魔人アリエス②
「ブリザード・アロー」
氷の矢を無数に放つ。
しかし、魔人アリエスが纏う闇のオーラに阻まれてダメージを与えることができない。
わたしはアリエスに苦戦していた。
アリエスはバルデスのように強力な剣戟もなければ動きもそんなに速くない。
さらに攻撃方法も頭の蛇を飛ばす攻撃だけで、距離を取っていれば当たることも無い。
ただ、目を見たら石化するのが厄介だ。
わたしは目を瞑り、魔力探知で相手の動きを捉えながら攻撃を続けていた。
しかし、アリエスの纏う闇のオーラには付け入る隙がなかった。
その為、闇のオーラを剥がす手段がない以上、攻撃をしても怯ませるだけで、ダメージはない。
戦況はジリ貧で、わたしの敗北は濃厚であった。
「忌々しい奴ね。貴女の攻撃はわたしには通じないわよ。さっさと諦めなさい!」
攻撃を受けたアリエスは忌々しげに声をあげると、頭の蛇を伸ばしてわたしに攻撃をしかけた。
しかしその攻撃方法は既に見切っている。
わたしは簡単に躱して、再び弓を放つために距離を取った。
このままでは勝てないわ。
わたしは距離をとりながら、必死に思考を巡らす。
闇のオーラは、聖剣の力がないと打ち破ることはできない。
そして闇のオーラを纏っている限りは、魔人は無敵で攻撃を加える手段がないのだ・・・。
本当にそうなの?打開策は本当にないの?
わたしは必死にゲームの知識を思い起こす。
聖剣ユグドラシル。
勇者だけが装備できる伝説の剣だ。
『マナアース』最強の武器で装備効果は・・・。
全属性攻撃+10%
攻撃時に相手に与えたダメージの10%を回復
という効果がある。
生命の源といえる大樹ユグドラシルの加護を受けた剣で、癒しの力を持っている。
その癒しの力が、魔人や魔王が纏う闇のオーラをかき消すのだ。
癒しの力・・・、そうだ!
そういえば聖女アリアでも闇のオーラを剥がすことができたはずだ。
聖女の役割は回復中心なので、すっかり忘れていた。
もしかして、癒しの魔法なら闇のオーラを打ち破ることはできるのでは?
わたしはそう結論づけると、青龍の弓を背中に担ぎなおした。
そして魔法で氷の剣を作り出す。
いつもならこれに、相手を凍りつかせる氷のエンチャントを施していた、しかし今回は代わりに癒しの魔法のエンチャントを施す。
癒しのエンチャントを施した氷の剣は、神々しい光を放ち銀色に輝いた。
「ヒーリング・ソード!」
そしてわたしは、銀色に輝く氷の剣を手に持つとアリエスに向けて構える。
「ふん、今さら何をしても無駄ですよ。わたしにはどんな攻撃も効かないわ」
それを見たアリエスは、忌々しげな顔をすると頭の蛇を伸ばし攻撃を仕掛ける。
わたしはその攻撃を躱しながら、内1本の蛇を切りつけた。
癒しのヒーリング・ソードは、闇のオーラを無効化した。剣を受けた闇のオーラは霧散し、わたしは蛇をバターのように切り裂く。
闇のオーラを打ち破れた!
これならいける。
「そんな馬鹿な。わたしには攻撃が効かないはずだわ。貴女いったい何をしたの?」
アリエスは蛇を切り裂かれたことに驚愕の顔を浮かべる。
そしてわたしの追撃を防ぐように、頭の蛇を次々と伸ばし攻撃を続けた。
わたしは攻撃を躱し、時には蛇を切り裂きながらアリエスとの距離を詰める。
そしていよいよ剣の射程圏内にまで迫った。
「くそっプロテクション!」
するとアリエスは苦し紛れに防御魔法を唱える。
しかし、ここまで距離を詰めれば魔法よりも剣の方が速い。
わたしは呪文が発動する前に接近すると、アリエスの胴を切りつけた。
剣は闇のオーラを打ち破り、アリエスの体を深く切り裂いた。
アリエスは悲鳴をあげると、傷口から紫色の血を流してその場に膝をついた。
しかし、アリエスはすぐに立ち上がった。
そして驚くことに、自分自身に回復魔法をかけた。
「くそっ痛い痛い、エクストラ・ヒール!」
魔人そして魔王は闇のオーラに守られ、鉄壁の防御力を得る。
しかしその代償として回復魔法を受け付けない。
癒しの魔法で闇のオーラを切り裂くことができたのも、極度に回復魔法に弱くなった影響だと考えられる。
その為、たとえ自分の魔法であろうと回復魔法を自分にかけることは自殺行為であった。
「ぎゃああああ」
案の上、アリエスがかけた回復魔法は自身を癒すことなく、その肉体を蝕む。
アリエスの体は、メラメラと燃え上がり大きな悲鳴をあげた。
その影響で学園長とお兄様の石化が解ける。わたしも恐る恐る目を開いた。
わたしは、目の前でのたうち回るアリエスを見る。
だが、目を開けて初めてアリエスの顔を見たわたしは、驚愕の顔を浮かべた。
「貴女、アリアなの?」
なんとアリエスは、行方を眩ませていた聖女アリアであった。
そしてそのまま、地面に崩れ落ちた。
わたしは、慌ててアリアを抱きとめる。
「ミルロこれはいったい!?、それにアリア!」
「ミルロ君、これはいったいどういうことだ?」
石化が溶けて暫く呆然としていた2人は、わたしとアリアを見つけると傍に駆けつけた。
だが、今は説明してる時間はない。
わたしは、腕の中でぐったりとするアリアを見る。
アリアの命はつきかける寸前だった。
今ならわたしの回復魔法なら、助けることができるだろう。
だが、アリアは魔人化している為、回復魔法は受け付けない。
いったいどうすれば・・・?
