魔人アリエス①
学園長室にあった隠し階段を抜けて、わたし達は学園の地下へとやってきた。
そして目の前には10メートルはあろう大きな扉が、行く手を遮る。
分厚い鋼鉄でできた扉で、どういうわけか取っ手が見当たらない。
学園長は扉を指し示すと、メイ様に言葉をかけた。
「この扉の先が試練の間じゃ。だが、この扉を開くことができるのは勇者としての資質を持つものだけだ。メイ君よ扉に手をかざしてくれるかな?」
この場にはメイ様の付添人として、学園長の他にわたしとお兄様が来ている。
わたしとお兄様の視線を受けたメイ様は、ゆっくりと頷くと、大きな扉に右手をかざした。
すると扉は青白い光を放ち、キラキラと輝きを放つ。
そして暫くすると、大きな音と共に扉が開いた。
だが、扉を開けた途端に禍々しい魔力が溢れ出る。
それは魔人バルデスの時と同じような、どす黒くそして禍々しい魔力であった。
その魔力を感じた学園長は驚きの声をあげる。
「馬鹿な!ここは聖なる領域だぞ。なぜ闇の力が溢れ出る。いったい何があったんだ。」
「学園長!とりあえず、先へ急ぎましょう。嫌な予感がします」
メイ様はそう言うと、扉の先へと入っていった。
わたし達もそれに続く。
扉の先は、大きな部屋になっていた。
ゲームのシナリオ通りだと、ここでは試練としてボス戦が行われる。
ボスは、『白虎』。
風魔法を操り、高速で移動する強敵だ。
その強さはSランクで、わたしとメイ様で倒した『青龍』に匹敵する。
だが部屋には、白虎の姿は見当たらなかった。
代わりに部屋全体が禍々しい瘴気に満ち、先に続く扉を遮るように人型の魔物が立ちはだかる。
魔物は後ろを向いており、わたし達からは顔が見えない。
だが後ろに見える髪は、まるでたくさんの黒い蛇が集まっているように見えた。
嫌、違う。
これは紛れもない蛇だ。
まずい!?
わたしはその魔物に気づくと慌てて声を上げた。
「みんな!目をつぶって、絶対にその魔物の目を見ないで!」
それからわたしは、前に走るメイ様の足に飛びついた。
メイ様とわたしは転んで地面へと倒れ込む。
同時に後ろを向いていた魔物はくるりと回れ右をして、こちらを向く。
目がギラりと輝くと怪しい光を放つ。
転んで地面を見ていたわたしとメイ様は、その攻撃を受けなかった。
だが、突然の事で目を瞑らなかったお兄様と学園長は、体がカチコチに固まり動かぬ石人形へと変貌を遂げる。
「あら?うそ、どうしてわたしの攻撃がわかったのかしら?」
魔物は、難を逃れたわたしとメイ様を不思議そうに見つめる。
「ごめん、ミルロ。助かったわ・・・」
「メイ様、相手の魔物は目を合わせた者を石に変えます。絶対に相手の目を見てはいけません」
「わかったわ。気をつけるわ」
転んだわたしとメイ様は、立ち上がる。
それからわたしはメイ様に注意を促すと、その魔物と対峙した。
わたしはゲームの知識で、この魔物のことを知っている。
魔物の名前は、『魔人マーネス』。
魔人バルデスと同じく『三魔将』の1人だ。
まるで前世の物語に出てきたメデューサーのような魔物で、その目を見たものを石へと変える恐ろしい魔物だ。
ゲームシナリオでは、アリアを含めた仲間全員は石に変えられて、聖剣の力で難を逃れたゼノン1人で対峙することになる。
そう、聖剣の力があれば石化を逃れることができる。
だが、今は勇者の試練として聖剣を取りに行っているところだ。
聖剣などある筈がない・・・。
知識がなければ、先程の対面で一瞬で全滅していただろう・・・。
すると前に立つ魔人は、口を開き自己紹介を始める。
「わたしは、魔人アリエス。魔王様の命によりこの先を通す訳にはいかないわ」
魔人アリエス?マーネスじゃないの?
