魔人バルデス①
メイ様、遅いわね・・・大丈夫かしら?
ダンジョンをクリアしたわたしは、ゲンキさん達と別れてメイ様がチャレンジしているダンジョン前で待機していた。
一早くメイ様の安全を確認したいのだが、なかなか出てこない。
わたしの心は不安でいっぱいになる。
もしかしたら、何かあったのかしら・・・。
そんなわたしの様子を見て、イングランド先生は溜息をつくと声をかけてきた。
「少し落ち着きなさい。まだダンジョンをクリアするには、平均的な時間しか立っていないわ。
貴女達のパーティーが速すぎるのよ。それにジーク君には、わたしがちゃんと言い聞かせておいたから大丈夫ですよ」
だがその時、メイ様が入ったダンジョン内から突然、禍々しい魔力があふれ出してきた。
今まで感じたことのない、どす黒くそして強い魔力だであった。
それを感じ、わたしの額から冷や汗が流れた。
イングランド先生もどうやらその魔力を感じたようだ。
驚いた表情を浮かべて、唖然と立ちすくむ。
「先生、この魔力は!?」
「ええ・・・わたしも感じました。なんていう魔力・・・」
わたしと先生は、顔を見合わせる。
だがその時だ、ダンジョンの入口から、カリンとジークが飛び出してきた。
「カリン!?」
わたしはそれを見てすぐに現れたカリンに駆け寄った。
そしてメイ様は一緒じゃないのかと尋ねる。
だが、カリンは大きく首を横に振ると、悲痛な顔をして話し出した。
「10Fのボス部屋に強力な魔物が現れました。メイ様はそこで1人で戦っています。
師匠、メイ様が呼んでいます。急いで助けに行きましょう」
わたしはその言葉を聞き、すぐに行動に移した。
自身の肉体に、限界の身体強化魔法をかけると、ダンジョンを走り抜けようと、入口に向かって駆けた。
「ミルロ!お待ちなさい!」
「師匠、待ってください、わたしも行きます」
後ろから、イングランド先生とカリンが呼び止める声が聞こえる。
だが、止まるわけにはいかない、急がなくては・・・。
先程感じた魔力は、非常に強力で禍々しいものであった。
その魔力が、今メイ様が対峙している魔物のものだとすると、今まで戦ってきたどの魔物よりもおそらく強い。
どうか、メイ様、無事でいてください。
わたしそう願いながら、メイ様の元へと急ぐのであった。
◇◇◇◇
カリンとジーク様が出口を出てから、30分程時間が経った。
わたしとバルデスは休む暇もなく、剣戟を繰りひろげていた。
今のところは、ほぼ互角、いや若干わたしの方が押していた。
「小娘、貴様は勇者か?なかなかの剣の腕と速度だ。我とここまで戦えるの勇者以来だぞ」
バルデスは楽しそうに、わたしの剣を受けながら話しかけてきた。
その表情には、まだまだ余裕を感じさせる。
対して、わたしは全力だ。
今はわたしが押しているけど、おそらく相手はまだ力を隠している・・・。
均衡が崩れるのは、時間の問題であった。
「わたしは勇者ではないわ。ウィシュタリア王国の第1王女よ」
「王女だと!? なかなか面白いやつだな。殺すのが惜しいぞ」
バルデスはわたしの返答に対して驚いた顔をする。
だが、すぐに真顔になると剣に魔力を貯めた。
禍々しい黒い魔力が、相手の大剣を包み込む。
何が殺すのがおしいよ・・・。
殺す気まんまんじゃない・・・。
わたしは心の中で呟き、バルデスの行動を警戒する。
「魔人斬!」
そしてバルデスは体を回転させながら、円形に黒い魔力を纏った剣を横凪に切りつけた。
斬撃は飛び、円形状に部屋全体を切りつける。
わたしはそれに対して、頭をさげてそれを躱す。
ダンジョンを構成する壁は特別な物質できているらしく、生半可な攻撃では壊れない。
だがバルデスの放った斬撃は、部屋全体の壁をバターのように切り裂いた。
ガラガラと壁が崩れる音が辺りに鳴り響く。
バルデスの攻撃はすごい威力だった。
だが、その攻撃は大きな隙を生み、技を放った相手の体は膠着する。
わたしはその隙を見逃さなかった。
地面を蹴って、相手の懐に飛び込む。
「雷鳴突き!」
そして、相手の喉元に雷鳴のごとき速度で、高速の突きを放った。
雷鳴突きは、雷の魔力を纏った全力の突きだ。
シンプルな技ながら、その威力は鋼鉄の壁でもなんなく貫くことができる。
わたしはこの攻撃で、ミルロの防御魔法も破っている。
わたしの高速の突きに、バルデスは対応できなかった。
相手の喉元に、剣が吸い込まれる。
だが相手の体に触れた瞬間、何か強力な力に弾かれるように剣は弾き返された。
まるで何かの防御壁に阻まれたような感触だ。
もちろん相手には傷1つつかない・・・。
弾かれる力があまりにも強く、わたしは剣を離してしまった。
剣はくるくると回りながら宙を巻い、地面に突き刺さる。
「しまった!?」
さらに剣を取り落としたことにより、エンチャントが切れて身体能力が大幅に落ちる。
わたしの体を覆っていた金色のオーラは、霧散して消え失せた。
バルデスは、そんなわたしの様子を見てニヤリと笑みを浮かべると、追撃として剣で切り付けてきた。
わたしは、空中で身動きが取れない。
さらにエンチャントが切れて、躱すだけの身体能力も失われている。
今のわたしに、あの攻撃に対して身を守る術はなかった。
殺される!?
死を覚悟して、わたしは思わずぎゅっと目をつぶった。ミルロ助けて!!
そして、心の中で居ないはずのミルロに助けを求めた。
だが、その時、後ろから呪文を叫ぶ声が響き渡った。
「アイス・プロテクション!」
わたしはその声を聞き、ハッとして目を開ける。
すると、わたしを庇うように巨大な氷の盾が現れた。
そしてバルデスの剣を氷の盾が防ぐ。
剣はわたしの元にまで届かなかった。
攻撃の難を逃れたわたしは地面に着地すると、慌てて後ろに飛び、取り落とした剣を拾い上げる。
そして、魔法を放った人物に声をかけた。
「ミルロ、遅いわよ!!でも助かったわ。待っていたわよ」
「すいません。メイ様、遅くなりました。」
わたしのピンチにミルロが駆けつけてくれた。
その喜びにわたしの胸は跳ねる。
絶望的な状況だったが、ミルロが来たのなら大丈夫。
彼女の顔を見ただけで、力と希望が湧いてくるのを感じた。




