだ。

「今助けてあげるからね」

 そう言って右手の人差し指を水面に浸けて、自分の背中側へ弧を描くように振り上げる。と、怪魚はまるで釣り竿にかかったかのように陸へ投げ上げられた。

 しばらく跳ね回って動く気力を失ったところへ、童女が座り込み優しく撫でる。

「わたい、あんたに会うためにここに来たの。オキナに言われて……。翁に言われたこと、わたいだけでやってみようとしたんだけど、それじゃうまくできなくて。そんであんたにお願いするように言われたの。お願いごと、聞いてくれる?」

 だらりと垂れた尾で力なく地面を叩く。

「ふふっ、あんがとう。きっとあんたのためにもなると思う」

 怪魚が見開いたぬめりのある巨大な眼球を撫でていた指で、童女は遥か東の地平線を指差した。

「あんたに海に出てほしいの。そんで、伊弉冉イザナミ様の子どもたちを閉じこめてる岩をどかしてあげて。あんたは強いから心配いらないと思うけど、でもやっぱり一人じゃ無理。だから途中で仲間を集めてね。あんたがこの湖から出れば邪魔する人たちも出てくると思う。あの人たちは大きなおもちゃを持っていて厄介だから、そのためにも仲間がいた方がいい」

 陸に揚げられて息も絶え絶えだった怪魚が突然、蛇のようにのた打ち回って地上を移動できる身体に変化を遂げた。呼吸もできるようになると、童女から逃げるように再び湖の底へ消えていった。しかしもう気配はない。

「あんたが封印されてる間に、世界はひどく様変わりしたのよ。その眼で見るといいわ。まずは湖を出て、南へ。おまじないの効き目はずっと続くわけじゃないから、干からびる前に海へ出てね」

 街灯が明滅して、一瞬真っ暗になって元に戻ると童女の姿は消えていた。


 決闘を終えて、玻那華はいつもと変わらぬ日常を取り戻していた。あの日以降、テレビは鹿島神宮の事件についてその後の展開を一切取り上げなくなっていた。今まで当たり前に流れていた映像すら流れない。心なしか先週末まで重機同士のチャンバラに興奮していた生徒たちも今日は別の話題で盛り上がっているように見える。

 昨晩のできごとは夢だったのだろうか、と思わずにはいられなかった。鳴濤城に鎮座していた朱塗りの神騎……。結局のところ照明も充分ではなかったし、第一動くところを見ていない。幼い頃、彩雲と毎日のように探検してあの山のことは何でも知っているつもりだった。そんな場所にあんなものがあるなんて、そっちの方が信じられない。

「おはようー」

 彩雲が教室へ入る。足取り軽く平然としているが、制服姿だし何より玻那華よりも登校が遅い。

「おは、寝坊でもしたの?」

「いやいや、普通でしょ。まだ八時前だし」

「アヤにとっては普通じゃないはずでしょ。朝練は?」

 同じ陸上部の出席番号一九番が怪訝な表情を浮かべる。

「いやー、正直迷っててさ……他にもっとやらなきゃならないこと、できちゃって」

「ほうほう、その心は?」

「噂好きのリツコには教えて上げない!」

 やんややんやと笑い合う彩雲の左手には、孔雀色の数珠が輝いているのを玻那華は見逃さなかった。昨日のことは、やっぱり夢でも嘘でもない。彩雲が、彼女自身が言った通り面倒事を一人で背負い込んでしまったのだ。陸上部のエースとして将来を嘱望されていた彩雲にとって、神騎の搭乗者になることはそうそう簡単に安請け合いして良いことではなかったはずなのに……。それに引き換え、稽古があることを言い訳にして自分で目標を見つける努力もせず、本当の理由は知らされもしないまま取り組んでいた剣術の稽古からも解放されて……。これから自分が何をすべきなのか、玻那華には見当もつかなかった。その答えは今机の上に開いている文庫本のどこにも書かれていない。


「いやー、良い場所じゃないですか。こういうのを風光明媚って言うんですよね」

「山岸、観光に来た訳じゃないのよ。現場見て目撃者に取り調べして、」

「そういう先輩は刑事さんをやりに来たみたいじゃないですか」

 後輩の軽口に口元が緩む。神社本庁特異干渉対策班の和泉と山岸は、五月蝿さばえなす者出現と思しき情報を聞きつけて霞ヶ浦へ来ていた。

特班トッパンの仕事に刑事の経験が活かせるのは事実よ」

「ええ、そりゃあまあ。現調の時の先輩は活き活きしてて俺は好きです」

 茨城県稲敷郡阿見町。霞ヶ浦を臨むこの地の神社の中でも一際古い由緒を持つのが、七世紀に創建された竹来たかく阿弥神社である。しかし、今や鳥居は引き抜かれ、派手さはないが上品な佇まいを誇っていたお社も見るも無惨な姿に荒らされてしまっている。狼藉ろうぜきを働いたのは恐らく、鹿島神宮で騒動を引き起こしたのと同一人物。わずか一〇日ほど前の話である。しかしその荒廃ぶりは、一〇年前から放置されていると言われても疑わないほどの、ひどい有り様。その容疑者の仕業だけではこうはならない。

「随分酷く荒らしてくれましたね。一〇日間の内に起きた一五件の入水じゅすい自殺は、やっぱりこれが原因ですか」

「見て、敷地内の植物の異様な成長速度。これでも荒らされる前は手入れが行き届いてさっぱりしてたらしい。ここに封印されていたモノが、不届き者の破壊工作で外へ出てしまったのね」

「えーっと、データベースによると……確かに。霞ヶ浦がまだ海だった頃、毒のある光を放つ巨大な怪魚・ミズチが出没していたとあります。その毒魚を鎮めたのが『少童ショウドウ』と呼ばれる神で、自分の身体を犠牲にして自分たちを救ってくれたこの神様を人々がお祀りした。それが阿弥神社の由緒、だそうです」

「間違いないわね」

「でも、一〇日間毎日出ていた自殺者が昨日に限って一人も出ずに済んでいるのが妙ですね。なぜでしょう」

「あのー……あなたたち、刑事さん?」

 振り向くと、警察官の制服を着込んだ若い男性が二人の前に立っていた。

「いえ、我々は神社本庁の者です」

「神社本庁?」

「聞いたことないでしょうね。神社本庁特異干渉対策班。人間による事件・事故以外のものを専門としています」

「人間以外の……あの!俺の話を、聞いてもらえませんか」

 若い警官は昨晩見たものをその場で洗いざらい話した。

「……でも、信じてはもらえないでしょうね。目の前で見ていた俺自身、あれが現実に起こったことなのか、時間が経つにつれて自信がなくなってきて……。先輩も休んじゃってて、そのことで話したいのに電話にも出てくれないし……」

「聞いた限り、光を放つ怪魚についてはこの周辺の言い伝えと照応している……大丈夫よ。我々はあなたを信じるわ。怪魚が湖から出て行ったのなら、ここで自殺が起きることももうないでしょう」

「そうですか、もうここにはいないんですね……良かった……」

「いやいや、お巡りさんともあろう人が随分じゃないですか?そいつがうろついてる限り犠牲者は出続ける訳ですから」

「それはもちろん、不謹慎なのは重々承知してますけど、それにしたって最近罰当たりなことをする人があんまり多いから……気味が悪くて……」

「それは、テレビでやってる鹿島神宮の事件のこと?」

「いや、この近隣ですよ。阿弥神社だけじゃないんです、被害に遭ってるのは」

次回は6月30日更新です

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