「ミルロ、この子の血液の中に、嫌な黒い魔力を帯びた血が混じっているわ。それを取り除くことができれば、助けることができるかも」
わたしが困っていると、ユキメがわたしに声をかけた。そして黒い魔力を帯びた血液が混じっていることを指摘する。
そうか!?
魔王の血か。
魔王は人間に自分の血を飲ませることで、魔人化させることができる。
黒い魔力を帯びた血液というのは、おそらく魔王の血であろう。
「ユキメ、どうやったら取り除けるの?」
わたしはユキメに尋ねた。
「ミルロ、貴女は水の魔法使いよ。そして血液も水。その子の血液に魔力を流して血流を操作するのよ」
その言葉を受けて、わたしはすぐに行動に移した。
アリアの傷口に手を当てて、自身の魔力を流し込む。
そして、暫く探っていると確かに、他の血液とは違う嫌な魔力を秘めた血を感じ取れた。
わたしはそれを操作して、アリアの傷口からその血液を取り出した。
「いやあああ」
同時にアリアの絶叫が辺りに響き渡る。
すると魔人化していたアリアの体は、みるみると元の人間の姿に戻った。
「アイス・ヒール!」
アリアが元に戻ったことを確認したわたしは、アリアに回復魔法を施す。
魔法は剣で斬られた傷を塞ぎ、自身の回復魔法で傷つけたその体を癒した。
傷口が深く時間がかかったものの、暫くするとアリアの体を元に戻すことに成功した。
深い傷を負い、魔力ギレを起こしたアリアは意識を失っているものの、ただ眠っているだけで息はしっかりしている。
もう、大丈夫そうだ。
「ミルロ君、君は聖女なのかい?」
その様子を見ていた学園長は驚きの声をあげると、わたしのことを聖女と呼んだ。
しかし、わたしはその言葉に大きく首を横に振る。
「わたしはただのミルロです。聖女ではありません。それよりも、わたしはメイ様を助ける為に先にいきます。お兄様と学園長は、アリアを連れて先に脱出してください」
その言葉にお兄様と学園長は迷った素振りを見せた。
そして学園長が苦しそうに言葉を絞り出す。
「わかったわい。さっきの戦いでよくわかっている。ワシらではミルロ君の足でまといだ。すまないがメイ君のことを頼んだぞ。
あと、ワシはミルロ君は聖女であると確信している。聖女は勇者を支える柱じゃ。メイ君を支えてあげて欲しい」
「ミルロ、どうやら俺も力不足のようだ。俺の分までメイ様をお守りするんだぞ」
わたしは2人の言葉に頷くと、急いでメイ様の後を追う。
そして走りながら、思考を巡らす。
アリエスは、アリアであった。
そして間違いない。
魔王はゲームと同じくカトレアだ。
しかもカトレアは既に魔王として覚醒を終えている。
アリアが魔人化させられた以上、おそらくゼノンも魔人化させられているのだろう。
そして恐らく今、メイ様の前に立ちはだかっている。
アリアは回復魔法がメインで、魔人化してもそこまでの戦闘力はなかった。
防御魔法と回復魔法では、魔人との相性は悪いのだ。
だが、ゼノンはこの物語の主人公であり元は勇者だ。
そしてその戦闘能力は計り知れない。
勇者が魔人化したとなると、その強さはわたしが知るどの魔人よりも強いのだろう。
メイ様が危ない、急がなければ!
わたしはそう考えると、メイ様の元へと急ぐのであった。




