章 第七「20120502-0507fragment■///東金市街戦」第三幕
※本作はシナリオライター笠間裕之先生の小説『木造ロボ ミカヅチ』の二次創作です。こちらだけでも読むことができますが、両方合わせてより楽しく読めるよう工夫しました。ぜひ原作もチェックしてくださいませ※
https://ncode.syosetu.com/n4681ci/
笠間裕之先生公認 巨大ロボ×日本神話 異色のご当地ロボ小説 まさかのスピンオフ!!
中学生になったばかりの伊能彩雲はちょっぴり剣術が得意なふつうの女の子☆ ひょんなことから幼馴染のお寺に隠されていた木造のロボットが明るみに出てもう大変!>< え?鹿島に出現した未知の脅威が私の故郷にも迫ってるの?それを防げるのはこのロボットだけ?そーゆーことならやるしかないじゃん!行くよフドウ!! そんなこんなで純情乙女の一大バトルスペクタクル、始まっちゃいます!鳴濤山不動院長勝寺で私と握手!!
1週間に3話ずつ、月・水・金辺りで更新予定。既に完結していますので最後まで安心してお読み頂けます。
この作品は「n4681ci」の二次創作です。作者より許可を頂いています。
「うわっ……何がどうなってるの?これ……」
彩雲は辺りが見下ろせる山から状況を伺っていた。東金の市街地は既に戦場と化していた。和泉の読み通りにまっすぐ雄蛇ヶ池を目指して移動している罔象の群れは、その圧倒的な数で印旛沼からの通り道に当たる東金インターチェンジの機能を停止させた。渋滞した自動車の列の間で避難する人々の姿が動いている中へ、ぞろぞろと湧き出る罔象たちが自動車を蹴り飛ばしながら押し寄せる。
対する神社本庁が派遣した神騎は、わずか五台。彩雲がテレビで見たミカヅチとミナカタの姿はない。その二台以外にそれだけの数が稼働していること自体彩雲にとって新情報だが、しかし数にものを言わせた敵に対して戦況は優勢とは決して言いがたい。
「勢いで来ちゃったけど、どうしよ……」
自分も山を降りて戦うべきか、彩雲は決めかねた。フドウの状態が万全でないことはよく分かっている。だが全体を見渡していると、罔象たちの様子に違和感があった。
突然携帯電話が鳴った。神聖な場所で恥をかいたような気になりつつポケットから取り出す。知らない番号からだった。
「もしもし……?」
〈私よ、和泉。やっぱり来てくれたのね。信じてたわ〉
「いえ……あの!和泉さんは今どこに?」
〈前線に建てた櫓よ。そこから見えるかしら〉
確かにあった。アスファルトとコンクリートで固められた街並みに、大河ドラマでしか見たことのないような木造の、それこそ櫓としか形容できない代物がでんと構えている。敵の接近を防ぐために前方が先端を鋭く削りだした丸太の柵で囲われている。
〈早速だけど、ここに来た以上は私の指揮下に入ってもらう。あなたには〉
「ちょっと待ってください、その前に確認したいことがあって」
〈言ってご覧なさい〉
「確か、霞ヶ浦から来た罔象のボスみたいなのがいるんですよね?それって一体どこに?」
〈雑魚の背後にいるわ。蛟はカモフラージュが得意でね。姿を消しているけど、強力であるがゆえに霊威までは隠せない。それが検出できる限り、常に居場所はマークできる〉
「そうですか……なら平気かな」
〈何か不安でも?〉
「あの、今高台から見下ろしてるんですけどその様子を見てると全体的に思わせぶりって言うか……。ほんとはそっちに行く気がないけど相手の気を逸らすために味方を差し出してる、みたいな……。こういうのって何て言うんだっけ……フェイント?」
