前世の告白
ここは学園長室。
勇者の試練の間から無事に脱出したわたし達は、学園長達に事の経緯を説明することになった。
学園長室の右のソファーには、わたしとメイ様、左のソファーにはゼノン、アリアそしてお兄様、中央のソファーには学園長、イングランド先生、ゲルマン先生が腰かける。
既に試練の間に魔王と化したカトレアが現れて、魔人化したゼノンそしてアリアを救出したことは説明してある。
そしてその際に、メイ様が勇者として覚醒したことも。
魔王の復活という重大な事実に、学園長室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
そしてその重苦しい空気を破るように、学園長が声を絞り出した。
「なるほど、メイ君が聖剣に認められて勇者として覚醒したことは喜ばしい。しかし、まさか魔王が既に覚醒しているとはな。しかもまさか魔王が学園の生徒だったとは・・・・」
「カトレアは、どうやらかなり前から魔王として覚醒を果たしていたようです。わたしとアリアはいつの間にか彼女に心を支配されておりました。」
学園長の言葉にゼノンは答える。
「でも、まさかカトレア様が魔王だったなんて・・・。仲のいいお友達と思っていたのに、わたしは未だに信じられません」
対してアリアは苦しそうに声を絞り出した。
カトレアとアリアは仲が良かった。
たとえそれがカトレアが作りあげたものであったとしても、すぐに受け入れることは困難であろう。
アリアはその事実に酷く心を痛めているようだ。
「ミルロ、教えて下さい。カトレア様は未来の記憶を持っていると言っていました。そしてミルロ、貴女にもその記憶があると。あれはいったいどういう意味でしょうか?」
メイ様の言葉に対して、わたしは考える。
わたしはメイ様、家族を含めて前世のことを誰にも話したことはなかった。
わたしは前世の記憶がよみがえるまでは孤児であった。
その為、友人や家族等は居らずずっと1人だった。
もし、前世の記憶を呼び覚ます前から付き合っている家族や友人が居たら、わたしは前世のことを話す必要があっただろう。
それは、前世の記憶は確実にミルロの人格に影響を与えたからだ。
今のわたしはミルロであってミルロではない。
前世の記憶は以前の人格に大きな影響を与え、もはや別の人間になってしまっている。
そうなれば今まで付き合っている人達の困惑を避けるためにも、話さないわけにはいかないだろう。
しかし、わたしが出会った人達は前世の記憶が蘇った後に出会った人達ばかりだ。
メイ様や大切な家族、そして友人達に出会う前から、わたしは麗華の記憶を持ったミルロだったのだ。
その為、わざわざ別の記憶が混じっている事など、言う必要がなかった。
一方、『マナアース』のことは意図的に話すのを避けてきた。
それは『マナアース』の知識は、必ずしも確定された未来ではない。
現に今でもシナリオと全く違う方向に話は進んでいる。
人の人生はほんの些細な出会いやきっかけで変化する。
メイ様はわたしに出会って変わったし、ジークもメイ様との出会いで変わった。
だからわたしが持つゲームの知識を伝えて、誰かに悪い影響を与えたくなかったのだ。
また、わたしの行動1つ1つがゲームの知識に基づくものだと思われたくなかった。
たしかにメイ様との出会いの際に、ゲームの知識を活用して帝国に拉致されないように気をつけようとは思っていた。
しかし、ゼノンとのトラウマを克服させて引きこもりを止めさせたのは、メイ様を救いたいと思うほどに交流を深めることができたからだ。
その時のわたしはメイ様を慕っていた。
もし、メイ様がゲームのシナリオのように卑屈でヒステリックな王女だったら、もっと距離を置き性格までも矯正しようとは思わなかっただろう。
これはわたしの人生であり、好き勝手に生きていく。
だから、わたしはゲームの知識のことを誰にも話したくなかったのだ。
しかし、どうやらカトレアはわたしと同じように、『マナアース』のことを知っているようだった。そして彼女はそのことを未来と呼んでいた。
恐らく彼女はマナアースとしてのシナリオを経験したのであろう。
この世界では、マナアースのシナリオは実際に起こった現実だったのだ。
そしてカトレアは時間を逆行して、この世界に復讐しようと画策している。
