ジークの思い
俺の名前は、ジーク=キルラルド。
キルラルド帝国の第2皇子だ。
俺は自分で言うのもなんだが秀才だ。
勉強、剣術、魔法。
あらゆる分野において、俺は同年代では負けたことがない。
常に俺が1番だった、もちろんそれを維持できるように誰よりも必死で努力した。
だが、そんな俺でも絶対に勝てない人物がいた。
それは俺の2つ上の兄で、第1皇子のアークだ。
俺が秀才なら、兄は天才だ。
俺がどんだけ努力しても奴には追いつけない。
最初は必死で追い抜こうと努力した、だが努力しても努力しても追いつくどころか差が開いていくばかり・・・。
そしていつしか俺は兄に勝つことを諦めた。
兄に勝つことは不可能だ。
それなら、兄を支える側近で1番になろう。
永遠のNo.2。
俺の目標はそれに変わった。
だが魔法学園に入ると、そのNo.2の座も揺らいだ。
序列3位、俺は同学園でNo.3だったのだ。
俺の上に2人もいる事実・・・初めは、あの試験は何かの間違いであると思っていた。
メイとミルロ、2人ともあろうことか華奢な女だ。俺が奴らに劣っている要素はなに1つない。
そう思い込んでいた。
だが、学園生活を続けるうちにその自信は揺らいだ。
俺もそこまで馬鹿ではない。
本当はわかっていた、メイもミルロも俺より上だ。
唯一、剣術だけなら2人にも勝てるのではないかと思い込んでいた時期もあった。
だがそれも演習で2人の剣術を見た時に、崩れ去った。目にも止まらぬ高速の剣戟・・・俺にはあんな動きは無理だ。
ああ、あの2人は化け物だ。
それなら潔く負けて楽になろう。
敗北という形で、この闘争心に幕を閉じよう。
俺はそう思い、メイに戦いを挑んだ。
だが、奴は俺の誘いを断った。
その時、俺は悟ったのだ。
ライバルと思っていたのは俺だけだった、メイもミルロも俺は眼中にもなかった。
全て俺の空回りだった。
俺の力では奴らを振り向かせるのは不可能だ。
それなら、別の方法で振り向かせる。
そして、『地獄の宝玉』を手に入れて、それを使ったのだ。
強力な魔物が現れれば、あのメイも俺に泣いて謝るだろう。
脅しのつもりだった。
彼女に力を見せつけて、振り向いて欲しかった。
ただ、それだけだった・・・。
(ああ、俺って本当に馬鹿だ)
魔人バルデスの強さは、俺の予想以上だ。
最強魔法はノーダメージ、挙句の果てには奴の攻撃は速すぎて見えない。
終わりだ・・・俺は死を悟り目をつぶる。
思えば、俺の人生は張り合ってばかりだったな・・・
俺がそう思った瞬間、バルデスの剣が止まった。
俺はハッとして目を開ける。
なんとそこには、メイが攻撃を受け止めていたのだ。
◇◇◇◇
わたしは勝手に体が動き、バルデスの攻撃を剣で受け止める。
力の籠っていない軽い一撃だった。
こんな攻撃なら、ミルロの方が重い。
わたしは剣を弾き、相手を後ろに押す。
その勢いで、相手は後ろに少しよろめいた。
チャンス!