〈今の敵の攻撃が陽動作戦だって言いたいのね?〉
「そう!それです」
〈それはさすがに買いかぶり過ぎてると思う。奴らにそこまでの知能はない……。悪いけど、戦況は逼迫してるの。そこから西の方角に、避難の遅れた市民を庇いながら戦ってる子がいる。現在インターチェンジを越えて国道四六八号線を通過中。伊能さん、あなたはその子と交代して市民の避難を完遂させて。敵は無関係の市民に被害が出てもお構いなしよ。難しい任務だけど、深傷を負ってるフドウを最前線に出す訳にもいかないから。お願いできる?〉
「あ、はい!分かりました」
命令されるまま国道沿いの街路に降りると、彩雲を待っていたと思しき神騎が手を振った。中で操縦している少女の声が拡声器越しに響く。
〈神社本庁所属の神騎・ヒリトメ、その巫の小角里亜よ。あなたが伊能さんね?〉
フドウが拡声器を積んでいないことに気づいて叫ぶのをやめ、上半身全体で大きく頷いて彩雲は応えた。
〈あなたが避難誘導に専念してくれれば私は前線で敵の数を減らせるから。宜しく頼んだわよ!〉
フドウが再び大きく頷いたのを確認すると、ヒリトメと名乗った神騎は避難途中の人々を置いてその場を離れた。
市民の避難は細心の注意を要した。放置された自動車の隙間を縫うようにして生身の人間を歩かせなければならない。それもぐしゃぐしゃに潰されたガラスの破片が飛び散った路上を、負傷した人々を庇いながら。罔象どもは莫迦のひとつ覚えで神騎に向かって突進して来る。そうして、その機体の中にもまた市民が囚われているのだ。何ひとつ、疎かにすることはできない。
「さあ!みんな、救急車のサイレンが聞こえてきましたよ!あそこまで行けばもう安全です!」
大きな声を張り上げて困憊した二〇〇名あまりの市民を鼓舞する。それは自分自身へのエールでもあった。一方では蠅のようにまとわりつく罔象を払いのけ精確に首を斬り落とす剣となり、一方では明るい声を振りまいて人々を導く旗となる。そんな中でも、彩雲は考えを巡らせ続けていた。そうして戦い続ける内に、罔象の動きに対する違和感の正体に気づいた。
人々が封鎖網をくぐって次々に自衛隊のトラックに乗り込む。負傷者は救急車に乗せられた。避難所へ、または病院へ。それぞれ行くべき場所へ搬送されていった。彩雲は成し遂げたのだ。
一人も欠けることなく全員を救い出した後で、彩雲は再び戦場へ駆け出した。避難を完了させたら報告して次の命令を待つようにとの和泉の命令は後回しにした。
〈彩雲!あんた一体どこへ行く気だい?!〉
突然、トランシーバーが忍海の声を拾う。通話可能の範囲、封鎖網ぎりぎりの場所まで来ていたらしい。
「確かめなきゃなんないの!」
トランシーバー越しに怒鳴り合う忍海と彩雲に辟易しながらも、承一は封鎖網をかいくぐるためにUターンし、フドウに取りつけたGPSを頼りに再び車を走らせた。
「行ッッけぇぇええええッッッッ!!!!元陸上部の全速力ッッ!!」
封鎖したエリアには既に関係者以外誰もいない。見慣れた街を猛スピードで駆け抜ける。行きがけの駄賃で通りすがった怪異の首をぽんぽん刎ねながら、最前線へ跳び出し更に前に出る。
「和泉さん!避難完了させたよ!で、今最前線にいるんだけど敵のボスはどこ?!」
〈は?あなたいつの間にあの距離を……?でも丁度良かった、親玉の霊威が消失したの。突然よ。現状、居場所は不明〉
「そんな……」
〈あなたの意見をもっと真剣に検討すべきだった。まさか罔象ごときに出し抜かれるなんて〉
通話を繋いだまま携帯電話を置く。データに頼れない以上、勘を働かせるしかない。
