魔勇者ゼノン
魔勇者ゼノンに攻撃を加えるものの、わたしはなかなかダメージを与えられずにいた。
癒しの魔法をエンチャントすることによって、相手を守る闇のオーラは破ることができる。
しかし、氷の魔法よりも癒しの魔法のエンチャントのほうが攻撃力が少ない。
結果、相手の闇のオーラは破ることができるが、鋼鉄のような体を貫くことができずにいた。
すると、わたしとゼノンが対峙する間に割り込むように、メイ様の声が響き渡る。
「覇王斬!」
メイ様を飛び上がると、回転を加えて横なぎに剣を振りぬいた。
その手には、白く神々しい光を帯びた聖剣が握られる。
聖剣の力と雷の魔力を纏うメイ様の斬撃は、ゼノンの鋼鉄のような体をバターのように切り裂いた。
その勢いは激しく、剣を受けたゼノンはうめき声を上げながら倒れ込む。
「ミルロ、お待たせしました」
メイ様はわたしの傍に着地すると、わたしに声をかけゼノンに向けて聖剣を構えた。
「メイ様、聖剣に認められたんですね!」
「ええ、これでわたしは勇者だわ。ミルロ時間稼ぎありがとう。今からわたしも一緒に戦うわ。お兄様を止めましょう」
その言葉に、わたしは頷く。
するとガラガラと音が鳴り響くと、ゼノンはすぐに立ち上がった。
「ぐるあああああああ」
攻撃を受けたことで怒りの雄たけびをあげると、再び剣を振り下ろす。
メイ様の攻撃を受けた左肩には、ざっくりと剣戟の跡が刻まれていた。
ゼノンは魔勇者になってからは、雄たけびをあげるだけで会話すらできていない。
どうやら強力な闇の力を吸収したことで、その力に飲み込まれ自我を失っているようだ。
まるで意思のない獣のように、唸り声をあげながら襲いかかってくる。
しかし、その行動は単調だ。
剣術はただ剣を振り回せばいいというものではない。
状況に合わせて選択する型、相手の動きを見切る知能、そして緻密に計算された動き
それらがないと剣術として成り立たないのだ。
そしてそれは、意識を失っている状態では決してできるものではなかった。
結果、今のゼノンは強力な肉体を手に入れたことによりパワー、防御、スピードは大幅に上がっているものの、ただ力任せに攻撃する魔物にすぎない。
攻撃を躱す等、簡単だった。
わたしとメイ様は簡単に攻撃を躱す。
そしてメイ様は再びゼノンを聖剣で切りつけた。
同時にわたしは氷のエンチャントを施した矢を放つ。
狙いはメイ様が剣で切りつけた箇所だ。
聖剣により闇のオーラが剥がされている為、自身の癒しの魔法をエンチャントする必要が無い。
その為、攻撃力が高く貫通することで凍りつかせて動きを止める氷のエンチャントに切り替えたのだ。
「ブリザード・アロー!」
氷の矢はゼノンの傷口を貫くと、内部から凍りつかせた。
メイ様はヒットアンドアウェイで、ゼノンの攻撃を躱しながら次々と剣で攻撃を加えていく。
そしてその傷をわたしが氷の矢で居抜き、内部から凍りつかせる。
何度かその連携を繰り返すうちに、遂に氷の魔法が体の芯に達し、ゼノンはその動きを完全に止めた。
「ミルロいくわよ!」
「はい、メイ様!」
メイ様の言葉に合わせて、わたしは弓から剣に切り替え、氷の剣を手に持った。
そして動きを止めたゼノンの元に、同時に駆ける。
雷の魔力を纏うメイ様の体は金色に輝き、一方氷の魔力を纏うわたしの体は銀色に輝きを放つ。
そして金と銀の魔力が交差するように、同時に剣で切りつけた。
「ツヴァイウイング!」
メイ様は右斜め下に、わたしは左斜め下に。
アルファベットのXの文字を型どる斬撃は、ゼノンの鋼鉄の体をバターのように切り裂いた。
斬られたゼノンは断末魔を上げるとそのまま地面に倒れ込むのであった。
◇◇◇◇
「カトレア、貴様はアリアを苛めて殺そうとした。その罪は重い。この学園を追放すると共にお前との婚約を破棄する。二度と俺の前に姿を現すな!」
俺は怒りに任せてカトレアを怒鳴りつけた。そして俺の胸には涙を流すアリアが顔を埋める。
なんだ?これは夢か?
