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章 第十八「20120619appendix■///忘れてたなんて言わせないぜ」

挿絵(By みてみん)


 罔象の暴走によって崩された瓦礫が未だ手つかずのまま放置された無人の町を一台のトラックが猛スピードで駆け抜ける。

「おい、もっとスピード出せねえのか」

「無茶言わないでくださいよ、ここは戦場なんですよ。下手に焦って気づかれたら一貫の終わりなんですから」

「そうは言ってもよお……。もう目の前まで来てるんだぜ」

 助手席で苛立っている男を運転にかかりきりの若手がなだめる。トラックは神騎とその操縦者たちが駐屯している片貝海浜の基地へまっすぐ向かっていた。玉前神社と長勝寺とを結ぶレイラインの安全な外側を迂回するのではなく、無謀にも罔象に襲われかねない内側を突っ切って来たのだ。

 金属片を引っ掻き合わせたような不快な鳴き声が空気を震わせる。どこかに潜んでいた罔象が猛進するトラックに気づいたらしい。

「ちっ、また出てきやがった。振り切れるか?」

「駄目で元々!」

 若手は踏み込むアクセルの量を加減しながら右折し、基地まで続く大通りへと入った。ここから先はどこかで曲がってやり過ごそうなどとは考えない方が良かった。同胞の鳴き声に応じて、トラックを追う罔象の数は更に増えていく。

「罔象は見えない光脈を越えられないって聞いたぞ、このまま行けば逃げきれるんじゃないのか?」

 言った矢先、二人が見つめるフロントガラス越しに巨大な爪が襲いかかった。既に遅いのは明白ながら、反射的にブレーキを踏み込む。

〈民間人がこんな場所で何してるの!遊びじゃないのよ?!〉

 死を覚悟した二人の耳に甲高い怒鳴り声が飛び込んだ。恐る恐る目を開けると前方の罔象はフトダマによって既にこと切れていた。背後に迫っていた群れはヒリトメが応戦して抑えてくれている。

「てやんでえ、俺たちが遊んでるように見えるのかよ!!」

〈はあッ?あんた何なの?〉

 興奮しきった快男児を突き刺す里亜の視線は冷たい。

「俺たちぁ長月のお嬢さんに届け物をしなきゃならないんです。基地まであと一息だ、護衛してくれませんか!」

〈届けるって、一体何を?〉

「見れば分かりますから」

 男の話には半信半疑ながら、彼らが民間人である以上由亜と里亜には避難させる義務がある。そしてそれは何よりも優先されねばならない。そう考えた方が二人にとっては理解しやすかった。

 こうしてトラックは神騎二台の護衛の下、無事にレイラインの対岸へ辿り着いた。急ブレーキを踏み込んだことで白煙が巻き上がる。トラックは待機姿勢のまま動けずにいるフドウの真正面で半ばドリフトしながら停車した。突然現れたトラックに玻那華が目を丸くしたのも無理なかった。

「待たせて悪かったね、お嬢さん!」

「あの人は……白河組の大工さん……?」

 その顔には確かに見覚えがあった。助手席に乗っているのは棟梁だ。だが、なぜ今?考えている間に、二人が荷台にかぶせた防水シートの紐を手際よく外していく。

「さあ、受け取ってくれ!」

 それまで頑なに動こうとしなかったフドウの右腕が独りでに動いて防雨シートを拭い去った。

「あ!これって……!」

 荷台に載せられていたのは、鍛造されたばかりの長大な両刃刀だった。それを見た瞬間、玻那華の中で全ての疑問が氷解した。

「お嬢さんのために遙々《はるばる》燕三条(※)から運んで来たんだ、あっしらが交代で運転して昼も夜も関係なしに走り続けてさ」

「親方ぁ、七対三くらいで俺の方がかなーり負担大きかったですよ?」

「おめえは若いんだから当たり前だろ!……そんなことより、これがなくてさぞかし困ったろう。三鈷剣なしで不動明王の化身は務まらねえもんな!」

 豪快に笑う棟梁に釣られて、玻那華の口にも笑みが浮かんだ。細めた目に大粒の涙が滲む。

「さあ。俺たちの想い、受け取ってくれや……どうしたい、お嬢さん?」

 玻那華は恐る恐る手を伸ばした。つかは全く新しいものに取り替えられていたものの、前のものを精密に再現しているようで長さと言い太さと言い、しっくりと手に馴染んだ。

「すごい、前よりも長くなってる……」

 現代の刀匠によって鍛え直された刀身は日光を受けて妖しく輝いた。その刃渡りは二mを優に越えている。高さおよそ四mのフドウが持っても遜色のない大きさだ。

「見事な出来映えだろう。江戸時代の刀匠と勝負するつもりで鍛えてくれたらしいぜ。技術的な面ではどちらが上か甲乙つけがたいが、ひとまず刀身の長さの限界なら大幅に更新できてるな」

 一片の曇りもない刀身の表面にフドウの頭部が映り込む。それを見て、玻那華はふと思い当たった。

「あ……そうだ」

 修繕を受けたのは何も刀だけではなかった。蛟との激戦の末に一度は再起不能にまで陥ったフドウは、大勢の人々の助けが結実して復活を果たしたのではなかったか。今受け取ったのは単なる一振りの刀などではない。この刀がずっしりと重いのは、それだけ多くの人々の祈りが込められているからだ。

「でもわたしには……わたしじゃ無理だよ……」

 強い感謝の気持ちが湧くのと同時に、その期待に応えなければならないというプレッシャーで玻那華は今にも押し潰されそうだった。

〈長月さん!フトダマ・ヒリトメ両騎の救援に向かってください!〉

 トランシーバーの向こうで痺れを切らしたオペレーターが叫んだ。トラックの護衛を終えた後レイラインの向こう側へ舞い戻った由亜と里亜は、わずか一〇分足らずの間に危機的状況に立たされていた。


■注釈

 燕三条……新潟県で古くから金物の町として栄えた地域。燕市と三条市を合わせて燕三条と通称される。越後平野と信濃川を有するこの地域は米どころとしても有名であるが、その地形が農業に適している反面度々洪水の被害に見舞われてきた。また、冬には雪が積もる。こうした事情から農業ができない間の生業として江戸時代に始められたのが和釘の製造だった。材料・燃料をもたらす山、物流に適した河川、日本海側の厳しい気候を耐え抜く人々の気骨など、様々な条件が整っていたことからあらゆる金属加工技術が集積する町として発展していった。


次回予告

 未だ迷いを断ち切れない少女を前に、不気味な金属音がせせら笑う。決戦の地は遥か東、幼き日々から紡いだ剣舞は忘れ去られた神々に風穴を穿つか。

 次回!木造ロボ フドウ「鹿島海山決戦」

 今こそ、全ての諸金剛に礼拝せよ

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