「多分、水辺を好むっていう本来の性質は変わってないはずだから雄蛇ヶ池を捨てて新しく向かうとしたら……」
彩雲は再び走り出した。この近辺には他にときがね湖と八鶴湖がある。逃げ込むとしたらそのどちらか。罔象は曰くのある水辺を選んで移動していると言っていた。だとすれば八鶴湖の方だ。ときがね湖にはそんな話があると聞いたことがない。一方で八鶴湖には鷹狩りで訪れた徳川家康が気に入って大きな湖に変え、周囲に桜を植えさせたという逸話がある。それが罔象が逃げ込む理由になるのかは分からないが……
国道から外れた、商店街が立ち並ぶ狭い通りでがしゃんがしゃんと不可解な物音が響いている。立ち止まった彩雲が目を凝らしてじっと観察する、と。
「あっ!窓が割れた!ってことはほんとにそこにいるんだね。和泉さん!あたしの勘が当たったっぽい!姿は見えないけど……」
三鈷剣を取り出し両手で構え、虚空目がけて突進する。しかし、
「当たってない……よね?」
六〇〇mほど進んだ辺りで立ち止まった。何の手応えもないまま、フドウは窓ガラスが割れた辺りをとっくに通過していた。彩雲が不思議に思っていた次の瞬間、突然びっしり鱗に覆われた尻尾が現れたかと思うと、フドウへ目がけての薙払いが直撃、空中に投げ出され受け身を取る暇もないまま地面に激突した。
「痛ッたぁぁ……一体どうなってんの?」
体勢を立て直すが、敵の姿はやはりどこにもない。
「どうしよう、こんなんじゃ戦いようがないよ……」
〈そう……だとするとやはり……〉
音声のみで状況を把握しようと耳を澄ませていた和泉から気になる呟きが漏れる。
〈罔象という純粋に霊的な存在は、物質界に対して基本的に無力なのよ。それらが機械に取り憑き、人間を生命力の供給源として取り込むことでようやく彼らは物質界に影響を及ぼせるようになる。でも、今あなたの目の前にいるのは……〉
「機械の身体なんか持ってない……あれは生魚の尾ビレだった」
〈依り代も人間も必要とせずに物質界に干渉できるほど強大だということね。姿だけじゃなく霊気まで隠せるのもこれで納得だわ〉
「でもどうすんの?こっちが攻撃しても全部かわして、きっちり反撃してくるなんてそんなずるい相手……」
〈純粋に霊的な存在には、純粋な神通力しか通用しないはず〉
「何言ってんのかぜんぜん分かんないんだけど?そんなこと誰ができるの?」
〈気を錬り上げるんだ、彩雲〉
トランシーバーから忍海が割り込む。
「それってどういう……?」
〈そう、理解するには今のあんたではあまりに早過ぎる。フドウの脇侍にとっての奥義に直接関わるものだから、本当は追々学ばせるつもりだったのだが、こんなに早く必要になるとは……〉
ためらいながらも、忍海は訥々《とつとつ》と語った。彼女が言う「気」とは、深い瞑想の末に人間としての身体感覚を離れ、神経のレベルで神騎と一体化することで初めて可能となるトランス状態から生み出される霊的エネルギーを意味する。その境地に至ると、搭乗者は物質としての肉体を保ちながら霊的世界に直接干渉する力を持つことになる。その働きは融通無碍、悪しき力を滅ぼすことも浄化することも意のままになると云う。
〈尤も、そこまでの境地に辿り着いた脇侍はおよそ一〇〇年間運用されたフドウの歴史の中でもたった一人だけだったとされているが……〉
「ちなみにそれは誰なの?」
〈長月サネ様。フドウの最後の脇侍だったお方だ〉
一瞬の内に夢でサネに言われたことが思い出されて、彩雲の心にカッと火が爆ぜた。
