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魔王カトレア

「はあはあはあ」

荒い息を吐きながら、わたしは地面に膝をつく。

その体はなんとか致命傷を避けているものの、何度も切りつけられて血だらけの傷だらけであった。


魔人ゼノグレードは、なんとお兄様であった。

だがお兄様は、わたしのことを敵とみなして躊躇することなく攻撃を加えてくる。

わたしが何度呼び掛けても、その言葉は届かなかった。


お兄様の剣は、魔人化している影響なのか模擬戦の時よりも鋭くそして速い。

そして、エンチャントで強化したわたしのスピードにも対応してくる。


スピードは互角、パワーはお兄様の方が上。

さらに相手は闇のオーラに守られており、こちらの攻撃は通じない。

次第に戦況は押されていき、わたしは敗北寸前であった。


膝をつくわたしに対して、お兄様はジリジリとわたしの方へと迫る。

それに対して、わたしは何とか立ち上がると再び剣を構えた。


わたしは負けるわけにはいかない。

お兄様を助け出すんだ!

その決意を胸に、わたしはなんとか立ち上がった。


「貴女もしつこいわね。でもそろそろ終わりのようね。さあ、勇者のなりそこないに止めを刺しなさい」

フードの女の言葉を受けて、お兄様はわたしに剣を振り下ろした。


◇◇◇◇

わたしは目の前に、傷だらけで荒い息を吐くメイ様、そしてそれに剣を突き立てる魔人化したゼノンを捉えた。

やはりゼノンは魔人化している。

そしてメイ様のピンチだ。


わたしは立ち止まり、青龍の弓を構えるとゼノンに向けて氷の矢を放った。

矢には、アリエスの闇のオーラを破った癒しのエンチャントを施す。


「ヒーリング・シュート!」

矢は一寸の狂いもなく、まっすぐに進む。

そして剣を振り上げた手とは逆の左肩に命中し、その勢いでゼノンを遠くに弾き飛ばした。


「メイ様!」

ゼノンと弾き飛ばしたわたしは、慌ててメイ様に駆け寄る。


「ミルロ、来てくれたのね。」

駆け寄るわたしをメイ様は、嬉しそうに声をあげる。


メイ様は傷だらけのボロボロだった。

その姿を見たわたしは、胸が痛んだ。

しかし、なんとか間に合ったという事実にホッと胸をなでおろす。


「メイ様、遅くなって申し訳ございません。アイス・ヒール」

そしてすぐにわたしは、メイ様に回復魔法をかけた。

わたしの手から銀色の光があふれて、メイ様を包み込むと一瞬でメイ様の体を癒した。


「馬鹿な!ミルロ、貴女はアリエスが足止めしていた筈でしょ!アリエスはどうしたの?」

わたしが現れたことに、前に立つフードの女は驚きの声を上げるとわたしに質問を投げかけた。


「アリエスはわたしが倒しました。そしてアリアは元に戻り無事です。カトレアいや魔王、どうしてこんなことをするのですか?

貴女はゼノン様の婚約者であり今は理想的な世界の筈です。魔王としてこの世界を壊す必要はないはずです」


わたしはカトレアの言葉に応えた。

そして、カトレアに問いかけえる。


わたしにはカトレアの目的が分からなかった。

カトレアは、ゼノンそしてアリアへの怒りで魔王の力に覚醒した筈だ。

だが、この世界のカトレアはゼノンやアリアから何もされていない。

いや今はむしろ、カトレアにとって理想的な世界のはずだ。

婚約者のゼノンとは仲が良く、二人は愛し合っているとお兄様から聞いている。

そしてアリアとも仲が良く、婚約を邪魔されることもない。

それにも係わらず、どうしてカトレアは魔王として覚醒しているのか。そしてどうして、その幸せを自ら壊そうとするのか。

わたしには理解できなかった。


その言葉に対して、フードの女は忌々し気に声を荒げる。

そして声と同時に、身に纏うフードを取り払った。

フードの女は、予想通りカトレアであった。

声を上げながら、忌々し気にわたしを睨みつける。


「ミルロ。やはり、貴女もわたしと同じく未来の記憶があるのね?なら、どうして邪魔をするの?

ゼノンとアリアがわたし達に未来で何をしたのか、忘れたわけではないでしょ?」


未来どういうこと・・・!?

