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章 第十四「20120613fragment■///安房よりの来訪者」第一幕

 ご無沙汰しております。前回投稿から随分日数が経ってしまいました。

 本当は普通に更新していくつもりだったのですが、実は母が新型コロナウイルスに感染してしまいまして。その数日後妹も症状が出始めて、しばらくの間家の2階を隔離スペースとしておりました。私の部屋も2階なのでずっとPCに触れず、小説の投稿もできなかったと、そういう事情でした。

 幸い2人とも軽症(とは言え肺炎特有の苦しそうな咳をずっとしてます)、母は入院できたので2階のロックダウンも解除しました。


 アクセス解析を見てみますと、どうやら数名熱心に追ってくださっている方がいるようです。ありがたいことです。随分滞らせてしまったし、そのお詫びも兼ねて今回の更新から先は毎日1話ずつ投稿させて頂きます。この後は怒涛の展開( )なので一気に読んでいけた方が気持ちが良いかなと。

 引き続きお家で楽しめるものを、自分なりのペースで提供していきます。お付き合いのほど宜しお願いします。

挿絵(By みてみん)


 戦局の激化を受けて内閣より発令された緊急事態宣言によって、防衛庁の介入は一層強まった。山武市内の特定の区域に出されていた避難勧告は緊急の避難指示に引き上げられ、住民の疎開が急速に進みつつある。一週間以内に電気ガス水道のライフラインの機能を完全に停止できる見通しだと言う。人々がこれほどまでに協力的なのも、罔象という脅威が多くの人々が肌身で感じられるほど激烈に変貌したためだった。罔象はほぼ毎日出現しており、また一度に現れる数も以前と比較にならないほど多い。これについて稚雁は、此岸と彼岸を隔てていた膜の亀裂が今も尚拡大しつつあるためと説明する。

「本来持ち得なかった力を得た低級霊は、消滅を恐れて更なる力を欲する。彩雲という名に居場所を得た罔象はそれを確かなものとするために蛟を喰い破り、その力を我がものとした」

 洗練された槍捌きで敵を寄せつけないまま次々倒していく間、玻那華は稚雁の言葉を反芻した。

「罔象を食べる罔象っていうのは何であれ最悪の手合いよ。わたくしたちは生きるためにものを食べなければいけないけれど、生きていないものたちには必要ない。何かを食べるっていう行為は理由を必要とするの。分かるでしょう?つまり目的も持たず此岸と彼岸の狭間を漂っていた者たちが何らかの理由のために自発的な行為に及ぶ時、世界のバランスは大きく崩れることになる」

 彼岸の勢力の側で何が起きているのかについて、稚雁は様々な角度から何度も説明してくれた。だがそれでも、あの時玻那華が見た彩雲が本物かも知れないという可能性には一度も言及しなかった。相楽に諭されて素直に謝りはしたものの、それについて納得できた訳ではなかった。誰が何と言おうと、あれは彩雲だった……。彼女が生存している可能性を暗に否定される度に玻那華は心の中で強く反論した。この不毛な議論を終結させるには、囚われた彩雲を救い出して確かめるより他に方法がない。そのためには——

「蛟の霊障パターンはまだ出てる?遠くに逃げられたりしてない?」

〈半径二km圏内には確実にいるはずです〉

「もっと場所をしぼりこめないの?」

〈お許しを。今の技術では霊障の発生源をピンポイントで特定することまではできないんです。それに何しろ他の個体があまりにも多くて、それら一体一体がそれぞれ霊障を発しているせいでノイズが入り過ぎる。こいつらがもっと少なければ半径五〇〇m程度までになら絞れると思うんですが……〉

 トランシーバー越しの須崎が申し訳なさそうな声で応答する。

「そうなの?」

 薙ぎ払いで円を描いた後、玻那華は動きを止めた。杉の丸太から削り出した槍を打ちつけるだけでは、大抵の罔象にはほとんど傷ひとつ与えられない。急所を狙って串刺しにするのが最も確実だが、人質を無傷で解放することを考えると一体ずつ片をつけるしかなく、効率的とは言えない。だがそれでは、彩雲を乗せたみずのえ型罔象……神社本庁からの通達で「罔象姫ミヅハノメ」と呼称されることになった個体には辿り着けない。

 動きを止めたフドウを怪しむ様子もなく再び雑魚が迫り来る。ふっ、と息を吐いて集中する。

 我先にと味方を押し退けて進む敵の足許を垣根をくぐり抜けるように脱出、見事に出し抜くと押し合いへし合い堆く積まれ山のようになった罔象の群れを囲むように六本の槍を次々地面に突き立てた。不動尊の怒りが篭もった柱は漲る法力で燃え上がり、ある種の結界と呼べるものを形成した。

〈凄い……いつの間にこんな技を?〉

「どう?少しは片づいたでしょ」

〈北東へ三〇〇m、その方角に霊障が濃いです〉

「ちかちゃん、片貝県道の方だって。こっちに来られそう?」

 逃げ場を失った罔象たちが凄まじい金切り声を上げるのを尻目にトランシーバーで呼びかけるが、しかし返事がない。短期間で実際の戦闘にすっかり習熟した二人のカンナギは最近では別々に動くことも珍しくなくなっていた。とは言え、トランシーバーが使えないほど離れてはいないはずだ。自衛隊のサポートを受けている通信設備のせいではないだろう。