「……とりあえずやってみるよ。その人にだけは負けらんないんだ、あたし」
剣を納め、フドウに片膝を突かせて座り込む。地面に当てた左手に全神経を集中させて霊気の乱れを探る。静まりかえってしまった商店街のどこかに罔象はまだ潜んでいるのか、それともずっと先に行ってしまったのか。まずはそこからだ。
静かに呼吸を整える。すると、東金という古い歴史を持つ街並みに元々立ち込めている霊気の流れを遮る地点があることに彩雲は気づいた。霊気を完全に隠し通しているがゆえにそれが却って不自然に感じられる。
そしてそれは、目と鼻の先だ。
「そこかァァアアッッッ!!!!」
深海魚のような迫力に満ちた歯並びがフドウに襲いかかる。山のように大きな罔象の前ではフドウはちっぽけだ。神の依り代を貪欲に呑み込もうとする巨大な口をひらりと避けて、エラの辺りに三鈷剣を突き立てる。恐ろしい悲鳴を上げながら蛟はもんどり打った。物質界で実体化した今なら剣での攻撃も効果がある。何があっても離さない覚悟で食らいつくが、次第に蛟の姿が薄まっていく。再び霊界に消えようとしている。
「させるかッッ!!」
ここで逃がしたら次はないという予感が彩雲を奮い立たせる。途端に、フドウの頭部から炎が噴き出した。兜のような装甲の下に覆われた本体から、漲る法力が炎を象って放出されたのだ。それは腕を伝って三鈷剣からもほとばしり、透明になりかけた蛟を再び物質界へと引き戻した。
浄火に身を灼かれながらも、蛟は坂を上り始めた。よたよたと覚束なくはあるが、その山のような巨体は確実に五〇〇m先の八鶴湖へ近づいている。
「だめだ、どうにかして止めなきゃ……」
フドウが放つ炎が水に入ると消えるかどうかは分からないが、水辺は蛟のテリトリーだ。一気に劣勢になるのは間違いない。
巨体によじ登り、エラに突き刺した三鈷剣をぎりぎりと動かす。左眼まで達すると、蛟の神経系に激痛が走ったと見えてがくりと首を落とした。それでも尚蛇のようにしなやかな身体は恐るべき執念で前へ前へと進んでいく。
「止まれええええッッ!!」
何とかその歩みを止めようと立ちはだかったまま、血が噴き出す左眼を通して容赦なく法力を注ぎ続ける。湖はすぐ目の前まで迫っていた。あともう少し、きっとあともう少しなんだと自身を励ましながら踏ん張る彩雲の身体から——
——不意に力が抜けた。
「え……?」
気づいたときには、フドウは虚空に放り出されていた。炎はしゅっ、と吹き消えて放心状態の彩雲を乗せたまま深い湖に沈んでいく。元々水中での使用を想定されていない神騎のコクピット内部ではすぐに浸水が始まった。このままではすぐに溺れる。そう悟った彩雲はフドウを泳がせて水面を目指した。その背後に深傷を負って激昂した蛟が接近していると気づかないまま……
やっとの思いで岸辺に辿り着いた彩雲は、這い上がりながらトランシーバーと携帯電話を心配する。胸の辺りまで浸水を許したせいで両方とも完全に故障していた。
「待って待って待って、まずいよこれは……」
もはや連絡を取る手段はない。落胆する彩雲は、突然水中に引き戻された。蛟がフドウの脚に噛みついたのだ。潰された蛟の左眼が湖を赤黒く濁らせる。遠のく意識の中で最後に見たのは、ぼんやり灯った毒を含んだ紫色の光だった。
こうして、蛟の反撃が始まった。
次回予告
誰が代償を贖えよう。誰が罪を償えよう。命を散らせた少女、その真実を知る者は僅か。巻き戻せない別れの後で、少女はあの日あの時の親友の真意を知る……
次回!木造ロボ フドウ「告別」
今こそ、全ての諸金剛に礼拝せよ
次回は7月23日(金)更新です




