章 第六「20120501fragment■///彩雲の初陣」
※本作はシナリオライター笠間裕之先生の小説『木造ロボ ミカヅチ』の二次創作です。こちらだけでも読むことができますが、両方合わせてより楽しく読めるよう工夫しました。ぜひ原作もチェックしてくださいませ※
https://ncode.syosetu.com/n4681ci/
笠間裕之先生公認 巨大ロボ×日本神話 異色のご当地ロボ小説 まさかのスピンオフ!!
中学生になったばかりの伊能彩雲はちょっぴり剣術が得意なふつうの女の子☆ ひょんなことから幼馴染のお寺に隠されていた木造のロボットが明るみに出てもう大変!>< え?鹿島に出現した未知の脅威が私の故郷にも迫ってるの?それを防げるのはこのロボットだけ?そーゆーことならやるしかないじゃん!行くよフドウ!! そんなこんなで純情乙女の一大バトルスペクタクル、始まっちゃいます!鳴濤山不動院長勝寺で私と握手!!
1週間に3話ずつ、月・水・金辺りで更新予定。既に完結していますので最後まで安心してお読み頂けます。
この作品は「n4681ci」の二次創作です。作者より許可を頂いています。
正座したフドウの背後から滑り込んでコクピットに乗り込む瞬間、びりびりと静電気のような痺れが彩雲の全身を駆け巡った。フドウも事態を察知しているのだろう。何が起きているのか、自分に何ができるのか。一切が未知の恐怖に対して、気持ちは寧ろ昂っていた。
「よぉお——っし、やっちゃうよー、ほんとにやっちゃうよー、ちゃんと動いてよねー……」
キシキシキシキシ……という音と共に朱塗りの神騎が立ち上がる。自分の身体の延長線上にあるかのように、ごく自然に。初めて動かせた瞬間の感覚を、まだ忘れてはいない。無事に立ち上がって一安心すると、彩雲は続けて佐倉駅の方角へ向かうよう念じた。
カラカラカラッ……
内部で歯車が噛み合う小気味良い音を立てながら一足飛びに山を越え、町へ出た。先ほどの警報に従ってのことか、街中の人影はまばらだ。
「どうかフドウのことが噂になりませんように……」
クラスのみんなからアイドル視されるかも、という期待は彩雲の承認欲求をくすぐらないでもなかったが、本音を言えば陸上部のままでいたかった。退部は玻那華のためと思えばこそできた決断なのだ。それが何より大切。玻那華に危険が及ばないなら他には何も必要ない。
寂れた商店街を越え、線路を越え、山を切り崩して建てられたソーラーパネル群を跳び越えていく。およそ二五kmの道のりを二〇分余りで踏破して佐倉駅に辿り着いた。
「うっわー、派手にやらかしてる……」
身を隠すには小さ過ぎる電信柱に隠れながら様子を伺う。
駅のホームの壁が崩れている。崩れた壁の向こう側で何者かが暴れている。時たま見える黒い影は、今日の昼間クラスメイトの携帯電話で見たものによく似ている。どうやら一台だけではないらしい。
「うそ、まさかあんなのが何匹も?聞いてないんだけど」
〈それで隠れてるつもりかい。あんたは前に出て戦うんだよ〉
「でもどうやって……あッ!そー言えば武器とか持って来てない……!!」
〈あんたの腰からぶら下がってるものを何だと思ってるんだい〉
言われるまま腰回りを見てみると、後ろ側には確かに剣と思しき物が裸のまま吊り下がって鋼色の鈍い光を放っている。左側には金属製の鎖が几帳面に巻かれた状態でぶら下がっていた。
〈火界咒を唱えるんだ。それを唱えない限り、フドウは法具を取り出せないようになってる〉
「安全装置って感じか。火界咒ってのは……えーっと、あれだよね、あれあれ」
刀の柄を右手で握りながら、彩雲は思い出そうと試みた。火界咒と言えば、不動明王の真言のことだ。幼い頃から忍海に暗唱させられていたが、まさかこのためだったとは。最近は暗唱できるかわざわざテストされなくなったせいですっかり忘れていた。
〈まさかあんた〉
「覚えてる!ちゃんと覚えてるよ。えー……こほん」
思い出そうとしている内に、敵がこちらに気づいたようだった。引き剥がした線路を引き摺ってまっすぐこちらへ向かってくる。
「うわッ来たッ!!」
〈早く!〉
「えーっと確か……全ての諸金剛に礼拝する。気高き忿ぬゥッ?!」
槍のように飛んで来た物体からとっさに身をかわす。放り投げられた線路を避けるのに気を取られていると、すぐ目の前まで接近していた罔象が体当たりしてフドウをよろめかせ、前足の爪を食い込ませて組み伏せた。恐るべき獰猛さだ。大きく体勢を崩した彩雲は打ちつけた頭を庇いながら再度詠唱を試みる。
「全ての諸金剛に礼拝する!気高き忿怒尊よ、砕破せよ」
ガキャッ!!
