章 第七「20120502-0507fragment■///東金市街戦」第二幕
※本作はシナリオライター笠間裕之先生の小説『木造ロボ ミカヅチ』の二次創作です。こちらだけでも読むことができますが、両方合わせてより楽しく読めるよう工夫しました。ぜひ原作もチェックしてくださいませ※
https://ncode.syosetu.com/n4681ci/
笠間裕之先生公認 巨大ロボ×日本神話 異色のご当地ロボ小説 まさかのスピンオフ!!
中学生になったばかりの伊能彩雲はちょっぴり剣術が得意なふつうの女の子☆ ひょんなことから幼馴染のお寺に隠されていた木造のロボットが明るみに出てもう大変!>< え?鹿島に出現した未知の脅威が私の故郷にも迫ってるの?それを防げるのはこのロボットだけ?そーゆーことならやるしかないじゃん!行くよフドウ!! そんなこんなで純情乙女の一大バトルスペクタクル、始まっちゃいます!鳴濤山不動院長勝寺で私と握手!!
1週間に3話ずつ、月・水・金辺りで更新予定。既に完結していますので最後まで安心してお読み頂けます。
この作品は「n4681ci」の二次創作です。作者より許可を頂いています。
翌週。ゴールデンウイーク明けの月曜日、午後一時半。昼下がりのまどろみに抵抗する気もない様子で、彩雲は授業中にも関わらず机に伏していた。
胸の奥では忍海の言葉がまだ疼いている。
不動明王の怒りは伝染する。それが先週の戦いで彩雲が学んだことだった。それは本来、現世で苦悩する衆生を力ずくで悟りへ導かんとする如来の慈悲の発露である。にも関わらず、フドウに乗っている間、仏の教えを一切知らないまま不動明王と一体化した彩雲の心は一時的に悟りへ至ったかのような全能感に支配されていた。その驕りが、戦い方にも表れた。自らの行いが怒りに身を任せているに過ぎないことに気づきもしないまま、結果として相手に与えたダメージよりも大きな損傷を受けていた。
(次はもっと、うまく戦わなきゃ)
そう思った矢先のことだった。突然、寝ぼけた頭に罔象の気配が割り込んできた。昨日ほどの苛烈さはないものの、明らかに距離は近くなっている。
(まさか……この前みたいなことが起きてるんじゃないでしょうね)
ここにいる限りは確かめる術がない。どうする?
一〇分ほど経って授業が終わっても彩雲は東金の、恐らくは雄蛇ヶ池の方角を向いたまま固まっていた。
「彩雲~?」
「どうしちゃったの?この子」
「分かんない、授業の時からずっとこんなんだったよ」
かちり、かちりと秒針が彩雲を急かす。次の授業の開始が刻一刻と迫る。彩雲は決意した。
授業開始のチャイムと共に二年錫組副担任の数学教師が入る。
「はいはい、席についてー。あら、伊能さんは今日はお休み?」
「さっきまでいたけど、急に走って出て行っちゃいましたー」
「そう……長月さんは?」
「あれっいつの間に?さっきまでいた……よね?」
「承さん!あいつが近くまで来てる!」
〈彩雲ちゃん?それは本当なのか?ってか学校はどうしたんだよ〉
「それどころじゃないでしょ!とりあえずフドウに乗るからシャッター開けといて!あと、このことししょーには言わないでよね」
〈おいおい落ち着けって、一体何が〉
事態を把握しきれていない承一の電話を一方的に切って、校庭を勢いに任せて自転車で飛び出す。この時間なら閉じているはずの校門は先回りした玻那華によって開けられていた。門の横に立った玻那華に礼も言わずに学校を出る。通り過ぎる間、彩雲は玻那華の姿を横目でぐるりと見回した。
顔の青白さと対照的な、ほんのり赤みの差した唇。無造作に掻き分けた長い前髪の下の長い睫毛の下に隠されたしっとり濡れた瞳には憂いを含んだ表情が浮かんでいた。クラスの何人が、この学校の何人がこの子の美しさに気づいているだろう?彼女自身が気づけていない、彩雲しか知らないこの事実に、他に誰が気づけるだろう。
