章 第十九「20120619finale■///鹿島海山決戦」第一幕
〈手強いわね、この間の戦闘で私たちへの対抗策を練り出したみたい……だからって褒めてあげないけど〉
トラックを護衛して基地まで戻ってしまったことは、二人にとっては戦況を大きく不利に揺り戻す結果となった。罔象姫が立っているのは二kmほど先の地点だが、いつかの時のように雪崩のごとく迫る罔象の群れに圧倒されてそこまでの距離が途方もなく遠く感じる。
〈敵も今が正念場だと思ってるんでしょう……罔象姫に辿り着く頃には、私たち〉
言いかけた由亜が甲高い悲鳴を上げる。罔象の体当たりによって押し倒されたフトダマが手痛い攻撃を受けたのだ。すぐさま駆けつけたヒリトメが助け出すが、フトダマが傷つくと同時にヒリトメに乗っている里亜の身体にも鋭い痛みが走った。耐えきれず苦悶の声が漏れる。
〈里亜!大丈夫?〉
〈平気……クソ、神様なんてみんなクソだ〉
天布刀玉命と天比理刀咩命は夫婦。互いを強く思いやり、守ることが神騎を操縦する者に課した条件だ。それを果たせなければ、即座に報いを受けることになる。激戦が続くこの数日間で、由亜と里亜の身体には自分が仕えている神から受けた切り傷や痣がいくつもできていた。
〈後で傷、見せて〉
〈ん……ごめん、悪態なんかついて。長月さんはまだ来れないのかな〉
〈分からない。立ち上がりもしないでずっとあのままだし、もしかしたら本当に動けないのかも〉
〈まさか。私たちのせい?〉
〈かもね〉
〈なら仕方ない、私たちだけで食い止めることを考えなきゃ……もともと他人の助けを頼りにするなんて私たちらしくもないし〉
〈ほんと。境遇は違っても同じ立場の子に出会えて実は嬉しかったのかも〉
途絶えることなく送り込まれ続ける罔象の大軍が黒い波となって迫る。そもそもフトダマとヒリトメの戦闘スタイルは自分たちよりも格上の相手を手数で圧倒することに長けており、大勢の雑魚を一掃するには不向きだった。だからと言って敵を前に膝を屈するつもりは二人にはない。ヒリトメが差し伸べた手を取って起き上がると、両騎は再び刀を構えた。
〈守るよ、縁もゆかりもないこの町を!〉
〈それが国防を担う者の務めとあらば、ね!〉
「……ねえ、フドウ。あやちゃんを助けたいって、それだけじゃだめなのかなあ?」
カラッ、コロコロロロッ……
玻那華の問いかけにフドウが歯車の動作音で応えた。その意味が、玻那華には分かる気がした。
「ゆあちゃんとりあちゃんが言ってたこと、わたしなりに考えてみたけど……国のためとかそういうのぜんぜんわかんなくて……。でも、そんなの初めてフドウに乗った時からずっとだし、それでもちゃんと動かせてたってことは……そういうことだよね?」
ゴロゴロコロ……
「小さい頃からずっといっしょだったあやちゃんを助けたい……もしかしたらあやちゃんは今でもどこかで生きていて、助けを待ってるんじゃないかって気持ちは捨てきれないし、やっぱりわたしにはそれしかないの。ねえ、フドウ……。ほんとはあなたもそうなんじゃないの?」
ガラッ
「ふふっ……やっぱりね。余計なことなんか考えなくてよかったんだ」
フドウの返答を聞いたことで、玻那華の心の中で長い間鬱屈していた何かが弾けた。ついさっきまで重くて仕方なかった三鈷剣を強く握り締めて軽やかに立ち上がる。
「ねえフドウ、わたしは……誰に反対されたって、わたしはあやちゃんを助けたい。そのために他のたくさんの誰かを救えるかも知れないあなたの力を個人的な感情で使わせてもらうね。それでいいでしょ?それがあなたの願いなんでしょ」
コロコロコロ……ガガッ
「わたしは……今のわたしのままで行くッ!!」
フドウは走り出した。目指す先のレイラインの向こう側はさながら地獄の様相を呈している。それでも怯む必要はなかった。玻那華はただ唱えるだけで良かった。
「凡ての諸金剛に礼拝するッ!気高き忿怒尊よ……砕破せよ」
騎体の内部から迸り溢れ出た法力が腕を伝って三鈷剣の刀身を燃やす。逆巻く炎によって、戦況は一変した。




