章 第一「20120416-0420fragment■///翳り」第三幕
※本作はシナリオライター笠間裕之先生の小説『木造ロボ ミカヅチ』の二次創作です。こちらだけでも読むことができますが、両方合わせてより楽しく読めるよう工夫しました。ぜひ原作もチェックしてくださいませ※
https://ncode.syosetu.com/n4681ci/
笠間裕之先生公認 巨大ロボ×日本神話 異色のご当地ロボ小説 まさかのスピンオフ!!
中学生になったばかりの伊能彩雲はちょっぴり剣術が得意なふつうの女の子☆ ひょんなことから幼馴染のお寺に隠されていた木造のロボットが明るみに出てもう大変!>< え?鹿島に出現した未知の脅威が私の故郷にも迫ってるの?それを防げるのはこのロボットだけ?そーゆーことならやるしかないじゃん!行くよフドウ!! そんなこんなで純情乙女の一大バトルスペクタクル、始まっちゃいます!鳴濤山不動院長勝寺で私と握手!!
1週間に3話ずつ、月・水・金辺りで更新予定。既に完結していますので最後まで安心してお読み頂けます。
この作品は「n4681ci」の二次創作です。作者より許可を頂いています。
更に二日あまり後の夕暮れ時、長勝寺の駐車場に一台のセダンが停まった。それなりに有名な景勝地とは言え平日のこの時間帯に参拝客が来ることは珍しい。
運転席からスーツでびしっと身を固めた女性が立ち上がる。凛とした佇まいで年の頃は三〇代前半。お寺の前の石畳を箒で掃いている老婆を見つけると、まっすぐに向かっていく。
「長月忍海さん、ですね」
「不動尊への参拝はどうぞあちらへ」
「いいえ、あなたに用があって参りました」
さっと差し出された名刺を嫌々ながら受け取る忍海。
「私、神社本庁特異干渉対策班二課の和泉と申します」
名刺の内容と目の前の女性を交互に見やる。きちんとした身なりだがどことなく胡散臭さを感じるのはその肩書きだ。
「見て分からないのかね、ここは寺だよ。それに、わざわざ本庁から派遣されてるのはどうしてだい」
「変に思われるのも無理もありませんわ。説明させて頂いても?」
神社本庁とは、ざっくり言えば全国の神社を統括する組織である。四七都道府県それぞれに本庁の出先機関が置かれており、千葉県には千葉県神社庁がある。神社本庁が真言宗の寺に出向くこと自体そもそも不可解だが、千葉県神社庁を通さずに本庁の人間が直接来ていることの不自然さに、忍海は警戒を強めた。
「神騎の存在が明るみに出て以降、神社本庁は今後の対応について慎重に議論を重ねてきた。そうして過日、ひとつの結論に達したのです」
おもむろに取り出したタブレットで、予め用意していた映像を再生する。
画面内には世間を騒がせている黒い重機と紫色の重機が映っていた。彼らの視線の先に立ちはだかるは鹿島神宮社殿を背後にしたミカヅチ・ミナカタ両騎。そこへ、何やらまくし立てていたかに見える黒い重機が突然ミカヅチへ襲いかかった。それに続くかたちで紫の重機もミナカタへ。四台の重機による取っ組み合いは早くも混戦の様相を呈していた。
「この不届き者の正体は掴めたのかい」
「いいえ。しかしこの重機に乗っているのが誰であるかは、いずれにせよ大した問題ではないわ。恐らく主謀者は別にいる」
「何か根拠でも?」
「刑事だった頃の勘……。そう言ったら笑われるかしら」
画面の中では激しい戦いが続いていた。黒い重機に阻まれたミカヅチが転んだのに釣られて黒い方も横転、そこへミナカタが袈裟斬りを仕掛ける。迷いのない見事な太刀筋。黒い重機は倒れたまま動かなくなった。神騎側の勝利である。
だが、転倒したまま起き上がらない黒い重機を見た途端、ミナカタとミカヅチは硬直してしまった。仰向けになった黒い機体中央部分から赤い液体が噴き出している。それは紛れもなく、疑いようもなく中に閉じ込められたパイロットの出血によるものだった。
「何て痛ましい……」
「面白いのはここからよ」
「面白いだって?」そう言いかけた口を閉じる。
女性の悲鳴が響く。プロペラ音で地上の音は何も拾えないはずのヘリのカメラで難なく拾えた大音声は長く続き、徐々に狂気の色が滲み始める。カメラは動かなくなった黒い重機から離れ、叫び声を発している紫色の重機にフォーカスする。
と、次の瞬間。
手を突いて座り込んでいたその重機の左腕が爆発したかのように膨張すると、長く伸びた腕でミナカタを襲った。紫色の重機が発散する黒い煙霧でヘリからの映像はどんどん霞んでいく。立ち昇る煙霧から逃れるため、ヘリは上空へと避難していき、映像は途切れた。
「これは……」