「ほんとに鈍い子。鈍いくせに自分の気持ちに嘘ついて我慢しちゃって、常葉君のこともほんとは怒ってるくせにまだあたしの心配なんかしてる……」
全速力で駆け抜けながら玻那華のいじましさを思って、彩雲は一層決心を強く固めた。
「心配要らないよ、ハナ。あたしがあなたを、守ってみせるから」
彩雲に言われるまま石塚山の倉庫まで来てしまった承一は、彩雲が到着しても尚どうすべきか迷っていた。
「何でもいいからとにかく開けてよ!ししょーには後であたしから謝るからッ」
「そういう問題じゃないんだって、神社本庁が戦力を総動員して対処するレベルの相手なんだ。手負いのフドウで駆けつけたところで仕方がないだろ」
承一が固く握り締めたシャッターの鍵を力ずくで奪い取ろうと彩雲が迫る。スポーツ万能の彩雲も大の大人が高く掲げた腕からむしり取るのは容易ではない。ちゃらついた見かけによらずそれなりに厳しい修行に身を置いた経験のある若い僧侶の頑健な肉体は、彩雲が扱えるどんな技をかけてもびくともしない。
「それは分かってるけどさ、動けないわけじゃないんだからサポートくらいはできるじゃん!」
「俺は君が心配なんだよ、玻那華の唯一無二の親友の君が。どうしてそうまでして面倒ごとに首を突っ込みたがる?」
「それは……」
返事に窮する彩雲の前で承一が前触れもなく倒れた。その後ろには木刀を握った玻那華が立っていた。こっそり背後に近づいた玻那華が承一の頭を打って気絶させたらしかった。
「ハナ、あんた……」
普段の玻那華からは思いも寄らない大胆な行動にかなり引き気味の彩雲を差し置いて鍵を取ると、がらがらがらっとシャッターを開けた。
「早く。行って、あやちゃん」
「う、うん……」
承さんごめんね、と心の内で手を合わせつつフドウへ乗り込む。
フドウは待ちくたびれていたようだった。コクピットに滑り込んだ彩雲の身体に、不動明王の怒りが電流のように駆け巡る。と同時に二日前のトラウマがフラッシュバックした。あの時までは心地良いと思ったその激しい感情と衝動が、今はただただ恐ろしかった。
沸き上がる熱を冷静に抑えつつ、彩雲はゆっくり立ち上がった。
「承、承、いつまで寝てるんだい」
フドウの足音に気づいて駆けつけた忍海が、草むらで気絶したままの承一を揺り起こす。目の前の倉庫は空っぽだ。
「んあ、ばあちゃん」
「全く、向こう見ずな子だ。あの状態のフドウで何をしようと言うんだ……。あたしらも行くよ。あの子を止めなきゃならない」
「ああ、雄蛇ヶ池の方でしょ?運転しますよ」
立ち上がって土を払う承一が車を出すために一足早く山を下りる。それに続く忍海の横に、じりっと玻那華が迫る。
「何だい、あんたも行くのか」
黙って頷く玻那華。
「なぜ」
「なぜって……友達が心配なの。それで充分でしょ」
「いいや、充分じゃないね。今からあたしらが行くのは戦場なんだよ。そんな甘っちょろい理由じゃ、子供を連れては行けない」
「……わかった」
まんじりと立ちはだかる忍海に、玻那華は唾をごくりと呑んで自分の覚悟の程を伝えた。想像しただけで身を裂かれる思いがしたが、それを口に出すのはもっと辛かった。
「……もし、あやちゃんが戦えなくなったら、わたしが代わりにあれに乗る。わたしをあやちゃんの替え玉に使って。それなら文句ないでしょ」
「如来の依り代をあれ呼ばわりとはね……。まあ良い、気に入った」
歩き出した忍海がすぐに立ち止まって振り向く。
「ああ、それからもうひとつ。承一を気絶させたのは彩雲か?あんたか?」
「わ、わたし……です」
「承一はそのことを知ってるのかい」
「多分、気づいてない」
「……黙っておいてやる」
彩雲から遅れること五分あまり、三人は一路雄蛇ヶ池へと向かった。
次回は7月21日(水)更新です