カトレアのことを説明する為にも、わたしは前世のことそして『マナアース』のことを告白することは必要であった。
わたしは意を決して、前世のことそして『マナアース』のことを伝えた。
「実はわたしには前世の記憶があります。前世で住んでいた世界はこことは違う世界で文化も文明レベルも全く違った世界でした。そしてその世界では、この世界のことが物語として語られていたのです。」
わたしは前世のことは最小限に、そして『マナアース』というゲームの名前は避けて、物語という形で説明した。
わたしの言葉に全員が驚いた顔を浮かべて、一斉に息を飲んだ。
「その物語に語られていたことが、カトレア様が言っていた未来のことなのね?」
メイ様はわたしの言葉に質問する。
その言葉にわたしは頷いた。
それから、詳しい説明を始める。
その物語ではゼノンとアリアに断罪されて、カトレアがこの学園から追放され、結果王国からも追放されてしまうこと。
カトレアの取り巻きとして、マール、カリン、そしてわたしも同様に追放されてしまうこと。
そして、カトレアは追放された恨みから魔王として覚醒するが、勇者として覚醒したゼノン、そして聖女として認められたアリアによって討伐されてしまうことを。
なお、帝国戦争編については、言及を避けた。
なぜなら、帝国が戦争を仕掛けてくるのはまだわからないからだ。
変に知識を与えて、帝国に対して嫌な印象を与えてしまったら余計に戦争が起こる可能性が上がってしまう。
それに、第2王子とのジークとは既に和解している。
今後、戦争を起こさない為にも、わたしはあえて戦争についての言及は避けた。
「にわかには信じられないが、ミルロがいっているのだからそうなんだろうな」
わたしの言葉を聞いたお兄様は複雑な表情を浮かべる。
「まさか、そこでは俺が勇者だったとはな。それにアリアが聖女になるのか。今の現実とかなり異なっているんだな・・・」
ゼノンも複雑な表情を浮かべる。
「ねえ?ミルロ。さっきの話だとわたしは出てこないのですが、わたしはどうなるんですか?」
わたしの話を聞いたメイ様は、自分が出てこなかったことにそわそわした仕草をすると、わたしに尋ねた。
あーやっぱり聞くのね。わたしは心の中で溜息をつく。
メイ様の未来の話はかなりひどい物だ。だから言及は避けたのだ。
しかし、聞かれたからには仕方ない。
わたしはメイ様に正直に伝えた。
「メイ様は引き籠りをこじらせて今とは比べられないくらい我儘に成長されます。そしてゼノン様に毒を盛ったことで断罪され、処刑されてしまうのです・・・。」
「・・・」
その言葉にメイ様は言葉を失った。
周りも気の毒そうにメイ様を見る。
「メイ、少なくとも今のお前は立派な勇者だ。気にすることはない」
そんなメイ様の様子を見たゼノンは、ポンと肩を叩いてメイ様を励ました。
「お・おにいさま・・・なんだか申し訳ございません。ありがとうございます。」
その言葉に、メイ様は複雑な表情でお礼を返す。
「ふーむ。それでカトレア君は、それを未来として経験したということなのかな?」
わたし達が話をしていると、学園長が話に入ってきた。そしてわたしに尋ねる。
「はい、カトレアは未来の復讐と言っていました。彼女はわたしが知っている物語の話を現実で経験して、時間を逆行してその記憶を持ってるみたいなのです。」
「時間を逆行する?そんなことが可能なのか?」
わたしが答えると、ゲルマン先生が驚いた顔で尋ねた。
「うーむ。恐らくそれも魔王の力なのだろうな。」
それに対して、学園長が難しい表情で言葉を返す。
わたし達が魔王について話をしていると、突然学園長の部屋にノックの音が響き渡った。
そしてドアが開き、学園の先生らしき人が入ってくる。
「どうしたんだ?フランソワ先生。今は大事な会議中だ。すまないが急ぎではないのなら、後にしてくれないか?」
入ってきた人を学園長はフランソワ先生と呼ぶと、すこし苛立ちを浮かべ後にするように促した。
しかし、フランソワ先生は焦った表情を浮かべると言葉を続けた。
「すいません。学園長大変なんです。突然、黒い太陽が現れたんです。空を見て下さい!」
「黒い太陽?いったいどういうこと?」
わたし達はフランソワ先生の言葉に驚き、顔を見合わせるのであった。
ラストまで残り5話です。
最後まで引き続き宜しくお願い致します。




