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休日③

学園内の演習場に行くと、メイ様とゼノンは互いに剣を構えて対峙した。

なお手に持つ剣は、真剣ではなく刃を潰した演習用の剣だ。


わたしは少し離れた場所から、心配そうにメイ様を見つめる。

だが、メイ様の剣を構える姿は普段通りで、顔色も先程と違い明るい。

どうやら精神状態は大丈夫そうだ。

わたしはその姿を見て、ほっと胸をなでおろす。


あれから、メイ様はゼノンの誘いに迷った素振りをみせたものの、勇気を出して誘いを受けた。

それは、わたしが模擬戦を受けることを勧めたからだ。


それは何故か。

実はメイ様は魔法学園に入学する前に、ある目標を立てていた。

それは兄であるゼノンを越えることだ。

今までメイ様は、優秀な兄であるゼノンに対して劣等感を抱いていた。

そしてその劣等感を克服した今、優秀な兄を越えたいと思うようになったそうだ。

それを達成する為に、生徒会を選出する戦いで、ゼノンに勝利することを目標にしている。


実は、わざわざ危険を冒してまで『青龍の剣』を取りに行ったのも、少しでもいい武器を手に入れて戦いを有利に進める為であったりする。


もちろんわたしも協力して、メイ様の目標を達成できるように共に努力するつもりだ。

しかし、この世界にはレベルがない為、ゼノンの強さがわからない。

生徒会選出の戦いの前に、メイ様の今の実力とゼノンとの実力差を図ることは非常に重要なことだ。

今後の対策を立てる為にも、模擬戦を受けることを勧めたのだ。


「メイ様って剣術もできるようになったんだな?」

するとわたしの隣に立つアーサーお兄様が、わたしに話しかけた。


「はい、わたしがメイ様に剣術を指導させて頂きました。今ではわたしと同じくらいの実力を持っていますよ。」


ちなみに、わたしとお兄様の剣術の実力は、魔法無しだとお兄様が上、魔法有だとわたしの方が強かったりする。

お兄様が魔法学園に通う前までには、マルチーズ家の演習場で共に研鑽していたものだ。

だが1年前の話なので、現時点でのお兄様とわたしの実力差はわからない。


「へえ。メイ様ってそんなに強いのか。そうなるとなかなか面白い戦いになりそうだな」

わたしの返答にお兄様は、感心した顔を浮かべる。


「ところでお兄様、ゼノン様とお兄様って剣術はどちらがお強いのですか?」


「うーん。それは見てのお楽しみだな。」


「えー。いいじゃないですか、教えてくださいよ」

わたしとお兄様が話していると、傍にいたアリアがわたし達に声をかけた。

それから、メイ様とゼノンの方を指し示した。


「どうやら、そろそろ始まりそうですよ。お二人の模擬戦楽しみですね。」

わたしとお兄様はアリアの言葉を受けて会話を止めると、二人の様子を見守った。


◇◇◇◇

「メイ、本当に体がよくなってよかった。こうして一緒に剣を交えることができると思うと凄く嬉しいよ」

目の前に立つお兄様は、笑顔でわたしに言葉をかけた。


わたしは、前に立つお兄様を見る。

わたしはお兄様が苦手だった。

だが、ミルロに勧められて模擬戦を受けることにした。

それはわたしに目標ができたからだ。

今まではお兄様には絶対に勝てない努力するだけ無駄だ・・・そう思っていた。

しかし、わたしは変わった。

魔法とミルロがわたしに自信を与えてくれたのだ。

そしていつしか、お兄様に勝ちたいと思うようになった。


ドクドクと心臓の音が強く脈打つのを感じる。

対峙するのが怖い。

お兄様は強敵だ、もしかしたら今までのわたしの努力が全く通じないかもしれない。

そしてせっかく取り戻した自信を打ち砕かれてしまうかもしれない。


でもミルロが言ってくれた。

負けたとしてもこの対戦を糧に一緒に強くなろう。

そして本番である生徒会の模擬戦に絶対勝とうと。

ミルロの言葉はわたしに勇気を与えてくれる、彼女の笑顔がわたしに力をくれる。

そう思うと、心臓の音が静かになるのを感じた。


わたしは心を落ち着けるとお兄様に言葉を返した。


「わたしもお兄様とこうして対等に剣を交えることができて嬉しいです。宜しくお願いいたします。」


「わかった。それでは魔法無しで1本勝負でいいな?」

お兄様の言葉にわたしはこくりと頷く。


「いくぞ!」

お兄様の合図と同時に、わたしとお兄様は同時に動いた。

そして互いに一瞬で距離を詰めると、中央で剣と剣をうち鳴らす。

ビリビリと手に衝撃が伝わった。


お兄様の剣戟は、わたしが思っていたよりも遅く軽いものであった。

おそらく、お兄様はまだ本気ではないのだろう。


お兄様の力の底が見えない。

でもわたしができることは、相手の隙を見つけて全力で剣を打ち込むことだけだ。

わたしはミルロと違い器用ではない。

常に直球、1本勝負。

それがわたしの戦いのポリシーなのだ。


「なかなかやるな!」

お兄様はそう言うと、わたしに対して剣を横薙に切りつける。


ん?

わたしはその攻撃を見て訝しんだ。

その剣戟は隙だらけで遅く、簡単に躱せるものであったからだ。

わたしに向かうお兄様の剣を見ながら、思案する。

もしかして、お兄様はわたしの攻撃を誘ってる?

そしてわたしが攻撃すると同時に、その隙を狙いカウンターを決めるつもりなのではないか?

ならこの剣は、躱すのではなく剣で受けた方がいいのではないか?


しかし、わたしはその思考を直ぐに振り払った。

読み合いは苦手だ。

相手はお兄様だ、中途半端な思考は剣を鈍らせる。

お兄様がカウンター狙いなら、それを打ち破るほどに早く剣を振ればいい。

そっちの方がわたしらしい。


わずが0.1秒。

一瞬でわたしはそう判断すると、お兄様の剣を頭を下げて躱し立ち上がる勢いを利用して、剣を突き立てた。

雷鳴突の魔力を纏わない技だ。


さて、お兄様どう対処する?

わたしはじっとお兄様の様子を伺った。

しかし、勝負は思ってもいないところに転んだ。


なんとお兄様は、わたしの剣に対応出来なかったのだ。

そのままわたしの剣がお兄様の喉元に吸い込まれていく。


まっまずい!?


このまま剣を打ちこめば、お兄様を殺してしまう。

わたしは慌てて剣の軌道を変える。

剣は喉元を外れて、お兄様の頬を掠めた。

高速の突きは、カマイタチのようにお兄様の頬の皮を切り裂く。

切り裂かれたお兄様の頬から、スーッと血が滴り落ちた。


そして、辺りはシーンと静まり返る。


「メイ・・・そ・そんなバカな」

お兄様はそう言うと、ヘナヘナと地面に座り込んだ。

その顔は恐怖で青白く染まる。


勝負はわたしの勝利だ、ただあまりに呆気ない幕切れに、わたしは呆然とするのであった。

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