どうやら、カトレアは未来の記憶があるらしい。

ということは、カトレアは学園からの追放、帝国戦争編、そして魔王編でのゼノン達への敗北。

カトレアはそれら全ての記憶を持っているということなのであろう。


「カトレア貴女は未来の記憶があるということですか?だから、ゼノンやアリアに復讐するというのですか?」

さらにわたしは、カトレアに質問を投げかけた。


「そうよ、わたしの目的は復讐よ。

わたしは婚約者を奪ったアリア、そしてわたしを断罪したゼノンを許すことができない。

いや、あいつらだけじゃないわ。

わたしを追放した学園とウィシュタリア王国、いやわたしの存在を拒んだこの世界自身を許すことができないの。

ミルロどうやら貴女にもわたしと同じく未来の記憶があるようね。

なら、わたしの元に来なさい。そして共に復讐しましょう。

貴女も未来に、この世界で酷い目に合ったはずよ? 」


その言葉を受けて、わたしは考える。

前世のわたしは『マナアース』のゲームをクリアして満足した。

そして、幸せになったゼノンとアリアを見て、生きる勇気を貰った。

彼らのように、どんな困難でも諦めないので立ち向かって行こう、そして乗り越えていこう。

わたしはそう決意して、手術に臨んだのだ。

結果は失敗だったが今はこうしてミルロとして生きている。

後悔はなかった。


しかし、カトレアはどう思っていたのだろうか?

思えば、悪役であるカトレアの視点で物語を考えたことはなかった。



カトレアは、ゼノンの婚約者だった。

しかしそれはカトレアの実家であるジーエルン公爵家の力による政略的な結婚で、ゼノンが望むものではなかった。

しかし当時のカトレアは政略結婚であるにも係わらず、ゼノンを慕い愛していた。

だが、ゼノンはカトレアを愛しておらず興味すらなかった。

婚約者であるにも係わらず二人の溝は深かった。


それから魔法学園で、ゼノンはアリアに恋をする。

それに対してカトレアは必死に抵抗したが、ゼノンは最終的にアリアを選んだ。

そしてアリアを虐めた罪でカトレアを断罪して、学園そして王国から追放してゼノンとアリアは結ばれるのだ。


カトレアはアリアを虐めて虐めて虐めぬいた。

ゲームをプレイしていた当時のわたしは、そのカトレアの所業に憤慨したものだ。

そして追放されたカトレアに対して、「ざまあみろ」 それしか印象はなかった。

だが、現実に直面してその罪は重すぎるのではないか?

そう、学園追放の罪は重いのだ。

貴族の特権を奪われ、魔法の一切の使用を禁じられる。

その処分を受ければ、その学生の未来は閉ざされる。

カトレアそしてわたしを含めた取り巻き達は、その未来を閉ざされたのだ。


以前、入学式でミアさんを襲ったジークの取り巻き達、そしてメイ様を危険に陥れ魔人バルデスを復活したジーク、わたし達は彼らを許した。

悪事を働いたといっても、彼らはまだ学生だ。

改心してやり直すチャンスは、いくらでもあるのだ。

ミアさんの受け売りではあるが、わたしとメイ様はその考えに従い彼らを許した。


ゼノンは物語の主人公であり、立派な人物であると思い込んでいた。

しかし彼は仮にも婚約者であったカトレアに、何故これ程重たい罪を着せて断罪したのであろうか。

やり直すチャンスを与えてあげようとは思わなかったのであろうか。

確かにカトレアの罪に対して、与えられる罰は大きかったと思う。

しかし、まだこれはこの世界では起こっていない未来の話だ。

そして今の状況では、決してそのような未来にはなりえない。

今の世界は、ゲームの世界とは大きく異なっているのだから・・・。


わたしはこの世界が大好きだ。

メイ様、カリン、お父様、お母様、お兄様、そして同じ学園の仲間達。

わたしはこの世界で生きていきたい。

皆で幸せを共有したい、ずっと一緒に居たいのだ。


カトレアの気持ちはわかる。

だけど彼女がこの世界を壊そうとする以上、わたしはカトレアを止めなければならない。

わたしに与えられた魔法の力を使い、勇者であるメイ様と共にこの世界を救うんだ。


わたしは決断した。

そして、カトレアに対してわたしの思いをぶつける。


「たしかに未来で貴女は酷い目にあったかもしれない。貴女の気持ちはわかります。

しかし、この世界を壊すのを許すわけにはいかない。

悪役令嬢の取巻きCとして、貴女の計画を止めます。」


わたしはそう言うと、弓をカトレアに向けて構える。


こうしてわたしは、本来の主であるカトレアと決別した。

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