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魔人ゼノグレード

ミルロのサポートのおかげで、魔人アリエスが守っていた扉を抜けてわたしは先に進んだ。

扉の先は長い廊下になっており、わたしはその廊下を走り抜ける。


走りながら、わたしはミルロの事を思い浮かべた。

魔人アリエスもこの前倒した魔人バルデスと同じように闇のオーラに守られており、ミルロの攻撃は全く効いていなかった。

だが、ミルロなら大丈夫。

彼女ならきっと相手の闇のオーラを破りアリエスを倒すはずだ。

そして、わたしの元に駆けつけてくれるはずだと信じている。


それよりもまずは勇者の試練をクリアすることが先決だ。

走りながら、わたしは気を引き締める。


わたしが勇者の素質があるというのは、未だに信じられない。

確か読んだことのある歴史書では、勇者とは選ばれし存在で魔王からこの世界を救い、世界を導く英雄であると記されている。

わたしがそんな伝説のような人物かというと、そんなことはないであろう。


たしかにわたしはウィシュタリア王国の王女であり特別な人物なのは間違いない。

しかし勇者のように王国だけでなく、この世界全体に影響を与える人物かというとそんなことはない。

わたしは第2王女であり、王位はお兄様が継ぐ予定だ。

わたしが持つ影響力はそこまで高くない、それにわたしはまだまだ未熟者だ。


そんなわたしに果たして勇者が務まるのだろうか。

今でも不安がいっぱいだ。


しかし、姿を消したお兄様が魔王と係わっている以上、わたしが勇者にならなければ救出することはできない。

魔王に対抗できるのは、勇者だけなのだから・・・。


幼かった時のわたしは優秀なお兄様と比べられる事実に心を病み、引きこもりがちだった。

だが、それはわたしの甘えであり、お兄様は関係ない。

そして、わたしは知っている。

お兄様は天才的な才能を持っていたと同時に、誰よりも努力していたことを。

誰よりも必死で、魔法、剣術、勉学に励んでいたことを。


だが、あの時のわたしは目を反らしていた。

お兄様は天才だ、敵うわけがない。

その天才という一言で片づけて、お兄様の努力から目を背けていたのだ。

そしてそれを理由にわたしは何もやろうとしなかったのだ。

ただ逃げたかった。

報われない無駄な努力をしたくなかった、ただそれだけだった。


今でもわたしの才能は、お兄様に劣っているだろう。

おそらく勇者は、わたしなんかよりもお兄様のほうが相応しい。

しかし、今のわたしには支えてくれる大切な人が居る。

それはもちろんミルロだ。

ミルロは、共に高め合い、時には叱ってくれる、わたしにとって掛け替えのない人だ。

彼女のおかげでわたしは変わることができた。

彼女のおかげで、わたしは今こうして前に進んでいる。


わたしはミルロのようになりたい。

ミルロがわたしに手を差し伸べてくれたように、わたしもお兄様に手を差し伸べたい。

たしかに今でも、お兄様は苦手だ。

しかし、お兄様は血を分けたたった1人の兄であり家族なのだ。

絶対にお兄様を救い出して見せる。

その為には、この試練を乗り越えて、わたしは勇者になる!