その隙をつき、わたしは相手の右肩を切りつける。
だが、相手の体は信じられないくらいに固く攻撃が通じない。
相手の体には傷1つつかず、剣は弾かれた。
「なんだ貴様は?」
突然攻撃を受けたバルデスは、ギロリとわたしを睨みつけると剣を振り上げる。
対して、わたしも怯むことなくその攻撃に剣を合わせる。
バルデスとわたしは剣戟を繰り広げた。
「メイ様、貴女を置いて逃げることはできません。わたしも一緒に戦います」
カリンはそう言うと槍を握りしめて、こっちに来ようと前に出る。
だがわたしはカリンを静止した。
剣を受けてわかる。
バルデスは強い、現時点でわたしとほぼ互角だ。
カリンでは到底相手にならず、一瞬で殺されてしまうだろう。
「カリン貴女は相手の攻撃が見えるの?見えないなら足でまといです。先に逃げてください」
「しかし!?」
カリンはわたしの言葉に対して悲痛な声を上げる。
彼女は攻撃が見えていない。
自分で足でまといなのは、わかっているのだろう。
だが彼女は騎士だ。
騎士であるプライドで葛藤しているのだろう。
わたしはそれに対して、言葉を続ける。
「カリン、ミルロを呼んできてください。それまで、わたし1人で持ちこたえます。さあ、早く!?」
「わかりました。ミルロを呼んですぐに戻ります。」
カリンはそう言うと、ジークの元に走り出す。
そしてジークの手を取り、ダンジョンの出口に向かって走り出そうとした。
だが、ジークは立ち止まり動こうとしない。
カリンはそんな様子に苛立ちを浮かべ、声を上げようとした時、ジークはわたしに問いかけた。
「メイ!?何故だ、何故俺を助ける?あの魔物を呼び出したのはこの俺だ。お前は被害者だ。それなのに、なぜ助ける?」
わたしはバルデスの剣を受けながら、その問に答えた。
「わたしは貴方が嫌いです。だけど、放っておけない。誰かが死ぬのを見るのは嫌なんです。」
わたしの言葉に対して、ジークは嘲笑うように言葉を続ける。
「人はいつか死ぬんだぞ?お前の考えは甘い、甘すぎる」
その言葉にわたしは肯定する。
「たしかに甘いかもしれませんね。でも貴方にはまだやり直すチャンスがある。わたしは貴方のそんな機会を奪いたくないのです。まあ、わたしの侍女の受け売りなんですがね」
そんな言葉にジークは唖然とした顔を浮かべる。
そして絞り出すように、言葉を続けた。
「お前は俺を見ていたのか?虫けらのような存在だと思っていたんじゃないのか?」
「え?そんなこと思ってないですよ?ジーク様は同級生の男の子。ただそれだけです。」
わたしは彼の思いがけない発言にキョトンとする。
だが、ジークはその言葉に対して声を荒らげた。
「嘘だ!?なら、なぜ俺の誘いを断る。なぜ俺と勝負しない?」
「いえ・・・だって怖いじゃないですか?こうやって急に怒鳴りつけるし」
「はあ?俺が怖いだと?お前はこんなに強いのにか?」
その言葉に、ジークはキョとんとした顔をする。
「そりゃー怖いですよ。わたしよりも体の大きな男性が大声をあげて、わたしを怒鳴るんですよ?
貴方怒っている時の自分の顔を鏡で見たことありますか?本当に怖いんですからね」
「あはは、あはははははははは」
わたしは心からの言葉を伝えるとジークは突然、大声で笑い出した。
◇◇◇◇
俺が怖い、あんなに強いのに俺が怖いだと!?
メイの言葉は俺が思ってもいない、言葉だった。
だが、過去の自分の行動を思い返すと急に自分が恥ずかしくなった。
俺は彼女に怒鳴りつけてばかりだったではないか。
(わたしよりも体の大きな男性が大声をあげて、わたしを怒鳴るんですよ?)
メイの言葉が、俺の頭の中を木霊する。
嫉妬と競争心に駆られて、すっかり忘れていた。
彼女は・・・女性なのだ。
俺は目の前で、魔人バルデスと剣戟を繰り広げる彼女を見る。
輝く金色の髪と澄んだ青い瞳。
透き通るような白い肌に、桃色の小さな唇。
彼女は俺が今まで会ってきたどの女性よりも美しかった。
どうして俺は彼女に振り向いて欲しかったのか?
俺より上は、メイだけでなくミルロもいた筈だ。
だが、俺はメイだけに執着していた。
それは何故だ?メイは俺と同じ王族だから?
いや違う・・・!?
俺は彼女が好きだったのだ。
彼女に振り向いて欲しくて、俺は意地悪をしていたのだ。
そんな彼女に対する俺の感情を知り、俺の頬は羞恥に染まる。
それから、俺はメイに対して深く頭を下げた。
「メイ=ウィシュタリア!俺の勘違いだった申し訳ない。お前の力になりたい。だが、今の俺の力では役に立たない。
ミルロを呼んでくる。絶対死ぬんじゃないぞ!待っていろ!?」
俺はそう決断すると、カリンの手を取る。
そしてダンジョンの出口に向かって走る。
バルデスはメイとの戦いを楽しんでいるようで、俺たちの事など眼中になかった。
邪魔するそぶりはない。
本当はメイと一緒に戦いたかった。
メイを俺の手で守りたかった。
だが、今の俺の力では足手まといだ。自分の力の無さが恨めしい。
メイ、俺の愛する女性よ・・・。どうか無事でいてくれ。
そして、俺とカリンは出口を通り、ダンジョンの外へと出るのであった。