わたしは、前に立つ魔人はマーネスだと思い込んでいた。
だが前に立つ魔人はアリエスと名乗る。
しかし石化させる能力は、マーネスと酷似していた。
あっそうか!
わたしは名前が違う理由に思い至る。
魔人マーネスは元は人間という設定であった。
正体は、ミルロ、カリンに続く悪役令嬢カトレアの最後の取り巻きの1人『マール=エメラルド』だ。
マールは3人の取り巻きの中で1番実力が高く、カトレアの信頼が最も厚い人物であった。
カトレアが魔王として覚醒した際に、ミルロとカリンはゾンビ兵として復活する。だがマールだけは特別に魔人マーネスとして復活を遂げるのだ。
魔王の血を分け与えることで、魔力の強い人間は魔人へと変貌を遂げる。
マールはカトレアの血を飲んだのだ。
この世界ではカトレアは1学年飛び級している。
その為、マールとの接点が殆どない。
よって、マールが魔人になることは有り得ないのだ。
ちなみに今のマールはわたし達と同学年で、序列3位だ。真面目で明るい優しい子である。
この魔人はマールが変化した姿ではない。
では、いったいだれが・・・
しかしわたしは、一旦その思考を中断する。
今は相手の正体を考えている暇はない、急がなければ。
相手の目的はわたし達の足止め、そしてアリエスが守る扉の先にある聖剣だ・・・。
魔人バルデスは、闇のオーラに穴があったので倒すことができた。
しかし、魔人アリエスそして肝心の魔王にはそんな隙があるのかわからない。
確実に魔王や魔人を倒すためには、聖剣の入手は必須と言える。
わたしは決断する。
「メイ様、ここはわたしに任せて先に進んでください。相手の目的はわたし達の足止めです。まずは勇者の試練を終わらせましょう。」
わたしの言葉にメイ様は頷く。
「わかったわ。アイツの相手は貴女に任せるわ。でもお願いして約束して!絶対死んではだめよ」
わたしもメイ様に対して頷く。
そして背中に担ぐ青龍の弓を構えると、合図と共に弓を放った。
同時にメイ様は入口へとかける。
「ブリザード・アロー」
無数の氷のエンチャントを施した矢を、一斉にアリエスに向けて放つ。
だが、やはり魔人バルデスのように闇のオーラに阻まれてダメージを与えることはできない。
アリエスに触れた氷の矢は、闇のオーラに阻まれて砕けて霧散する。
だが、目くらましには十分であった。
その間に、雷の魔力を纏い高速で移動するメイ様は、一瞬でアリエスの横をすり抜ける。
そしてアリエスが守っていた奥へと続く扉に到達した。
「ここは通さないわよ!」
アリエスは先に進もうとするメイ様に攻撃の照準を向けると、頭の蛇をメイ様に向けて放つ。
蛇は大きな口をあけて、一斉にメイ様に迫った。
「アイス・プロテクション!」
それを見たわたしは、防御魔法を唱える。
メイ様とアリエスの間に、氷の盾が現れると相手が放つ蛇を受け止めた。
「ミルロ、ありがとう!気をつけてね」
メイ様はその隙に扉を開けて、奥へと進んでいくのであった。
「くそっ逃がすか!」
扉の奥へと入るメイ様を見て、アリエスは慌てて声をあげる。そして後を追おうと扉をあけようとした。
「ブリザード・アロー」
奥へと進もうとする、アリエスに向けてわたしは再び無数の氷の矢を放つ。
同じようにダメージは全くないが、相手の足止めにはなる。
氷の矢が止むと、アリエスはわたしに対して怒りの表情を向けると声を上げた。
「お前!ただで済むと思うなよ。叩き潰してあげるわ」
「わたしはミルロ=マルチーズ!貴女に負ける訳にはいかないわ。貴方を倒して、わたしも先に進ませて貰います」
こうして、わたしはたった1人で、魔人アリエスと対峙した。




