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休日④

メイ様とゼノンの模擬戦は、メイ様の圧勝で幕を閉じた。

あれから、ゼノン達と別れたわたし達は、メイ様の家でお風呂に入っていた。

すると、メイ様は湯船に浸かりながら小さな声でわたしに話しかけた。


「ねえ?ミルロわたしお兄様に勝ったんだよね?」


わたしは声をかけてきたメイ様の顔を見る。

その顔には勝負に勝ったというのに、生気が全く感じられなかった。


「はい、メイ様の勝ちですよ。この調子で目標の生徒会戦も頑張りましょう」


わたしはメイ様に言葉を返したものの、元気の無いメイ様の様子が心配だった。

理由はわかっている。

メイ様にとってゼノンの存在は、トラウマと同時に決して超えることが難しい大きな壁であったのだ。


しかし先程の戦いでは、メイ様が圧勝した。

おそらく、メイ様は困惑しているのだろう。

高い壁であると思われたゼノンに呆気なく勝利したことに・・・。

そして同時にわたしは心配だった。

メイ様の目標が失われるのではないか、そしてまた以前のやる気のないメイ様に戻ってしまうのではないか?

だが、メイ様にどういう風に声をかけたらいいのかわからない。

頭の中で迷いを浮かべている中、わたしは思わずメイ様にマッサージを提案した。


「メイ様、久しぶりにマッサージをしましょうか?」


かける言葉が見つからない、それならメイ様の心と体をマッサージで癒してあげよう。

わたしはそう思ったのだ。


「うん、ありがとうミルロ。よろしく頼むわ」


メイ様はそう言うと、湯船に横になった。


◇◇◇◇

滑らかな細い指が、わたしの背中を優しくなでる。

時折、わたしの背中のツボを押さえる心地良さに、わたしは甘美の声を上げた。

ミルロのマッサージは、まるで甘い雲に包まれているような甘くそして夢心地にさせるものであった。


マッサージを受けながら、わたしは先程のお兄様との戦いを思い起こす。

わたしは心の中でお兄様には、絶対に勝てないと思っていた。

先程の模擬戦も全力でぶつかり次に繋げようと考えていた。まさか、勝つなどとは夢にも思っていなかったのだ。


だが、わたしは勝ってしまった。

お兄様が油断していたのならまだいい、しかし、お兄様はおそらく全力だった。

そう確信できたのは、わたしに敗れた時の顔に全く余裕を感じさせない絶望した顔であったからだ。

最後にわたしの顔を見たお兄様の顔は、青白く染まりまるで化け物を見るように恐怖に染まる目をしていた。


わたしはお兄様を越えることを目標に、今まで頑張ってきた。

だが、そのハードルは思ったよりも低かった。

わたしはその事実に絶望する。

そして、心が折れかかっていた。

これからわたしは何を目標に頑張ればいいのだろうか・・・?

先程の勝負は、勝利と同時に大きな目標を1つ失ってしまったのだ。


それから、暫くミルロのマッサージを受けて気持ちよくなったわたしは深い眠りへと落ちていくのであった。




はっと気がつくとわたしはベッドで横になっていた。

どうやら、いつの間にか眠ってしまったようだ。

窓の外を見ると、夕焼けが赤く空を染め上げている。


「あっメイ様、目を覚まされたのですね」

すると、ノックと共に扉を開けてミルロが部屋に入ってきた。


「ええ、マッサージ中に気持ちよくて眠ってしまったようね。ごめんね、ベッドまで運んでくれて」


「ええ、大丈夫ですよ。メイ様は軽いので、わたしでも簡単に運ぶことができました」

ミルロはニッコリと笑顔で答える。


しかし、それからの言葉は続かなかった。

シーンと辺りが静まり返り、じっとわたしとミルロは見つめあう。

夕焼けに染まるミルロの姿は、息を飲むほど美しかった。


どれくらい時間が経っただろう・・・。

わたし達は暫く見つめあっていた。

すると、ミルロは意を決した顔をすると、わたしに言葉をかけた。


「メイ様、今からわたしと模擬戦をしませんか?魔法ありの全力で!」


「今からですか?」

わたしはその言葉に訝しむ。

しかし、ミルロはこくりと頷いた。


わたしは迷ったものの、その勝負の申し出を受けた。

服を着替えたわたしは、先程お兄様と対峙した演習場へと向かう。


「こうしてメイ様と本気で戦うのは久しぶりですね」

そう言うと、ミルロは氷の剣を出し構えた。

対するわたしも青龍の剣を抜き、エンチャントを施す。そして、わたしもミルロに向けて剣を構えた。


「では行きます!」

ミルロがそう言うと、突然目の前のミルロの姿が消えた。

え?

わたしは思わず呆気に取られる。


すると、突然目の前にミルロの姿が現れる。

同時にわたしの剣は一瞬で弾き飛ばされた。


青龍の剣は回転しながら宙を舞い、地面に突き刺さる。

ミルロはわたしの喉元に、氷の剣を突きつけると忌々しげに声を荒らげた。

「メイ様、いえメイ、何腑抜けになっているんですか?これくらいの攻撃、貴女なら対応できるでしょ?わたしが敵なら貴女は今、死んでいましたよ」


「でも・・・」

ミルロの言葉に対して、わたしはかける言葉を失った。


「ゼノン様にまぐれで勝ったからって、やる気を失うなんてほんと情けない。貴女は他人と比べないと何もできないんですか?」


「違う!わたしはそんなことはない!」

わたしは必死に反論する。

だが、ミルロはわたしの言葉を一蹴した。


「嘘をつくな!先程の剣を見てわかりました。貴女は迷っている。貴女は今まで、何のためにこうして頑張ってきたんですか?お兄様を越えるためだけだったんですか?そんな小さなことの為だけに貴女は必死に努力したんですか?」


その言葉にわたしはハッと気がつく。

違う・・・。

わたしはお兄様を越えるために努力を始めたのではない。

誰に対しても恥ずかしくない立派な王女になる為だ。そして強くなって、大好きなウィシュタリア王国とその民を守るためだ。


だが、わたしは勘違いしていた。

お兄様に対する劣等感を克服したのはいいが、その反動でわたしは変に張り合っていたのだ。

そしてお兄様を超えることだけが、いつしかわたしの目標にすり変わっていた。


「わたしは立派な王女になりたい!そして大好きな王国とその民を守りたい!!」

そしてわたしはミルロの言葉に応えた。


すると、ミルロはニッコリと笑顔になる。

「よかった、気づいてくれて・・・」


ミルロはそう言うと涙を流し、わたしの胸に飛び込んできた。

わたしはミルロを受け止める。

「メイ様、ごめんなさい・・・。失礼な態度をとってしまって」


ミルロは涙を流しながら、わたしの胸に縋りつく。

わたしはミルロの頭をなでると、そっと抱きしめた。


「ありがとう、ミルロ。わたしに気づかせてくれて。」


それから暫くわたし達二人は抱き合った。

夕日がやさしくわたし達を照らす。

ミルロを抱きしめるわたしの胸には、先ほどの迷いが嘘のように晴れやかだった。



もっと強くなろう。

昨日の自分よりももっと強くなれるように、明日の自分よりももっと強くなれるように・・・。

お兄様なんて関係ない、今の自分よりももっと良い自分になれるようにわたしは努力していこう。

わたしはそう決意を固めるのであった。

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