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章 第十五「20120618fragment■///警戒レベル:庚」第二幕

挿絵(By みてみん)


 集合場所の九十九里有料道路周辺では由亜と里亜が既にフトダマとヒリトメに乗り込んだ状態で待機していた。

〈むずかしい話はぜんぶ後にして、まずは目の前の敵に集中しなきゃね。準備はいい?はなか〉

〈うん。それで、どういく?〉

 海を目指す罔象に対処すべく、二人はレイライン対岸に逃げ込んだ後それぞれの神騎に乗り込んだ。何しろ一体の敵に四人がかりというのは今回が初めてだ。上手く連携を取らなければ味方を斬りつけることにもなりかねない。小角家の二人の許に加わり、作戦を話し合う。

〈矢は通用したんですって?〉

〈ええ。堅かったけど怯ませる程度の役には立ったわ〉

〈私たちはまだ敵の姿を見てない。今までのとはそんなに違うの?〉

〈ぜんぜんちがうよ〉

〈どんなふうに〉

〈うーん……今までのが蟹だったら、今度のはゴリラってかんじ〉

 無表情な神騎に乗っているのに溜め息が聞こえた気がした。諦めて由亜と里亜は頭を稚雁に向けた。

〈罔象の強さは憎しみの深さに比例するの。矢を命中させたとき、一度に五、六人の叫び声が聞こえた〉

〈複数の妖鬼が融合して強くなっていると?〉

〈それでまちがいないと思う。そして……言いにくいけどそういう化け物が生まれたのはあなたたちにも原因がある〉

〈〈何ですって?〉〉

 稚雁が「あなたたち」と言った相手に自分も含まれている気がして、玻那華はぎくりとした。

 わだかまりもそのままに、小角の二人は前方に目を移した。敵は既に目前まで迫っていた。

〈あれは確かに〉〈今まで見たことないわね〉

 レイラインから一〇〇m余り離れて、四人は敵をまじまじと観察した。四足で駆け寄って来た新型の罔象はレイラインの手前で立ち止まり、すっくと二足で立ち上がった。体高は優に一〇mを超えている。玻那華がゴリラに例えたのもあながち間違いではなく、大きく張り出した上半身の筋肉は確かに類人猿を模しているかに見えた。だが肉体の各部からは角質化した筋組織が無数の棘になって全身のシルエットをより奇妙に仕立てていたし、異様に細い手足から伸びた爪はとても鋭利でおまけに頭部は金属製の異形の仮面で覆われている。

〈なんておぞましい……〉

 ヒリトメに乗り込んだ里亜が呟く。皆が同意する中で、一人稚雁だけが複雑な心情を抱えていることに気づく者はいなかった。

〈基本はいつもと変更なしで良いわよね?私と里亜で目標を叩く。玉前さんは外から弓で援護。長月さんは……〉

 両手をぎゅっと握ってフドウにガッツポーズを取らせる玻那華。威厳のある神騎が妙になよなよとして見えた。

〈そうね、囮になってもらえる?〉

〈えええっ……〉

〈悪いとは思うけど、それが最善じゃない?だって〉〈私たちの呼吸に合わせられる自信、あるの?〉

〈ないです、けど……〉

〈だったら〉〈決まりね〉

〈へいきよ、はなか。ふだんのすばやい立ち回りができれば危険はないはず。相手を引きつけて、避けるだけでいいのよ?〉

〈わかった、やってみるけど……〉

 陣形が定まった。まずフトダマとヒリトメが左右に分かれてレイラインの内側へ潜入、フドウが敵の正面から出て逃げ回る間隙かんげきを伺って反撃へ出向く。タマヨリは背後の有料道路高架橋の上で弓を構えて援護する。

「これ以上誰かが犠牲にならないためにも……ここで止めなきゃ!」

 フドウが走り出すと、静止していた罔象も身構えた。敵意をはらんだ視線を感じて、自分の役目を果たせていることにほっとする。だがそれ以上敵が動く気配はない。距離は五〇〇mを切った。このまま間合いを詰めればそれだけ回避は難しくなる。頼みは手にしている一本の槍だけだ。

〈——来たッ〉

 大きな鉤爪を具えた右腕が接近するフドウを薙ぎ払う。とっさに槍を高飛び棒代わりに大きく跳ねて回避し、そのまま罔象の股をくぐり抜けて走り去る。思いがけない動きを見せた相手に更なる攻撃を加えるため、フドウを追って二度三度と爪を振りかざす。上手く注意を引けたらしい。そこへフトダマとヒリトメが加勢した。

 戦況は常に有利に動いていた。二人の連携は自分たちの倍以上大きな体格を持つ相手でも見事に機能し、敵を翻弄した。自分たちの操る神騎が敵の膝ほどの高さしかないことを逆手に取って敵の下半身に集中して攻撃を加え、とうとう膝を折らせることに成功した。攻撃の手を緩めないまま続いて両腕をそれぞれが押さえにかかる。

〈長月さん!とどめを刺して!〉〈私たちが押さえてる間に急所を突いて!それで動きは止まるから!〉

 余裕のない声で二人が叫ぶ。覚悟を決めて槍を握った、その矢先——

〈神社本庁より入電!目標とは別の霊障を検出したとの知らせ!霊障パターン:蛟、改め罔象姫ミヅハノメ!!警戒せよ!〉

「みづはのめ……あやちゃんが、この近くに……?」

 辺りを見回すと、内陸側数km先にそれらしき影を見つけた。あの日からずっと捜し続けていた、罔象姫ミヅハノメに違いない。

 トランシーバー越しに稚雁と由亜と里亜の心からの叫びが響くが、玻那華の耳には全く入らなかった。槍を落として、実体化した影へ向かってとぼとぼと歩いていく。その後ろでは両腕を押さえていたフトダマとヒリトメを振り払って再び立ち上がった新型罔象がレイラインへ向かって悠々と進んでいった。もはやいかなる攻撃も通用しない。全てが弾かれ、ねじ伏せられる。それまで静観を続けていたタマヨリが矢をつがえて溜め息ひとつ、集中力を研ぎ澄ました。

「ごめんなさい」

 口の中でそう呟き、放った矢が寸分の狂いなく敵の胸を貫いた。だが——

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