勇者の片鱗
イングランド先生と共にダンジョンを後にしたわたしとメイ様は、カリン、ジークと共に学園長に話をすることになった。
驚いたのはジークの右手が失われていたことだ。学園の回復術士に止血はしてもらい応急処置は受けている。本当は絶対安静なのだが、事情を説明したいということで、こうしてジークも付いてきている。
ここは学園長室。
机には、わたし達4人と学園長、イングランド先生、そしてゲルマン先生が向かい合っていた。
「魔人バルデス・・・確かに君たちが倒した魔物は、そう名乗ったのかな?」
メイ様が先程倒した魔人バルデスについて説明を終えると、学園長は驚いた顔を浮かべてメイ様に聞き直した。
「はい、魔人バルデス。確かにあの魔物はそう言っておりました。」
「学園長、私も倒されて消える魔物の姿を見ましたが、確かにあれは古の伝承に記されている魔人の姿をしておりました。間違いございません。」
メイ様が言葉を返し、イングランド先生が頷いて同意の言葉を浮かべる。
だが、その言葉に学園長は疑問の顔を浮かべると、質問を続けた。
「ふむ、じゃが魔人というのが本当なら、どうやって奴を倒したのじゃ?伝承では魔人は闇のオーラに纏われ人間の攻撃が通じない筈じゃが」
「はい、魔人バルデスに何度も攻撃しましたが何か壁のようなものに阻まれて、攻撃が通じませんでした。ですが、ミルロがその防御を破ったことで止めを刺すことができたのです。そういえば、ミルロなぜ貴女の攻撃は、魔人に通じたのですか?」
質問を受けたメイ様は答えると、不思議そうな顔をしてわたしを見た。
わたしはその言葉に頷くと、正直に答える。
「魔人バルデスは黒いオーラに守られておりました。ですが、相手が大技を放つ瞬間だけそのオーラが弱まるのを感じたのです。そこを狙いました。」
「なるほど・・・探知魔法か?ミルロ君は魔力を視覚として捉えることができるのかね?」
学園長は感心したように言葉を続ける。わたしは学園長の言葉に同意して頷いた。
それから魔人バルデスについて、学園長達が次々と質問を受けた。
使ってきた技、相手の強さ、そして死ぬ間際に話していた魔王のことを・・・。
「うむ、だいたいわかったぞ。事態は思っていたよりも深刻じゃな。それに魔王とは・・・」
わたし達の説明を受けた学園長は、髭を触りながら深刻な顔を浮かべる。
「なあ、それよりも魔人バルデスはどこから現れたんだ?ダンジョン内のボスとして出現したのか?」
わたし達のやりとりを聞いた学園長先生が黙ったことで、ゲルマン先生が追加で疑問の声を浮かべた。
わたしも魔人バルデスがどうやって現れたのかは見ていなかった。その疑問はわたしも感じている。
全てを見ていた人物、メイ様、カリン、そしてジークに対して先生達の視線が集中する。
「それは俺から説明する・・・」
その言葉に対して、ジークが説明をしようと言葉を絞り出そうとした時、メイ様が上から言葉をかぶせた。
「それが・・・ダンジョンのボスを倒したところ急に空間に裂け目が現れて、突如魔人が現れたのです。そうですよね?カリン、そしてジーク様?」
メイ様の言葉に対して、カリンそしてジークは驚きの顔を浮かべた。
ん?何かあったの?
わたしはその顔に疑問を浮かべる。明らかに違う、二人はそんな顔を浮かべていた。
暫くして、カリンが愛想笑いを浮かべて同意した。
「あっはい・・・。たしかにそうでした。メイ様のいうとおりです。」
「いや、違うだろ。あれは俺が『地獄の宝珠』を壊したことで生み出した魔物だ。あいつは俺が呼び出した」
それに対し、ジークは驚きの顔を浮かべながら大声をあげた。
だが、メイ様はその言葉に首を振る。
「ジーク様わたしはそんなもの見ていませんよ?夢でも見ていたのですか?たしかに空間が避けてバルデスが現れるのをわたしは見ました。それに貴方の言うことがもし本当なら、貴方の右手が切られたことがおかしいのではないですか?」
メイ様の言葉にシーンと辺りが静まり返る。
「うーむ。ジーク君もメイ君も今日は忙しかったから記憶の違いがあったのかもな。その件については、後日話を聞かせてもらおう、二人で後でゆっくり相談しておくがいい。」
そう言うと学園長との話は終わった。
その言葉を受けて、わたし達は退室する。
◇◇◇◇
ここは学園にある会議室の1室。
学園長の話を終えたわたし達にジークが話があるということで、こうして再び話を続けることになった。
「メイ、どういうつもりだ?俺を庇ったのか?」
部屋に入るとジークは、メイ様に問い詰めた。
その言葉にカリンも同意を浮かべる。
「メイ様、わたしも驚きました。バルデスを呼び起こしたのはジーク様だった筈です。なぜ、あのように説明されたのですか?」
