休日②
実は魔法学園に入学する前から、ゼノンはメイ様に一度お会いしたいと何度か連絡していた。
しかしメイ様はかつて優秀な兄と比べられて大きな劣等感を持っていた。
今は魔法の才能が目覚めてその劣等感は克服してるものの、兄に対する苦手意識は未だに消えていない。
メイ様は何かと理由をつけては、頑なにゼノンとの出会いを断っていたのだ。
しかし、今こうして出会ってしまった。
ゼノンに誘われたメイ様とわたしは、町のカフェの個室で話をすることになるのであった。
メイ様とわたしが隣に座り、メイ様の正面にゼノン、わたしの正面にアーサーお兄様、そしてアーサーお兄様の隣にアリアが座る。
全員にお茶とお菓子がいきわたると、ゼノンはニコニコと笑顔を浮かべてメイ様に話しかけた。
「いやー、久しぶりに可愛い妹に会えてうれしいよ、メイ元気にしていたかい?」
ビクっ
わたしの隣に座るメイ様が、ゼノンの言葉を聞いて体が震えるのを感じた。
思わずメイ様の顔を覗き見ると、顔色が蒼白になっている。
ブルブルと唇が震えて、とても話せる状態ではなさそうだ。
やはり、メイ様はまだゼノンとのトラウマを乗り越えていないのだろう。
わたしは思わずメイ様の代わりに、言葉を返した。
「ゼノン様、発言をお許しください。メイ様は本日体調が優れないようなので、申し訳ございませんが後日お会いするということでもよろしいでしょうか?」
わたしの言葉に対して、ゼノンは訝しむ。
「ん?君はアーサーの妹のミルロだね。でもおかしいな、君たちが買い物しているのを少し見ていたが、メイは元気そうだったよ?」
「はい、先程まではお元気そうでした。しかし、なれない外出でどうやら疲れてしまったようで・・・」
「そうか、それは残念だな・・・。メイ、体調は大丈夫なのかい?」
わたしの言葉に、ゼノンは納得した顔を浮かべると心配そうにメイ様を見つめる。
わたしはそっとメイ様に耳打ちをした。
「メイ様、ゼノン様はそうおっしゃられておりますし今日は切り上げて帰られますか?」
その言葉にメイ様は迷った素振りをみせた。
今なら体調が悪いということで、この場を切り抜けることができるだろう。
しかし、メイ様は迷っている。
どうやら、トラウマを克服しようと何とか話そうとしているようだ。
今、逃げるのは簡単だ。
しかしゼノン様がメイ様の身内である以上、いつかはきちんとお話しなければいけない。
このままトラウマを背負っているわけにはいけないのだ。
わたしは思わずメイ様の手を握る。
メイ様の手はまるで氷の様に冷たかった。
「ミルロ・・・」
メイ様は手を握るわたしを不安そうに見つめる。
そんなメイ様を励ますように、わたしは声をかけた。
「大丈夫ですメイ様。貴女は3年前と違い必死に努力してこられました。もう駄目な妹等とバカにする者はおりません。もし仮に居たとしたら、わたしがボコボコにしますよ。だからメイ様、負けないでください」
するとメイ様の手がすっと暖かくなり、みるみる顔色も元に戻る。
紫色だった唇は、元の美しい桃色の唇にもどった。
「ありがとう、ミルロ。もう大丈夫よ」
メイ様はわたしに笑顔で耳打ちすると、握った手を離し前に向き直った。
その顔は先程の卑屈な姿ではない。
いつものメイ様の堂々とした決意に満ちた顔であった。
それから、メイ様は意を決するとゼノンに言葉を返した。
「お兄様、ご心配おかけして申し訳ございません。体調が落ち着きましたので、このままお話を続けたいと思っております。お久しぶりですお兄様、お元気そうで何よりです。」
「そうなのか、大丈夫なのかい?」
ゼノンは心配そうにメイ様を見つめる。
その顔にメイ様はニッコリと微笑んだ。
それからのやり取りは、明るくてお淑やかないつものメイ様であった。
どうやら無事にトラウマを克服したようだ。
ゼノンとのわだかまりを解消するかのように、3年間の近況を2人で語り合う。
そんなメイ様の様子をわたしは笑顔で見ていた。
「それにしても、メイ様は本当に可愛いらしいですね。それに序列1位で成績もご優秀なんて。さすがゼノン様の妹さんです」
メイ様とゼノン様との会話が一段落したところで、アリアが話に入ってきた。
のほほんとした可愛らしい笑顔に、場の空気が和らぐのが感じる。
アリアはさすがヒロインと言えるくらいの美少女であった。
その言葉に対して、ゼノンは自慢げに返す。
「メイは3年前は体調を崩して引きこもりがちだったが、才能溢れる自慢の妹なんだよ。それに凄く可愛いいんだ」
その言葉にわたしは複雑な心境を浮かべる。
ゲーム内では、ゼノンはメイ様のことを愛していると語られていた。
メイ様が王国を裏切り、ゼノンを毒殺しようとした時も彼だけは必死にメイ様を庇っていた。そして、メイ様が処刑された時も涙を見せていた。
だが話を聞く限り、ゼノンはメイ様が引きこもりになった原因の1つに自分が係わっている等、夢にも思っていないのだろう。
直接話していないので、わからないかもしれないが、少し無神経ではないだろうか・・・。
わたしがそう思っていると、ふと目の前のアーサーお兄様と目が合った。
アーサーお兄様は目が合うと、ニッコリと微笑んだ。
そして、わたしに声をかける。
「ミルロ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「はい、おかげさまで、わたしは元気にやっております。お兄様も元気そうで何よりです。」
わたしはお兄様を慕っている。
本当はこの学園に入学してすぐにお兄様に会いに行きたかったが、メイ様がゼノンの誘いを断っている手前、中々会いにいくことができなかったのだ。
久しぶりのお兄様との会話に、わたしの顔は緩んだ。
「ところで、メイ様とミルロは今年の生徒会に立候補するのかい?」
そこでふとアーサーお兄様が話題を変えた。
生徒会・・・。
魔法学園の生徒会は、通常の学校の生徒会とは違う。
通常の学校だと選挙によって選定されるのだが、魔法学園は力が全てだ。
生徒会選挙ではなく模擬戦で決定されるのだ。
参加資格は、1年、2年生の序列10位以上で毎年9月に行われる。
今が4月なので、あと5か月先だ。
模擬戦は4人までのパーティー同士の対決で、優勝したパーティーリーダーが生徒会長を務めることになっている。
なお、現、生徒会長はジークの兄である『アーク=キルラルド』だ。
ゲームシナリオだと負けイベントで、去年ゼノン達はアークに敗れている筈だ。
アークが生徒会長である以上、シナリオ通りに進んでいるのであろう。
アーサーお兄様の質問に対して、メイ様が口を開いた。
「はい、まだパーティーが決まっておりませんが、わたしとミルロは参加する予定です。」
「そうか、そうなると俺たちはライバルだな。メイと戦うのが今から楽しみだよ」
その言葉に、ゼノンは嬉しそうな顔で会話に入る。
「うふふ。わたしこれでも大分強くなったんですよ。お兄様の胸を借りるつもりで挑ませて頂きますね」
「なるほど、それならメイ。一度兄と模擬戦をしてみないかい? 序列1位と聞いて一度戦ってみたいと思っていたんだよ」
「へ!?」
ゼノンの突然の申し出に、メイ様は目を白黒させる。
それからメイ様は、困った顔でわたしに対して目で訴えてくるのであった。