わたしはそう決意を固めると、必死に廊下を駆け抜けた。


◇◇◇◇

廊下を抜けると先程と同じように、大きな部屋に出た。

だが部屋の奥には祭壇あり、台座に光り輝く剣が突き刺さる。

今まで見たこともない、神々しい光を帯びた剣であった。

一目見ただけでわかった。

あれは古の時代に勇者が魔王を倒したと言われる伝説の聖剣『ユグドラシル』だ。


しかしその台座の前に、二人の人物が立っていた。

1人は、黒いフードを被った人物であった。

フードを深く被っている為、顔を見ることはできない。

ただ、身長と体型を見る限り女性であろう。

身長は160センチくらいと、わたしより少し背が高い。


そしてもう1人は、黒いフルプレートの鎧と兜を被った人物であった。

フルフェイスの兜を被っている為、フードの女と同じく顔を見ることができない。

身長は180センチくらいとかなり大柄だ。


鎧を着た男は台座に突き刺さる聖剣を引き抜こうと、剣の柄を両手で掴もうとする。

だが聖剣からビリビリと閃光のようなものが迸ると、剣の柄を掴もうとした鎧の男を弾き飛ばした。

男は1メートル程、弾き飛ばされて地面に膝をつく。


「うーん。やはり勇者の素質があっても、闇の力が邪魔をするようね。聖剣は抜けそうにないわね。」

すると声を出していたフードの女は、部屋に入ってきたわたしに気付く。


「あら、アリエスは足止めに失敗したようね。まあ丁度いいわ。聖剣が手に入らない以上、勇者の素質がある貴女を殺せば問題ないもの。『ゼノグレード』あの女を始末しなさい」


ゼノグレードと呼ばれた鎧の男は立ち上がると、わたしに向けて腰に差してあった剣を抜いた。

そしてその剣をわたしに向ける。

向けられた剣は、禍々しい闇の力を帯びた漆黒の剣であった。

刃から強力な闇の魔力を感じ取れる。


対するわたしも青龍の剣を抜き、声をあげた。

「貴女達はいったい何者ですか?」


だが、フードの女も鎧の男もわたしの言葉に応えなかった。

言葉を遮るように、鎧の男は無言でわたしに切りかかる。


「ライトニング・エンチャント!」

それを見たわたしは、同時にエンチャントを使い、自身の肉体を強化する。

激しい雷を纏うわたしの体は、強い光と共に金色に輝いた。


そして相手の剣を躱すと、カウンターで相手の胴を切りつけた。

わたしの攻撃は完全に相手を捉えた。

しかし、剣は相手が纏う闇のオーラに阻まれて、弾かれる。


鈍い音が辺りに響き渡った。


「魔人!?」


攻撃を弾かれたわたしは、その隙を補うために同時に後ろに飛ぶ。

対して、ゼノグレードは前に出た。

そして剣に闇の魔力を纏い、横薙にわたしを切りつけた。


後ろに飛んだわたしには隙が生まれ、相手の攻撃を躱すことはできない。

わたしはその攻撃を剣で受けた。


しかし相手の力は強く、わたしは大きく後ろに弾き飛ばされる。

弾き飛ばされたわたしは、部屋の壁に強く叩きつけられた。

わたしのエンチャントによる身体強化は、スピードと切れ味に特化している。

その為、防御力は殆ど上がっていない。

その為、壁に叩きつけられたわたしは大きなダメージを受けた。

打ち付けらえた背中から、焼けるような痛みが襲う。


「くっ」


痛みにわたしの顔が、苦痛にゆがむ。

だが、痛がっている余裕はない。

相手は、わたしに止めを刺そうと追撃してきたからだ。

弾き飛ばされたことによって開いた距離を一瞬で詰めると、相手はわたしの心臓を狙い剣を突き刺した。

わたしはすぐに壁を蹴り、めり込んだ壁から脱出する。

同時に横に飛び相手の剣を躱した。


相手の剣は、わたしがいた場所を刺し貫いた。

壁を抵抗なく貫き、剣は深くめり込んだ。

しかし、わたしが躱したことにより、相手に大きな隙が生まれる。


わたしはその隙を見逃さなかった。

横に飛んだわたしは、地面に着地するとすぐにゼノグレードの懐へ飛び込む。

そして喉元を狙い、雷の魔力を纏った突きを放った。


「雷鳴突き!」


雷鳴突きは、相手の闇のオーラによって弾かれてダメージを与えることができなかった。

しかしその勢いで、相手が被るフルフェイスの兜を弾き飛ばした。

兜は弾き飛ばされて、相手の顔があらわになる。


もう一発!


わたしは更に追撃を加えようと、再び剣を振るおうとしたその時、ゼノグレードの素顔を見て思わず足を止めてしまった。


「お兄様、どうして!?」


わたしの口から、悲鳴のような声が漏れる。

目の前には、目が赤く血走り、額に大きな角を携え魔人化した、兄ゼノンが立っていた。

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