二足歩行重機の割には機敏に動く、という程度の印象しかなかった紫色の重機は、明らかに生命が宿ったかのような恐ろしい獰猛さを発揮していた。
「ご安心を、マスコミが撮影したこの映像は我々神社本庁で差し止めしてある。テレビやネットに漏洩する心配はないわ。……短くとも一週間程度は」
「あんたさっき、これを見て面白いと言ったね。今のが何を意味してるのか分かっているのかい」
「神社本庁は全国八万社の神社の動向を把握しています。詳細は不明であるにせよ、古代より畏れられてきた異形……『五月蠅なす者』が出現した以上、我々は更なる敵の侵攻に備えねばならない。そこで、まずは現存する神騎が実戦配備可能であるかを調査することにした。ほとんどの場合、神騎の建造は神仏分離令が発布される明治よりも前だから教部省(※)時代の古い報告書まで遡って、こうしてお寺にも足を運んでいるという訳」
黙り込む忍海に対して好都合とばかり和泉は説明を続ける。
「既に、記録上では神騎が保存されていることになっている神社で、後継者不足のためかその存在すら秘匿されたまま行方知れずになった例を複数確認している。我々が持っている記録よりも、現存している神騎は少ないでしょうね。永らく顧みられることのなかった古めかしい装置で国防にどの程度貢献できるのか。神社本庁はそれを知りたがっている……。さて、一通り説明はしたし、そろそろ私にも質問させてもらえるかしら。この寺に秘蔵されているという神騎は、今はどこに?」
「……」
和泉の肩越しに帰宅した玻那華の姿が見えた。今の話を他人の口から孫に聞かせる訳にはいかない。とにかく、追い払ってしまわねばならない。
「鳴濤山不動院長勝寺総代として宣言する。我々は神社本庁の赤紙には従わない。神代の昔より島国の日本に攻めるべき土地などなし、我々に許されているのは守るための闘いのみ。従って神社本庁の方針には賛同できない。神騎についてもその搭乗者についても我々は一切情報を開示しない」
「勘違いして頂きたくないのですが、」
老婆の毅然とした返答に、和泉は薄い笑みを浮かべた。
「あなた方がいかなる方針に基づいて行動しようとも、敵対する意志は我々にはない。仲良く手を取り合えずとも共存は可能のはず。何しろ相手は人類共通の敵なのだから……。何か新しい情報が掴めたら、すぐにお知らせしますわ」
「猫が頼んでもいないのにネズミを捕って喜ぶ人間がいるかね」
玻那華は二人から距離を置いてじっと待っていた。話の内容は聞き取れないが、祖母の表情は険しい。それに対し訪問者の女は玻那華の横を通り過ぎる去り際、玻那華に対して余裕に満ちた笑みを浮かべていた。
「ただいま、おばあ」
おずおずと帰宅の挨拶をする孫に祖母は告げた。
「今日は稽古はなしだ。彩雲が来たら、二人に話がある」
■注釈
教部省……明治初期の太政官制度の下、宗教統制による国民教化の目的で設置された中央官庁組織。
日本の信仰は七世紀後期の律令時代以来、神祇官によって管理されてきたが、明治になって神祇の祭祀と行政を司る機関として神祇官に代わって神祇省が設置された(一八七一年)。が、祭政一致を目指す大教宣布を強化するため、わずか半年で教部省に改組される。キリスト教を半ば黙認という形で禁制を解除し、国民教化実現のため神道・儒教・仏教の合同布教体制を敷いた。
その後、神道勢力と浄土真宗勢力との深刻な意見対立が原因となって一八七七年、教部省は廃止されその機能は内務省社寺局へ移管される。
一八九〇年に施行された大日本帝国憲法第28条により国民の信教の自由が認められたことで、神道は仏教・キリスト教と並んで改めて国家の公認を得ることになった。一九〇〇年、社寺局は神社局と宗教局の二つに分かれる。こうして神道は、仏教・キリスト教その他新興宗教とは別々の歴史を歩むことになる。
一九四〇年、ナショナリズムが高揚する中で皇紀二六〇〇年記念に際して神社局が廃止され、代わりに神祇院が設置された。
一九四六年、戦後になって神祇院はGHQの介入により解散させられ、その機能は宗教法人神社本庁に引き継がれた。こうして現在に至る。
日本神道は古来より多様な信仰を包含しており、またそれぞれの神社に独自の由緒がある。こうした事情からひとつの教義を定めるのが極めて困難であるため、神社本庁には成文化された教義が存在しない。
次回予告
老婆に連れられるまま夜の山を歩く二人の少女。その先で見たものが二人の間で燻っていたわだかまりに火を点けた。恋愛戦争休戦中の女の子に剣を持たせたなら、何人も血を見ずには済まされない……
次回!木造ロボ フドウ「対面・対峙・対決」
今こそ、全ての諸金剛に礼拝せよ
次回は6月25日(金)更新です