神騎の内部で歯車の噛み合わせが変わったかのような異音が響く。唱えた瞬間、彩雲の頭にまでカッと血が上る。フドウの上に寄りかかって殴りかかる敵を払いのけて立ち上がる。安全装置を解除されたフドウは瞬く間に刀を振り抜き、敵の首を斬り落としていた。
〈右手に三鈷剣、左手に羂索。これがフドウの正式な装備だ。この威容を拝める日が来るとはなあ……〉
承一の声が少し涙ぐんでいる。トランシーバーの向こうで手を合わせて拝んでいる姿が透けて見えるようだ。
三鈷剣と呼ばれた両刃刀は全長二ⅿ一〇㎝、刃渡り一m五〇cmという信じられない大きさを誇る。羂索と呼ばれたのは一種の鞭で、長さは六m。両端には金属製の重りが巻き付けてある。
「これってもしかして……」
彩雲はこの両方に見覚えがあった。長勝寺の境内に安置されている不動明王の銅像が、この二つの法具を手にしている。特に三鈷剣の方は幼い頃から慣れ親しんだ風変わりな木刀と全く同じものだ。
「あたしたち、ほんとにこれに乗るために育てられたんだね……」
〈おいおい、ほっとするのはまだ早いぞ?敵は思わぬ反撃で怯んだだけなんだから〉
「分かってる。ちがうよ、しみじみ実感してたんだ。あたし、とうとうやったんだって!厄介な運命からハナを守れた!鬼ばばあの手から逃がしてやれたんだって!」
彩雲の屈託のない叫びにぎくりとした承一が恐る恐る横を見る。忍海は意外にもほほ笑んでいる。
「ばあちゃん……?」
「ああ、ああ、あの子はそういう子だ。護るために闘える子だ」
突如現れた神騎の早業に分が悪いと感じたのか、様子を伺っていた別の罔象たちが後ずさりしている。
「どうした、来ないの?そっちが来ないならこっちから行かせてもらうよ!」
漲る法力を以て暴れ回る不動明王の化身。力の差は歴然としていた。一台は既に逃げ出して、残るは一台。肉体を薄く削ぎ落としていくかのように鉄の装甲を剥がし、本体の黒い筋組織が剥き出しになる。
「これでとどめ!」
敵の背後から組みかかり、逆手に持った剣で軟らかな腹部にじりじりと刃を滑らせる。
〈彩雲ちゃん!それ以上はだめだ!〉
「え……?」
負傷によって露わになった怪物の内部に囚われた人間の姿が、彩雲の視点からは見えていなかった。承一の制止の理由を理解しきれなかった彩雲の隙を突いてするりと抜け出す罔象。
「待ちなさいよ」
往生際の悪い相手に忿怒尊が迫る。
その時だった。四足で逃げ出した罔象がくるりと振り向いて、剣を構えて突進するフドウ目がけて人間を吐き出した。生気を抜かれて青白くなった中年男性の姿に、フドウの内部から年齢相応の甲高い悲鳴が上がる。
剣の刃先はまっすぐ男性に向けられていた。
ヒトって刺されたら死ぬんだっけ。何リットル出血したら助からなくなる?あんなに青白い顔をしてて、まだ生きてるのかな。もしかしてもう死んでるんじゃない?この剣があの人を傷つけても、あたしのせいじゃない——
——そう、あたしのせいじゃない……
あたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのせいじゃないあたしのあたしのあたしのあたしのあたしのあたしのあたしのあたしのあたしのあたしの
あたしのせいだ——
「止まれぇええええッッッツツツツ!!!!!!!!」
彩雲が念じるよりも先に、フドウは剣を投げ捨ててスライディングの体勢に入り、その大きな慈悲深い両手で男性を掬い上げた。全てはアスファルトに激突する直前の一瞬のできことだった。
男性が無事であると知って人心地ついた時には、卑怯な罔象の姿は既になかった。
佐倉駅前で正座させたフドウを前にして、承一は頭を抱えていた。
「うーん……こいつぁ、俺の手には負えねえなあ」
「そんなことは百も承知だよ」
元より保守点検しかしたことのない承一は、アスファルトの上を滑ってずたずたになったフドウの腕と腹部を見て一目見るなり根を上げた。
「ばあちゃん、野暮なこと聞くけどぶっちゃけ修理費用とか大丈夫?神騎って腕の良い宮大工にしか直せないんでしょ?」
「本当に野暮な男になったねえ。ツテならあるから心配には及ばないよ。それに、いくらかかろうが今は良いだろう」
祖母の視線の先を追う。パトカーや消防車が詰め寄せた路上で一人、衰弱した男性を乗せた救急車を見送る彩雲の姿があった。
「フドウは間違いなく今日、一人の命を救った。それで充分元は取れてる」
「へい、ごもっともで」
次回予告
少女の初陣は、華々しい成果を残した一方でその心に暗い影を落とした。それは長い苦難の始まり。少女は手負いの神騎に乗り込み、休む間もなく更なる混戦に身を投じる。敵を倒せ、自分を守れ、他人を救え。その三つ全てがいつでも叶うとは限らない。残酷な選択の時は間近……
次回!木造ロボ フドウ「東金市街戦」
今こそ、全ての諸金剛に礼拝せよ
次回は7月16日更新です