 トランシーバーのダイヤルやボタンをいじっていたことで、周囲への注意が薄れていた。

「そこまでやる必要ないでしょ」

 ナイフのように冷たい温度を湛えたその声はトランシーバー越しでなく、すぐそばで発せられていた。

「ちかちゃん……?」

 玻那華はたじろいだ。怒っていることが声色だけで分かった。

 罔象を封じ込めていた槍の内の一本をタマヨリが引き抜き投げ捨てた。出口ができたことでまだ動ける個体が当然そこへ押し寄せる。携えていた長弓さえ捨てて、両手を広げて敵を迎える。

「危ないよちかちゃん!」

 敵を前にして無防備なタマヨリはあっけなく倒されると玻那華は思った。だがそんな危惧とは裏腹に、凛と立つタマヨリに罔象たちは指一本触れようとしなかった。

「なんで?さっきまであんなに……どうして……?」

 罔象たちの騒々しい金切り声が止むと、理由が分かった。稚雁の口から祝詞が奏上されている。罔象の群れはそれに聞き入っているのだ。

 浜辺に程近い、静まりかえった街並みの中で玲瓏と響き渡る祝詞に慰められた罔象が一体、また一体と地面に倒れ込む。冷たい機械の身体から黒い怨念が抜けて塵になって消えていく。その光景を、玻那華はただただ呆然と眺めていた。

〈ちょっとあなたたち!戦場で武器を置くなんて何考えてるの?〉

 突然飛び込んできた甲高い怒鳴り声ではっと現実に引き戻される。その声を稚雁のトランシーバーも拾ったらしい。祝詞が中断されてしまった。

 歌が止んだことで罔象は再び立ち上がり、こちらの様子を伺っている。一瞬にして張り詰めた空気を肌に感じながら、玻那華は疑問に思った。自衛隊の秘匿回線に割り込んだ人物は一体誰?

 戦闘が再開されようとしている、そう察知した玻那華は周囲を見回した。結界を形成するために立てた槍に灯った浄火は吹き消えて内側に囚われていた罔象たちに倒されてしまった。スペアはない。状況が不利であることではタマヨリも大差なかった。この至近距離で長弓は使えないし、それにもし一度捨てた弓を再び手に取ったら、明確な意思表示になってしまう。

 二台の神騎が反撃の用意もできないまま立ちすくんでいる中で、睨みを利かせていた罔象の内の一体が頭に刺さった槍で倒れた。敵も味方も一斉にその投擲用の短い槍が放たれた方角を見る。逆光で目が眩む視界に、見慣れない大きな影が二つ、こちらを向いて立っている。罔象たちの敵意が、さーっと潮が引いていくように玻那華と稚雁から離れて未知の相手に向けられた。再びどこからともなく湧き出していた罔象たちが黒い波になって一斉に押し寄せていく。だが、そこで始まったのは一方的な殺戮だった。

 悠久の眠りから最初に目覚めた鹿島のミカヅチ、それに呼応した諏訪のミナカタら武芸に長けた神騎の戦いぶりを知らない玻那華にとって、突如現れた神騎の実力は桁外れに思えた。怒濤をせき止める大きな巌のごとく、押し寄せる罔象の勢いを削いでいく。時折背中合わせにして相手を庇いながら立ち回っていることから、厚い信頼関係で結ばれていることが離れて見ていても分かった。そこに他人が割り込む余地は一切なく、ついさっきまで稚雁が傷つけずに救おうとしていた彼らがむざむざと倒されていくのを玻那華はただ見ているしかなかった。

 全てが終わった後で、玻那華と稚雁が神騎から降り立つと相手も応じてくれたと見えてゆっくりとこちらに近づいて来る。二台の神騎の姿をようやく落ち着いて見ることができた。朱塗りのフドウや黒塗りに金の装飾が施された豪奢なタマヨリのような海っぺりの派手好みな神騎とは異なり、二台の装甲は使われた木材の色そのまま。テレビで見たミカヅチに似た印象を受ける。一方が男性的なシルエットをしているのに対してもう一方は女性的に見え、まとっている装甲も含めて形状に明確な差が見られる。

 目新しい神騎をまじまじ見つめていると、片膝を突いた状態で静止した騎体の背部それぞれから女の子が這い出した。巫女装束を現代風にアレンジしたスーツに身を包んだ二人は、自分よりもずっと大人びて見えた。高校生なのだろうか。ぴっちりした生地でところどころ身体のラインが強調されたデザインが中学生になったばかりの玻那華には際どく見えて、自分が着ている訳でもないのに恥ずかしくなった。

 妙な緊張の仕方をしている玻那華の横で、ふとどこからかエンジンを吹かせる音がしていることに稚雁は気づいた。音のする方を見ると、バイクにもたれかかった和泉が満足げな表情を浮かべて立っていた。

次回は9月3日(金)更新です

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