俺はカトレアを愛している。
彼女にそんなことを言うわけがない。
俺の頭に、カトレアを怒鳴る記憶が雪崩れ込んでくる。
なんだ!?俺はどうしてあんなことをしている?
俺は自分自身に問いかける、だが答えは見つからなかった。
すると、突然の俺の目の前に女の子が現れた。
その姿は見覚えがあった。
彼女は俺の妹の従者であり、親友アーサーの妹でもあるミルロであった。
そしてミルロは俺に語り掛ける。
「これは、こことは違う世界で起こった未来、貴方とアリアは愛し合っていました。
そして、貴方は婚約者であるカトレアを断罪しました。」
「嘘だ!なぜそんな嘘をつく。」
俺は彼女を怒鳴りつける。しかし、彼女は悲しそうな顔をして小さく横に首を振る。
「嘘ではありません。これは違う世界で起こった未来です。
ただこの世界と同じことが1つだけある。ゼノン貴方はカトレアを愛していない、本当に貴女が愛しているのは、さっきの世界と同じようにアリアではないのですか?」
「なに?」
彼女の言葉に俺は訝しむ。彼女はさらに話を続けた。
「今、わたしは貴方の心の中に語り掛けております。そして貴方の心の中に入って気づいた。
貴方はカトレアに操られていました。カトレアが持つ闇の魔力によって・・・。
貴方はカトレアを愛した理由や時期を覚えていないのではないですか?」
闇の魔力・・・?
俺はその言葉を反芻する。
そういえば、俺はいつカトレアを愛したのか?
俺がカトレアに出会ったのは魔法学園に入った時だった。
ん?待てよ・・・そうだったか?
あれ?俺がカトレアにいつ初めて出会ったのか覚えていない。
そして、なぜ彼女のことが好きになったのかも覚えていない。
「嘘だー!!」
俺は大声で叫ぶ。
すると、ミルロは俺の頭に手をかざすと魔法を唱えた。
「貴方がかかった魔法を解きます。ヒール!」
ミルロはそう言うと、俺に魔法を唱えた。
すると、今まで靄のかかった記憶が思い起こされる。
そうだ!
俺はアリアを愛していたんだ。
魔法学園でアリアと冒険をしていると、突然彼女がやってきたんだ。
そう俺が愛していた、いや愛していたと思っていたカトレアが・・・。
そしてカトレアの目を見た俺は、意識が遠のきアリアではなくカトレアを愛しているように錯覚していたのだ。
俺は今まで、カトレアに操られていた・・・。
「そうだ!全て思い出した!」
俺が叫ぶと、ミルロは嬉しそうに笑顔を見せた。
すると、突然まばゆい光が包み込み、俺の意識が元の世界へと引き戻されるのであった。
◇◇◇◇
わたしは倒れた魔勇者ゼノンに、アリエスに行ったように魔人の血を抜き取った。
しかし、それだけではゼノンは目を覚ますことはなかった。
そこで、わたしは魔力を使い自分の意識を、彼の心の中に流し込み彼に語り掛けたのだ。
そして、全てを思い出したゼノンは目を覚ました。
「お兄様!」
メイ様は、ゼノンが目を覚ますと涙を見せてその胸に飛び込んだ。
「メイ!?いったいどうして君がここに?それにここはいったい。」
ゼノンは突然、メイ様に抱き着かれ目を白黒させる。
そんな、ゼノンにわたしは話しかけた。
「ゼノン様、貴方はカトレアに操られていたのです?覚えておりませんか?」
ゼノンはわたしの言葉にハッとした顔をする。
そして暫く考えた後、言葉を発した。
「そうだ!俺は今までカトレアに操られていたんだ。意識が遠のいて・・・。
メイ、ミルロ、君たちには迷惑かけたな。助けてくれて本当にありがとう」
そんなゼノンの言葉を受けたメイ様は、ぎゅっとゼノンを抱きしめる。
対するゼノンもメイ様を強く抱きしめかえした。
わたしは二人のそんな様子を笑顔で見つめた。
抱き合う二人には、以前のようなわだかまりはなかった。
ゼノン討伐完了!
あとは魔王のみです。
ラストまで残り6話