その言葉に対して、メイ様は笑顔崩さずにしっかりと答えた。
「ええ、確かにジーク様のいうとおりです。ですが、その事実を伝えてしまうとジーク様はこの学園を去ることになるでしょう。退学の処分は重い・・・、わたしは彼にこの学園を去ることを望んでおりません。」
「バカな!俺はあんなことをしでかしたのだぞ?退学になって当然だ。」
その言葉にジークは驚きの顔をあげる。
だが、メイ様は譲らなかった。
その言葉に対して、大きく横に首を振る。
「魔人バルデスは取るに足らない魔物でした。幸いにも被害者はいませんでしたし、学園に被害もありません。それでいいのではないでしょうか?」
メイ様の言葉に辺りはシーンと静まり返る。
わたしはそんなメイ様の様子をじっと見ていた。
おそらくジークの言う通り、魔人バルデスを呼び出したのは彼なのであろう。
わたしはメイ様を危険に晒した彼を許すことはできない。
だが、メイ様のいうとおり被害がなかったのは事実だ。
だから、メイ様の意思を尊重したいと思った。
わたしはメイ様の従者だ。
メイ様の意思を守るのが、わたしの仕事であり義務だ。
わたしはジークに対する怒りをそっと心の中にしまった。
ジークは暫く悩んだ顔を浮かべた。
それから暫く時間が経ち、彼は諦めたように大きな溜息をつくとメイ様の前で跪き頭を下げた。
「まったく貴女という人は・・・。わかりました。ですが、それではわたしの気が収まりません。
メイ様、私は帝国第2王子として生涯にわたり、貴方に対して忠誠を誓います。
今までの数々の無礼お許しください。そして、このたびは多大なご配慮ありがとうございました。」
それからジークはメイ様にそっと左手を差し出す。
メイ様は笑顔でその手を握り、二人で握手を交わす。
ジークはメイ様に生涯の忠誠を誓った、これでもう以前のように反発することはないであろう。
メイ様とジークの確執はこうして解決の時を迎えるのであった。
「ところでジーク様、その右手は不便ではないですか?」
話も一段落したところで、今まで黙っていたわたしはジークに声をかけた。
わたしの言葉にジークは先の無くなった右手を眺めて、苦笑いを浮かべた。
「ああこれか。学園の回復術士に回復してもらったが、止血が限界で再生は困難とのことだ。不便だが俺の罪の戒めとしてこうして背負っていこうと思う」
「え?これくらなら、たぶん回復できると思いますよ。アイスヒール!」
わたしはそう言うと、ジークに回復魔法をかけた。
まばゆい銀色の光がジークの右手を包み込むと、その右手を元通りに再生させる。
「バカな!なんていう魔力と魔法だ。」
「まあ、ミルロですからね」
「はい、お師匠様ならこれくらいできて当然です」
その魔法の様子を見たジークは驚きの顔を浮かべた。
だが、それに対して、メイ様とカリンは呆れたように言葉を返す。
「ははははは、全く俺はなんていう化け物たちに張り合っていたのか・・・。それにしてもミルロ、俺の右手を治してくれてありがとう。お前にまで借りを作ってしまったな」
「いえ、これくらいなら全然大丈夫ですよ。これから貴方がメイ様に害を成さなければ、それで十分です。」
その言葉にジークは痛いところを突かれたように顔がゆがむ。
それから、ジークとわたしも固い握手を交わすのであった。
◇◇◇◇
ミルロ達が去った後、学園長と先生二人は話を続けていた。
「学園長、先程の話どう思いますか?」
ゲルマン先生は、難しい顔で学園長に問う。
「ああ、魔王の出現はこの世界の危機だ。一刻も早く勇者を覚醒させなければ・・・。そして勇者に最も近いのはおそらくメイ君だろうな。」
その言葉に対して、イングランド先生は同意する。
「そうですね。メイさんはかなりの魔力と力を秘めています。わたし達は彼の兄であるゼノン君が勇者の最有力候補だと思っていましたが、その認識を改める必要がありそうですね。彼だったら、魔人バルデスを退けることはできなかったでしょう」
「メイ=ウィシュタリアか。今までノーマークでしたね。落ちこぼれだと聞いていたが、噂は所詮噂ということですね。」
その言葉に、ため息を浮かべながらゲルマン先生が続ける。
「うむ。それではイングランド先生とゲルマン先生。魔人バルデスの痕跡を辿り、魔王について調査してください。それから、勇者の試練の準備を。メイ君の力を見極めた上で、彼女に勇者の試練を受けて貰いましょう」
『魔法学園』
その真の目的は、他国から魔法を使える者を集めて、勇者を選定することであった。
こうして、メイは学園長達に本来の勇者である兄のゼノンを差し置いて、勇者の最有力候補として目をつけられるのであった。




